革新軽水炉?小型軽水炉?

 2011年の福島原子力発電所事故により、原子力発電所の新規建設は急減し、その後、新興国における新規建設と先進国における経年炉の廃炉とがほぼ同等の状態が続いてきた。
2020年代に入るとCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が国際的な課題となる中で、原子力発電を再評価する動きが出てきた。
 世界原子力協会(WNA)の原子力発電所運転実績レポート2023では、2022年の原子力発電量は合計2兆5,450億kWhで、2021年よりも1,000億kWh程減少したが、6年連続で2兆5,000億kWh以上を発電している。

世界の原発事情

 2023年12月、アラブ首長国連邦ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、日本をはじめとする22か国が、「パリ協定」で示された世界の平均気温の上昇幅を1.5℃に抑える目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという宣言文書に署名した。

 現在、原発を保有あるいは計画している40カ国のうちの22カ国(日本、アラブ首長国連邦、ウクライナ、英国、オランダ、ガーナ、カナダ、韓国、スウェーデン、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、米国、ポーランド、モルドバ、モロッコ、モンゴル、ルーマニア)が署名した。

 2050年までに世界の原子力発電設備容量を、2020年比で3倍とする目標を掲げるだけでなく、小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入拡大、原子力を利用した水素製造などにも言及し、電力以外の産業分野への応用も視野に入れた。また、原子力を世界の金融機関に対し、融資対象に含めることを奨励した。

 世界的に異常気象が頻発し、地球温暖化への危機感が高まっており、再生可能エネルギーと並び原子力が切り札であるとの認識が進んだ結果である。少し、過去を振り返ってみよう。 

原発の増設期

 世界の原子力発電所は1950~1960年代に稼働している。1954年、旧ソ連オブニンスク原子力発電所(出力:6000kW、黒鉛炉)、1956年、英国コールダーホール原子力発電所(出力:6万kW、黒鉛炉)、1957年、米国シッピングポート原子力発電所(出力:10万kW、PWR)が相次いで発電を開始した。

 その後、経済性から原子炉は大型化し、ピークの1970年代には20~30基/年で新規建設が進められた。この時期は第一次石油危機(1973年)とも重なり、第4次中東戦争を契機にOPEC諸国が原油価格を引き上げたことで、石油代替エネルギーとして原子力発電が大きな期待を担った

原発の転換期

 1980年代以降から1990年代に至るまで、世界レベルで原油需要が減退し、非OPEC諸国の原油生産拡大により需給が緩和された。加えて、1979年の米国スリーマイル島原子力発電所事故の影響で、1980年代には原子力発電所の新規建設は大きく減少した。
 さらに、1986年には旧ソ連チョルノービリ原子力発電所事故が発生し、1990年代も新規建設が大きく減少し、廃炉件数が増加した

 2000年代に入ると化石燃料需給が逼迫ひっぱくして原油価格が高騰し、地球温暖化対策の高まりを背景に、再び原子力発電所の新規建設が増え始め、「原子力ルネッサンス」と呼ばれる時代に突入した。
 しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故により、新規建設は急減し、その後、新興国における新規建設と先進国における経年炉の廃炉とがほぼ同等の状況が続いた。

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2015年の330億ドルをピークに世界の原子力発電投資が落ち込み、2017年は2016年比45%減の170億ドルと低水準になった。これは脱原子力発電所シフトが進むと共に、安全対策費が大幅増加したためで、電力会社が新規投資に慎重になったためである。

原発の再評価

 2020年代に入るとCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が国際的な課題となる中で、原子力発電を再評価する動きが出てきた。2021年11月、英国グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、フランス・マクロン大統領が原子力発電所の建設再開を発表した。

図1 世界の原子力発電所の新設と廃炉の状況 出典:WNA, IAEA

 世界原子力協会(WNA)が、「世界の原子力発電所運転実績レポート2023(World Nuclear Performance Report 2023)」を発表した。それによると、2022年の原子力発電量は合計2兆5,450億kWhで、2021年よりも1,000億kWh程度減少したが、6年連続で2兆5,000億kWh以上を発電している。
 2022年には原子力発電量が減少した。主な要因として、原子炉配管の応力腐食割れで多くの原子炉が停止したフランス2021年末に原子炉3基を閉鎖したドイツロシアによるウクライナ侵攻で停止したザポリージャ原子力発電所の6基など西・中欧の発電量低下による影響があげられている。

 対照的に、原子力発電量の増加が顕著なのはアジアである。レポートでは、アジアの原子力発電量は昨年、370億kWh増加した。過去10年間で、アジアの原子力発電量は2倍以上に増加し、現在、西・中欧の原子力発電量を上回っている。建設中の原子炉の3/4がアジアであり、この傾向は今後も継続される。

図2 世界の地域別での原子力発電量の推移 出典:WNA、IAEA

欧米の原発事情

 2023年4月、宣言通りにドイツが「脱原発」を完了した。一方で、欧州の多くの国ではエネルギー安全保障を強化するため「脱ロシア」を念頭に置き、原発回帰の動きが活発化している。また、米国では35年振りに新規建設の原発が本格稼働を開始した。

ドイツの脱原発

 2023年4月、ドイツで稼働中の原発3基が運転を停止し、脱原発が完了した。2002年、シュレーダー政権時代に法制化され、メルケル政権が産業界に配慮して方針を見直したが、2011年の福島第一原発事故を受けて再転換し、全廃に向けて原発17基の段階的閉鎖が進められた。
 現ショルツ政権では、再生可能エネルギーでまかなう電力を現在の51%から2030年に80%、2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指している。

 しかし、ドイツ国内でも原発支持派反対派が対向している。原発支持派はロシアからのエネルギー供給が減り、エネルギー価格が値上がりしている時に国内原発を停止したことで、化石燃料への依存を高めていると批判し、短期的なエネルギー不足、電力価格高騰、CO2目標の未達成を懸念している。
 一方、原発反対派は、風力や太陽光発電よりコストが高い原発への依存は非理論的と指摘する。老朽化した原発維持には多額の投資が必要で、この資金は再生可能エネルギーに回すべきとしている。将来にわたり、大惨事を引き起こす原発事故が再び起きないよう、原発の閉を推進している。

図3 ドイツにおける発電方法の推移 出典:ドイツ連邦統計局

  一方、スペインは、国内の原発7基を2035年までに全廃する方針であるが、野党から反対の声が上がっている。また、原発の段階的廃止を決定しているスイスでも、世論調査で原発増設を求める声が過半数を占めたとの報道もあり、ドイツと同様に脱原発にもろ手を挙げての賛成ではない。

欧州の原発回帰

 2022年2月、フランス・マクロン大統領は、化石燃料からの脱却に伴い最大60%の低炭素電力の増産が必要になるとし、再生可能エネルギーと原子力の2本立てで電力供給力を増やす方針を示した。
 原子力は、安全性が確保できる40年超原発の運転延長と、欧州加圧水型軽水炉(EPR)を改良した「EPR2」の6基建設に着手して8基の追加新設を検討する。2028年に1号機に着工、2035年の運転開始を目指す。また、2030年までに10億ユーロをかけ、小型モジュール炉(SMR)など革新的な原子炉開発を促す。

 一方、2007年に北部ノルマンディ地方で建設を開始したフラマンビル原子力発電所3号機(EPR、出力:163万kW)は、2012年に完成予定であったが、技術的課題や建設費の高騰で工期の延期を繰り返している総事業費は当初予定の4倍となる約1兆9000億円に膨らみ、本格稼働は2024年以降に延長されている。

 2022年4月、英国はエネルギー安定供給に向けた新中長期計画を公表し、2030年までに原子炉を最大8基建設し、2050年時点の原発比率を16%程度から25%に引き上げるとした。

 2022年8月、ハンガリー原子力庁は、パクシュ原子力発電所5、6号機(VVER-1200、120万kW×2)の建設許可を発行した。ロシア国営原子力企業ロスアトムによれば、EU域内で「VVER-1200」原子炉の建設許可が発行された初のケースになる。

 2022年11月、ポーランドは大型原子力発電所3基に米国ウェスチングハウス「AP1000」の採用と建設を決定した。2033年までに同国初の原子力発電所を稼働させ、2043年までに合計6基、出力:600万~900万kWを導入する計画で、総発電量の23%を目指している。また、SMRの導入も検討を進めている。

 2022年12月、オランダは、2035年までに原子力発電所で2基を新設する方針を公表した。国内の発電電力量の最大13%をまかなう計画で、2028年には1号機を着工する計画である。

 2023年4月、フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で、欧州最大級の3号機(出力:160万kW)が本格稼働した。同国で原発が新設されるのは約40年ぶりとなる。ロシアからの電力やガスの供給が停止する中、同機が本格稼働したことでフィンランドは電力自給がほぼ可能になる。
 2005年8月、世界で初めてフランス・アレバ(現フラマトム)設計の欧州加圧水型炉(EPR)が採用された。当初、2009年の完成予定であったが、初号機のためと、規制関係文書の確認作業や土木工事などで工期延長を繰返し、建設費は当初予定の約30億ユーロ(約4400億円)が2倍以上に増大した。

米国の新規建設

 2023年7月、米国ジョージア・パワー他は、ボーグル原子力発電所3号機(出力:110万kW)の営業運転を開始した。1979年のスリーマイル島原発事故後、米国で新規着工した商業炉としては約35年ぶりである。ウェスチングハウス(WH)が設計したPWRの革新軽水炉「AP1000」で、4号機も2024年春までに稼働予定。
 事故などで原子炉が停止した場合、運転員の操作や電源なしに重力による水の落下で自動的に冷却できる。2016年頃の稼働予定であったが、建設費の高騰や工期の大幅延長の結果、3,4号機合計の建設費は当初想定の約2倍の300億ドル(約4.2兆円)を超え、WHが一時経営破綻する事態を招いた。 

 一方、サウスカロライナ州では、ボーグル原子力発電所3,4号機とほぼ同時期に、スキャナとサンティー・クーパーがサマー原子力発電所2,3号機に、同じく「AP1000」を採用して着工したが、2017年3月のWH倒産申請を受けて同プロジェクトは中止となった。

図4 35年振りに新設されたボーグル原子力発電所3号機
出典:ジョージアパワー

原子力発電所の分類

 一口で原発といっても世界では多くの型式の原発が開発されている。日本で商用化されているのは原子炉容器内で原子炉冷却材である軽水が沸騰状態で使用される沸騰水型軽水炉(BWR)と、沸騰しないように加圧して使用される加圧水型軽水炉(PWR)の2種類である。

原子炉の型式分類

 広い意味の原子炉は、ウランやプルトニウムの核分裂反応を利用した原子炉(核分裂炉)と水素やヘリウムの核融合反応を利用した核融合炉に大別することが出来る。核分裂反応とは「原爆」、核融合反応とは「水爆」の基本原理である。

 この原子炉(核分裂炉)は、核分裂反応によって生じる高速中性子を減速して核分裂反応を生じさせる熱中性子炉と、減速しないで核分裂反応を生じさせる高速中性子炉に大別される。現在の主流である熱中性子炉は、使用される中性子減速材により軽水炉、重水炉、黒鉛炉に分類される。
 この中性子減速材に使われる軽水は普通の純水であり、水分子の水素が重水(原子核に中性子が1つ加わり重くなった水素)に置換されたものを重水と呼び区別している。また、それぞれの炉は使用される原子炉冷却材によって小分類される。

 現在の主流である軽水炉には沸騰水型加圧水型の2つの炉型があり、原子炉容器内で原子炉冷却材である軽水が沸騰状態で使用されるものは沸騰水型炉(BWR、沸騰しないように加圧して使用されるのが加圧水型炉(PWR)である。

 重水炉では初期に沸騰水型、ガス冷却重水型も検討されたが、現在ではカナダで設計された天然ウランを燃料とする加圧重水型炉(CANDU or PHWR)が商用化されている。黒鉛炉では原子炉冷却材として軽水を沸騰状態で使用する沸騰水型炉(RBMK or LWGR)がロシアで開発され、旧ソ連の国々で使われている。
 英国、フランスなどで発電用に設計されたものは、炭酸ガスを使用するガス冷却炉(GCR)である。

 一方、次世代原子炉として注目されているのが、高温ガス炉高速増殖炉である。高温ガス炉は多様な熱利用を可能とする炉型で黒鉛炉の一種であり、原子炉冷却材であるヘリウムガスを高温(700~950℃)で用いる高温ガス炉(HTGR)、さらに950℃で用いる超高温ガス炉(VHTGR)の実証試験が進められている。

 高速増殖炉(FBR)は核燃料サイクルを実現するための中核となる炉型であり、高速中性子炉に分類され、原子炉冷却材として液体金属ナトリウムが使用され、発電しながら消費した以上の原子燃料(プルトニウム)を生成することができる。
 近年、プルトニウム過剰で増殖に意義を見出せなくなり、FBRを単に高速炉(FR or FNR)と呼ぶことが多くなり、プルトニウム焼却用原子炉として考えられている

図5 様々な原子炉(核分裂炉)の炉形分類

 発電用原子炉として代表的な炉型は水で中性子を減速・冷却する軽水炉(LWR)であり、世界で368基が運転可能であり全発電用原子炉437基の84%を占めている。その内訳は沸騰水型炉(BWR)が61基(16.6%)、加圧水炉(PWR)が307基(83.4%)である。
 その他、加圧重水型炉(CANDU or PHWR)が47基で全発電用原子炉の10.8%を占め、沸騰水型黒鉛炉(RBMK or LWGR)が11基で2.5%、ガス冷却炉(GCR)が8基で1.8%を占めている。

表1 世界の地域別の運転可能原子炉数(2022年末) 出典:WNA、IAEA

沸騰水型軽水炉(BWR)

 米国General Electric(GE)が開発した発電用原子炉で、日本では東芝エネルギーシステムズと、日立製作所とGEの原子力事業統合会社である日立GEニュークリア・エナジーが供給している。

 沸騰水型炉では、原子炉圧力容器内で核分裂反応により生じた熱で蒸気を発生させ、この蒸気を直接に蒸気タービンに導いて回転させて発電する仕組みである。原子炉圧力容器内の軽水温度は285℃、圧力は70気圧(飽和蒸気圧)である。
 蒸気タービンを回した蒸気は復水器で軽水に戻され、給水ポンプで再び原子炉圧力容器に送られるが、一部は再循環ポンプで昇圧されて、ジェットポンプにより容器底部から炉心に送られる。容器上部には気水分離器と蒸気乾燥器があり、容器外の下部から核分裂反応を制御するための制御棒が挿入される。

 2011年3月に日本で発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、この沸騰水型炉(BWR)で起きた。福島第一原発の原子炉は6基あり、東日本大震災による津波では1~4号機が電源を喪失し、冷却機能を失った結果、1,3,4号機で水素爆発が発生し、1,2,3号機が炉心溶融に至った。

図6 沸騰水型軽水炉の原子力発電所の構成

加圧水型軽水炉(PWR)

 米国Westinghouse Electric(WH)が開発した発電用原子炉で、欧州ではWHから技術導入したフランスのフラマトムが、日本では三菱重工業が供給している。

 加圧水型軽水炉では、原子炉圧力容器内で核分裂反応により生じた熱で一次冷却水(軽水)が加熱されて高温高圧水となり、蒸気発生器に導かれて二次冷却水(軽水)を蒸気に変え、蒸気タービンを回転させ発電する。原子炉圧力容器内の軽水温度は320℃で、沸騰しないよう157気圧に加圧されている。
 加圧水型炉では放射性物質を含む一次系冷却水が原子炉格納容器外に出ないため、二次系に関する保守点検が容易となる特長がある。

 1979年3月に米国ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所2号機事故は、加圧水型炉で起きた。営業運転開始から3カ月後、原子炉1次系の部分的な装置故障を発端に、運転員の誤操作と計器の誤作動が重なり炉心溶融に至った。
 2019年月にスリーマイル島原子力発電所1号機の操業終了とともに発電所は閉鎖された。2号機は事故から11年後、全体の99%、130トン余りの燃料デブリを取り出し閉鎖された。2053年までに廃炉・解体を終了するとしているが、放射性物質の完全除去は困難と考えられる。

図7 加圧水型軽水炉の原子力発電所の構成

重水炉、黒鉛炉、ガス冷却炉

  重水炉(HWR)は加圧水型が主流である。重水は軽水に次ぐ優れた中性子減速材で、中性子をほとんど吸収しないため天然ウラン燃料のみでも炉設計が可能で多くの国で開発が進められた。その結果、カナダの独自設計であるCANDU炉(PHWR)が商用化された。重水は常圧で100℃以下に保たれている。
 CANDU炉心は練炭形状で、原子炉圧力容器内に重水が装填され、練炭の穴には燃料集合体が装填されている。また、横置圧力管型構造と短尺燃料の利点を生かして運転中の燃料交換を可能としている。

 黒鉛炉は旧ソ連諸国で使用されている沸騰水冷却圧力管型炉(RBMK or LWGR)、他にガス冷却炉(GCR)、その改良型(AGR)が実用化されている。
 RBMK(LWGR)は約1700本の圧力管が黒鉛ブロックを貫通し、その圧力管の中に燃料棒が挿入され、燃料棒の周りを原子炉冷却材である軽水が通過して蒸気化し、蒸気タービンに導いて発電する仕組みである。原子炉格納容器が無いことから重大事故が起きれば放射性物質が大量に拡散する恐れがある。

 ガス冷却炉は英国やフランスなどで設計が行われた。天然ウランや金属燃料を使用した炭酸ガス冷却型の黒鉛減速炉で、燃料棒をマグノックス(マグネシウム合金)被覆したためマグノックス炉とも呼ばれる。英国では燃料を低濃縮ウランに変え、炉の出力密度と熱効率向上を図った改良型が開発された。

 1986年4月にソビエト連邦(現在のウクライナ)で発生したチェルノブイリ原子力発電所事故は、黒鉛炉(RBMK)で起きた。4号機の非常用電源を実験中、出力が急上昇して炉心爆発を起こし、原子炉と建屋が崩壊して大量の放射性物質を放出した。
 現在も30km圏内は立ち入り禁止区域である。事故直後にコンクリート製の石棺で囲われたが、老朽化のため2017年に鋼構造シェルターで密閉し、2023年までに石棺を解体する予定であるが、内部に残る190トンの核燃料デブリの取り出しなど、具体的な計画は見えていない。

表1 世界の地域別の運転可能原子炉数(2022年末) 出典:WNA、IAEA

日本の原発導入

 1966年7月、日本で初めて日本原子力発電の東海発電所が商業用原子力発電所の営業運転を開始した。英国の天然ウランを燃料とした出力:16.6万kWのマグノックス炉が、英国GEと富士電機グループにより建設された。1998年3月に32年間の営業運転を終了した。

 その後、ガス炉に比べてコンパクトで建設費が安い軽水炉が、将来の改良・大型化を期待できるとして注目され、国内の電力会社は米国で開発された軽水炉を採用する方向に動いた。すなわち、米国ウェスチングハウス(WH)の加圧水型炉(PWR)と、米国GEの沸騰水型炉(BWR)の建設が始まった。

 1970年3月、日本原子力発電の敦賀発電所1号機(BWR、出力:35.7万kW)をGE・日立グループが建設し、営業運転を開始した。また、1970年11月、関西電力の美浜発電所1号機(PWR、出力:34万kW)を三菱重工グループが建設し、営業運転を開始した。1971年3月には東京電力の福島第一原子力発電所1号機(BWR、出力46万kW)をGE・東芝グループが建設して営業運転開始するなど、原発建設が本格化した。

 新規プラントの建設と並行して、1975年からは通商産業省(現、経済産業省)を中心に、電力会社、原子炉メーカー、研究機関が協力して、国産技術による軽水炉の安全性・運転保守性などの改良・標準化が行われた。また、BWRとPWR共に、出力が80万kW級から110万kW級へと大容量化が進められた。

 1981年からは負荷追従性と炉心性能の改善、コンパクト化と建設期間の短縮化が進められ、日本型軽水炉である改良沸騰水型原子炉(ABWR)および改良加圧水型原子炉(APWR)の設計開発が進められた。
 ABWRは、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所6号機(出力:135.6万kW)がGE・東芝・日立のジョイントベンチャーで建設が進められ、1996年11月に営業運転を開始した。その後、1997年7月に柏崎刈羽原子力発電所7号機(出力:135.6万kW)、2005年1月に中部電力の浜岡5号機(138万kW)、2006年3月に北陸電力の志賀2号機(135.8万kW)が営業運転を開始した。
 一方、APWRは、三菱重工グループによる建設が日本原子力発電の敦賀原子力発電所3,4号機(各出力:153.8万kW)で計画され、準備工事により敷地造成などを終えたが、2011年3月の福島第一原電事故の影響で中断された。

図8 東電柏崎刈羽原発の7号機㊧と6号機(ABWR、各出力:135.6万kW)

 日本の原子力発電所は、1973年と1979年の石油ショック以降、1979年のスリーマイル島原発事故、1986年のチョルノービリ原発事故で、一時的に建設が停滞したものの発電容量は順調に増加した。
 バブル崩壊後の1990年代後半~2000年代初めには、長期の平成不況に陥り原発建設も停滞する。ピークの2004年には53基(BWR:30基、PWR:23基)体制となり、発電設備容量:4712.2万kWで総発電設備容量の17%、発電電力量:2824.42億kWhで総発電電力量の30%に達した。

 2011年3月の福島第一原発事故後、2012年9月に「原子力規制委員会」が新たに発足し、原発再稼働に向けた安全確保のため、2013年7月に「新規制基準」が導入され厳しい安全対策を電力会社に義務付けた。その結果、老朽原発の廃炉が進められ、規制委員会の審査をクリアした原発から順次再稼働が始まっている。

図9 日本の原子力発電所の認可出力と発電電力量の推移 出典:日本原子力産業協会

いつ革新軽水炉は建設されるのか?

 地球温暖化対策(CO2削減)に貢献し、安定的に電力供給を行う電源として軽水炉を長期的に利用していくためには、安全性、信頼性、効率性を向上していくことが必須である。
 そのため、安全性向上、過酷事故対策、高経年化対策、稼働率向上、発電出力の増強、セキュリティ対策などの様々な課題に対する技術開発が、国内原子炉メーカーを中心に進められている。

 現在普及している軽水炉をベースに、新技術を導入した新型炉が「革新軽水炉」と呼ばれる。再生可能エネルギーとの共存のための出力調整機能の強化テロ対策、福島第一原発事故を教訓とした自然災害への耐久性向上や溶融炉心対策や放射性物質放出防止などの過酷事故対策のための設計が盛り込まれる。

 国内では、沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)があり、国内原子炉メーカーが別々に革新軽水炉の開発を進めている。採用する具体的な技術に差異は見られるが、それぞれの原子炉が目指す安全対策、過酷事故対策、用途に関しては共通点がみられる。

 中でも過酷事故対策は、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、③事故時に放射性物質の外部放出を抑えるシステムなどは共通して検討されている。ただし、いずれもコンセプト段階あり、実用化されているものではない。

図10  革新軽水炉の安全性向上の例 出典:令和4年度版原子力白書

東芝エネルギーシステムズ

 革新軽水炉「iBR(innovative, intelligent, inexpensive BWR)」を公表している。iBRは実績のある改良型沸騰水型軽水炉(ABWR、電気出力:135万kW)と基本設計は同じで、革新的安全性能を追加し、再生可能エネルギーの電力需給調整に柔軟に対応でき、カーボンニュートラルに貢献する経済性に優れた革新軽水炉である。

 電気出力は80万kW、100万kW、135万kW、160万kWに対応可能とする。特に安全対策を大幅に強化しており、ABWRに追加した新設備は、すべて既存技術に基づくものとし信頼性の高さを強調している。また、原子炉内の冷却水の流量を制御することで発電出力の調整を行い、高い負荷追従性を可能とする。

 なお、複数のiBRラインアップのうち、電気出力:135万kWの建設単価は60万円/kWとしている。安全系の追加コストにより、1990年代に建設されたABWRの2倍を想定している。耐震設計の条件などで変化するとしているが、iBR(電気出力:135万kW)1基の建設には8100億円を要する

東芝iBRの安全対策
①非常時の電源喪失対策と多様化を強化した動的安全システム
 自然災害のあらゆるケースを考慮し、多様な非常用電源(ディーゼル/ガスタービン)を分散配置して電源喪失を防ぐと共に、系統の多様化(海水冷却/大気冷却)を進める。
②万が一、非常用電源を失っても炉内や格納容器を冷やす静的安全システム
 電源不要、運転員の操作も不要とし、電源喪失後も非常用復水器で上部冷却プールの水により7日間の炉内自然冷却を可能とする。
③万が一の炉心溶融事故時にも住民を守る革新的安全システム:
 水素と放射性物質を閉じ込めるため二重円筒格納容器と静的フィルターシステムを採用し、溶融落下した燃料デブリを受け止めるために下部冷却プールでの冷却が可能なコアキャッチャーを設置する。
 また、燃料被覆管の耐熱性・高温強度を高め、事故時の水素発生を抑制するため、SiC複合材料を適用した事故耐性燃料(ATF)の開発を進めて適用する。
④外部からの物理的な脅威に対する安全対策:
 航空機衝突、テロ行為などや、地震、津波などあらゆる甚大自然災害に対応できる建屋構造として、鋼板コンクリート構造ドームと、二重円筒格納容器を採用する。

 仮に炉心溶融が発生すると、下部冷却プールの水や蒸気には放射性物質と水素が含まれる。蒸気は図左上の熱交換器により上部冷却プールで冷やし下部冷却プールに戻す。このとき放射性物質は左下のフィルターで除去、残りの放射性物質(希ガス・有機ヨウ素)や水素は右下のアウターウェル内に貯蔵される。

 アウターウェルには事前に窒素を封入して福島第一原発で起きた水素爆発の発生を抑え、外部へのベント(大気放出)を不要とした。圧力容器から溶け落ちた燃料デブリは、耐熱材料製のコアキャッチャーで受け止め、下部冷却プールの水が自然循環することで高温のデブリを冷やす仕組みである。 

図11 東芝エネルギーシステムズの革新軽水炉 iBR 出典:東芝

日立GEニュークリア・エナジー

 革新軽水炉「HI-ABWR(Highly Innovative ABWR)」を公表している。HI-ABWRは福島第一原発事故の教訓を反映した英国・欧州の規制要求を満たし、英国の設計認証を取得した国際標準ABWR設計をベースに、新たに革新的安全性を組み込んだ軽水炉である。

 すなわち、地震や津波などの自然の脅威、航空機の衝突による物理的損傷、内部火災、溢水いっすいなど、さまざまな災害の影響を最小限に抑えるため、原子力発電所の外壁を強化し、機器の分離配置などが行われる。
 また、万一の事故が発生した場合、外部電源や運転員の操作がなくても、自然の力で作動し、事故の被害を抑制するメカニズムを取り入れた静的安全システムにより、事故の進展と外部環境への影響を抑制する。

 加えて、高燃焼度燃料による使用済燃料の削と、負荷追従運転による電力系統の安定保全合理化による稼働率向上による運転コスト削減で電力系統安定化に貢献し、再生可能エネルギーとの共存、カーボンニュートラル社会の実現を目指している。

HI-ABWRの安全対策
①自然災害・テロ・内部ハザードへの耐性強化で安全機能を防護:
 国際標準ABWR設計をベースとして、自然災害やテロ・内部ハザードへの耐性を強化した福島事故対策設備を合理的に実装し、建屋内区画分離などを進める。
②静的安全設備により自然力で事故進展を抑制:
 事故時に電源や運転員操作に依存せずに、自然力により核燃料の崩壊熱を除去し、炉心を冠水維持できる静的原子炉冷却システムを採用する。
③重大事故時の外部環境への影響を大幅に抑制:
 炉心溶融が起きた場合、燃料デブリを冷却できるコアキャッチャーを設置する。また、燃料被覆管の耐熱性を高め、事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料(ATF)の開発(2030年代に酸化物分散型FeCrAl合金被覆管、2040年代にSiC被覆管)を進めて適用する。
④コンパクトな放射線物質除去フィルター:
 万一の過酷事故に対して、フィルターベントシステムに加えて希ガスフィルターヨウ素除去フィルターを設置することで、放射性物質の閉じ込め機能を強化し、作業員や住民の被曝を緩和する。

図12 日立GEニュークリア・エナジーの革新軽水炉
出典:日立GEニュークリア・エナジー

三菱重工業

 革新軽水炉「SRZ-1200」のプラント・コンセプトを公表している。加圧水型軽水炉(PWR)を採用している北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力と協力し、福島第一原発事故の教訓を反映した新しい規制基準や国際原子力機関(IAEA)の最新基準を踏まえて開発に取り組んでいる。
 SRZは、Supreme Safety(超安全)とSustainability(持続可能性)、Resilient(しなやかで強じんな)light water Reactor(軽水炉)、Zero Carbon(CO2排出ゼロ)で社会に貢献する究極型(Z)を表す。現在、電気出力:120万kW級の基本設計を進めている。

 また、再生可能エネルギーの拡大に伴う電力系統の不安定対策として、1日単位の電力需要変化に合わせて出力を調整する日負荷追従運転や、秒~分単位の電力需要の変化に合わせてプラント出力を±5%ほどで調整する周波数制御運転も可能とする。 

SRZ-1200の安全対策
①安全系設備の強化、自然災害への耐性、テロや不測事態へのセキュリティー強化
 建屋を岩盤に埋め込むなどして耐震性を強化し、地震・津波だけでなく、大型航空機の衝突などテロに対しても防護対策も講じる。また、水素製造への適応化の検討も進める。
②プラントの状態に応じて自動作動するパッシブ設備の採用:
 高性能蓄圧タンクなどのパッシブ系システムと、炉心注水システムなどのアクティブ系システムとの組み合わせにより、安全対策を多重化する。
③溶融炉心対策であるコアキャッチャー設置と事故耐性燃料の開発:
 仮に炉心溶融が起きた場合でも、溶融デブリが漏れ出ないよう格納容器内で確実に保持・冷却するため、格納容器の下部にコアキャッチャーを設置する。
 また、事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料(ATF)として、従来のZr合金製の燃料被覆管外表面に酸化・腐食に強いCr層を形成したCrコーティング被覆管を2030年代の実機適用を目指している。
④放出される放射能量を低減し、影響を発電所の敷地内に留めるシステム設計:
 万が一の重大事故に備えて、格納容器の破損を防ぐ設備、セシウムやヨウ素を除去するフィルターベントシステム、ベントガスから放射性希ガスを吸着・分離・貯留するシステムなどを設置する。

 小型軽水炉を含む他の次世代原子炉では、福島第一原発事故後に強化された安全規制が最大の壁になる。これに対して革新軽水炉は基本構造が既存原発に近く、新規制に対応しやすく、安全性の高い革新軽水炉のできる限りの早期実用化を目指している。

図13 三菱重工業の革新軽水炉 出典:三菱重工業

革新軽水炉への建て替え

 原発立地の難しさから、「革新軽水炉」の設置は廃炉跡地への建て替えが主体になると考えられる。従来の大型軽水炉を改良して過酷事故対策を含む安全対策を強化し、運転開始の目標時期は2030年代中頃を目指して、各原子炉メーカーが開発が進めている。

 福島第一原発事故以前に建て替えが明確だったのは、美浜原発1,2号浜岡原発1,2号機であったが、2023年11月時点で、廃炉が決定した原発18基に具体的な建て替え検討は進められていない。電力会社が原発再稼働に優先的に人的資源と資金を回した結果で、原発の建て替え検討まで回らなかった。

 事故を起こした福島第一原発1~6号機を除き、国内では運転開始から約40年を経過する老朽原発のうち、比較的出力の低いものから廃炉が決定した。運転延長に必要な安全対策費が増大する中で、再稼働による収益改善効果が低く、廃炉費用が安い小型原発が対象になったのである。

図14 原子力発電所の廃炉状況(2023年11月時点)
出典:日本原子力産業協会データ集

 実際、原発の廃炉には20~30年を要し、火力発電所の1~2年に比べて非常に長い。経済産業省が示す廃炉費用も、小型原発(出力:50万kW)350~476億円、中型原発(出力:80万kW)434~604億円、大型原発(出力:110~138万kW)558~834億円と、火力発電所(出力:50万kW)の30億円~に比べて異常に高い。

 高い廃炉費用の負担の問題もあるが、廃炉に要する期間の長さが「革新軽水炉」への建て替えに大きな影響を及ぼす。革新軽水炉の運転開始時期を2030年代中頃とすれば、2009年11月に廃止措置を開始して2036 年度に完了予定の浜岡原発1,2号機のみが該当する。

 2024年1月、九州電力は、次世代原子炉「革新軽水炉」導入の検討を進めていると報じられた。現在、廃炉作業中の玄海原子力発電所1、2号機の建て替えが決定した場合には、革新軽水炉の導入も視野に入れている。玄海1、2号機は2015年と2019年にそれぞれ運転を終了し、2054年度に廃炉を完了する。
 九州では、台湾積体電路製造(TSMC)など半導体関連企業の進出が熊本県などで相次ぎ、北九州市への九州最大級のデータセンター建設も発表されている。2024、2025年に運転開始から40年を迎える川内原発1、2号機の運転延長が2023年に認可されており、その後の電力供給に革新軽水炉は位置付けられる。

革新軽水炉の課題

  「革新軽水炉」には、福島第一原発事故の教訓を基に、国内の原子炉メーカー各社により様々な新技術が適用され、安全性、信頼性、効率などの面から対策が施されている。
 中でも過酷事故対策として、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、③事故時ベントによる放射性物質の外部放出を抑えるシステムが追加される。

 注意しなければならないのは、現有の原発には福島第一原発事故を教訓とした上記の過酷事故対策は一切施されていない点である。再稼働が進められている原発であるが、炉心溶融に至る過酷事故は二度と起きないと仮定しているのである。これが通用するのであれば、革新軽水炉の開発は無意味となる。

 2023年2月に、GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針が閣議決定され、2023年5月にはカーボンプライシングの導入を含むGX推進法、原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX脱炭素電源法のGX関連法が相次いで成立した。
 2023年7月、関西電力の高浜原子力発電所1号機が再稼働した。国内33基の原発の中で運転年数が48年と最長で、12年後にはGX脱炭素電源法で制定された60年超運転の第1号になる。高浜1号機の停止期間は11年8カ月のため、総運転年数は71年8カ月に達する可能性がある。

  今後、革新軽水炉が2030年代中頃に稼働するために大きな障害となり得るのは、GX脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能とした制度である。安全対策などで建設コストが1兆円規模となる革新軽水炉への建て替えに対して、電力会社は1千億円規模の投資で済む従来原発の運転延長を選択する可能性が高い。

 直近では、フランスで建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(EPR、出力:163万kW)、フィンランドのオルキルオト原子力発電所の3号機(EPR、出力:160万kW)、米国ボーグル原子力発電所3号機(AP1000、出力:110万kW)の建設では、大幅な工期延長建設費の高騰が起きている。革新軽水炉でも同じ心配がある。

図15 40年ぶりに新設されたフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機

 政府が既存原発の60年超運転を認めたことで、国民は過酷事故対策の施されていない原発の延長運転によるリスクを背負わされた革新軽水炉を絵に描いた餅としないために、政府は電力会社と共に建て替える原発を明確にし、遅滞なく稼働させるため開発を促進する必要がある。
 ところで、ドイツは福島第一原発事故を契機に大惨事を引き起こす原発事故が再び起きないよう「脱原発」を推進して完了した。一方、火山・地震大国の日本は福島第一原発事故を教訓として革新軽水炉の開発を目指したが、当面は既存原発の再稼働を推進している。どちらの判断が正しいのか?

注目される小型モジュール炉(SMR)

 国内では、福島第一原発事故を教訓として安全性を高めた大型商用炉「革新軽水炉」の開発を進めたが、欧米では「小型モジュール炉」に注目が集まった。すなわち、原子炉をモジュール化して工場内で組み立て、ユニットとして輸送・設置することで、安全性と経済性を両立させ、多目的用途を目指している。 

 国際原子力機関(IAEA)の定義による電気出力:30万kW以下の小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)が、世界で注目を集めている小型高速炉小型軽水炉小型高温ガス炉など様々な炉型がSMRと呼ばれているが、モジュール化により工場内で組み立て、ユニットとして輸送・設置する炉の総称である。

図1 小型モジュール炉「SMR」の一例 出典:NuScale Power

小型モジュール炉(SMR)の特長:
安全性:SMRは小型・低出力のため、事故時に自然冷却による炉の冷温停止が可能で、構造の簡素化や防災計画エリアの縮小を実現できる。また、燃料交換不要あるいは交換頻度を低減できるため、核セキュリティ・核不拡散の面でも優れており、初期投資を抑えることができる。
モジュール化:工場でモジュールを製造して組み立て、ユニットとして運搬し、現地で設置することができる。そのため、品質の維持・向上、工期の短縮、建設費の低減ができる。
用途:寒冷地や離島などでの分散電源、原子炉モジュールの台数増による大規模集中発電、あるいはクリーン水素製造、熱供給、医療用など柔軟な使い方ができる。 

 国際原子力機関(IAEA)は、「SMRは世界で80以上の開発が進められている」と報告している。既に、ロシア極東地域チュクチ自治管区内ペベクの小型PWRを搭載した海上浮揚型原子力発電所と、中国山東省栄成の石島湾の高温ガス炉実用炉「HTR-PM」は発電運転を開始している。

 一方、欧米では1979年の米国スリーマイル島原発事故以降、原子力発電所の新規建設が途絶え、2011年の福島第一原発事故により、日本も原子力発電所の新規建設が中断された。現在、世界の原子力市場は中国とロシアが主導しており、米国、カナダ、英国などがSMRで原子力分野の巻き返しを図っている。 

 2021年5月、国際エネルギー機関(IEA)は、2050年の脱炭素を想定した「ネット・ゼロ・シナリオ」を公表し、達成に向け原子力発電の貢献を重視している。先進国ではSMR開発に重きが置かれ、2021~2035年にかけて約450万kW/年で拡大すると予測している。

 米国では電気出力:30万kW以下の軽水炉を「SMR」と呼び、非軽水炉型の炉は出力に関係なく「新型炉」と定義し区別している。また、英国では出力:100万kW以下の小型軽水炉を「SMR」と称し、非軽水炉型の先進モジュール炉(AMR:Advanced Modular Reactor)とは区別している。
 本稿では、米国方式の分類に従い小型軽水炉である「SMR」と、非軽水炉系の「新型炉」の開発動向を区別し、小型軽水炉「SMR」の開発動向をレビューする。

 また、小型モジュール炉の中でも、熱出力:2万kW以下、または電気出力:1万kW以下の超小型の原子炉は「マイクロ炉」と呼ばれる。その多くはトラックや輸送コンテナで運べる規模で、ディーゼル発電機に代る小型分散型電源として、多様な利用をめざして開発が進められている。

小型軽水炉「SMR」の開発動向

米国

ニュースケール・パワーの「VOYGR」

 NuScale Power(ニュースケール・パワー)が開発する「NuScale Power Module (NPM)」は、PWR型の小型軽水炉(熱出力:20万kW、電気出力:7.7万kW、炉心出口温度:316℃)である。

1モジュールは圧力容器・蒸気発生器・加圧器・格納容器を含む一体型パッケージで、最大12基のモジュールが大きな地下プールの中に設置される。大型の冷却水ポンプや大口径配管が不要で、それぞれ独立したタービン発電機と復水器に接続される。
 モジュール12基が設置された「VOYGR-12」総出力:92.4万kWで、6基が設置された「VOYGR-6」は46.2万kW、4基が設置された「VOYGR-4」は30.8万kWを、ラインアップしている。

図2 ニュースケール・パワー・モジュール「VOYGR-6」
出典:NuScale Power

 2020年9月、米国原子力規制委員会(NRC)はモジュール1基の出力が5万kWのNPMについて、SMRとして初の「標準設計承認(SDA)」を発給し、2023年1月、設計認証(DC:Design Certification)を発給した。その後、設計改良が行われ、2023年1月、モジュール1基の出力が7.7万kWのNPMのSDAを申請している。

 DOEによる支援を受け、西部6州の電気事業者48社で構成されるユタ州公営共同事業体(UAMPS)が、アイダホ国立研究所敷地内にNPM初号機「VOYGR-6」を建設する計画で、最初のモジュールは2029年の運転開始をめざしている。2021年4月に日揮HD、2021年5月に IHI が相次ぎ出資を表明した。

 2022年1月、英国シアウォーター・エナジーと、SMRと風力発電を組み合わせたハイブリッドエネルギー・プロジェクトをウェールズで進める協力覚書を締結した。また、同年2月、KGHMポーランド採掘会社は、2029年までにNPMをポーランド国内で建設するため先行作業契約を締結した。

 2022年4月、NPM初号基建設に向け、韓国の斗山エナビリティ(=Doosan Enerbility、旧斗山重工業)と、原子炉圧力容器の鍛造材生産を始めとする主要機器の製造を、本格的に開始する契約を締結した。

 2022年10月、カナダのプロディジー・クリーン・エナジーは、ニュースケールと共同開発したNPMを1~12基搭載する可搬型発電所の概念設計を発表した。設置場所まで曳航し、60年後の運転終了時に撤去する。

 2022年12月、SMRを活用したクリーン水素製造を共同開発・実証するため、Shell Global Solutions(シェル・グローバル・ソリューションズ)、アイダホ国立研究所(INL)、ユタ州公営共同事業体、Fuel Cell Energy(フュエルセル・エナジー)他と共同研究協定を締結した。
 固体酸化物形電解セル(SOEC)で水素を製造・貯蔵し、逆反応である固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いて、貯蔵した水素から発電することで、出力変動する再生可能エネルギーの負荷調整をめざす。

 2023年11月、米国ニュースケール・パワーは、INLで2029年の稼働を計画していた初号基「VOYGR-6」の建設中止を発表した。同年9月には中部電力も出資を発表しており、関係者に衝撃が走った
 米国初の案件であったが、2023年1月、発電価格が8.9セント(約13円)/kWhと当初計画より約5割高くなる見通しを発表し、さらにインフレや金利高で建造費なども高騰し、経済性が見込めないのが理由である。

図3 ニュースケール・パワーのSMR完成予想図
出典:
NuScale Power

 その他、米国Xcelエナジーやデイリーランド電力共同組合が、「VOYGR」導入を検討している。米国外では、カナダ、チェコ、エストニア、ポーランド、ルーマニアなどの企業が「VOYGR」導入を検討しており、それぞれが実行可能性調査などの了解覚書をニュースケールと締結している。今後の動向が注目される。 

ホルテック・インターナショナルの「SMR-160」

 Holtec International(ホルテック・インターナショナル)が進める「SMR-160」は、子会社SMRが開発中のPWR型の小型軽水炉(電気出力:16万kW、炉心出口温度:321℃)である。事故時に、外部からの電源や冷却材の供給なしで、炉心冷却が可能な受動的安全系を備えている。

 カナダのSNC-ラバリン、米国のエクセロン・ジェネレーションなどが開発で参加し、燃料はフランスのフラマトムが供給する。
 また、2022年3月、三菱電機は、米国子会社 Mitsubishi Electric Power Productsを通じて、ホルテックと「SMR-160」向けの安全運転を支える計装制御システムの設計契約を締結した。
 2022年10月、主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業とし、米国他での「SMR-160」の建設プロジェクトを加速するため、韓国の現代建設と事業協力契約を締結した。
 2023年2月、「SMR-160」の機器製造協力で、英国の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズと了解覚書を締結した。

 「SMR-160」は、ニュージャージー州で保有する旧オイスタークリーク原子力発電所サイト、あるいは南部2州の候補サイトで初号機建設を計画している。 
 また、2019年6月、ウクライナでの展開に向け、国営原子力発電企業エネルゴアトムらと国際企業連合を結成した。2022年7月、米国エンタジーと1基以上を建設する実行可能性調査で協力覚書を締結した。2022年9月、チェコ電力(ČEZ)とテメリン原子力発電所での「SMR-160」増設の評価継続で覚書を締結した。

 

図4 フォルテック・インターナショナルの「SMR-160」の完成予想図
出典:Holtec International

 GE日立・ニュークリアエナジーの「BWRX-300」

 GE日立・ニュクリアエナジーと日立GEニュークリア・エナジーが開発するBWR型の小型軽水炉「BWRX-300」(熱出力:87万kW、電気出力:30万kW、炉心出口温度:288℃)である。実用化済みの改良型沸騰水型軽水炉「ABWR」の構造・部品を流用するため技術的な課題は少なく、早期の市場投入が可能である。

 原子炉上部に設置した冷却用プールの大量の水を使い、ポンプや非常用ディーゼル発電機を不要とし、受動的に安全を確保する。工場で製造した部品(モジュール)を現地で組み立て、一次系以外に一般産業技術を積極採用することで建設費や工期を抑え、建設費用は約1000億円/基としている。

 現時点で、「BWRX-300」は米国原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)を受けていない。2022年8月、テネシー峡谷開発公社(TVA)がクリンチリバー・サイトで建設する可能性出てきたため、予備的な許認可手続きを開始し2032年までに完成させる予定である。

 2021年11月、カナダの電力会社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)が「BWRX-300」を選定した。受注額は4基合計で3000億円規模とみられ、オンタリオ州ダーリントンに建設する。2022年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請し、早ければ2028年末の初号基稼働をめざす。
 2022年6月、サスカチュワン州営電力も、2030年代半ばまでにSMRを建設する場合、「BWRX-300」を採用すると表明し、同年9月に候補地2か所(サスカチュワン州のエステバンとエルボー)を選定した。

 2021年12月、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントスのグループ企業が、ポーランドの石油精製企業PKNオーレンと合弁企業オーレン・シンソス・グリーン・エナジーを設立し、2030年代初頭までに少なくとも10基の「BWRX-300」の建設に取り組む方針を発表した。

 2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギアは、同国初のSMRに「BWRX-300」を選定した。2030年代初頭の完成をめざしている。

図5 BWR型の小型原子炉「BWRX-300」 出典:GE日立・ニュクリアエナジー

ラストエナジーの「PWR-20」

 Last Energy(ラストエナジー)が開発を進めるPWR型の小型モジュール炉「PWR-20」(熱出力:6万kW、電気出力:2万kW)は、10基建設してベースロード用電源(総出力:20万kW)としての活用をめざしている。
 従来の大型軽水炉と比べて製造に必要な費用と時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することめざしている。運転期間は42年を想定している。

 2022年6月、ポーランド政府所有の電力会社Enea(エネア)グループは「PWR-20」導入を目指し、ラストエナジーと建設の基本合意書を締結した。SMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給と廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、ラスト・エナジーが協力する。

 2022年7月、ポーランドのレグニツァ経済特別区運営会社(LSSE:Legnica Special Economic Zone SA)とエネルギーの効率化サービスを提供するDBエナジーは、「PWR-20」を南西部レグニツァ地区内で10基建設することで基本合意書を交わした。

英国

ロールス・ロイスSMRの「UK-SMR」

 Rolls-Royce(ロールス・ロイス)が主導する企業連合は、既存技術をベースに「UK-SMR」と呼ばれるPWR型の小型軽水炉(熱出力:127.6万kW、電気出力:47万kW)を開発中で、2031年の初号基稼働をめざしている。その後、政府の関与を前提に2035年までに10基、2050年までに最大16基の建設を目指している。

 2021年7月、ロールス・ロイスと英国原子力エンジニアリング会社のCavendish Nuclear(キャベンディッシュ・ニュークリア)は、SMRの設計・許認可、製造等の協力覚書を締結した。

 2021年11月、ロールス・ロイスは米国エクセロン・ジェネレーション、フランスのBNFリソーシズUKと、英国内のSMR開発に今後3年間で合計1.95億ポンド(約295億円)投資すると発表。これを受けて英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、2.1億ポンド(約318億円)を提供する方針を表明した。

  2022年3月、英国原子力規制庁(ONR)は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)からロールス・ロイス子会社のロールス・ロイスSMR製の小型モジュール炉設計について、包括的設計認証審査(GDA)の実施を要請された。

 2022年8月、ロールス・ロイスSMRは、オランダでのSMR建設に向けて協力していくため、オランダの新興原子力事業社であるULC-エナジーと独占契約を締結した。今後、オランダでSMRの建設準備を進める。また、海外受注をめざし、トルコ、チェコ、エストニアとは実行可能性調査の覚書を締結した。

図6 ロールス・ロイスの「UK-SMR」の完成予想図 出典:ロール・スロイスSMR

ロシア

ロスアトムの海上浮揚式原子力ユニット

 国営原子力総合企業ROSATOM(ロスアトム)は、世界初の海上浮揚式原子力発電所の「アカデミック・ロモノソフ号」を開発・建造した。小型PWR「KLT-40S」(最大熱出力:19万kW、電気出力:3.5万kW)2基の海上浮揚式原子力ユニット(NFPU)が搭載され、2019年12月、極東チュクチ自治区管内ペベクに送電を開始した。
 2020年5月、営業運転を開始してロシア原子力発電所に正式承認された。世界初のSMR発電所でもある。

 また、ロスアトム傘下のOKBMアフリカントフが「KLT-40S」をベースに開発した「RITM-200」(電気出力:5万kW)2基で構成されるNFPUを、アトムエネルゴマシが4隻に搭載する計画である。2022年8月、船体部分の起工式が中国の造船所で行われた。
 船体は長さ140m×幅30m、総重量:2万トン近くなる見通しで、1隻目はチュクチ自治区のバイムスキー銅鉱山に近いナグリョウィニン岬に係留され、運転開始は2026年末頃である。

 一方、「RITM-200」(電気出力:5万kW)は、2020年10月就航の最新式原子力砕氷船「アルクティカ」に搭載された。また、2020年12月には陸上設置版である「RITM-200N」(電気出力:5.5万kW)が、極東サハ共和国北部ウスチ・ヤンスク地区のウスチ・クイガ村で、2028年までに完成する計画が発表された。

図7 世界初の海上浮揚式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ号」 
出典: Glavgosexpertiza

中国

中国核工業集団公司(CNNC)の「玲瓏一号(ACP100)」

 2021年7月、中国核工業集団公司(CNNC)は海南省の昌江原子力発電所で、国産のPWR型SMR実証炉「玲瓏一号(ACP100)」(電気出力:12.5万kW)の建設開始を発表。国際原子力機関(IAEA)の安全性評価も通過し、発電のみならず多目的用途(暖房、蒸気生産、または海水淡水化)向けに設計されている。

 一方、2016年11月、中国広核集団有限公司(CGN)が海上浮揚式原子力発電所「ACPR50S」(熱出力:20万kW)を開発するため、実証炉(6万kW)の原子炉容器購入契約を東方電気と締結した。2020年の発電開始を目指していたが、開発に遅れが生じている模様。
 PWR型の小型原発セパレート型エネルギーシステムは、中国の近海・遠洋・島嶼などの地域にエネルギーを安定供給するための重要な手段としている。

図8 SMR実証炉「ACP100」の概念図 出典:中国核工業集団公司

フランス

フランス電力(EDF)の「NUWARD

 2021年10月、政府は10億ユーロ(約1300億円)を投じてSMR開発を進めると表明。フランス電力(EDF)は原子力・代替エネルギー庁(CEA)、小型炉開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)、フラマトムと協力し、小型PWR×2基で構成されるSMR「NUWARD」(熱出力:54万kW、電気出力:34万kW)の概念設計を進める。

 2022年5月、ベルギーの大手エンジニアリング企業Tractebel(トラクテベル)が、「NUWARD」の概念設計の確認調査を請け負い、フランス電力は2022年中に基本設計に入ることを表明した。2030年には実証炉の建設を開始し、世界市場をめざす方針である。

 2023年1月、フランス電力(EDF)とポーランドのリスペクト・エナジー(Respect Energy)は、EDFが中心となって開発している「NUWARD」のポーランド国内での共同建設に向け協力協定を締結した。

 2023年6月、フランス電力(EDF)と子会社のNUWARD、ベルギーのトラクテベルは、「NUWARD」の技術開発の協力強化の枠組み協定に調印した。
 ロードマップよれば、2025~2030年に「NUWARD」の詳細設計と正式申請が予定され、同期間中の設計認証とサプライチェーンの開発を経て、2030年に初号基に着工し、建設期間は約3年と見込まれている。

図9 フランス電力の「NUWARD」 出典:TechnicAtome

アルゼンチン

アルゼンチンの「CAREM-25」

 2014年2月、アルゼンチン原子力委員会(CNEA)は、PWRタイプのSMR原型炉「CAREM-25」(熱出力:10万kW、電気出力:2.5万KW)の建設工事を開始したと発表。CNEAが設計、総投資額35億ペソ(約455億円)で国内のIMPSAに発注し、機器・関連サービスの7割を国内企業から調達する方針で、現在製造中である。

 一次冷却システム(炉心、蒸気発生器、一次冷却材、蒸気ドーム)は、高さ11m×直径3.5mの自己加圧容器内に収められる。蒸気発生器は炉心上部に設置され、一次冷却材は自然循環が行われるため一次系ポンプが不要など、構造の簡素化が進められている。

 建設サイトはブエノスアイレス州パルティード・デ・サラテ市で、アトーチャ原子力発電所に隣接する。当初、2022年建設完了をめざしていたが、政府からの建設費支払遅延や設計変更などで作業が中断した。
 2023年11月、CNEAとアルゼンチン原子力委員会(NA-SA)は、建設再開中の小型モジュール炉(SMR)の開発に関する技術支援の枠組み協定に署名した。多くの国営企業が「CAREM-25」の実現に向けて様々な分野で参加することで、完成は2027年末となる見込みである。

図10 アルゼンチンの「CAREM-25」 出典:CNAE

日本

 日本は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、海外のSMR実証プロジェクトとの連携で、2030年までにSMR技術の実証を目指すとしている。また、文部科学省と経済産業省が原子力イノベーション促進(NEXIP)イニシアチブ事業を行い、SMR実証炉を開発する民間企業等を支援している。
 2022年7月、経済産業省が示した工程表では、小型軽水炉について、2030年代から国内で機器の製造・建設を始め、2040年代に実証運転を開始する目標を掲げている。

三菱重工業の多目的軽水小型炉

 2021年6月、国内電力会社大手とPWR型の多目的軽水小型炉(出力:30万kW)の概念設計に入った。一次冷却材管および1次系主要機器(蒸気発生器、一次冷却材ポンプ、加圧器など)を原子炉容器内に統合する一体型原子炉で、 2040年頃の市場投入を目指し、建設費は2000億円/台としている。

 原子炉内の冷却材の温度差を利用して一次冷却材を自然循環させることでポンプを不要とし、配管破断による冷却材喪失や電源喪失による事故発生を原理的に排除する。また、重要な建屋を地下設置して航空機衝突などの外部ハザードへの耐性や、二重格納構造による放射性物質の閉じ込め機能を強化する。

 将来の電源ニーズの多様化/分散化に向け、小規模グリッド電源向けの発電用炉や、離島・島しょ地域など極小グリッド向電源災害地域への緊急電源舶用動力などのモバイル電源への展開を想定している。

図12 PWRをベースとした多目的軽水小型炉 出典:三菱重工業

小型軽水炉「SMR」の課題

 国内では、福島第一原発事故を教訓に、安全性を高めた大型商用炉である「革新軽水炉」の開発をめざした。しかし、欧米では安全性と経済性を両立させた「小型モジュール炉」に注目が集まっており、スタートアップを含む多くの原子炉メーカーが小型軽水炉「SMR」の開発を進めた。

 その後、国内原子炉メーカーである日立GEニュークリア・エナジーは「BWRX-300」、三菱重工業は多目的軽水小型炉(PWR)と、いずれも早期に市場投入が可能な軽水炉タイプの小型モジュール炉(SMR)の概念設計を進め、海外市場をめざしているのが現状である。

 日本原子力研究開発機構(JAEA)は期待が先行するSMRの課題として、経済性安全基準サプライチェーンの構築を示している。ただし、SMRの定義には、小型軽水炉と新型炉の両方が含まれている。

①経済性:
 従来のスケールメリット(大型化)によるコスト削減の方向に反している。将来的に炉型を集約して標準化・量産化を進め、発電単価を低減する必要がある。加えて、大量生産しなければコストダウンが難しい。
②安全基準:
 軽水炉タイプのSMRには従来の安全基準の適用が可能と考えられるが、高温ガス炉や高速炉タイプのSMRは安全基準が確立されるまで許認可に時間を要し、開発期間が長引く。
③サプライチェーンの構築:
 軽水炉タイプのSMR以外は、既存の軽水炉と異なる新たなサプライチェーンの構築が必要となる。

 国内における小型軽水炉「SMR」の課題は、大型商用炉として開発を進めている「革新軽水炉」に置き換わる可能性の有無である。
 小型化することで基本的に安全性が担保されると考えると、大量生産による小型軽水炉の低コスト化が必須課題である。今後、基本設計・詳細設計が進められる中で、経済性の評価が小型軽水炉実現の可能性を決める。加えて、実績のない小型軽水炉では、実証炉による製造・建設・運転・管理の確認が不可欠である。

 既に、2023年11月、小型軽水炉で先行する米国ニュースケール・パワーは、西部アイダホ州で2029年稼働を計画していた6基のSMR建設中止を発表した。主な原因は、経済性が見込めないためとされた。

 政府は2030年の電源構成に占める原子力の割合について、20~22%を目指すとしている。これは大型軽水炉(出力:120万kW)の27基分に相当する。
 国内電力会社は既存原発の再稼働・運転延長を指向しており、安全性を強化した「革新軽水炉」への建て替え時期すら見通せないのが現状である。従来、発電単価を抑えるために大型化を進めてきた軽水炉開発の経緯を考えると、あえて「小型軽水炉」を多数新設することのメリットは見込めない。

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