進む船舶の脱炭素化

 2021年12月、国土交通省はコンテナ船など国際海運に携わる船舶が排出する温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにする新たな目標を、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)に提出した。

船舶用の代替燃料の普及に関しては、自動車や航空機に比べて順調に進められていないのが現状である。一般に船舶用燃料に使用されているのは低コストのC重油であり、代替燃料の低コスト化がネックとなり、港湾における代替燃料の供給インフラの整備が進まないことが大きな原因である。

国際海運におけるCO2削減

世界の海上荷動量の拡大

 世界の国内総生産(GDP)の成長率は、新型コロナウィルスの感染拡大により、2021年の5.7%から2022年に2.9%に急減速した。また、当初2022年はGDP成長率4.1%を予測していたが、世界銀行は2022年6月にロシアによるウクライナ侵攻の影響を考慮して、GDP成長率を2.9%に下方修正した。

このGDPの成長率は船舶による荷動き量と良い相関関係にあることが知られており、図1で示すように、中長期的には世界の海上荷動量は今後3~4%/年程度の拡大傾向にあると考えられている。このような国際海運を担う大型船舶は一般にC重油を燃料としており、1隻あたり年間数万トンのCO2を排出することから問題視されている。国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日

図1 世界の海上荷動量(2007~2020年)の推移
出典:日本造船工業会、造船関係資料2022年3月

国際海運における保有船腹量

 図2に示すように日本の国際海運企業の保有船腹量は世界の船腹量の11%を占め、世界第2位である。また、図3から日本郵船、商船三井、川崎汽船は船隊規模で世界10位以内に入り、IMOから温室効果ガス排出規制を直接に受けるため、ゼロエミッション船の開発を積極的に推進する必要がある。

図2 世界の国別保有船腹量
出典:国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日
図3  世界主要海運会社の船隊規模(全船種)
出典:国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日

世界の船舶建造量の動向

 1990年代まで、日本は船舶の建造量で世界シェアが50%を超えており、「造船王国」と呼ばれていた。その後、図4で示すように、低価格競争を展開する中国、韓国勢との競合に負け、リーマンショック後の2010年前後に新造船を大量に竣工したが、建造量は激減し、供給力過剰が続いている。

図4 世界の船舶建造量の推移

 2020年時点の世界シェアは中国が40%、韓国が31%で、日本は22%に留まっている。造船業界の2020年の世界市場規模は1300億ドル、2025年に向けて平均5.7%/年の成長が見込まれている。

 しかし、図5には2020年の造船業界の建造量を示すが、上位4社は中国、韓国勢で、日本は5位に今治造船(株)、6位にジャパンマリンユナイテッド(株)(JMU)に留まる。

図5 2020年の造船業界の建造量
出典:国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日

 今後、環境性能に優れた船舶が市場では選択されると考えられる。しかし、コンテナ船(自動車等を運搬)やタンカー(石油、LNG、LPG、化学品を運搬)などの貨物船分野では技術面で韓国が日本を上回り、液化天然ガス(LNG)を燃料とする船舶などの開発では日本の出遅れが目立つ。
 そのため、次世代に向けたゼロエミッション船の開発をさらに加速する必要が求められている。

国際海運におけるCO2削減目標

 国連の国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)は、最終的な目標として、今世紀中のできる限り早い時期に、国際海運からの温室効果ガス(GHG)の排出ゼロを掲げている。

 マイルストーンとして、2030年に2008年比で全船舶を通じたCO2排出量40%以上削減、2050年に2008年比でCO2排出量を70%以上削減して2008年比でGHG排出総量を50%以上削減する目標を設定している。また、この目標は2023 年夏に改定・採択することが合意されている。

 そこで、2021年12月、国土交通省はコンテナ船など国際海運に携わる船舶が排出する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)を2050年までに実質ゼロにする新たな目標を、国連の専門機関である国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)に提出した。

 国際海運で排出される温室効果ガスは、IMOが一元的に対策を実施しており、国際海運からのCO2排出量は約7.0億トン(2018年)である。このCO2排出量は、図6で示すように世界全体の約2.1%を占めており、ドイツ一国の総排出量に匹敵する排出量であり対策が必要である。

図6 国際海運からのCO2排出量
出典:
国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日

船舶用燃料と排ガス規制

 船舶用燃料のことを「バンカー(Bunker)」と呼ぶが、燃料用の石炭貯蔵庫をバンカーと呼んだことに由来する。現在、多くの大型船には舶用重油が使用されている。重油はA重油(90%軽油+10%重油)、B重油(50%軽油+50%重油)、C重油(90%重油+10%経由)に分類される。

 メンテナンスなどで長期間停泊する場合を除き、船舶の燃料には経済性の観点から低価格のC重油が使われている。C重油を燃焼させると有害物質(SOx、NOxなど)や多量のCO2が排出される。

 そのため、海洋汚染の防止を目的に、船舶からの規制物質(油・化学物質・梱包された有害物質・汚水・廃棄物など)の投棄や排出の禁止とその通報義務、手続きが段階的に強化されてきた。
 この規制については、国際連合の国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)が審議し、採択する海洋汚染防止条約もしくはMARPOLマルポール)条約により定められている。

 マルポール条約は「MARPOL73/78」と表記され、正式名称は「International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973, as modified by the Protocol of 1978 relating thereto(1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書)である。

 そのためSOx対策は、脱硫装置(スクラバー)を使って排ガスから除去する方法や、硫黄分の少ない軽油相当のマリンガスオイル(MGO : Marine Gas Oil)への切り替えが行われている。また、NOx対策は、エンジンの燃焼温度を抑制したり、窒素分の少ない燃料への切り替えなどが進められている。

 また、前述のように温室効果ガス(GHG)についても規制が定められ、IMOの取り決めでは「2030年までに単位輸送量当たりのCO2排出量を2008年比40%削減、2050年までにGHG排出総量を2008年比50%削減、また今世紀中の早い時期にGHG排出ゼロにする。」ことが求められている。

 2030年のCO2排出規制は、舶用重油を使用する従来型エンジンでも、低出力運転(減速航海)や船体の造波抵抗・摩擦抵抗の低減などで達成可能と考えられている。しかし、2050年規制や船舶のゼロ・エミッション化には、低環境負荷の新燃料使用とそれに対応したエンジン開発が必須である。 

図7 各種燃料の特性比較(舶用C重油を1.0とした比較)

進み始めたLNG燃料への切り替え

海外動向

 IMOの目標達成に向け、燃料を重油から液化天然ガス(LNG)に切り替える対策が進められている。LNGは液化の前工程で硫黄分を除去するためSOxや粒子状物質(PM:Particulate Matter)をほとんど排出せず、NOxの排出量も少なく、CO2排出量は重油に比べて約25%削減できる

 LNG燃料船は燃料タンク・供給系の搭載が必要で、建造価格が重油を燃料とするディーゼル船に比べて15~30%高く、燃料費も高くなる。しかし、環境規制の厳しさが増す中で、高価な低硫黄重油の採用に比べてLNGは価格競争力があると考えられている。
 その結果、世界的に2010年に竣工済18隻だったLNG燃料船が、2020年には就航中が175隻、発注済みが200隻を超えるまでに急増している。LNG燃料船の大部分は欧州で運航されており、大型化が進むと共に航海海域も拡大している

 また、LNG供給インフラの整備も欧州が先行し、オランダのロッテルダム港、アムステルダム港、ベルギーのゼーブルージュ港、スペインのバルセロナ港などでLNG供給が可能である。
 通常のLNG供給はターミナル側に供給設備を整えたTruck to Ship方式が採用されているが、大型船への燃料供給はShip to Ship方式で行われる場合が多く、LNG燃料供給船の整備も進められている。

 2020年2月現在、LNG燃料供給船は12隻が稼働中、27隻が発注済みで、多くが欧州域内で稼している。バルト海周辺のスウェーデンやフィンランドなども積極的に燃料供給船の整備を進めており、世界最大の燃料基地であるシンガポール港では、2020年からLNG燃料供給船が航行している。

 これまで欧州各国は、LNGの約4割をロシアからパイプライン経由の輸入に頼ってきた。しかし、2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、中東や東南アジアからの海上輸入へと切り替える必要に迫られており、LNGの需要側、供給側双方でLNG運搬船の需要拡大が起きている。
 世界でLNG運搬船受注量は2022年に前年比で2.3倍となり、韓国勢約7割、約3割中国勢が受注した。

 しかし、中国・韓国勢に比べてコスト競争力で劣る日本の造船各社は、LNG運搬船を受注できていないのが現状である。英調査会社のクラークソン・リサーチによると、2021年のLNG船の受注実績(78隻)のうち、韓国大手3社が68隻を占めており、LNG船の建造で世界をリードしている。
 2022年に中国CSSCは大型LNG運搬船を49隻、合計で100億ドル超を受注し、同分野の受注量に占める世界シェアは2021年の7%弱から2022年に30%近くに高まった。

 2022年1月、中国・韓国の造船大手がLNG運搬船に積極投資と報じられた。

●世界首位の中国船舶集団(CSSC)大連船舶重工を通じ、大連市の港湾地帯に200億元を投じて造船所を建設し、2024年末の竣工を目指している。一方で、港湾開発を手掛ける国有の招商局集団がCSSCに計4隻の大型LNG運搬船を発注した。
●CSSC傘下の滬東中華造船は上海市に180億元を投資して造船所を建設し、2023年末の完成を目指している。同社は2022年4月に日本郵船とLNG運搬船6隻の建造契約を締結するなど、2022年だけでLNG運搬船を30隻超受注している。
●中国の招商局重工揚子江船業も、2022年10月までに大型LNG運搬船の建造に必要な技術ライセンスを取得し、事業参入することを表明している。
現代重工業は2022年12月期の設備投資を約4400億ウォン(約440億円)と前期より2割以上増やした。サムスン重工業も前期比で2.2倍、大宇造船海洋も3割近く増やす計画で、ドックの拡張や修繕などを進める。

国内動向

 重油からLNGへの燃料切り替えは国内でも進められており、「商船三井は2030年までに90隻LNG燃料船を整備する方針」を表明した。「日本郵船も2022年3月時点で建設予定も含めると35隻のLNG燃料船への投資」を決めた。今後、自動車運搬船の新規発注は全てLNG燃料船とする計画である。 

 2015年8月、商船三井と日本郵船が日本初となる重油とLNGを燃料とするDual Fuelエンジンを搭載したタグボートを就航させ、大型のLNG燃料船やLNG燃料供給船の建造計画が発表された。

 2018年5月、川崎汽船、中部電力、豊田通商、日本郵船の4社が出資する合弁会社2社(セントラルLNGマリンフューエル、セントラルLNGシッピング)が設立され、Ship to Ship方式でのLNG燃料供給事業の開始を発表し、川崎重工業がLNG燃料供給船を受注した。

 2019年11月には、商船三井とフェリーさんふらわあが国内初となるLNG燃料フェリー2隻を建造すると発表し、三菱造船が受注した。LNGタンクを搭載してDual Fuelエンジン始動時に重油を使うが、航海では原則としてLNG燃料を使うことで、CO2排出量を25%削減する。

 2019年12月、商船三井と日本郵船は九州電力向けにLNG燃料の大型石炭専用船2隻の建造を発表した。九州電力が火力発電向けに調達しているLNGを陸上出荷設備を通じて供給する計画で、2023年6月に就航する予定である。​

 2022年10月、三井E&S造船を子会社化した常石造船は、2025年にもメタノールなどの環境負荷が小さい新燃料の脱炭素船を竣工すると発表した。メタノールはCO2を原料に合成可能で、カーボンニュートラル燃料の一つとして注目されている。

 2023年1月、商船三井グループのフェリーさんふらわあは、LNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」が大阪―別府航路に就航したと発表した。同年4月には同型の「さんふらわあ むらさき」も大阪―別府航路に就航する。

図1 大阪南港に入港する日本初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」

 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、LNGを含めて燃料は世界的な争奪戦により価格が高止まりしている。サプライチェーン再構築も含めて、多量のLNG調達が今後の大きな課題である。

 2023年1月、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)はLNG燃料船の建造を始めると発表した。世界的にLNG燃料船は移行期の船舶として、2030年までに2000〜4000隻が運航すると見込まれている。

 2023年1月、川崎重工は液化石油ガス(LPG)を燃料とする運搬船「86700m3型LPG燃料仕様LPG/アンモニア運搬船」を日本郵船から受注し、2026年に完成予定である。LPGと低硫黄燃料油を使用してSOxとCO2排出規制に対応する。
 大型のLPG運搬船やLNG運搬船などの一部で、2022年度以降の契約船に対し基準値から30%のCO2削減が要求されている。

 2023年4月、政府はゼロエミッション船の普及を見据え、アンモニアや水素などの燃料船に関する指針作りを公表した。今年度、海外のアンモニア燃料船と耐久性の高い材質を調査し、船舶に使う機器の標準化も目指す。アンモニア燃料船は2025年度、水素燃料船は2026年度までに指針策定を目指す。
 2022年には、国土交通省が海運の脱炭素に向けた官民協議会を設立しており、国際的な安全基準がないアンモニアや水素について、2013年に策定されたLNG燃料船に関する指針を参考に、船舶への燃料移送の作業手順や安全対策、燃料漏れの危険区域の設定などを明記する。

 2023年10月、九州電力と日本郵船は、LNGを燃料に使う石炭輸送船「松陽しょうよう(全長:235m、最大約9万トンの石炭積載)の運航開始を発表。オーストラリアや北米から石炭火力の苓北発電所(熊本県)や松浦発電所(長崎県)に8回/年程度輸送。従来船に比べて約30%のCO2排出量削減を見込む。

 2024年3月、三菱重工業下関造船所でLNG(液化天然ガス)バンカリング船「KEYS Azalea」(積載容量:約3500m3)が竣工する。「KEYS Azalea」が実施する燃料補給はシップ・ツー・シップ方式で、貨物を積んで寄港した船が荷役中に必要なLNG燃料を一気に補給できる。
 九州電力や日本郵船などが出資するKEYSバンカリング・ウエスト・ジャパンが、西は熊本県、東は岡山県にかけてのエリアを対象としたLNGバンカリング事業を日本で初めて行う。竣工後は、戸畑LNG基地を拠点に、九州・瀬戸内地域へ寄港するLNG燃料船へ補給する。

実証試験レベルのバイオ燃料

バイオ燃料による試験航行

 一方で、バイオ燃料の供給には既存の給油インフラが使用でき、燃料の種類によっては既存のディーゼルエンジンの仕様を変更せずに、船舶用燃料として使用が可能(ドロップイン燃料)である。しかし、バイオ燃料の導入拡大には低コストと共に供給可能量が課題である。

 2019年1月、日本郵船のばら積み船「FRONTIER SKY」が鉱業会社BHP Billiton Limitedとバイオ燃料の製造会社GoodFuelsと協力し、オランダ・ロッテルダム港で補油し欧州域内で試験航行した。
 補油では燃料のトレーサビリティーの強化や、燃料供給におけるサプライチェーン全体の品質管理向上を目的にブロックチェーン技術が試験的に用いられている。

 2020年9月、八重山観光フェリーの船舶で、バイオディーゼル燃料を給油して試験航行を実施した。燃料は微細藻類ユーグレナと使用済み食用油を原料とし、試験航行では軽油と混合して使用した。

 2021年6月、商船三井の子会社EURO MARINE LOGISTICSは、自動車運搬船「CITY OF OSLO」にオランダ・フラッシング港で約370トンのオランダGoodfuels製バイオ燃料を補油し試験航行した。このバイオ燃料は、既存のディーゼルエンジン仕様を変えずに使用できる。

 2021年8月、日本海事協会が「船舶におけるバイオ燃料の使用に関する取り扱い」を公表した。
 各種のバイオ燃料(粗バイオ燃料(SVO:Straight Vegetable Oil)、脂肪酸メチルエステル(FAME:Fatty Acid Methyl Ester)、水素化植物油(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil)など)を船舶燃料として使用するための手続きや注意事項などをまとめている。

 2022年2月、商船三井テクノトレードが保有・運航する燃料供給船「テクノスター」は、油藤商事より供給されたバイオディーゼル燃料を用いて試験運航した。日本海事協会により、MARPOL条約等でのNOx排出規制を満たすことが認証された。
 供給された燃料は、回収した廃食油をメタノールによってエステル交換して生成される脂肪酸メチルエステルで、A重油との混合比率を3割以上に高めて使用した。

 2022年3月、日本郵船は大型ばら積み船「FRIENDSHIP」で、バイオ燃料を使用して4回目の試験航行を実施した。トタル・エナジーズ マリンフュエルズの協力で、2022年1月にシンガポール港湾水域でバイオ燃料を補油し、積地の南アフリカ・サルダナベイからシンガポール港に戻るまで運航した。

図1 大型ばら積み船「FRIENDSHIP」のバンカリングの様子

 2022年9月、東京都、ユーグレナ、屋形船東京都協同組合が、船宿三浦屋の運航する定員50~100人の3隻を使い、軽油をユーグレナの「サステオ」に切り替えて試験航行を行った。運航ルートは浅草橋近くの船着き場から隅田川を通り、お台場周辺までの周遊コース(2時間半)である。

 2023年9月、商船三井グループの商船三井テクノトレードは、日本初となるバイオ燃料と水素を使って発電した電気で航行するハイブリッド型観光船(全長:33m、総トン数:240トン、定員:100人)を2024年4月に就航すると発表。
 運営は商船三井テクノトレード、本瓦造船、船舶管理会社のイコーズ、関門汽船などが出資して2022年3月に設立したMOTENA―Sea(モテナシー)が担う。バイオ燃料は地元事業者から調達する。

2023年11月、豊田通商は、トヨタ自動車グループのトヨフジ海運の外航船に植物由来のバイオディーゼル燃料を供給した。産業廃棄物処理のダイセキ環境ソリューションと共同で、廃食油を回収してバイオ燃料に加工販売している。重油にバイオ燃料を24%混ぜ、重油だけの場合と比べてCO2排出量を2割削減できる。
 トヨフジ海運は、名古屋港からオーストラリア・ポートケンブラ港までの航路で試験的に利用する。同社は4月に、内航船でバイオ燃料を本格導入している。

 2024年5月、日本郵船は、積み荷である木質ペレットの一部を燃料として運行する電気推進船の開発を発表。子会社のNYKバルク・プロジェクト、英国バイオマス企業のディーラックス・グループ、常石造船の4社が共同開発で合意し、2029年末までの建造をめざす。
 燃料タンクの大きさの制限から重油の代替燃料の導入が困難な小型タンカー(積載量が2万トン〜4万5000トン)での使用を想定。木質ペレットを高温で不完全燃焼させ、発生した一酸化炭素や水素、メタンなどの可燃性ガスで発電機を動かす電気推進船である。

 2024年5月、川崎汽船は、バイオディーゼル燃料「B100」での自動車輸送船の試験航行の実施を発表。燃料の精製から使用までの一連の流れで、CO2排出量を8〜9割減らすことができる。バイオディーゼルは高価で供給量も限られるが、今回の試験航行を通じて得た課題を将来の本格利用に役立てる。

バイオ燃料の供給

 2021年3月、シンガポール本拠の日本郵船の子会社NYK Bulkship (Asia) が、フィンランド本拠のNeste の子会社Neste Shipping Oyとバイオ燃料の数量輸送契約(COA)を締結した。
 シンガポールで製造されたバイオ燃料(NRD:Neste Renewable Diesel)が、NYK Bulkshipの運航するMR型プロダクト/ケミカルタンカーにより北米に輸送される。

 2020年10月、豊田通商グループは日本で初めてShip to Ship方式による船舶向けLNG燃料の供給事業を開始した。併せて、2021年4月からはシンガポールで燃料供給船(バンカーバージ)の試験運行をバイオ燃料で行っている。
 2021年6月、豊田通商ペトロリアムが日本郵船にバイオディーゼル燃料を販売し、シンガポール港で運航するばら積み船「Frontier Jacaranda」にShip to Ship方式で供給トライアルを実施した。燃料はシンガポール産廃食油由来で、地産地消に近い形のサプライチェーン構築を目指している。 

 2022年4月、豊通エネルギーは三洋海事が運航するタグボート向けに、名古屋港でShip to Ship方式による舶用バイオディーゼル燃料の供給トライアルを実施した。供給したバイオ燃料は豊田通商がダイセキ環境ソリューションと連携し、回収した廃食油を原料に製造した。

 2022年8~9月、トヨフジ海運は自動車運搬船「とよふじ丸」で、燃料供給を豊通エネルギーからShip to Ship 方式で受け、低硫黄C重油とバイオディーゼル燃料を混合し 28 日間の試験運航を行った。

 また、同年9月、川崎近海汽船、ユーグレナ、鈴与商事は、静岡県清水港でRORO船「豊王丸」にユーグレナのサステオを供給して実証運航を開始した。「豊王丸」の寄港地である大分港および清水港での岸壁停泊中にサステオのみを使用して、通常業務に支障がないことを検証する。
 給油を担当した鈴与商事は、2021年7月から宅配水配送車両でサステオを使用しており、2022年3月には鈴与グループのフジドリームエアラインズの航空機へサステオの給油を行っている。

図2 静岡県清水港でRORO船「豊王丸」にユーグレナのサステオを給油

 2023年3月、アストモス・エネルギーと日本郵船は、LPG(液化石油ガス)燃料船「LYCASTE PEACE(リカステ ピース)」で、脂肪酸メチルエステルを利用したバイオ燃料をシンガポールで補油し、試験航行を終えたと発表した。
 2022年7月に発表されたシンガポールのNPO法人主導の「船舶用バイオ燃料のサプライチェーン構築プロジェクト」の一環で実施された。オイルメジャーや大手海運会社など19の業界パートナーが参加し、コンテナ船、タンカー、ばら積み船など13隻の船舶が5つのサプライチェーンで補油を行った。 

 2024年1月、三井物産は船舶向け次世代燃料の本命とされるバイオメタノールの量産を発表。パルプ世界首位のブラジル企業スザノと共同で、木材からパルプをつくる際に出る廃液を原料とし、2026年の現地工場建設をめざす。投資額は100億〜150億円で、2万トン/年~10万トン/年まで段階的に生産能力を引き上げる。
 バイオメタノールは重油に比べてCO2を6割以上削減できるが、価格が最大4倍ほど高いのが課題である。三井物産はブラジルでバイオメタノールに加えて、将来は航空向けバイオ燃料の原料になるエタノールなども生産する計画を公表している。

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