バイオジェット燃料(SAF)とは

CO2排出量削減とSAF導入

国際航空機関によるCO2排出量の削減目標

 2016 年、国連の国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)が示した世界的な航空輸送需要は、2012 年以降の 30 年間で年率 4.5%の成長を見込んでいる。

 新型コロナ感染拡大により、航空業界は2020~2022年に大きな落ち込みを示した。世界の航空会社・旅行会社・旅行関連企業で構成される国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)によると、旅客数が新型コロナ感染拡大前の水準に戻るのは2023年と予測している。

 また、多くの市場調査においても、長期的には航空輸送需要の堅調な増加が見込まれている。

 一方、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によれば、国際航空からのCO2排出量は約6.0億トン(2018年)である。このCO2排出量は、図1で示すように世界全体の約1.8%を占めており、ドイツ一国の総排出量(約2.1%)に匹敵し、年々増加傾向にあるため対策が必要である。
 IEAによれば2021年の航空業界からのCO2排出は世界で約7億トンに上昇し、全体の2%を占める。  

図1 国際航空からのCO2排出量

 そのため脱炭素社会の潮流を受けて、航空業界に対しても温室効果ガス(GHG)排出量の削減を求める声が高まっている。航空業界の自主的な取り組みとして、2016 年のICAO 総会において2021 年以降の国際航空輸送分野のCO2排出量を 2020 年レベルに留める内容が合意された。

 この合意ではCORSIA (国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)制度が導入され、参加する各国航空会社には所定の CO2排出量の上限が割り当てられ、燃費改善やバイオジェット燃料の導入などによる達成が求められる。
 ただし、CO2排出量の上限を超えた分に関しては、カーボンクレジット購入によるカーボンオフセットにより達成を促すものである。・航空機国際共同開発促進基金、http://iadf.or.jp/document/pdf/r1-2.pdf

 ICAOは地球温暖化問題への対策として、2020 年以降 CO2 排出量を増加させないとし、2050年まで燃料効率の年率2%改善を目標に策定した。図2には、ICAO が予測する 2050 年までの国際航空輸送セクターにおける CO2排出量と技術革新による予測削減量を示している。

図2 2050年までの国際航空輸送セクターによるCO2排出量と削減目標
出典:国際民間航空機関(ICAO)

 一方、IATAは、2020 年までに燃料効率の年率1.5%改善、2020~2030年にカーボンニュートラルでCO2排出量の頭打ち、2050 年までに2005 年比で CO2排出量の50%削減の目標を掲げた。
 具体的に、代替燃料および経済的手法(カーボンオフセット)の活用、新技術の導入、運搬方式の改善によるCO2排出量の削減が求められている。・Aircraft Technology Roadmap to 2050

 これらのCO2排出量の削減目標について、代替燃料としての持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)*注釈への期待は極めて大きく、欧米を中心にバイオジェット燃料の開発・導入が推進されている。
 すなわち、2009 年には非石油由来のジェット燃料の国際規格(ASTM D75664ほか)が制定されており、現在では7種類のバイオジェット燃料の商業利用が認定されている。

*注釈 
持続可能な航空燃料(SAF)とは化石燃料以外の原料から製造された代替燃料のことで、主に動植物資源を原料にして生産されたバイオジェット燃料(Aviation biofuel)のことである。SAFは燃焼しても新たに二酸化炭素(CO2)を作らないためカーボンニュートラルとされ、植物油、獣脂、藻類、その廃棄物などを原料として製造されるほか、回収されたCO2と再生可能エネルギー電力による水電解で得られた水素を反応させて得られる合成燃料(e-fuel)も含まれる。

ICAOのCO2排出抑制方針の見直し

 2022年9月、カナダ・モントリオールで開催された国連の専門機関・国際民間航空機関(ICAO)の総会で、国際線の航空機が排出する二酸化炭素(CO2)を2050年に実質ゼロとする目標が採択された。2023年まで2019年の排出量を上限とし、2024年以降は上限を2019年比で85%に引き下げる。

 当面、この目標は加盟国(2022年6月現在で193か国)の努力目標とするが、85%を上限とする目標は2027年以降に原則義務化する方針である。CO2排出権の購入費用など航空会社の負担増は避けられない見込みで、政府試算では国内航空会社の合計額は2035年に数百億円/年まで膨らむと想定される。

 同年8月のICAO理事会で「2050年実質ゼロ」を長期目標に掲げる原案が承認され、総会での採択が固まった結果である。 

各国のSAF開発・導入目標

欧州では、域内の空港を出発する航空機の燃料に混合するSAFの比率を2030年に5%、2040年に32%、2050年に63%と段階的に増やすことを義務化。2021年にEU航空業界が発表した報告書では、EU内では2030年に航空機燃料の内約370万kL/年をSAFによって代替する目標を示した。
ノルウェーは、2020年に航空会社に対して航空燃料の0.5%にSAFを使うよう義務づけ、2030年には、この比率を30%に高める方針を表明した。
フランス、ドイツ、オランダ、スペインなどもSAF使用の義務化や導入目標の設定を進めており、規制強化の動きが拡大している。
米国は、2030年までに最低30億ガロン/年(約1140万kL/年)のSAF生産目標を設定し、2030年に航空燃料の1割をSAFにする目標を掲げ、インフレ抑制法(IRA)で生産にかかる税を控除。
英国は、2050年までに航空燃料の75%をSAFにする目標を設定している。
日本も、2030年に航空燃料の10%(約130万kL/年)をSAFにする目標を掲げている。

 既に、フィンランドの再生可能エネルギー企業であるNeste(ネステ)のようにSAFを商業生産する企業も出てきている。しかし、IATAなどによると、2022年の生産量は2021年比3倍の30万kLに増えたが、世界の航空燃料の消費量の0.1%にとどまっているのが現状である。

 現在の航空燃料の消費量は3億kL/年である。航空需要の拡大で2050年に目標とするCO2の排出量ゼロの達成には、これを上回る4.5億kL/年のSAF生産が必要である。

航空機用の代替燃料の分類

 図3には、航空機用の代替燃料の分類を示す。航空機用の代替燃料は、化石燃料由来動植物由来水(水蒸気)に大分類できる。
・Aircraft Technology Roadmap to 2050,https://www.iata.org/en/programs/environment/technology-roadmap/

図3 航空機用代替燃料の分類

化石燃料由来の代替燃料

 そもそもCO2排出量の低減を目指す観点から、化石燃料由来の燃料を従来のジェット燃料の代替として使う利点は見当たらないが、以下に概要を示す。

  • 石油由来の液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)は、プロパン・ブタンなどを主成分とし、圧縮することで常温で容易に液化できるため、直接燃料として用いることは可能である。実際に、燃料費がガソリンの2/3程度と安価であることから、国内ではタクシーに多用されている。
     しかし、燃料タンクに替わり圧力容器(ガスボンベ)を搭載することになるので、従来のジェット燃料の代替としての利点は見当たらない。
  • 石炭由来の石炭液化燃料も、高温高圧下で水素と直接反応させる直接液化法や、石炭ガス化後に合成反応させて液化する間接液化法などが開発されている。
  • 天然ガス由来のメタノールやエタノールなどのアルコール燃料は、自動車用に混合燃料が実用化されているが、含酸素燃料で酸化剤を吸込空気とするジェットエンジンでの利点は少ない。単位重量あたりの発熱量も現用ジェット燃料の 60%程度で、金属腐食、アルデヒドを含む排ガス対策など課題が多い。

動植物由来のバイオ燃料

 動植物由来のバイオ燃料については化石燃料を原料としないため、カーボンニュートラル(Carbon neutral)の考えに沿った代替燃料として期待が大きい。

  • 第一世代と呼ばれるバイオ燃料は食用油脂や糖類から合成されたもので、食用油脂の主成分であるトリグリセリドのグリセリン部分をメタノール置換して得られたFAME(Fatty Acid Methyl Esters、脂肪酸メチルエステル)でバイオディーゼルと呼ばれているものが代表例である。
     この延長でジェット燃料準拠の燃料製造も可能であるが、食糧危機問題の高まりと共に、航空機用燃料としての導入の見通しはなくなった。
     一方で、木屑やワラなどのバイオマスを原料とする植物廃棄物からの発酵などにより生産されているバイオエタノール(Bioethanol)などのアルコール燃料があるが、単位重量当たりの発熱量が低く、含酸素燃料のために酸化剤を吸込空気とする航空機ジェットエンジンでの利点は少ない。
  • 第二世代のバイオ燃料である非食用植物の油脂や糖類からの合成は、油脂の原料が非食用植物(ナンヨウアブラギリ、アマナズナ、カメリナ、ジャトロファなど)である。単位面積当たりの収量が大きく、食物の耕作に適さない土地でも生育できるなどの条件を満たす植物が選択されている。
     この油脂由来の炭化水素系バイオ燃料には、SVO(Straight Vegetable Oil、植物油)、廃棄油由来のFAME(Fatty Acid Methyl Esters、脂肪酸メチルエステル)、HVO(Hydrotreated Vegetable Oil、水素化植物油)が存在するが、燃料安定性からFAMEとHVOが主流である。

     FAMEは、植物油・廃棄油など油脂類とメタノールからエステル交換反応により生成し、軽油に近い性質を持つが水素化処理をしないため、従来燃料と比べるて燃焼後の窒素酸化物(NOx)の増大や、低温流動性や腐食・劣化性能などの点で劣り、従来燃料との混合利用が前提となる。
     
     HVOは、油脂類を直接水素化処理して生成したパラフィン系炭化水素である。従来燃料との混合を前提とせずに単独利用が可能である。HVOの中でも特に航空機用のジェット燃料としての規格を満たした燃料はSAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれている。

     ジェット燃料の製造方法は、非食用植物のバイオマス、廃棄油、セルロースなどから合成ガス(H2、CO)を発生させ、FT法(Fischer-Tropsch process)*脚注により液体炭化水素を合成した後、水素を添加が施される。

*脚注 1923年に、ドイツのF・フィッシャーとトロプシュが開発した一酸化炭素と水素から液状の炭化水素を合成する方法である。触媒として鉄やコバルトなどの重金属が用いられているが、200℃以上の高温高圧の反応条件が必要なため、さらなる高効率化が望まれている。

  • 第三世代のバイオ燃料は、藻類(ミドリムシ、ボトリオコッカスなど)を原料とする合成が進められている。
     製造方法は、①藻類の培養、②濃縮・収穫、③油分抽出、④燃料への変換の4工程で行われる。すなわち、藻類を原料としたバイオマスから合成ガス(H2、CO)を発生させ、FT法により液体炭化水素を合成した後、水素を添加してジェット燃料に変換されている。

 様々なバイオマスからジェット燃料を製造する BTL(Biomass To Liquid)と、石炭を原料とするCTL(Coal To Liquid))、天然ガスを原料とするGTL(Gas To Liquid)との環境性、経済性の比較が行われ、航空代替燃料としてBTLを使用することがCO2排出量の低減に有効であることが確認されている。

水(水蒸気)を原料とする水素燃料

 航空機用燃料として水素(液体水素)を使用することは、CO2を排出しないための究極の選択として以前から検討されてきた。表1には、後述するジェット燃料のASTM規格と各種のバイオジェット燃料と水素燃料の特性を比較して示す。

 水素燃料は単位重量あたりの発熱量が現状のジェット燃料の約 3 倍と大きい。しかし、液体水素にして貯留しても密度が低いため単位体積あたりの発熱量は約1/4 である。すなわち、従来のジェット燃料の34.6(kJ/L)に対して、液体水素は8.5(kJ/L)と低い。

 さらに、水素を液体状態を保つためには極低温(沸点:-259.2℃以下)で保管する必要がある。そのため、航空機用への水素燃料の導入については、1980年代から飛行試験などにより多くの検討が行われてきたが、本格的な採用には至っていない。

表1 ジェット燃料のASTM規格とバイオジェット燃料(SPK)と水素燃料の特性比較

 また、水素燃料についても化石燃料の改質により製造された水素を使う限り、本質的なCO2排出量の低減にならないことは自明である。そのため水(あるいは水蒸気)を原料とし、再生可能エネルギー電力を使って電気分解により製造されたグリーン水素を航空機用燃料として使う試みが進められている。

 最近、興味深いニュース「ブルー水素、グリーンより割高に ガス高騰が影響」、日本経済新聞(022年5月26日)が流れた。経済制裁によるロシア産天然ガスの価格高騰により、天然ガス原料でCCSを行う「ブルー水素」の価格が高騰し、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と逆転した。

 これにより、欧州委員会ではロシア産の天然ガス依存からグリーン水素への転換が急速に進むとし、ロシアへのエネルギー依存を減らすため、2030年に560万トンとしていたグリーン水素の生産目標を1000万トン/年にすることを発表した。

 欧州委員会が2020年に公表した試算では、グリーン水素の製造コストは2.6~5.8ドル/kgである。一方、ノルウェーのライスタッド・エナジーによると、2021年に2ドル/kg程度であったブルー水素の価格は、ロシアのウクライナ侵攻により814ドル/kg近くに急騰している。

 再生可能エネルギーが普及すると発電コストは今後も低下するであろう。加えて、グリーン水素をつくる水電解装置の量産化が欧州では加速されており、LNG価格が高止まりを続けると、当然のことながらグリーン水素の価格競争力は強まる。

  • 水電解装置の世界最大手ノルウェーのネル・ハイドロジェンは伊藤忠商事とも提携し、2025年までに米国と欧州で400万kWずつ、アジアで200万kW、合計1000万kWまで量産を拡大し、グリーン水素は1.5ドル/kgの低コスト製造を目指している。
  • ドイツのシーメンスエナジーが2023年に数100万kW規模で量産を開始し、ティッセンクルップは2025年までに現在の5倍となる500万kWまで量産規模を拡大するとしている。
  • 英国のITMパワーは2024年までに500万kWまで、フランスのマクフィーも2024年までに100万kWまで量産規模を拡大するとしている。
  • 遅ればせながら、燃料電池の米国プラグパワーは1億2500万ドルを投じて水電解装置の研究開発拠点を新設する。同業の米国ブルームエナジーは2021年夏、競合より最大45%エネルギー効率が高い水電解装置を発表している。
  • 旭化成は1ユニット当たりの最大出力が1万kWの大型装置を、2025年を目指して開発を進めている。日立造船もラオスでグリーン水素製造の実証実験を計画しているが、電解装置の量産時期は早くても2030年前後になる見通しである。

 2024年4月、ENEOSは、2030年をめどに羽田空港に年間1万トンの水素を供給すると発表。マレーシアやオーストラリアからグリーン水素を調達して川崎製油所の中に貯蔵設備を設け、導管で羽田空港敷地内の発電設備(出力:1900kW)に送り、電気に変換して空港施設のエネルギー源とする。

合成燃料(e-fuel)

 CO2とH2を原料とする合成燃料は、液体合成燃料気体合成燃料とに大分類できる。触媒(Ni、Ru)を用いて熱化学的にメタンを製造するサバティエ反応(CO2 + 4H2 →CH4 + 2H2O)などを使い、メタネーション技術により製造される合成メタンが、気体合成燃料である。
 CO2からのメタン製造技術としては、熱化学的手法のほかに、電気化学、光還元、生物学的手法などについて研究・開発が行われている。

 一方、触媒(Fe、Co)を用いて熱化学的にFT(Fischer-Tropsch、フィッシャー・トロプシュ)反応((2n+1)H2+nCO →CnH2n+2 +nH2O)を使い製造されるナフサ・ガソリン、灯油・ジェット燃料、軽油、重油などの混合物が液体合成燃料である。

 この液体合成燃料の製造で、再生可能エネルギー由来の水素を原料としたものが「e-fuel」と定義されている。発電所や工場などから排出されたCO2を回収(CCS:Carbon Capture and Storage)して使用する。将来的にはDAC(Direct Air Capture)技術で、大気中のCO2を直接分離・回収する。

 また、メタノールなど多くの含酸素化合物も液体合成燃料に大別される。メタノールはゼオライト触媒を用いMobilが開発したMTG(Methanol to Gasoline)プロセス(nCH3OH →(CH2)n+nH2O)により、ガソリンにも転換できる。

 合成液体燃料はカーボンリサイクル技術により製造され、回収されたCO2を用いるため脱炭素燃料とみなせる。また、硫黄や重金属成分を含まないクリーンな燃料である。エネルギー密度や搬送・貯蔵などの特性も、従来の液体化石燃料と同等であり、既存の化石燃料機器がそのまま使用可能である。

図4 合成燃料の分類 出典:合成燃料研究会(2021年4月)

バイオジェット燃料の規格化

ASTM D-1655/ASTM D7566規格

 民間航空機用ジェットエンジンに使われているジェット燃料については、米国試験材料協会(ASTM International:American Society for Testing and Materials)によるASTM D-1655などでJet-A/A1燃料として規格が定められている。

 民間航空機用のジェット燃料は主にケロシンから成り、軽油とガソリンの間の留分として精製され、灯油と似た性状を持つ。航空機の排ガスには窒素酸化物(NOx)などの環境に悪影響を及ぼす成分が含まれており、ICAOではNOx などのエンジン排気、エンジンなどに起因する騒音の規制を定めている。

 最近では、世界的な脱炭素の潮流を受けて、CO2排出量削減に向けた規制が厳しさを増している。 

表2 ジェット燃料のASTM規格とバイオジェット燃料(SPK)と水素燃料の特性比較

 表2で示したように、航空機用ジェット燃料のASTM規格は石油由来であることを前提条件とし、粘度、密度、引火点、氷点、発熱量、硫黄分、芳香族成分などの項目で構成されている。当然のことであるが、代替燃料に対しても同様の基準が適用されている。

 例えば、-50℃でも凍結しない耐低温性高温での熱安定性、単位重量当たりの発熱量が一定範囲内にあることなどである。表1には検証に用いられた各種のバイオジェット燃料の特性値を示すが、いずれもジェット燃料のASTM D-1655規格値を十分に満たしている。

 また、従来のジェット燃料は原油を精製して造られるが、それ以外の方法で造られる代替燃料についても、原料と製造方法について規格化が進められている。

●2009 年には、FT法により合成された石炭由来燃料(CTL:Coal to Liquid)、天然ガス由来燃料(GTL:Gas to Liquid)の50%混合燃料がASTM D7566で承認された。
●2011 年にはバイオ合成パラフィンケロシン(Bio SPK:Bio Synthetic Paraffin Kerosene)の50%混合燃料がASTM D7566に追加承認された。
●2014年に、糖質由来燃料(DSHC:Direct Sugar to Hydrocarbon) の10%混合燃料が承認された。●2020年には、(株)IHIが日本法人として初となる微細藻類由来のバイオジェット燃料がASTM D7566で承認された。

 表3には、現在までにASTM D7566に認証されたバイオジェット燃料の規格を示す。

表3 ASTM D7566に承認された各種のバイオジェット燃料

 このASTM D7566規格認証を受けると、現在のジェット燃料の規格であるASTM D1655の要件を満たすものと見なされ、代替燃料として規格面では民間航空機でいつでも使用可能となる。すなわち、エンジンや機体の改変を要しない、Drop-in Fuel として導入することができる。

 ただし、現時点では石油由来のジェット燃料と混合して使用することが義務付けられている。すなわち、ASTM D7566では、種別にブレンド率が 10~50%の範囲で規定されている。

バイオジェット燃料の普及に向けて

 現時点で、バイオジェット燃料は生産規模の拡大や価格競争力の強化などの課題を有しており、実用化を加速すべく研究開発が進められている段階にある。バイオジェット燃料は未だ安全実績を積み上げる段階にあるが、将来的にはバイオジェット燃料100%による飛行を目指している。

 既に、数社の航空会社による試験飛行で、バイオジェット燃料100%による飛行を成功させるなど、航空機メーカーはバイオジェット燃料の普及促進に積極的に関わり、調達計画を進めている

米国Boeing(ボーイング)はバイオジェット燃料の開発初期からデモフライトに積極的に参画し、2018 年には100%での試験飛行に成功している。また、HEFA-SPKのASTM規格認証を主導するなど燃料開発にも関与している。
欧州Airbus(エアバス)も積極的にバイオジェット燃料の普及に加わり、SIP の ASTM 規格認証を主導している。同社から航空会社への機体引き渡し時の飛行に際して、航空会社がバイオ燃料の搭載を選択できるサービスを提供しており、ボーイングもこのサービスに追随して実施している。
●国内では、2021年には全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が、国産の持続可能なSAFを従来のジェット燃料に混合し、定期便によるフライトを実施している。
●ANAはIHIから供給された微細藻類を原料とするSAFを使用し、JALはIHIから供給された微細藻類を原料とするSAFと、三菱パワー、JERA、東洋エンジニアリングから供給された木くずを原料とするSAFの2種類を使用している。
ANAは2030年度に燃料の10%以上、2050年度に全量をSAFに置き換える目標を掲げ、フィンランドのネステ、米国でエタノールを原料としたSAFの生産を2023年にも始めるランザジェットとも調達契約を結んでいる。
JALは2025年度に燃料の1%、2030年度に10%をSAFに置き換える計画で、SAF生産の米国フルクラム・バイオエナジーに丸紅などと出資するほか、航空連合「ワンワールド」の加盟各社と共同で米国ジーボなどとも調達契約を結んでいる。
伊藤忠商事は、2020年から全日本空輸(ANA)、フィンランドのNeste OYJ(NESTE)と共同で、SAFの輸入・品質管理から空港搬入までの国内サプライチェーンを構築している。
●2022年2月、伊藤忠商事はNESTEが生産するSAFの日本市場向け独占販売契約を締結し、2022年5月には成田国際空港で、アラブ首長国連邦(UAE)の国営航空会社Etihad Airways PJSC(エティハド航空)に対して、日本を発着する海外航空会社として初のSAF供給を発表してる。
●2023年1月、SAFの調達でANAとJALは、米国レイヴェン・伊藤忠商事と合意した。今後、供給量や価格などの詳細を詰め、2025年からカリフォルニア州でレイヴェン(伊藤忠商事が2021年に出資)が商用生産するSAFの調達契約を結び、伊藤忠が調達して各社に供給する。
 レイヴェンは米国で植物系廃棄物や都市ごみなどの発酵で発生するメタンガスから合成燃料を製造する。2034年までに欧米で20万トン/年規模の生産を計画している。
●2023年2月、米航空大手ユナイテッド航空がSAFの研究・開発に焦点をあてた投資ファンドを立ち上げた。ユナイテッド航空ベンチャーが運営を担い、当初1億ドル超で3年間で5億ドルにまで拡充し、生ごみや農業廃棄物、廃食油を原料とするSAFの研究開発会社に重点投資する。
 ユナイテッドはSAFに切り替えることで、生産から消費までの全過程で排出する温暖化ガスを最大85%削減できると試算している。米政府は2022年に成立した歳出・歳入法(インフレ抑制法)で、SAF生産に関する新たな奨励措置を追加した。
●2024年2月、シンガポール政府は、再生航空燃料の普及に向けて「SAF税」を2026年に導入すると発表。同国出発便の航空運賃に上乗せし、SAF購入に充てる。チャンギ空港などで供給する航空燃料へのSAFの混合比率を段階的に引き上げる。SAF税は飛行距離や座席クラスに連動させる仕組みを想定している。
 同局は、シンガポールの空港で供給する航空燃料のうちSAFの混合比率を2026年に1%、2030年に3〜5%に引き上げる目標。SAF価格は従来燃料の3〜5倍と高止まりしており、政府は一定のSAF需要を促すことで、SAFメーカーが新規の増産投資をしやすくなり、供給拡大につながると期待している。

 2022年3月、日揮HD、レボインターナショナル、全日本空輸、日本航空は共同で、国産の持続可能な航空燃料(SAF)の商用化および普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立した。2023年9月時点で30社が参画している。

世界のSAF製造メーカー

 バイオジェット燃料の使用に関しては航空会社、空港、航空機メーカーとの連携が重要なことから、欧米を中心に製造拠点の建設と供給システムの検討が始まっている。将来的には、SAFの供給が出来ない空港は航空機便数が減るとの見通しもあり、国内でも開発が加速されている

米国ワールドエナジー(World Energy)

 カリフォルニア州パラマウントに、商業用バイオジェット燃料の専業供給拠点を保有し、副生物としてバイオディーゼルやナフサも製造している。バイオジェット燃料はロスアンゼルス空港へ直結するパイプラインにより送給されている。
 主な原料は近隣外食産業から有償提供される廃食油などで、改質技術はHoneywell UOPが提供する水素化技術を使い、HEFA-SPKを製造している。また、サンフランシスコ空港、オスロ空港などにも、コンテナによるバイオ燃料供給を行っている。

フィンランドのネステ(Neste)

 水素化処理用触媒の製造と技術提供を主とする石油改質技術メーカーである。独自にバイオ燃料製油所を北欧とシンガポールで運営し、生物系油脂を水素化技術により改質してバイオディーゼルを製造して、全日本空輸、米国デルタ航空、アメリカン航空などの航空会社や空港に供給している。
 2023年3月、シンガポールで建設中の新工場(生産量:100万トン/年)からの輸出を7月にも始めると発表した。また、オランダのロッテルダムでも生産量増強を進め、2026年までに全世界で220万トン/年の生産体制を構築する。

米国のジーヴォ(Gevo)とランザテック(Lanzatech)

 Gevoは木質バイオマスより得られるバイオイソブタノール、Lanzatech は微生物発酵を使って都市ゴミや工場排気ガスから得られるバイオエタノールを原料とし、アルコ-ル変換(ATJ:Alcohol-to-Jet)技術で、バイオジェット燃料を製造している。
 Gevoはヴァージン・アトランティック航空ほか、アラスカ航空などとATJ燃料の長期供給契約を締結した。また、オーストラリア・ブリスベーン空港へのATJ供給契約も締結し、オーストラリアでのATJ 製油所の建設を進めている。
 Lanzatechは中国などで商業設備を稼働し、全日本空輸、英国ブリティッシュ・エアウェイズ、サンフランシスコ空港と供給契約を締結した。2020年6月に、SAF製造の関連会社ランザジェットを設立し、2022年から米国ジョージア州で約3800万L/年のバイオジェット燃料を生産する。 

米国のフルクラム・バイオエナジー(Fulcrum bioenergy)

 FT-SPKの工程で作られる炭化水素(木質バイオマスや都市ゴミなどをFT法で合成)と石油の混合改質燃料の新規認証を進めている。ユナイテッド航空や、日本航空、丸紅、JOINなどが資本参加を決め、2021年より米国ネバダ州で商業生産を開始し約4160万L/年のSAFを製造する。

米国のランザジェット(LanzaJet)

 2024年3月、2020年創業のスタートアップランザジェットは植物由来の再生航空燃料(SAF)の量産を開始したと発表。米国で新工場を立ち上げ、エタノールを原料にしたSAFや再生ディーゼル燃料の生産を始めた。SAFの生産能力は900万ガロン(約3.4万kL)/年で、全日本空輸(ANA)などに供給する。
 2023年のSAF生産量は2022年比2倍の60万kLに増加したが、世界の航空燃料の消費量の0.2%程度にとどまっていたが、ランザジェットの生産能力は世界のSAF総生産量の6%程度に達する。また、出資する三井物産やコスモ石油と連携し、両社が日本で検討中の植物由来のSAFの製造拠点に技術を提供する。

 エタノールはトウモロコシやサトウキビを処理して発酵させて製造し、脱水や蒸留などの工程を経てジェット燃料を量産する。既に、エタノールを使ったガソリンやディーゼル燃料などは実用化されているが、ジェット燃料は要求される品質規格が厳しく、独自の触媒技術の開発などで効率的な大量生産を達成した。
 現在のSAFは飲食店や食品工場から回収された廃食油や動物性油脂を原料とし回収に手間がかかるが、植物由来のSAFは原料を確保しやすいため廃食油由来よりコストが最大6割ほど安くなる。 

英国シェル

 オランダの製油所でSAFの生産を検討している。2025年までに生産量を約250万kL/年まで引き上げ、2030年時点で世界シェアの10%超を獲得する計画を掲げる。

東南アジアでのSAF製造

 2023年6月、東南アジアで再生航空燃料(SAF)を生産する動きが広がっている。ハブ空港を抱えて市場拡大が予想される東南アジアは、SAF生産拠点として適しており、原料である廃食油などの調達も期待できるため、各社の投資が始まっている。

 フィンランドのネステは、5月に16億ユーロ(約2400億円)を投じてシンガポールの精製工場を拡張し、SAFの生産を始めた。2023年中にシンガポールで100万トン/年の生産体制とし、世界全体でこれまでの10万トン/年から150万トン/年に引き上げ、2026年上期には220万トン/年に拡大する。
 シンガポールで生産するSAFは世界各地へタンカーで輸送するほか、ハブ空港であるシンガポールのチャンギ空港に乗り入れる航空機に供給する。現時点で大量生産が可能な「水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)」法で、廃食油(使用後の食用油)や動物性油脂を原料とする。

 一方、マレーシアの国営石油会社ペトロナスは、2025年にもSAFの生産を始める。マレーシア航空は2023年5月、ペトロナスとSAFの取引契約を結び、2027年以降に定期便に導入する。ペトロナスはマラッカ工場からクアラルンプール国際空港へ直接SAFを供給する計である。
 マレーシア政府は、2050年のカーボンニュートラル政策を打ち出している。

 タイでは、再エネ大手エナジー・アブソルートが約20億バーツ(80億円)を投じて、SAFの生産能力を65トン/日から130トン/日に拡大する方針を示した。2022年に廃油からSAFを生産する子会社を設立国営石油精製大手バンチャークも、SAFの利用促進に向けてタイ国際航空との覚書を締結した。
 タイ政府はBCG(バイオ・循環型・グリーン)政策を掲げ、循環型産業育成に重点を置いている。

日本でのSAF導入の基本方針

航空機燃料の脱炭素化

 2022年9月、新たな「バイオマス活用推進基本計画」(第三次)が閣議決定された。特筆されるのは、航空分野における脱炭素化の取組に寄与する持続可能な航空燃料(SAF : Sustainable Aviation Fuel)の社会実装に向けた取組の推進である。

4.脱炭素化を促進する技術の研究開発
 航空分野における脱炭素化の取組に寄与する持続可能な航空燃料(SAF)の社会実装に向け、HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)技術、ATJ(Alcohol to Jet)技術、多様な原料利用の可能性があるガス化・FT(FischerTropsch process)合成技術、カーボンリサイクル技術を活用した微細藻類の大量培養技術等の技術開発及び実証を加速させる必要がある。加えて、食料や飼料用原料等の既にある需要先の安定供給を行いつつ、廃食用油、古紙、木くず等の国内における持続可能な航空燃料(SAF)の原料を安定的に確保するためのサプライチェーンの構築を推進する。

バイオマス活用推進基本計画(第三次)p.20より

 2022年9月、国土交通省は航空分野の脱炭素化に関する基本方針案をまとめた。すなわち、2050年までに航空分野でCO2の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル(CN)の達成を目指す。
 基本方針には、持続可能な航空燃料(SAF : Sustainable Aviation Fuel)の導入促進飛行ルートの効率化空港施設の省エネと再生可能エネルギー導入などの対策が盛り込まれ、関連事業者の意見も取り入れて、2022年12月に正式決定された。

 また、基本方針では、2030年までに達成する目標として、国際航空でCO2総排出量の増加を制限し、国内航空では単位輸送量当たりのCO2排出量を対2013年度比で16%削減すると規定した。各空港でも温室効果ガス排出量を対2013年度比で46%以上削減する。

 SAFに関しては、2025年の国産開始、2030年までに国内航空会社の燃料使用量の10%を置き換える目標を設定した。国土交通省や経済産業省などが連携して国際競争力のある国産SAFの安定供給に向けて作業部会を設置し、SAFの国際認証取得など関連企業の支援に乗り出す。

SAFへの置き換えの課題

 世界全体における2020年のSAF供給量は6万kL/年程度であり、ジェット燃料の供給量の0.03%程度である。国内でのSAF生産量は極めて寡少で、現時点で航空会社は輸入に頼っている。

 国土交通省によると国内でのSAF需要は、2030年に2025年比で約6倍の171万kL(海外航空会社向け:83万kL、国内航空会社向け:88万kL)と拡大するが、将来的に国内供給できるのは7割程度に留まる見通しであり、生産体制の強化が急がれている。そのためSAFの課題は調達といえる。

 また、SAFは従来の航空機エンジンを変更することなく使えるメリットは大きいが、調達が限定的なこともあり、現時点で価格がジェット燃料の2〜5倍と高いのが第二の課題である。今後、量産効果による低コスト化が期待されている。

 一方、SAFの使用は、原料の調達から消費までの過程でのCO2排出量を、石油由来のジェット燃料と比べて7~9割減らせるとされる。しかし、燃料をすべてSAFに替えても、現状に比べて1~3割程度のCO2排出が残ることは自明であり、小型機の電動化中大型機の水素燃料の開発も重要である。

SAF導入の義務化

 2023年5月、経済産業省は、2030年から日本の空港で国際線に給油する燃料の1割をSAFにすることを石油元売りに義務付けると発表した。国内でのSAF生産体制の強化の一環である。官民協議会に提案し、2023年度中にエネルギー供給構造高度化法(エネ高度化法)の政令改正を目指す。

 石油元売りに対し販売する航空燃料の1割をSAFにするよう法律で定めて、罰則も検討する。また、国際線を発着する日本の航空会社にもSAFを1割利用すると、国土交通省に提出する脱炭素事業計画に明記するよう求める。

図5 国内でのSAFの需要見通し(出典:読売新聞 2022年11月18日)

参考:進み始めた国産SAFにより実証飛行
●2021年6月、国土交通省航空局が保有・運用する飛行検査機「サイテーションCJ4」で、サステオを使用し、羽田空港から鳥取空港を経由し、中部国際空港に着陸する約2時間半の飛行を実施した。●また、同年6月、Japan Biz Aviationが運航管理するプライベートジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェット エリート)」でサステオを使用し、鹿児島空港から羽田空港へ約90分間の飛行を実施した。
● 2022年3月、定期旅客運航のフジドリームエアラインズのジェット旅客機(エンブラエルERJ175)に鈴与商事がサステオを給油し、富士山静岡空港と県営名古屋空港間のチャーター運航を実施した。
●また、同年3月、アジア航測が保有・運航する低翼ターボプロップ双発機(テキストロン・アビエーション式C90GTi型)にサステオを給油し、大阪・八尾空港を発着地として小豆島上空を約60分間の周回飛行を実施した。
●2022年6月、ユーグレナ、中日本航空、エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは、中日本航空が保有するヘリコプターH215(エアバス社製AS332 L1型)にサステオを給油し、名古屋空港より約30分の飛行を実施した。
●また、同年6月に国土交通省が保有する飛行検査機にサステオを使用し、初フライトが行われた。羽田空港から鳥取空港を経由し、中部国際空港に着陸する約2時間半の飛行である。
●2023年1月、防衛省が運航する政府専用機2機(ボーイング777-300ER)にサステオ(SAF)が給油され、岸田首相の欧州および北米訪問に運航された。政府専用機にSAFが使用されるのは、2022年11月のフライトに続き2度目である。

日本のSAF製造メーカーの動向

航空機関連企業のSAF製造 

IHI

 高速増殖型の藻類ボツリオコッカスを発見したG&Gテクノロジー 、ネオ・モルガン研究所と、IHIネオジー・アルジ(IHI NeoG Algae)合同会社を設立し、HC-HEFA SPKの製造を進めている。
 藻類ボツリオコッカスは重油成分に近い炭化水素を細胞周りに貯め、乾燥重量に含まれる炭化水素量が50%以上で、水素化処理時の脱酸素が不要なため効率良くSAFを製造できる。2015年3月、鹿児島市に1500m2の培養池を建設し、2030年代の商用化を目指している。
 2020年、SAFの商用飛行に必要な国際規格「ASTM D7566 Annex7」の認証を取得し、東京国際空港(羽田空港)出発のANA定期便に供給した。

 一方、2022年年12月、シンガポール科学技術研究庁の化学・エネルギー・環境サステナビリティ研究所(ISCE)と共同で、CO₂を原料とする合成燃料(e-fuel)の新触媒を機械学習等を活用して開発し、触媒反応試験で世界トップレベルである26%の液体炭化水素収率を確認した。 

本田技研工業

 2023年2月、航空機燃料SAFの製造に乗り出すことを公表した。原料となる藻類の培養事業を国内外の工場で拡大し、SAFの製造・流通に向けて国内エネルギー関連企業と連携を始め、2030年代の実用化を目指す。培養した藻類は自動車生産で出たCO2の吸収にも活用して工場の脱炭素化を進める。

バイオ関連企業のSAF製造

ユーグレナ

 微細藻類ミドリムシを原料としたバイオ燃料の製造を進め、2020年1月に「ASTM D7566 Annex7」で認証されたCHJ技術での製造を進めている。2018年10月には横浜市鶴見区に製造実証プラントを建設、2019年夏からバイオジェット燃料(SAF)とバイオディーゼル燃料の供給を始めた。 
 
 2021年3月、米国Chevron Lummus GlobalとApplied Research Associatesが共同開発したバイオ燃料アイソコンバージョンプロセス技術を使い、「ASTM D7566 Annex6」規格に適合した微細藻類ユーグレナ等由来のバイオ燃料を完成した。
 現在、バイオ燃料は従来燃料に混ぜて使用する規程のため、混合比率は10%程度であるが、同社の製造方法によれば国際規格で最大50%までの合が認められている。 

 2021年6月、ユーグレナ製バイオ燃料の商品名「サステオ(SUSTEO)」が登録された。サステオには、軽油の代替となる「次世代バイオディーゼル燃料」、ジェット燃料の代替となる「バイオジェット燃料(SAF)」などがある。
 バイオジェット燃料サステオは、原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油等を使用している。今後も、CO2排出量の削減効果と持続可能性が期待される原料の探索を継続する。

 ユーグレナは、2025年を目指してバイオ燃料の商業プラント建設を進めている。2026年には本格稼働させて25万kL/年の生産を計画している。現在、サステオの価格は約1万円/Lであり、海外メーカーの200~1600円/Lに向けて低コスト化を進めている。 

日本製紙

 2023年2月、住友商事などと提携し、社有林から直接切り出した国産木材を使ってSAFの原料になるバイオエタノールを生産すると発表した。
 独自の微生物発酵技術を持つグリーン・アース・インスティテュートから出資を受け、2024年をめどにバイオエタノールを製造販売する共同出資会社を設立する。日本製紙の既存工場内に専用の生産設備を導入し、2027年に数万kL/年の製造を始め、石油元売り会社に販売する。
 伐採地には従来より成長が1.5倍速く、CO2吸収量も1.5倍となる品種の苗木を植え、持続可能な原料確保を進める。

王子ホールディングス

 2023年2月、王子HDも社有林の木材を使ってバイオエタノールの生産研究を進めており、SAFの商用生産を計画している。2024年度までに500kL/年の生産体制を構築し、燃料の製造販売には石油会社との協業なども視野に入れている。

ちとせ研究所

 2023年4月、温暖なマレーシアのボルネオ島サラワク州の火力発電所敷地内で排出されるCO2を使い、クラミドモナスと呼ばれる藻類の培養施設(4.6ヘクタール)が本格稼働したと発表。
 従来の大型プールではなく、安価なポリエチレンの袋を並べて大規模化する方式で最大8トン/年の藻類由来SAFができる。2027年には2000ヘクタールの培養施設の着工を目指すが、将来的にバイオ燃料を3ドル/L程度(約420円)で製造できるとしている。

石油プラント関連企業のSAF製造

コスモ石油

 2021年7月、日揮HD、レボインターナショナルと協力して、SAFの国内生産を2025年から大阪府堺市で開始すると発表した。コスモ石油の堺製油所内に3万kL/年の製造工場を建設する。
 工場でジェット燃料とSAFを混合し、成田空港、羽田空港、関西国際空港など国際線が就航する空港に向けて出荷する。販売価格は、従来のジェット燃料並みの100円台/Lを目指す。

 2022年7月、三井物産と共同でSAF製造に取り組むと発表した。三井物産が出資する米国ランザジェットが開発したエタノールを触媒に反応させるATJ技術で、コスモ石油の製油所においてSAFの大規模生産を目指し、2028年末までに22万kL/年の製造を目指す。
 同時に副産物として製造される2万KL/年のリニューアブルディーゼル燃料は、空港内の輸送機やトラック・重機等を対象に販売する。

出光興産

 2022年4月、千葉事業所でエタノール由来のSAF製造を始めると発表した。原料のバイオエタノールは廃食油に比べて原料が確保しやすく、国内外からの調達(18万KL/年)と10万KL/年級のATJ製造商業機の開発に取り組み、2026年度から供給を開始する。
 2030年には50万KL/年規模まで製造設備を増強して、価格を100円/L台に抑える。事業所敷地内の石油タンクはエタノール・タンクに改修する。

 主流の廃食油由来SAFは1000円台/Lと現用ジェット燃料の最大10倍であり、脱水や重合などエネルギー密度を高める工程のために高コストである。米国やブラジルなどで自動車用燃料の原料としてエタノールは安価に大量製造されているが、原料の輸入は将来にわたる持続可能性の問題がある。

 2023年3月、苫小牧市の北海道製油所で合成燃料の実用化を目指し、調査を北海道電力や石油資源開発(JAPEX)と進めると発表した。2030年までに製油所などで排出するCO2とグリーン水素を合成した液体燃料を製造し、ガソリンスタンドなどへの供給を目指す。

 2023年10月、マレーシア国営石油ペトロナスとSAFサプライチェーン構築に向け、バイオ原料調達や生産コスト分析で連携する。現在、SAF原料は廃食油が主流だが、価格上昇などで確保が難しくなっている。出光興産は、ポンガミアやジャトロファなどの植物からのSAF製造の技術開発を進めている。

ENEOS

 2022年4月、フランス・トタルエナジーズとSAF製造に関する事業化調査を実施すると発表した。廃食油、獣脂などの廃棄物や余剰物を原料として調達し、ENEOS根岸製油所での製造・入出荷設備をSAF製造に活用し、40万KL/年の製造を行う計画である。
 原料調達は化学品商社の野村事務所を通じて、廃食油回収業者や専門商社から安定確保し、2025年をめどに競争力の高いSAFの量産供給体制の確立を目指す。

 また、2022年から特殊な触媒を使い、CO2と水素から合成燃料(e-fuel)の生産を始める。160L/日程度の生産から始めて、2030年には最大1600L/日に高めて商用化する。
 商用化時にはオーストラリアなど再生可能エネルギーの発電コストが安い地域で作った「グリーン水素」を調達し、製油所で排出されたCO2を使うことで、実質CO2ゼロの燃料を製造する。水素の輸入は将来にわたる持続可能性の問題がある。

 2023年6月、フランス・トタルエナジーズとSAFの原料となる廃食油を共同調達すると発表。2026年から和歌山製油所でSAF生産を始め、将来的に年30万トン(約40万kL)の生産体制を整える。また、2027年に合成燃料の量産向けに試験プラントを運転する予定を前倒しする方針も示した。 

 2024年1月、花王、サントリーホールディングス(HD)、和歌山県と、SAF製造と廃プラスチックのリサイクルなどでの包括連携協定を締結した。2023年に石油精製を停止したENEOS和歌山製造所を拠点に、一般家庭で排出された廃食油からのSAF製造や、アスファルト改質剤の製造などを検討する。

2024年3月、物語コーポレーションと廃食油の再活用で連携すると発表した。物語コーポが展開する飲食店で排出された廃食油(約420kL)を回収し、SAF製造プラントで原料として使用する。ゼンショーホールディングスや東急不動産などとも組んで廃食油の回収を進める。

富士石油

 2023年5月、SAF製造の検討を開始したと発表。袖ケ浦製油所に生産設備を設け、2027年度から約1億8000万L/年の生産を目指す。プラントの基本設計をこのほど始めた。伊藤忠商事と協力しながら最終的な投資判断をする。 

日揮

 日揮グループはSAFの大規模商用生産に向けて、レボインターナショナル、コスモ石油と共同で、使用済み食用油を水素化処理する国産SAF製造サプライチェーンの構築に取り組んでいる。

 2022年3月、レボインターナショナル、全日本空輸、日本航空などと共同で、国産SAFの商用化および普及・拡大に取り組む合同会社「ACT FOR SKY」を設立した。新会社は国産SAFの大規模生産を目指し、100%廃食用油を原料とするSAFの国内供給(約3万kL/年)を目指す
 生産設備は、大阪府堺市のコスモ石油堺製油所内に2023年夏を目途に着工し、2024年内に完工、2024年度下期~2025年度初に稼働する予定である。同設備ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサや、バイオディーゼルも生産する。

 2022年11月、三菱地所とSAF製造に向け原料となる廃食油回収の相互協力を発表した。SAFは原料の廃食油の確保が課題であり、三菱地所は2023年3月から保有物件に入居する飲食店と回収業者を仲介し、2024年度の稼働を見込む大阪府堺市のSAF工場に供給する。

2023年4月、回転ずし「スシロー」などを運営するFOOD&LIFE COMPANIESは、廃食油を利用してSAFを生産すると発表した。レボインターナショナルが全国約680店舗から廃食油を回収し、日揮HDが堺市に建設中のSAF製造プラントへ運び、サファイア・スカイ・エナジーがSAFを製造する。
 生産開始に向け3社と基本合意書を交わした。提供する廃食油は約90万L/年を見込み、約75万L/年の生産を計画しており、早ければ2024年中にも生産を始め、2025年からの供給を目指している。

エネルギー関連企業

電源開発

 2016年5月から、東京農工大、日揮と協力して珪藻のソラリス株(春~秋)とルナリス株(冬)を使い分け、北九州市若松研究所で実証設備を稼働している。培養槽400m2、1000L/年の燃料油生産ラインを整備し、2025年にジェット燃料への適用、2030年には500円/Lでの販売を目指している。

 2021年3月、2030年のSAF事業化を公表した。ガラス管に藻類を含んだ培養液を流し、大気に触れさせずに日光を浴びせるクローズ型培養設備と、屋外で大量に培養するオープン型培養設備を組み合わせ、温暖な気候と寒冷な気候のそれぞれに適した2種類の藻類を大量培養する。
 NEDO支援を受けて北九州市若松研究所で実証試験を進めており、2種類の藻類を扱い国内でも年間を通じて培養できるようにする。

商社

三井物産

 2023年9月、ポルトガルのエネルギー企業Galp(ガルプ)と合弁会社を設立し、株式の25%を出資(1億ユーロ、約160億円)すると発表。ポルトガルに工場を設置しパーム油やその生産過程で出る廃棄物、菜種油を原料として、2026年から25万kL/年のSAF量産を開始する。
 原料確保のために三井物産の食料調達網を活用し、アジアを中心に食料工場などから廃棄物を集め、2030年までに50万トン前後の原料を供給する。出資分の25%を販売する。また、同じ原料から作れる自動車用の再生燃料も生産する。

 国内でもSAF生産体制を整え、コスモ石油とエタノールを原料とするSAFを、2027年以降に22万kL/年以上の生産を検討している。

三菱商事

 大量生産に向けて、石油元売り最大手のENEOSと、2027年をめどに国内で原料調達を含むSAFの供給網の構築を検討している。

 2024年2月、丸紅はアラブ首長国連邦(UAE)国営石油・ガス会社のエミレーツナショナルオイルカンパニー、廃棄物処理のベルギー・ベーシックスの2社とSAF製造の調査の覚書を締結。家庭から排出される生ごみなどの一般廃棄物を原料とし、2024年中に初期調査を終え、2030年頃の商業生産開始をめざす。
 丸紅は米国でも一般廃棄物由来のSAF製造企業に出資しており、プラントの建設や運営管理などSAF製造に関する知見を提供する。UAEでは2031年までにジェット燃料需要の1%をSAFに置き換える方針で、同国のエミレーツ航空などへの供給を検討している。

その他

 2023年6月、環境エネルギー・北九州市立大学・HiBD研究所は、国産特許技術「HiJET」によりSAFの国際規格「ASTM D7566 Annex2」に適合したバイオジェット燃料の製造にラボベースで成功。特許を取得したHiBD装置(脱酸素)により廃食用油から炭化水素油を取り出し、水素化処理を行う。
 従来の高圧水素化処理では水素化処理圧力が5~10MPaと高かったが、HiJET技術は3MPa以下で装置の大きさや初期費用、水素消費量も小さく、SAF製造時に生成される油(ガス留分を含む)は、バイオジェット燃料、バイオディーゼル、バイオナフサと全て付加価値の高い生成油として販売できる。

 2024年2月、段ボール大手レンゴーは建築木質廃材からSAF原料のエタノールを生産する。約200億円で本社工場に設備を導入し、子会社の大興製紙の廃材回収ノウハウを活用し、2027年に生産を始める。生産量はSAF換算で2030年時点の国内需要の1%弱で、建築廃材を使ったエタノールの量産は珍しい
 本社工場にエタノール生成に必要な糖化・発酵・蒸留設備などを設置し、2027年に建築廃材由来のエタノールを2万kL/年で生産し、SAFを製造する石油元売りなどに供給する。廃材由来のエタノールは植物由来に比べて、製造コストが割高となるが、供給量が今後増えれば競争力も高められる。

 2024年4月、レンゴーはバイオマテリアルイン東京(bits)を買収した。レンゴーの特殊紙子会社の大興製紙がbitsと共同研究を進め、SAF向けのエタノールの生産を進める。

バイオ燃料の近未来予測

IAEによるバイオ燃料の市場予測

 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)などの予測によるバイオ燃料の市場予測を図5に示す。2025年までの短期間では、第一世代のバイオ燃料であるバイオエタノールとバイオディーゼルは、食料問題があるため年平均成長率(GAGR)は1~2%と微増であると予測されている。
 一方で、第二世代のバイオ燃料である先進型バイオディーゼルの水素化植物油(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil)はGAGRが18%、油脂由来のSAFはGAGRが214%と急増している。

 2050年までの中長期でも、第一世代のバイオ燃料であるバイオエタノールとバイオディーゼルは減少し、第二世代のバイオ燃料である先進型バイオディーゼル(HVO)、SAF、セルロース由来のバイオエタノール、バイオエタンが急増傾向を示すと予測されている。

 この第二世代のバイオ燃料の中で、実用化段階にあるのは油脂由来の先進型バイオディーゼルHVOと、実証段階ではあるがセルロース由来のバイオエタノールが注目されている。

 先進型バイオディーゼルHVOの製造には、廃食油や植物油を水素化および脱酸素化処理するHEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)法が安価で主に使われている。ATJ(alcohol to jet)や、有機物をガス化してCOとH2からHVOを製造するFT(Fischer Tropsch)の適用はわずかである。

図6 バイオ燃料市場の市場規模予測
出典:IEA『Global biofuel production in 2019 and forecast to 2025』、
IEA『Aviation fuel consumption in the Sustainable Development Scenario, 2025-2040』、
ICAO 『Stocktaking results』を基にADLが作成

バイオ燃料の原料調達の課題

 現在、バイオ燃料の原材料に関しては、廃食油や植物油などの油脂類が主体となっている。しかし、廃棄される廃食油には量的な限界があり、植物油も食料と競合するため、バイオ燃料需要に向けて急速に供給量を増やすことはできず、原料調達が大きな課題となっている。

 そのため中長期的に原料調達で期待されているのは、セルロース系のバイオ燃料の原料であり、農業残さ(糖質系、でんぷん系、油脂系)林業残さ非食用植物などである。

 次に、農業残さの活用例を示す。ただし、農業残さとして使えるのは、肥料や工場の熱源などに利用されない場合に限定され、農業残さによるバイオ燃料やバイオエタノールの精製では、収集・運搬コストの削減、前処理工程の効率化などが技術的課題としてあげられている。 

・『糖質系農業残さの活用例』
 2017年6月、月島機械とJFEエンジニアリングは、NEDO事業でタイに建設したバイオエタノール製造プラントで、サトウキビの搾りかす(バガス)を原料に、オンサイト酵素生産技術を用いてバイオエタノールの製造技術の有効性を実証している。

・『でんぷん系農業残さの活用例』
 NEDO事業による実証試験をベースに、2017年10月にサッポロHDとタイ企業のInnotech Green Energy Company Limitedが、キャッサバイモからタピオカを抽出した後に発生するキャッサバパルプを用いたバイオエタノール製造プラント(製造能力:6万KL/年)の実用化に向け、コンサルティング契約を締結した。

・『油脂系農業残さの活用例』
 2017年12月、大阪ガスとタイ企業のAgriculture of Basin Company Limitedと共同で、パーム油製造工場の廃水中にある有機物をメタン発酵させ、発生したバイオガスを精製して、99%以上の高純度メタンガスを製造し、天然ガス自動車へ供給する商用実証事業を開始した。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02148/00004/?n_cid=nbpnxt_mled_dmh

 一方、林業残さは木質バイオマスとしてチップやペレットなどに加工され、既にボイラ・バイオマス発電の燃料として有効活用されている。そのため、セルロース系のバイオ燃料の原料としての使用とは競合する。需要に対する安定的な供給が大きな課題である。

 また、燃料用途に栽培される非食用食物は、エネルギー作物(energy crops)とも呼ばれ、サリックス(高収率のヤナギ)、ポプラ、ユーカリなどの木類や、スイッチグラス(牧草の一種)、カメリナ、ジャトロファなどの草類が検討されている。やはり、需要に対する供給量の拡大が大きな課題である。

 また、第3世代とされる(微細)藻類由来のバイオ燃料については、エネルギー密度が高くジェット燃料の代替となり、単位面積当たりのオイル抽出量もかなり高いため、期待されている。ただし、大規模培養技術の確立には時間が必要であり、商用化は2030年以降となる見通しである。

SAF導入拡大の課題

 国際民間航空機関(ICAO)では、バイオジェット燃料の各種原料や製造法に関して基準を設定し、エネルギー収支や 温室効果ガス排出量、環境影響評価などのスコア化を進めている。現在のバイオジェット燃料の製造工程では、多くの電力と水素化処理用の水素を必要とするためである。

 実際に、化石燃料を用いた火力発電の電力や化石燃料の改質水素を利用する場合には、カーボンニュートラルは成立しない。すなわち、バイオジェット燃料の原料だけではなく、製造・使用プロセスも考慮したライフサイクル評価(LCA:Life Cycle Assessment)が重要である。
・ICAO、CORSIA SUPPORTING DOCUMENT : CORSIA Eligible Fuels – Life Cycle Assessment Methodology、2019

 LCA評価では、バイオジェット燃料は化石燃料由来のジェット燃料よりも、CO2排出量抑制の観点から優位でなければならない。そのためにはバイオジェット燃料の製造工程において、再生可能エネルギーで得られた電力やグリーン水素の供給が重要であるが、高コストとなる傾向にある。

 航空機事業において燃料費の占める割合は20%以上であり、バイオジェト燃料の導入は運航費の上昇に大きな影響を与える。そのため各航空会社は積極的にバイオジェット燃料を導入するためのインフラ投資を進める一方で、低コスト化に向けて燃料メーカーへの投資を進めている。

 これは多くの燃料メーカーがスタートアップ企業で、経済的支援を必要とすることが主な原因である。燃料メーカーは製造規模のスケールアップによる需要に応じた供給能力の増強と、プロセスの合理化による低コスト化とが必須であり、法整備や補助金など政府からの様々な支援が必要である。

 一方、米国航空業界団体の航空輸送アクショングループ(ATAG)によると、2020年のSAF流通量は10万トンで世界のジェット燃料の0.03%に過ぎないが、2030年には2.5~6.5%に拡大すると予測しており、廃食用油の世界需要はジェット燃料の代替となるSAF向けが牽引すると考えられている。

 日本は2030年にジェット燃料の10%をSAFにする方針のため、定期便を運航している航空会社のジェット燃料消費量は約1000万KL(2019年)であり、約100万KLのSAFが必要になる。今後、家畜のエサや使用済み揚げ油など廃食用油の需要が高まり価格上昇が顕著となる。
 貿易統計によると日本の廃食用油(食用に適しない調製品など含む)の輸出量は6年連続で前年を上回り、2021年の輸出量は10万トンを超えている。国内生産量は約50万トン/年であり、約20%が輸出されたことになる。輸出価格は2022年1~4月累計で144円/kgと前年同期に比べ70%上昇している。

 航空会社は燃料価格の上昇分を、燃料サーチャージとして最終顧客に転嫁する価格決定メカニズムを採用しており、高コストのSAFに関しても受け入れやすく、カーボンニュートラル(CN)に向けて短中期的にはバイオ燃料の普及をけん引していく可能性が高い。
 長期的には、ジェットエンジンの改良開発により、現状認められているSAFの混合比率50%を超えて100%での使用が認められ、原材料の入手困難によりSAF価格が高止まりしても優先的に振り分けられるであろう。さらに、水素燃焼エンジン開発が実現することで、水素燃料化が進むと考えられる。

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