伸び悩む地熱発電

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伸び悩む国内の地熱発電

 固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、多くの再生可能エネルギーによる発電電力量が伸びる中で、地熱発電は小規模設備の導入は進むものの累積導入量は約55万kWとほとんど増加せず、2021年度の総発電電力量に占める割合は0.3%にすぎない。地熱発電は、期待できない再エネなのか?
 地熱発電電力量は1997年をピークに年々減少傾向にあり、総発電電力量は3割程度減少している。これは生産井からの蒸気量の減少が主原因とみられるが、機器の経年劣化現象も知られている。地熱発電所の新設に注目が集まっているが、短期的には設備更新や老朽化対策への政府支援が重要である。

 地熱発電は稼働までに探査・掘削・設置、環境アセスメントなどに10年以上(平均14年)を要する。太陽光発電の1年、バイオマス発電の5年、風力発電の8年に比べて明らかに長期間である。そのため、大規模地熱発電所の新設は長期的視野に立つ計画と遂行が不可欠である。
 一方、短期的には小中規模のバイナリー・サイクル地熱発電所が地産地消の分散電源として拡大が鍵である。また、既設の大規模地熱発電所については、経年的な発電効率の低下対策と老朽更新などリパワリングの推進が緊急の課題である。

国内地熱発電の導入状況

 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の調査によれば、固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、東日本大震災当時(2011年度)に比べると2021年度の太陽光発電の年間発電電力量は約18倍に増加し、天候などの影響を受ける太陽光発電と風力発電が総発電電力量に占める割合は10.4%に上昇した。

 一方、天候などの影響を受けにくい小水力発電、バイオマス発電についても年間発電電力量が占める割合は徐々に増加している。しかし、地熱発電については小規模設備の導入は進むものの累積導入量は約55万kWとほとんど増加せず、2021年度の総発電電力量に占める割合は0.3%にすぎない。

 第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の再生可能エネルギーの達成目標は36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)であり、地熱発電は期待の薄い再生可能エネルギーであるかに見える。

図1 日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電量の割合のトレンド 出典:ISEP

 地熱資源量に注目すると、世界最大規模のカリフォルニア州ザ・ガイザース地熱地帯を有する米国が地熱資源量3000万kWで世界第1位、多くの火山島からなるインドネシアが2800万kWで第2位、日本は2300万kWで第3位である。第4位は700万kWのケニア、第5位が600万kWのフィリピンと続く。

 このように地熱資源量に恵まれた日本であるが、発電設備容量でみると世界第10位に留まっている。すなわち、米国の1/6、インドネシアやフィリピンの1/3などで、明らかに地熱発電開発が遅れている。残念ながら、日本は総地熱資源量の2.4%程度しか開発されていない

図2 主要国における地熱発電設備容量の推移
出典:石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料(2018.7)、BP Review of World Energy, June 2018

 一方、海外では出力:5~10万kW級の大規模地熱発電所が数多く稼働しており、世界の地熱発電設備シェアの69%は日本で、三菱重工業(25%)東芝(24%)、富士電機(20%)が製造している。技術レベルが高いのに国内の地熱発電開発が進まなかったのは、長期的な展望を見誤ったためである。

1997年で止められた地熱発電の開発

 1973年と1979年に起きた石油ショックを契機に、日本では石油代替エネルギーの開発が国家プロジェクトとして進められた。地熱発電もその一環で開発が推進されたが、他の再生可能エネルギーとは異なり、政府からの開発支援が1997年で途切れた。その経緯を、次にレビューしてみよう。

■1974~1992年「サンシャイン計画」、1993~2000年「ニューサンシャイン計画」の中で地熱発電の開発は推進され、発電設備容量の総計が約50万kWに達した。
■一方、1979年の米国スリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発電事故により、世界的に原発建設の低迷期に入るが、日本は国策として原子力発電所の建設が強力に推進された。
■1996年11月、出力:1万kW以上の大規模地熱発電所である九州電力の滝上発電所が稼働した。
*次の大規模地熱発電所は、2019年5月の電源開発などによる山葵沢発電所(4.6199万kW)の稼働まで23年間の空白ができる。
■1997年4月、石油価格が安定化し、原発建設が順調に進められたことから、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」において、従来型のフラッシュ・サイクル発電方式注釈の地熱発電が促進対象から外された
■2003年4月、施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RSP:Renewables Portfolio Standard法)」の促進対象から大規模地熱発電所は除外され、併せて地熱発電の研究開発予算が大幅に縮小された。
環境省による自然公園内での開発規制や温泉利権者からの反対が、地熱発電所の新設に急ブレーキを掛け続けた
■2006年4月、八丁原はっちょうばる地熱発電所にバイナリー・サイクル発電注釈設備(出力:2000kW)が併設され、杉乃井ホテルに自家用の小規模地熱発電所(出力:1900kW)が建設されたが、小規模であるため総設備容量に大きな伸びを与えることはなかった。

図3 日本の地熱発の電開発状況
出典:火力原子力発電技術協会(2018)、地熱発電の現状と動向2017年版

注釈:
 フラッシュ・サイクル発電は最も良く使われる方式で、生産井から得られた熱水と蒸気を汽水分離器で分離した後、蒸気をタービンに供給して発電を行う。熱水は還元井を通じて地中に戻し、タービンを出た蒸気は復水器で冷却して水に戻し、蒸気の冷却水として使う。
 バイナリー・サイクル発電は、150℃未満の低圧蒸気の場合に使われる方式で、得られた熱水あるいは蒸気を使い、熱交換器を介してブタン、ペンタン、代替フロンのような低沸点の有機媒体を蒸発させ、得られた蒸気をタービンに供給して発電を行う。
 最近は、高温の温泉水を入浴に適した温度に下げる湯温調整用でもある小型バイナリー・サイクルによる温泉発電が、井戸の掘削を必要としないため注目されている。

 ところで、図3からも明らかなように、地熱発電電力量が1997年をピークに年々減少傾向にある。火力原子力発電技術協会によると、国内の地熱発電量は2020年度で26.6億kWhで、1997年度の37.5億kWhから3割程度減少しており、大きな問題となっている。

 出力:1万kW以上の大規模地熱発電所14基の発電電力量(2013年度)について、岩手県松川地熱発電所が-35%、葛根田かっこんだ地熱発電所1号機が-66%、葛根田地熱発電所2号機が-52%、福島県柳津西山やないづにしやま地熱発電所が-58%、鹿児島県山川地熱発電所が-35%と、顕著な出力低下が報告されている。

 その結果、2017年には柳津西山地熱発電所はタービンを入れ替え、定格出力を6.5万kWから3万kWに引き下げた。また、2022年10月、葛根田発電所1号機(出力:5万kW)は廃止された。

 これは生産井からの蒸気量の減少が主原因とみられるが、熱水中のシリカ(SiO2などが、井戸(鉱井)や発電所の配管、タービン翼などの表面にスケールとして付着し、経年的に発電効率が低下する設備の老朽化も大きな影響を与えている。これらの対策にも積極的に取り組む必要がある。

図4 地熱発電所の要素部品で見られるシリカスケールの付着・堆積

地熱発電の重要性と課題

 地熱発電は燃料を必要とせず昼夜・天候を問わずに24時間の発電運転が可能であり、設備利用率が57%と高い。この設備利用率は風力発電の約21%、太陽光発電の約14%と比較してはるかに高い値であり、電力貯蔵を必要としない。そのため、地熱発電はベースロード電源として期待されている。
 また、地熱発電は発電機を国内で調達することが可能な純国産エネルギーであり、エネルギー自給率の向に貢献する。また、再生可能エネルギーの中では発電コストが9.2~11.6円/kWhと安く、小規模にも関わらず大規模なLNG火力発電の10.7円/kWhとほぼ同等である。

 しかし、地熱発電所の建設には、地表調査から始めて掘削調査や探査を実施して資源量を評価し、事業化の判断を行う必要がある。通常はこのプロセスで約5年を要し、その後に発電設備の建設を行う。
 そのため環境アセスメントを必要としない出力:7500kW未満の中小規模地熱発電設備でも運転開始まで7~8年、数万kW規模の大規模地熱発電設備については環境アセスメントに3~4年を要し、運転開始まで10年以上を必要とする。

 2017年3月、NEDOが風力・地熱発電の導入に関する手続期間を半減できる前倒環境調査を公表している。これにより3~4年を要する環境アセスメンを2年以内に短縮できるとしている。しかし、地熱資源調査の効率化と精度向上と、さらなる環境アセスメント期間の短縮が求められている。

 地熱発電の開発には、地元温泉事業者や自然保護団体などから反対の声が上がる。井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や温泉源の湯量低下・枯渇などを危惧するためである。しかし、原発建設のリスクに比べると、理解を得る可能性が高い。 

2012年以降の地熱発電の再立ち上げ

 1997年4月に政府による開発支援が停止した地熱発電は、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)で再立ち上げが開始した。併せて、政府による様々な規制緩和や開発支援が行われた。

規制緩和と開発支援

 2011年3月の東日本大震災以降、ベース電源として地熱発電への期待が急速に高まった。その結果、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)が施行され地熱発電が盛り込まれると共に、地熱発電関連の研究開発予算が復活した。
 経済産業省では地熱探査技術や高効率地熱発電システムの開発、環境省では温泉バイナリー発電の高効率化、低沸点新媒体の実証などの研究開発支援が進められた。

 2015年10月、環境省は国立・国定公園内での地熱開発について規制緩和を進めた。従来認められなかった第1種特別地域でも地表に影響がない限り地中部への傾斜井戸の掘削を許可し、景観維持のために制限されていた高さ13m超のタービン建屋設置に特例を認めた。
 また、電気事業法の一部改正を進め、出力:300kW未満のバイナリー発電は専任のボイラ・タービン技術者を置く必要がなくなり、100kW以下では1年間の運転実務経験のある技術者を不要とした。

 2016年4月、経済産業省は出力:2.5万kW以上の大規模地熱発電に関して、環境への悪影響が抑えられるなどの条件が整えば、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の審査を経て重点開発地域に指定し、切削調査費用を支援する仕組みを整備した。
 また、JOGMECを通じて、建設費用の最大8割まで債務保証する事業化支援策を打ち出した。

 2018年、経済産業省は環境アセスメントを書面と実施を同時進行できるよう指針を改訂し、評価期間を2年程度に半減できるとした。また、環境や埋蔵調査を行う候補地点をこれまでの2倍に増やし、採掘技術の進歩などから、事業化までの期間を10年程度に短縮できる発表した。
 また、国立公園内については特別保護地区を除いて規制緩和を進め、日本の全資源量(2347万kW)の70%である1600万kWの開発を目指すとした。
 環境省は環境アセスで事業者による調査を省略するなど、審査期間を1.5~2.5年程度に半減する方針を示し、出力:7500kW未満の小規模地熱発電を環境アセスの対象から外した

 2021年8月、経済産業省は環境省と連携し、全国の国立公園、すなわち北海道(支笏洞爺、大雪山)、東北(十和田八幡平)、中部(妙高戸隠連山、上信越高原)、九州(阿蘇くじゅう、霧島錦江湾)などの30カ所を現地調査することを公表した。
 2019年度の地熱発電による発電量は総発電電力量の0.3%(設備容量:60万kW程度)であるが、政府は2030年度に1%(設備容量:150万kW)に引き上げる狙いである。JOGMECなどにより、地表で人工的に地震波を発生させて地下構造を調査したり、簡易掘削による調査を2年間実施した。

 2021年9月、環境省は国立・国定公園内における地熱開発の取扱いに関して、一部地域での地熱開発を「原則認めない」とする通知の記載を削除し、自然環境の保全(風致景観の維持を含む)及び公園利用上の支障がないことを前提として地熱開発を認めた。

 一方で、民間でもリスクである地熱発電の開発を支援する動きが進められた。

 2016年6月、東京海上日動火災保険は、地熱発電所建設で問題が生じた場合に、温泉業者が原因調査の費用や営業で生じる損失額を補償する新たな賠償責任保険を発表した。
 従来、温泉業者が発電事業者に賠償請求する場合に500~3000万円程度のボーリング調査を実施する必要があり、この費用負担が問題で温泉業者が開発に反対していた経緯がある。

 また、2016年8月には三井住友ファイナンス&リースが、長崎県で小規模地熱発電を手掛ける洸陽電機子会社の第一小浜バイナリー発電所合同会社(出力:125kW)と発電設備の割賦契約を締した。これにより開発事業者はキャッシュフローが優位となり、事業拡大が容易となる。

FIT導入による地熱発電所の増設

 図4には、国内の地熱発電所の運転開始時期と発電方式を示す。1997年を最後に出力:1万kW以上の大規模地熱発電所の新設は途絶えた

 2012年以降は、固定価格買取制度(FIT)と政府による規制緩和により、新規の地熱発電所の建設件数は急増していることが分かる。しかし、多くは出力:1万kW未満の小規模バイナリー・サイクル発電であり、2019年から大規模フラッシュ・サイクル発電が稼働を始めた。

 井戸堀削を伴わない温泉バイナリー・サイクル発電は、温泉源の湯量低下や枯渇を危惧する必要がなく、建設工期が短いため、FIT導入の後押しを受けて地元温泉事業者に受け入れられた。ただし、その多く出力:1万kW未満と発電量が少なく、地産地消の分散電源として拡大している。

 図5 国内の地熱発電所の出力と運転開始時期

 2021年度の総発電電力量に占める地熱発電の割合は0.3%にすぎない。政府はこれを2030年に1%に伸ばす高い目標を掲げた。小規模バイナリー・サイクル発電設備の導入は進められたものの、2021年の地熱発電設備の累積導入量は約55万kWで、20年前からほぼ横ばいの状態が続いている。

 2030年に1%の高い目標をクリアするためには、大規模地熱発電所の新設だけに頼るのではなく、環境対策が整えられている既設の地熱発電所の経年的な発電効率低下への対策と、老朽更新によるリパワリング(発電効率向上)が鍵を握る

長期的視野に立つ新設計画を

 2030年に1%の高い目標の達成には新設が不可欠である。発電量を大きく伸ばすことができる大規模地熱発電所の新設に向けては、開発中断の失敗を繰り返すことなく、長期的な視野に立った計画とその遂行が必要である。 

 地熱発電所の新設では井戸を掘り正確な資源量を把握する。資源価格の高騰で井戸1本当たりの掘削費は5億円を超し、日本での掘削成功率は3割程度である。そのため地熱発電の建設単価は100万円/kWと、風力発電の20万円/kW、太陽光発電の37万円/kW、原子力発電の45万円/kWに比べ高価である。

 また、西日本技術開発によると、日本では地熱発電所を建設してから稼働を終えるまで税抜き10.9~18.3円/kWhの費用を要するが、米国は5.3~9.6円/kWh(フラッシュサイクル)、トルコが10.6~11.9円/kWh、イタリアが5.8~9.6円/kWh、ニュージーランドは3.1~5.6円/kWhと安価である。
 山間部が多い日本は平地主体の海外と比べて工事費が高くなり、専門の掘削技術や大型重機をもつ企業も限られるためとしている、。

 大規模地熱発電の開発を推進するためには、政府は日本での地熱発電に関して投資に見合う収益を改めて示す必要がある。2022年度からは再生エネの補助制度「FIP」が導入されたが、電力会社が規定価格で買い取るFITと異なり、先々のコスト試算が難しい。

 政府による規制緩和が進められているが、掘削を伴う大規模地熱発電所の開発には地元温泉事業者や自然保護団体等から反対の声が上がる。これは井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や、温泉源の湯量低下・枯渇等を危惧するためであり、政府の積極的な支援は不可欠である。 

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