出力制御と電力貯蔵

 電力は需要と供給のバランスがとれないと周波数が乱れ、大規模停電につながる恐れがある。再生可能エネルギーの供給量が増えると、電力会社は火力発電の出力抑制などの対応をとるが、それでも十分に対応できない場合は、太陽光や風力による電力を一時停止(買い取らない)する。

 この再エネ出力制御は、2018年に九州電力管内で離島以外では初めて行われた。その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力管内でも実施された。抜本的な対策を施さなければ、再エネ出力制御の常態化を招き、再生可能エネルギーの導入意欲が削がれることで導入が頭打ちとなる。

 再エネ大量導入に向けて政府はようやく重い腰を上げた。2022年1月の電気事業法改正による大規模系統用蓄電池の普及支援と2023年2月の揚水発電所の維持・更新の支援である。しかし、あまりに遅すぎた支援のために効果は見えず、再エネ出力制御の常態化が始まっている。

東京電力の再エネ出力制御発表

 2022年、6月にしては異例の暑さ(異常気象)となり電力需要が増大した結果、政府は東京エリアへの「電力需給ひっ迫注意報」を6月26日発令したことは記憶に新しい。
 その後、6月30日に注意報は解除された。政府は需要面では家庭や企業から幅広く節電協力が得られたことに加え、供給面では太陽光発電の発電量が増えたこと揚水発電の活用他電力各社からの融通、さらに運転を停止していた千葉県の火力発電所が再稼働したことなどをあげている。

 ところが、2023年2月、東京電力HDは太陽光や風力など再エネで発電した電気の受け入れを一時停止する「再エネ出力制御」を行うと報じられた。企業向けの電力需要が減る5月の大型連休中に実施する可能性があり、経済産業省の有識者会議に報告されて具体的な実施方法などの協議が行われた。

 この再エネ出力制御とは太陽光や風力による電源を送配電網から遮断することであり、電力会社は再生可能エネルギー発電事業者から買電しないことを意味している。したがって、発電事業者は自家消費できる分以外の再生可能エネルギーを捨てることになる。

 出力制御は電力会社が発電事業者に依頼して実施する。東京電力は輪番制のルールに従い、2023年度は設備規模が大きい太陽光発電事業者から出力制御を依頼し、2024年度以降は、それ以外の事業者から出力制御を依頼する方針で、経済産業省の有識者会議で了承された。

 2022年6月に東京エリアで電力供給が足らないために「電力ひっ迫注意報」が出されたのに、なぜ2023年5月には再エネ出力制御(送配電網から遮断)を行う可能性があるのか?いったい何が起きているのかを考えてみよう。

常態化する再エネ出力制御

 資源エネルギー庁の系統ワーキンググループ(WG)では、再生可能エネルギー発電事業者他に向けて、再エネ出力制御の長期見通しに関する送配電事業者による試算結果を公表してきた。

 再エネ出力制御は、2018年に九州電力管内で離島以外では初めて行われた。その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力管内でも実施された。(再エネ出力制御率[%]=変動再エネ出力制御量[kWh]÷(変動再エネ出力制御量[kWh]+変動再エネ発電量[kWh])×100

 2022年には、北海道(実施5日間、出力制御率:0.03%)、東北(15日間、0.36%)、中国(12日間、0.16%)、四国(12日間、0.58%)、九州(68日、3%)、沖縄エリア(3日、0.3%)で出力制御が行われた。いずれも太陽光・風力発電の導入が進むエリアで、出力制御が常態化している。

 2023年3月、資源エネルギー庁は再エネ出力制御の長期見通しで、2031年度時点の再エネ導入量を想定した出力制御の試算結果を公表した。一定の前提条件に基づく試算であるが、北海道(出力制御率:53.6%)、東北(54.2%)、中国(25.5%)、九州(26%)で高い値が見込まれている。
 また、東京(3.4%)、中部(2.8%)、北陸(4.2%)、関西(3.8%)、四国(2.8%)、沖縄(0.87%)と低い値ではあるが、国内全域で出力制御が起きるとしている。

九州電力の再エネ出力制御

 2018年10月13日に起きた九州電力の再エネ出力制御の状況について詳しく見てみよう。当日の再エネ出力制御は、九州全体で約24000件の太陽光発電契約のうち、熊本を除く6県の9759件(出力計:43万kW)が対象となった。

 具体的には、週末でオフィスや工場などの電力需要が828万kWに減る見込みの中で、好天のために太陽光発電による電力量が1293万kWに達した。196万kWを中国電力などに送電し、226万kWを揚水発電や蓄電池で貯蔵したが、43万kWが余剰となった。
 そのため、需給バランスが崩れて大規模停電につながる可能性が高いと判断し、九州電力は出力制御を決定したのである。また、同様の状況が起きる可能性が高いとして中国電力、東北電力、沖縄電力も出力制御の準備を進めた。

図1 九州電力が公表した10月13日土曜日の需給見通し(出所:九州電力)

 再生可能エネルギーの導入に際して出力変動が問題となることは、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)の開始以前から周知のことである。エネルギー貯蔵システム(揚水発電や蓄電池など)により制御して電力系統へ流す電力量を調整することで、余剰電力を無駄なく使うことが出来る。
 しかし、このエネルギー貯蔵システムの実用化には設備の立地制約があり、安全性確保に多額の投資が必要で、設置には長期間を必要とする。政府と電力会社は、この対策を先送りしてFITで再生可能エネルギーの導入を推進した結果、再エネ出力制御に至ったのである。

図2 再エネ出力制御における優先給電ルールに基づく対応 
出典:資源エネルギー庁

 今回、九州電力は需給バランスを保つために、図2に示す国の優先給電ルールに基づいて出力制御を実施し、④太陽光・風力発電の一時停止に至ったことを報告している。

政府の再エネ出力制御の抑制対策

 その後、経済産業省は再エネ出力制御を減らす対策案として、以下の①~④を示している。

①本州と九州をつなぐ関門連系線の送電量を、計画通りに2018度末までに再生可能エネルギーの送電量を現行の105万kWから135万kWに増設する。
②出力制限を要請する前に、バイオマスや火力発電所の発電量(一部の事業者ではこの水準が80~55%にとどまる)を50%まで下げることを要請する。
③再生可能エネルギーの発電事業者に手動制御(前日の16時に制御量を決定)から自動制御(2時間前の決定)の切替えを促し、予測に応じて柔軟に調整する。
④出力制御で発生した損失は事後に調整し、中小規模の事業者間で損失が均等になるようにする。

 以上の対策と称する内容は、再エネ出力制御を問題であると認識し、積極的に減らすものとは思えない。すなわち、①は既に予算決定済み、②は何故、今回は出来なかったのか?、③は大規模事業者は既に導入済み、④は出力制御有りきの対応で対策にはなっていない。

 太陽光・風力発電の導入を加速し、出力制御を減らすためには、発電事業者に補償金を支払うなどの基本的な対策が必要で、何よりも、エネルギー貯蔵システムの導入加速の取り組みが必須である。対策が不十分のため、九州エリアの再エネ導入は頭打ちとなり、出力制御率も改善されていない。

図3 九州エリアにおける再エネ出力制御の実施状況(2023年3月時点)出典:資源エネルギー庁

予測された再エネ出力制御

 少し、過去を振り返ってみよう。

環境エネルギー政策研究所による報告

 2018年10月13日、離島を除いて国内で初めて、九州電力が太陽光発電事業者の発電所を一時停止させる出力制御を広域で実施したが、九州電力は事前に再エネ出力制御が起きることを予測できた。

 2018年5月3日、環境エネルギー政策研究所から深刻な事態として報告が出されていた。
 すなわち、九州電力でピーク時(12時台)に太陽光発電が全電力需要の81.3%に達し、再エネ全体の比率では最大96%に達した。また、四国電力ではピーク時(10~12時)に太陽光発電が全電力需要の72.9%に達し、再エネ全体の比率では最大101.8%と100%超えを記録した。

 そのため、九州電力は再エネ発電事業者の多くと、出力制御の契約を交わしている。すなわち、再エネ出力が対処可能な範囲を超えると九州電力が判断した場合は、年間で最大30日は電力を系統へ接続しない再エネ出力制御をしても補償しないという電力会社に有利な条件である。

 同様の問題は、再エネ導入に積極的なドイツ、スペイン、英国など欧州でも抱えおり、実際に出力制御を経験している。対策として、欧州では広範囲の国・地域間での電力融通が実施されているが、併せて電力貯蔵システムの開発による安定化が検討されている。

さらに、過去を振り返ってみよう。

太陽光バブルによる受入中断

 2014年9月24日、九州電力が一般住宅用(出力:10kW未満)の太陽光発電を除く再エネの系統への接続申込の回答を保留すると発表した。これに同調して北海道電力、東北電力、四国電力、沖縄電力も、再エネの受入を一時中断した。

 固定価格買取制度(FIT)により、非住宅用太陽光発電の買取価格が異常に高く設定されたために、「太陽光バブル」が生じた時である。季節と天候により発電量が左右される不安定な太陽光発電の申し込み容量が急増し、系統接続して安定送電することが困難と各電力会社が明確に認識した。

 その後、非住宅用太陽光発電の発電量を制限する制度の拡大や、太陽光発電の買取価格低減などが進められ、各電力会社は受入再開を表明した。九州電力が実際に再エネ出力制御を実施する約4年前のことである。再エネ出力制御は事前に予測されていたのもに関わらず、対策が遅れたといえる。

優先給電ルールとは?

 電力の需給バランスを保ち広域で停電が起きるのを回避するため、発電量が需要量を上回る場合には、発電量を調整する必要がある。どういう順番や考え方で発電量と需要量を一致させていくのかを決めているのが、資源エネルギー庁による「優先給電ルール」である。

 このルールに基づく出力制御の順番は電源特性に合わせて決められ、①火力の出力制御、揚水の活用(余った電気を利用した水のくみ上げ)→②連系線を使った他地域への送電→③バイオマスの出力制御→④太陽光・風力の制御→⑤水力・原子力・地熱の出力制御の順が指定されている。

 現状、太陽光・風力など不安定な電源対策は、①火力の出力制御、揚水の活用により実施している。本来は揚水発電と連系線利用で対応できれば問題ないが設備容量が足りないとして、安価なLNG火力(発電単価:13.7円/kWh)を使い、効率の悪い出力調整運転で対応している。

 出力制御の順番については、発電コストの高い③バイオマス専焼29.7円/kWh、④太陽光24.3円/kWh、陸上風力21.9円/kWhの順に停止し、安価な⑤一般水力11円/kWh、原子力10.1円/kWh、地熱19.2円/kWhは温存して、電気料金の上昇を抑えている。(2014年時点の発電コスト参照)

 資源エネルギー庁では再エネ出力制御はやむを得ない場合の対策ではなく、再エネ導入に役立つ対応であるとして次の表記を示すが、長期的には再エネ導入の壁となることを認識する必要がある

 この出力制御のルールは、再エネを導入する際のルールとして位置づけられ、発電事業者にもあらかじめ知らされています。しかし裏を返せば、自然条件によって発電量が変動するという難しさのある太陽光・風力発電でも、万が一発電しすぎた場合には出力制御をおこなうことができるという安全弁があるおかげで、安心して電力網への接続量を増やすことができるのです。接続量が増加した結果、再エネの発電量は、たとえ出力制御がおこなわれる時間帯が生じたとしても、1年を通した全体としてみれば、増加することになります。つまり、出力制御は、再エネ導入に役立つ対応なのです。

2018-09-07 資源エネルギー庁
再エネの発電量を抑える「出力制御」、より多くの再エネを導入するために

エネルギー貯蔵と系統連系

 第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の電源構成では、再生可能エネルギー比率36~38%を目標とし、そのうち太陽光と風力の合計である変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)比率だけで19~21%を計画している。

 国際エネルギー機関(IEA)では、電源構成のVRE比率が20%を超えると系統運用が不安定になり、大規模なエネルギー貯蔵設備が必要になると分析している。
 日本のVRE比率は2021年時点で平均9.5%であるが、地域によっては高い値を示している。そのため、再エネ出力抑制により太陽光・風力の投資収益性が下がり、普及の阻害要因となっている。揚水発電のような大規模な電力貯蔵システムや連系線を使った他地域への送電が必須である。

 図3には、各電力会社の太陽光+風力導入量利用可能とする揚水発電+連系線利用量、その出力比を示す。出力比は1.0に近いほど、太陽光・風力発電の電力を揚水発電や連系線利用により対応できるため再エネ出力制御は起きにくい。しかし、そのためには設備投資が膨大となる。

 東京電力は太陽光+風力導入量がダントツに多いが、揚水発電もダントツに多いため、出力比は0.6と高い。北海道電力と四国電力は連系線利用も期待できるため、出力比は0.61と0.59と高い。
 一方、東北電力は揚水発電が少なく、連系線利用を含めても出力比は0.22に留まる。九州電力は太陽光+風力導入量が多く、揚水発電と連系線利用を含めても出力比は0.29に留まる。中部電力も太陽光+風力導入量が多く、揚水発電のみの対応で出力比は0.34に留まる。出力比の地域差は極めて大きい。

図3 電力会社の変動再エネ導入量と揚水発電(連系線活用を含む)の出力比較(2022年9月) 
出典:資源エネルギー庁

大型蓄電設備の導入

 過去を振り返ると、大型蓄電設備導入に関しては、既に多くの実証事業が行われていた。

蓄電設備導入のための実証事業

 政府主導で、2006年9月~2011年3月までの5年間、北海道稚内市にメガソーラー実証研究施設(出力:5000kW)が設置され、「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化実証研究」が行われた。
 太陽光パネルで発電した電力をインバーターで420V(三相)に変換し、中間変圧器で6.6kVに昇圧した上で一部をNaS電池(出力:1500kW)に充電、特高受変電設備を通じて北海道電力の系統に接続され、電圧変動抑制3%以下、長周期の出力変動幅の縮小率80%以上を目標とした実証試験が行われた。 
 また、数時間オーダーでのメガソーラーの出力制御技術の開発を目指して、日射量予測システムの構築およびNaS電池を用いた最適運転技術の開発も行なわれた。研究終了後、この再エネ電源併設型の設備はNEDOから稚内市が無償譲渡を受け、「稚内メガソーラー発電所」として稼働している。

図4 稚内メガソーラー発電所 (出典:稚内市) 

 その後、固定価格買取制度(FIT)で太陽光発電所が急増したため、電力会社では大容量蓄電池導入による再生可能エネルギーの受け入れ可能量の検証を行うと共に、蓄電池の最適制御と管理手法の構築を目的とした以下の需要地点併設型実証事業が、国の全額補助で進められた。

●2015年2月、東北電力は、仙台市の西仙台変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:2万kWh)を設置し、「周波数変動対策蓄電池システム実証事業」を開始すると発表した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年4月、九州電力は、福岡県豊前市の豊前蓄電池変電所に日本碍子製コンテナ型NaS電池(出力:5万kW、容量:30万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始すると発表した。2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年12月、北海道電力は、勇払郡安平町の南早来変電所に住友電工製レドックスフロー電池(出力:1.5万kW、容量:6万kWh)を設置し、「平成24年度大型蓄電システム緊急実証事業」を開始すると発表した。ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク(出力:11.1万kW)に隣接しており、2019年1月まで実証試験が行われた。
●2016年2月、東北電力は、基幹系統変電所である福島県の南相馬変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:4万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2016年度まで実証試験が行われた。

 いずれも実証試験後は、各電力会社が蓄電設備として活用している。

蓄電設備併設型太陽光発電所の設置

 実証試験により大容量蓄電設備導入の有用性が確認された結果、北海道では蓄電設備併設太陽光発電所の設置が始まったが、蓄電設備が高コストのために未だ限定的である。

●2017年4月、フージャースコーポレーションは、北海道沙流郡日高町に緩効性リチウムイオンキャパシター(出力:0.9万kW、容量:0.36万kWh)を併設した日高庫富太陽光発電所(出力:1.0204万kW)を開所した。
●2017年4月、東急不動産、三菱UFJリース、日本グリーン電力開発の共同出資で、北海道釧路郡釧路町にGSユアサ製コンテナ式リチウムイオン蓄電池システム(出力:1万kW、容量:0.675万kWh)併設のトリトウシ原野太陽光発電所(出力:1.45万kW)を開所した。
●2019年8月、オリックスとソーラーフロンティアは、北海道上磯郡知内町に東芝製リチウムイオン電池(出力:1.25万kW、容量:0.72万kWh)併設の知内メガソーラ20M発電所(出力:2.4万kW)を開所した。
●2022年10月、北海道八雲ソーラーパーク合同会社は、北海道二海郡八雲町にLG化学製リチウムイオン電池( 出力5.25万MW、容量:2.7万MWh)併設のソフトバンク八雲ソーラーパーク(出力:10.23万kW)を開所した。

蓄電設備併設型風力発電所の開設

 大規模な再生可能エネルギー導入が計画されている北海道電力では、2013年に独自の系統接続条件として、特別高圧連系の接続量で40万kWを超えて新たに連系する変動性再生可能エネルギー発電所については、蓄電池設備を発電事業者が設置することによる出力変動緩和対策を義務付けた。

 しかし、再生可能エネルギーの安定化に使われている火力発電や揚水発電に比べて、大型の蓄電設備の導入には多額の費用が必要となる。そのため、再エネ発電事業の採算性を悪化させ、出力変動緩和要件は再エネ導入の阻害要因となり、電力事業での普及は難しいのが現状である。

 2017年3月、北海道電力は「蓄電池募集プロセス(系統側蓄電池による風力発電募集プロセス)」を導入し、大型蓄電設備の導入計画と共に、風力発電16.2万kWの連系を決定した。
 ユーラスエナジーHDやエコパワーなどの風力発電事業者から資金を集め、2022年4月に北海道電力の南早来変電所に需要地点併設型の大型蓄電装置(容量:1.7万kW×3h)を設置する計画である。これにより複数の再エネ発電事業者が蓄電設備を共用でき、事業者の負担は1/3以下に軽減される。
 2021年7月には風力発電43.8万kW分の公募と共に、大型蓄電装置(容量:7.8万kW×4h)の設置を発表した。その後、風力発電40万kW分の公募と、大型蓄電装置(容量:6万kW×4h)の設置を計画する。
 2020年7月、住友電気工業は、北海道電力ネットワークが進めている系統側蓄電池の活用による風力発電の連系拡大で、レドックスフロー電池設備(容量:1.7万kW×3h)を受注し、2020年度中に着工し、2022年3月末までに完工された。

図5 完成したレドックスフロー蓄電池設備

 しかし、2022年2月時点での北海道電力の再生可能エネルギー接続量は、太陽光214万kW(国内シェア15.9%)、風力58万kW(同7.1%)に留まる。そのため資源エネルギー庁は、2023年7月以降に接続検討の受付を行う新規電源については、出力変動緩和要件を求めない方針を示した。

 北海道電力管内の最大需要は500万kW程度、年間平均では350万kW程度と需要規模が小さいため、出力変動緩和対策を義務付けた経緯がある。太陽光・風力発電の増加を続ければ需給バランスが崩れるて再エネ出力制御率は確実に増加する。今後、揚水発電、蓄電設備、系統連系の増強が必須である。

 太陽光発電に比べて、より大規模となる風力発電所に関しては再エネ電源併設型需要地点併設型蓄電設備(一部は蓄エネルギー設備)の両方の実証試験が始められたが、試行錯誤の最中である。

 2023年5月、北海道稚内市から中川町にかけて建設していた共用送変電設備が完成した。同設備は、北海道の北部地域に新設する127基・合計540MWもの陸上風力発電設備を連系する共用送電線と、定置型蓄電池を併設して出力を安定化させる変電設備で、総事業費1050億円である。
 北海道北部風力送電が事業主体で共用送電線は78km、鉄塔269基。北豊富変電所内の定置型蓄電池システム(出力:24万kW、容量:72万kWh)は、千代田化工建設が全体とりまとめ、蓄電池はGSユアサ製LIB、パワーコンディショナーは東芝三菱電機産業システム製、建屋外の受変電設備はABB製。 

●2013年10月、長崎県五島市椛島沖で浮体式洋上風力発電設備(定格出力:2000kW)の実証試験が開始され、2015年4月から水素電力貯蔵の実証試験が並行して進められた。余剰電力による水電解で発生させた水素をトルエンと反応させ、メチルシクロヘキサン(MCH)にしてタンクに貯蔵する。●2016年9月、ドイツのSiemens他は、風力発電の余剰電力を熱に変えて断熱カバーで覆った岩や砕石を堆積させたロックフィルに600℃を超える蓄熱(約2,000㎥の岩石に約3.6万kWh)を行い、必要に応じて蒸気タービンで発電(出力:1500kW)する風力熱発電の実証試験を開始した。
●2019年4月、北海道松前町で東急不動産と日本風力開発が開発を進めていた蓄電池併設型のリエネ松前風力発電所が運転を開始した。Siemens・Gamesa製の風車(定格出力:3400kWX12基)と、日本ガイシ製のNaS電池(容量:1.8万kW)により構成されている。
●2018年10月、北海道北部風力送電が天塩郡豊富に建設中の北豊富変電所(2023年4月商業運転を開始)への、世界最大規模のリチウムイオン電池(出力:24万kW、容量:72万kWh)による蓄電設備納入をGSユアサが受注した。
●2022年9月、北海道ガスはFIP(Feed-in Premium)制度を活用し、石狩LNG基地に隣接して「北ガス石狩風力発電所」を建設すると発表した。ENERCON製の風車(定格出力:2350kW×1基)と、蓄電池(容量:1,500kWh)を併設する。風力発電の出力変動に対して、異なる連系点のガスエンジン発電所(12台、総出力:93,600kW)を調整電源として活用する。

遅れた政府の電力貯蔵対策

 蓄電設備の多くは再エネ電源併設型需要地点併設型が進められてきたが、北海道エリアでは系統に単独で直接接続する系統用蓄電池が設置されるなど多様化が進み、遅ればせながら法規制が行われた。
また、蓄電池をベースにした蓄電設備は高コストのため、短期間での増設が困難と気付いた政府は、既存の揚水発電所の活用にも支援策を打ち出した。

系統用蓄電所の普及対策

電気事業法の改正

 2022年1月、電力の安定供給に向けた電気事業法の改正案が閣議決定された。従来、大規模な蓄電池は、発電所や変電所に併設されるケースが多いため電力会社が管理してきた。今後、再エネ普及で増加する大規模系統用蓄電池を「蓄電所(仮称)」とし、事業者による単独設置を可能とした。

 電気事業法では1万kW以上の発電施設を発電事業としており、蓄電所にも同基準が適用される。発電事業に分類されることで、事業者は国へ工事計画を提出し、事故発生時の報告が求められる。また、電力ひっ迫時に事業者に供給を求めるなど、国や関連機関の影響力を強めるのが狙いである。
 一般送配電事業者に対しては、太陽光や風力など従来の発電設備と同様に、系統用蓄電池の設置事業者から接続の申請があった場合に系統連系の義務を負わせる。連系協議を経て、連系容量や工事費負担金を算定するなど、従来の系統連系に求められるプロセスを経たうえで接続される。

 また、普及促進のため1万kW未満の系統用蓄電池に関しても、系統接続・系統利用に向けた環境整備を進める。1万kW未満のうち、一定規模を超える系統用蓄電池に関しては、需給ひっ迫時に供給力を活用するため、特定自家用電気工作物設置者に含めて国への届出を求める。
 系統用蓄電池が連系されると、充電時には需要設備、放電時には発電所としての性格を持つ。充電時には託送料を不要、放電には託送料金が必要とし、充放電に伴うロス分にも託送料が発生するなどの取り決めが行われた。

収益市場の構築

 一方、系統用蓄電池の収益手段として期待される市場は、電力の需給を調整して報酬を得る「需給調整市場」、電力の供給力を売買する「容量市場」、翌日の電力量を取引する「卸電力市場」である。

「需給調整市場」は調整力を提供するまでの時間などを基準に5区分される。今は15分以内に対応できる調整力までで、2024年からは10秒以内や5分以内に対応できる調整力の売買が始まる。系統用蓄電池は瞬時に電力を調整できるため、企業が特に期待している。
「容量市場」は将来の発電能力を売買しており、2020年からオークションが開始されている。一定の出力を確保できる系統用蓄電池が増えれば、電力小売事業者は数年先の夏や冬の電力需要期をにらみ、あらかじめ必要な電力を手当てしやすくなる。
「卸電力市場」は30分ごとに電力を取引する。最近では発電所トラブルなどが起きると市場価格もすぐに急騰する。系統用蓄電池を使えば、市場価格が安い時間帯に電力を買って貯めることができ、高い時間帯に売ることができる。

 系統用蓄電池は、日本では一般送配電事業者(系統運用者)や再エネ発電事業者が所有しているが、英国ではそれ以外の事業者が単独で設置して系統連系する。卸電力市場での裁定取引のほか、系統安定化を目的とした需給調整市場や電気の品質を維持するアンシラリー市場などで収益を上げている。

 ところで、2023年2月の有識者会議で送電網と接続して余剰電力を貯める系統用蓄電池の普及状況に関する調査結果が初めて示された。2023年1月末時点で、送配電会社に接続契約を申し込んだ分が70万kW、検討中が880万kWであるが、実際に接続済みの蓄電池は0.3万kWと未だ寡少であった。

 2023年4月、再生可能エネルギーの拡大に不可欠な蓄電池が普及期に入ったと報じられた。2023年に世界で新たに追設される容量は前年比87%増の30GWで、この5年で約10倍になった。リチウムイオン電池の価格が5年で6割も安くなり、各国政府による多額の補助金が下支えした結果である。
  米調査会社ブルームバーグNEFの集計によれば、国を挙げて再エ導入を進める中国が首位で、2022年には2021年比2.3倍となる5.6GWの蓄電池を新たに導入してシェア34%を占め米国の28%を超えた。欧州でも大規模な蓄電所の建設が相次ぎシェア27%を占めた。日本のシェアは2%にとどまる。

 ブルームバーグNEFによると、世界の蓄電池の追設容量は2030年に世界で87GWに達するとみられる。2030年まで平均23%/年で拡大する見通しで、日本も再エネ導入の速度に合わせて蓄電池の導入を加速する必要がある。実証試験で先行した日本であるが、またしても商用化段階で遅れをとった。

図6 蓄電池市場は米中欧が牽引し、日本は2%に過ぎない 

 2023年5月、ダイヘンはユーラスエナジーホールディングスが2023年12月に稼働する福岡県田川市の系統用蓄電所「ユーラス白鳥バッテリーパーク」に蓄電装置(出力:1500kW、容量:4580kWh)を納入した。蓄電池はGSユアサからLIBを調達し、出力調整など独自のシステムを組み込んでいる。

 2023年8月、ENEOSは、送配電網に直接つないで充放電する系統用蓄電池事業に参入すると発表した。既に根岸製油所(横浜市)で蓄電池の運転を始めており、2023年度に石油運搬拠点の室蘭事業所(北海道室蘭市)、2025年度に千葉県市原市にある子会社の製油所に蓄電池を設置する。
 3地点の合計で出力:約15万kW、容量:30万kWhであり、外部から仕入れた電気をため、各拠点で使うほか他社に売ることも想定する。

 2023年9月、住友商事はBSホールディングスを通じ、福島県浪江町に「バッテリーステーション浪江」を整備する。2024年8月に稼働、2025年度に需給調整市場での取引を目指す。産業団地内に建屋(床面積:470m2)を設け、EVから回収した蓄電池約350台を収納し、出力:1500kWである。

揚水発電所の維持・更新

 2023年2月、経済産業省は揚水発電所の維持や更新を支援すると公表した。2022年9月時点で、揚水発電所は国内の42地点に合計出力:2747万kWの発電能力があり、老朽化した施設の維持を進める。
 揚水発電所は2030年までに約250万kW分が建設から60年ほど経過し、運転停止や廃止のリスクが高まる。電源維持に向け、経済産業省は事業者の投資額の1/3までを補助する。

 天候を予測する人工知能(AI)の導入を支援する。数日先が好天で太陽光の発電量が多くなると予想される場合、事前に水を下部調整池に落として汲み上げに備え、設備の稼働率を上げる。
 また、新設はダム建設を伴うため工費が巨額になることから、老朽機器の取り換えなどでサイクル効率向上を図ったり、新規開発の可能性を調査したりする事業者にも1/3を上限に補助金を出す。

 当面、既存設備の更新(リプレース)を重点的に支援する。具体的には、2023年度に導入予定の「長期脱炭素電源オークション」も活用する。また、更新に伴い原則20年間にわたり発電事業者の収入を保証するなど、事業者が発電所の長期的な投資回収の見通しを立てやすくする。

 2024年5月、中国電力の揚水発電所「俣野川発電所(1986年稼働、出力:120万kW)」が大規模改修工事を進めている。2024年2月から改修工事を始め、同7月までの計画である。揚水式発電は全国に44カ所あり、中国電力によると6番目に大きく西日本最大級の施設である。  

系統用蓄電所の課題と実証事業

蓄電設備導入の課題

低コスト化

 蓄電設備導入の最大の課題は低コスト化である。エネルギー基本計画では産業用蓄電池の発電コストを約24万円/kWh(2019年度)から、6万円/kWh程度(2030年度)に下げる目標を掲げている。EV用蓄電池のリユース安価な中国産蓄電池の導入の声が聞こえるが、具体的な方策は見通せない。

送電線の運用

 一方、蓄電設備と需要地点を結ぶ送電線の空きが少ないのも重要課題である。再エネ大量導入に向けた系統整備/調整力の確保のため、電気事業法の改正により北海道エリアでは系統に単独で直接接続する「系統用蓄電池」が増加し、送電線の運用容量の制約による系統混雑の発生が懸念されている。
 北海道エリアでの系統用蓄電池の接続検討申込は、2022年7月末時点では61件/160万kWに上る。これは、北海道エリアの年間平均電力需要(約350万kW)の半分に迫り、北本連系設備60万kW、新北本連系設備30万kW、新々北本連系設備(2027年度末運開予定)30万kWの合計120万kWを上回る。

 2023年度に開始が予定されている「長期脱炭素電源オークション」では、最低入札容量は原則10万kWであるが、蓄電池は例外的に1万kW(送電端設備容量ベース、放電可能時間3時間以上)の予定である。しかし、1万kW蓄電池の建設費は16億円程度と試算され、実際に何件が接続されるか未定である。

止まらない再エネ出力制御

 一方、2022年2月時点、北海道エリアでは再エネ272万kW(太陽光214万kW、風力58万kW)が導入され拡大基調にある。2020年度の年間最低電力需要である226.5万kWを超える再エネ導入量であり、2022年度から晴天の低負荷日では再エネ出力制御が開始されている。

 再生可能エネルギーの大量導入に向けて動き出す一方で、再エネ出力制御が常態化するのは矛盾であることに早く気が付く必要がある。また、出力制御を抑制するため高コストの系統用蓄電装置の導入拡大を目指しているが、その技術実証が重要である

実証事業&事業参入

 2022年の電気事業法の改正を受けて、系統用蓄電池の実証事業・事業参入の発表が相次いでいる。しかし、現時点で導入された系統用蓄電池の総出力は数万kW程度に留まっている。

 2023年12月、経済産業省は大型蓄電池設置への補助を拡充すると報じられた。新電力や再エネ事業者などの投資金額の1/3から半額程度を補助し、複数年(2〜5年)にわたり支援できる新制度をつくる。2024年度予算案に数百億円を盛り込むとした。
 内閣府によると、再エネ出力制御は4〜9月に大手電力各社で計194回を数え、前年同期の3倍に増加しており、事態は東京電力管内を除く全地域に広がっている。 

●2022年2月、ミツウロコグループHDは、北海道北広島市に系統用蓄電所「北広島第一、第二蓄電所」の建設を発表。テスラ製大型蓄電設備「Megapack」(出力:3085.6kW、容量:1.2192万kWh)を採用し、ミツウロコグリーンエネルギー電力需給部が遠隔制御。2023年運用開始を目指す。
●2022年6月、住友商事は日産自動車と共同出資するフォーアールエナジーと協業し、北海道千歳市で2022年度に大型蓄電設備(出力:6000kW、容量:2.3万kW)の建設を開始する。福島県浪江町での系統用蓄電池の実証結果を基に、EV約700台分を束ねた蓄電設備を2023年度に稼働する。
●2022年6月、九州電力、NTTアノードエナジー、三菱商事は、太陽光発電の出力制御を蓄電池で行う実証事業の開始を発表。2023年2月に補助金で蓄電設備(容量:4200kWh)を設置し、福岡県田川郡で系統線に接続して再エネ出力制御の抑制への効果や事業性を確かめる。
 九電グループは、既に九州電力送配電が豊前発電所の敷地内に蓄電池変電所(容量:30万kWh)を設置した他、長崎・鹿児島の離島4島で蓄電池(容量:約1000kWh)を設置している。
●2022年7月、オリックスは関西電力と共同で、2023年度以降の系統用蓄電池事業へ参入する。蓄電設備の合計出力は数万kWの見通しである。オリックスが出資する地熱発電大手の米国オーマット・テクノロジーズは系統用蓄電池も運用しており、その知見も生かして日本市場の開拓を目指す。
●2022年8月、東邦ガスは津LNGステーション跡地に系統用蓄電池を導入すると発表。日本ガイシ製コンテナ型NaS電池48台(出力:1.14万kW、容量:6.96万kWh)を設置し、自社の調整力とともに、需給調整市場、日本卸電力取引所、容量市場に参入する。2025年度の運用開始を目指す。
●2022年8月、九州電力は、福岡県大牟田市で使用済みリチウムイオン電池を再利用した系統用蓄電所「大牟田蓄電所」(出力:1000kW、容量:3000kWh)の運用を開始し、NExT-e Solutionsと共同で運用すると発表した。
●2023年6月、大阪ガスは伊藤忠商事や東京センチュリーと共同出資で、系統用蓄電池事業へ参入。蓄電所(出力:1.1万kW、容量:2.3万kWh)を大阪府吹田市に設置し、2025年度上期の稼働を目指す。大阪ガスが蓄電所の運用や電力取引、伊藤忠が蓄電池の調達やメンテナンスを担う。
 NEDO助成事業としてトヨタ自動車九州の宮田工場で電動フォークリフトに使用されていたNExT-e Solutions開発の電池パック108個を回収、再生処理を施して再利用する。蓄電所の所有や維持・管理はNExT-e Solutions、九州電力は電力市場での売買などを支援する。
●2023年8月、パワーエックスとウエストホールディングスは、蓄電所および太陽光発電所の開発・運用での協業を発表。パワーエックスは2025年春までに中規模蓄電池所(容量:20万kWh)を整備し、自社製AIで蓄電所運用によりコーポレートPPA方式で供給、卸電力市場などの電力取引を行う。ウエストグループは、パワーエックスを引取先とする太陽光発電所(出力:3万kW)を開発する。
●2023年8月、三井E&Sは蓄電池や電気運搬船の開発を手掛けるパワーエックスとの協業を発表した。子会社の三井造船特機エンジニアリングが、三井E&Sの玉野事業場で20フィートコンテナ型の定置用蓄電池を生産するための協力工場になる。
●2023年7月、東急不動産は、子会社リエネを通じて伊藤忠商事・東京センチュリーが共同出資するIBeeTと新会社「御徳蓄電所合同会社」を設立。経済産業省の補助金を活用して、福岡県小竹町御徳地区で御徳蓄電所(出力:2万kW、容量:5.6万kWh)を設置し、2025年度に運転開始する。
 東急不動産とリエネが運営する「直方太陽光発電所」(出力:2.32万kW)の近接地である。
●2023年8月、東急不動産は東京都の助成事業で、埼玉県東松山市に「TENOHA東松山蓄電所」を設置する。パワーエックスの蓄電池システム(出力:1800kW、容量:4900kWh)を国内で初めて採用し、2024年度に運転を開始する。
 東急不動産、伊藤忠商事、パワーエックス、自然電力の4社はパートナーシップ契約を締結。●2023年8月、東急建設は相模原工場内に「相模原蓄電所」(出力:1999kW、容量:4064kWh)を設置し、2024年4月に運転を開始する。
●2023年9月、日本ガイシはスタートアップのSustech(サステック)と蓄電所の運営に乗り出す。NAS電池を送電網に直接接続した系統用蓄電所を国内に設置し、2024年度中の運転開始を目指す。卸電力市場のほか、容量市場、需給調整市場での取引を通じて収益をあげる計画。
●2023年9月、ミツウロコグリーンエネルギーは、ミツウロコ愛知県田原蓄電所(出力/容量 1,500kW/6,000kWh)を開所した。所有していた風力発電所の老朽化に伴い風力発電所を撤去し、既存の系統枠を利用した。
●2024年2月、東北電力とみずほリースは埼玉県熊谷市、群馬県伊勢崎市、同県太田市に、それぞれ容量:約7000kWhの蓄電所を設置すると発表。運営会社を4月に立ち上げ、2025年2月~6月にまでにかけて運転を開始する。総工費は約16億円で、このうち約13億円を東京都の助成金で賄う。
●2024年4月、住友電工はレドックスフロー電池(容量:160kWh)を大成建設系の成和リニューアルワークスに納入し、運用が開始された。埼玉県内の施設に新設した太陽光発電設備向けで20年以上の耐久性があり、同施設内の再生可能エネルギー由来の電力比率は約60%になる。

揚水発電所の稼働状況

揚水発電とは?

 一般に揚水発電には、回転方向を変えることでポンプにも水車にも使えるポンプ水車が採用される。
 原理は、導水路の下部調整池側に水力発電所(ポンプ水車)を配置し、必要な時に上部調整池から下部調整池に水を流下させてポンプ水車で発電する。余剰電力が生じた時に、下部調整池から上部調整池にポンプ水車を逆回転させて水をくみ上げる(揚水を行う)。

図8 必要な時(昼)に下部調整池に水を流して発電する揚水発電所 
(出典:電気事業連合会)

 1970年代以降に原子力発電所が増加すると、出力変動運転の苦手な原子力発電所の夜間の余剰電力を貯蔵する目的で、電力系統に連系して一定の回転速度で運転する定速揚水発電機の設置が進められた。

 2011年の東日本大震災以降、再生可能エネルギーの固定価格買取 (FIT) 制度の導入で、出力変動の顕著な太陽光・風力発電が急増したために、その対策として揚水発電の利用が増加している。特に、昼間に太陽光発電の電力を利用して揚水を行い、夜(点灯帯)に発電する機会が急増している。
 また、揚水発電は起動停止に要する時間が数分と短いため、他の発電所や送電線の事故や不測の事態により電力需要ひっ迫が生じた場合に、緊急に発電することも重要な役目である。 

低い設備稼働率

 資源エネルギー庁によれば国内には44カ所の揚水発電所があり、総計で最大出力: 2755.75万kWである。2022年3月時点での国内の主な電力会社が保有する揚水発電所の最大出力、発電量、設備稼働率を図8に示す。【設備稼働率(%)=発電量(kWh)/最大出力(kW)/8760(h) 

 休止中を除く揚水発電所は総最大出力:約2300万kWで、東京電力HDを筆頭に関西電力、中部電力、九州電力の順に最大出力が大きい。しかし、設備稼働率は最も高い九州電力でも7.5%で、東京電力は6.4%、関西電力は2.9%、中部電力は3.7%、東北電力は2.6%と低い。

 揚水発電の設備稼働率は低く、明らかに有効利用が行われているとは言い難い。この理由の一つに揚水発電のサイクル効率(50~80%)があげられる。蓄電池充放電のサイクル効率(75~90%)に比べると、揚水時のエネルギーロスが20~50%と大きいのである。

 今後の揚水発電の増設については、2023年以降に北海道電力の京極発電所20万kW、東京電力の葛野川発電所40万kW、神流川発電所188万kWが予定されている。しかし、真の再エネ導入拡大を目指すのであれば、さらなる揚水発電の増設も望まれるが、維持・更新と設備稼働率向上が現実解であろう。 

図9 電力会社の揚水発電の最大出力、発電量、設備稼働率の比較(2022年3月)
出典:資源エネルギー庁の電力調査統計表

 図9には、2022年9月時点における主要電力会社の再エネ導入量(太陽光+風力導入量、自社発電分と管轄地域の発電分を含む)と再エネ出力制御の長期見通しの算定に用いられた各電力会社が示す評価出力(揚水発電+蓄電池+連系線活用)、ならびに出力比(評価出力/再エネ導入量)を示す。

 再エネ導入量東京電力(内太陽光発電は98%)がトップで、続いて九州電力(95%)、中部電力(97%)、東北電力(80%)、関西電力(98%)、中国電力(95%)の順であり、国内の総再エネ導入量(最大出力:7266kW)の内、太陽光発電は93%を占めている

 評価出力は、揚水発電は補修作業・計画外停止による1台停止を考慮した出力、蓄電設備の出力(導入は北海道1.5万kW、東北4万kW、九州5万kW)、連系線活用の出力(北海道58万kW、東北162.3万kW、北陸115万kW、中国150万kW、四国180万kW、九州124.4万kW)の合計である。

 出力比(評価出力/再エネ導入量)が高いほど、再エネの出力変動を吸収できるレベルが高い。図9から、再エネ出力制御対策が進む北海道電力、東京電力、北陸電力、関西電力、四国電力に比べて東北電力、中部電力、九州電力、沖縄電力は対策遅れが見える。

図10 電力会社の変動再エネ導入量と安定供給可能な電源出力の比較(2022年9月) 
出典:資源エネルギー庁

再エネ用の揚水発電所は?

進まない揚水発電所の維持・更新

 2023年1月、九州電力は再生可能エネルギーを有効活用するため、揚水発電所を新設する方針を固めたと報じられた。投資額は数千億円規模で、2023年から宮崎・大分を中心に候補地を選定し、10年以内の運転開始を目指す内容であった。しかし、九州電力は正式決定には至っていないと表明した。

 2023年2月、経済産業省は揚水発電所の維持や更新を支援すると公表したが、その後、電力会社などの具体的な動きは報告されていない。今後の揚水発電所の更新や新設に期待したい。

定速揚水発電機と可変速揚水発電機

 ところで、原子力発電所の夜間電力貯蔵に比べて、出力変動の顕著な太陽光発電所や風力発電所の電力貯蔵では、同じ電力貯蔵であっても状況は大きく異なる
 すなわち、九州電力では太陽光発電の大量導入により、周波数が短期で大きく乱れる現が多発している。四国・中国・東北・北海道電力でも同様な状況にあり、発電時のみ周波数調整が可能な定速揚水発電機では十分な対応が困難で、各電力会社は火力発電所の待機運転で対応している。

 そのため、短期周波数の調整に優れた可変速揚水発電機が注目されている。
 定速揚水発電機では、発電運転時には電力系統への出力を定格出力の数十%まで調整することができるが、揚水運転時には電力系統から発電電動機への入力を調整することができない。可変速揚水発電機では、発電運転時だけでなく揚水運転時でも自動周波数制御装置により周波数調整ができる。

 しかし、国内の可変速揚水発電所は総最大出力:392万kW(停止中を除く)で、全揚水発電所の17%程度に過ぎない。各電力会社の保有量と保有率は、北海道(60万kW、75%)、東京(70万kW、9%)、関西(112万kW、23%)、九州(120万kW、52%)、電源開発(30万kW、6%)である。
 その他の電力会社は、可変速揚水発電所を保有していない。 

図11 従来型揚水発電システムと1990年に実用化された可変速揚水発電システム 
出典:東芝技術資料

可変速揚水発電所への改修

 現在、揚水発電には太陽光発電や風力発電の「出力変動の吸収」に加えて「短期周波数の調整機能」が求められている。これらが実現できれば「再エネ出力制御を抑制」し、「火力発電所の待機運転停止することが可能となる。

 可変速揚水発電は、系統安定化に大きな役割を果たす。実際に、可変速揚水発電の保有率の高い北海道電力(保有率:75%)と九州電力(保有率:52%)に比べて、保有しない東北電力、中部電力、中国電力と関西電力(保有率:23%)の設備稼働率は低いことが、図8からも明らかである。

 今後、原子力発電の再稼働に向けて温存している定速揚水発電を、早い段階で電力系統の瞬間的な電力調整も可能で高効率な可変速揚水発電に改修して設備稼働率を上げ、真の再生可能エネルギー拡大を目指す必要がある。

2023年4月に起きた出力制御

 2023年4月7日、中部電力パワーグリッド北陸電力送配電は、一部の太陽光・風力発電事業者の稼働を一時停止する再エネ出力制御を実施する予定を発表した。需給バランスが崩れれば、停電リスクがある。日本でも出力制御が大都市に広がる事態となり、送電線増強など対策を急ぐ必要がある。

 2023年4月8日、中部電力パワーグリッド北陸電力送配電は、再生可能エネルギー発電事業者に対して出力制御の指示を出した。出力制御は2018年に九州電力管内で離島以外では初めて行われ、その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力エリアで毎年のごとく実施されている。

 今回は、中部電力のように電力需要が大きい大都市を抱えるエリアで起きたことで注目を集めた。まだ、大丈夫と思われていた電力需要が大きい東京、関西エリアにおいても再エネ出力制御が起きる可能性が垣間見えたのである。

 中部電力パワーグリッドは、2023年4月8日(土)8時~16時に最大41万kWの出力制御を予定していたが、予想外に雲が広がり、13時00分~13時30分に太陽光0.4万kW(15件)の出力制御に留まった。また、翌日9日(日)13時00分~13時30分には、59.3万kWの出力制御を実施した。

 北陸電送配電は、2023年4月8日(土)13時00分~13時30分に、14万kWの出力制御を実施した。内訳は太陽光11万kW(182件)、風力3万kW(9件)である。翌日9日(日)にも出力制御を実施した。揚水発電を持たないため、他電力への送電で対応できずに再エネ出力制御に至った。

 関西電力送配電は、2023年6月4日(日)午前9時~午後1時半に、関西エリアで初となる再エネ出力制御を実施した。33万〜57万kWの太陽光・風力発電所の停止を実施した。

再エネの無駄をなくすには?

 結局のところ、再エネ出力制御は発電した再生可能エネルギーを捨てることであり、誠にもったいない話である。既に常態化が始まっており、再エネ出力制御を減らす方策はないのか?次に、今回の中部電力パワーグリッドの例を参考に考えてみる。

中部電力パワーグリッドの例:
 2023年4月8日(土)8時~16時に最大41万kWの出力制御を予定していたが、予想外に雲が広がり、13時00分~13時30分に0.4万kWの出力制御に留まった。
 週末で①電力需要が1201.4万kWに減る中で、好天のために太陽光発電による電力量が665.4万kWに達して②電力供給量は1295.4万kWに上昇した。③他電力への送電は0kW④93.6万kWを揚水発電で電力貯蔵したが、⑤0.4万kWが余剰となり太陽光発電の一時停止(15件)に至った。
  ②電力供給量ー①電力需要ー③他電力へ送電ー④揚水発電 =再エネ出力制御・・・・・(1)
 (1295.4万kWー1201.4万kW ー 0万kW ー 93.6万kW=0.4万kW)

 (1)式から分かるように、②電力供給量と①電力需要が一致すれば、何も問題は起きない。しかし、②電力供給量が①電力需要を上回った場合に、③他電力への送電、④揚水発電などにより調整が行われるが、それでも調整が出来ない場合に再エネ出力制御が行われるのである。

図12 太陽光発電が主体となる場合の1日の電力需要と電力供給の状況

 再エネ出力制御をゼロにする施策:
■②電力供給量の低下 ➡ 出力制御が技術的に困難とされている水力・原子力・地熱+火力の抑制
■③他電力への送電量の増加 ➡ 送配電網の整備と容量増加
■④揚水発電など電力貯蔵の増強 ➡ 大規模電力貯蔵システムの開発、小中規模蓄電設備増加

②電力供給量の低下

 国内では石炭火力発電原子力発電を一定出力で運転するベースロード電源と位置づけており、起動・停止に時間を要するため出力制御には適さない。そのため電力供給量の調整は、主に短時間での出力制御が容易なLNG火力発電(完全にゼロにはできない)が担っている。

 しかし、石炭火力発電原子力発電も、経済性を考慮しなければある程度の出力抑制は可能である。特に、石炭火力発電の出力抑制は短期的に実現可能な対策であり、CO2排出量の抑制にもなる。ベースロード電源の運営の考え方を再考する必要がある。

再エネ出力制御が相次ぐ中、経済産業省から出された新たな方針:
2023年5月、経済産業省は、2024年度以降に新設する火力発電所を対象に、出力を現行の50%から30%まで抑制できる設備とするよう義務付けると発表した。有識者会議で火力発電所の新たな運用ルールを示し了承された。今後、関係するガイドライン(指針)の改正を行う。

③他電力への送電量を増加

 欧州では国境を越えた送電網の整備が早くから進められてきた。発電業者と送配電業者が明確に分かれている場合が多く、送配電業者は広く送電できた方が収益が上がるためである。

 一方、日本では2016年の電力小売り全面自由化まで、大手電力会社がそれぞれのエリア内で発電と送配電を独占的に運営してきた。そのためエリアを超えた送電の必要性が低く、さらに東西で電気の周波数が異なることも原因して、エリア間の送電網の整備が遅れている。

 政府は再生可能エネルギーの大量導入を実現するため、送電網の増強を打ち出している。2050年までの送配電網の整備計画をまとめ、約6兆〜7兆円を投資して北海道と本州などを結ぶ地域間連系線など6カ所で容量を増やす計画である。しかし、具体的なスケジュールは未定である。(詳細はⅦで)

④揚水発電など電力貯蔵の増強

 揚水発電は原子力発電の夜間の余剰電力を貯蔵するために設置された。そのため出力変動の顕著な太陽光・風力発電所とは、同じ電力貯蔵であっても状況は大きく異なる。電力会社では太陽光発電の大量導入により周波数が短期で大きく乱れる現象が多発し、LNG火力発電所の待機運転で対応している。

発電時のみ周波数調整が可能な従来の定速揚水発電機では対応が困難なため、短期周波数の調整に優れた可変速揚水発電機が注目されている。2023年2月、経済産業省は揚水発電所の維持や更新を支援すると公表したが、その後、電力会社などの具体的な動きは出ていない。

 一方、 2022年1月には電気事業法の改正が行われ、大規模系統用蓄電池の普及支援が始まっている。しかし、蓄電設備導入の最大の課題は低コスト化蓄電設備と需要地点を結ぶ送電線の空きが少ないのが課題であり、実証事業は始められたが本格的な導入は始まっていない。

 揚水発電を含む大規模電力貯蔵システムの開発や、高コストである大~中小規模の蓄電設備の普及は明らかに遅れている。蓄電設備が普及しなければ、電気使用のピーク時間帯をずらす「デマンドレスポンス(DR)」対策も行えない。

送電網の整備と増強

 東日本大震災時の反省を踏まえて、脆弱な地域間連系線の送電容量を増強する動きが北海道―東北連系線東京ー中部連系設備東北ー東京間連系線中国ー九州間連系線において進められてきた。

地域間連系線の送電容量増強

図13 地域間連系線の送電容量 
出典:資源エネルギー庁「電力ネットワークの次世代化」2020.8.31

■北海道―東北連系線

 地域間連系線は、北海道―東北間が60万kW中部―北陸間の30万kWと他の地域間連系線に比べて送電容量が低かった。津軽海峡や日本アルプスに隔てられ、長距離送電が技術的・経済的に困難な地域で、送電損失が少なく建設コストを抑制できる直流送電の増強が進められている。

 特に、風力発電の立地が豊富な北海道から電力需要の多い本州への送電容量の増強は重要で、北海道と本州を結ぶ北本連系設備の増強は再生可能エネルギーの導入・拡大の鍵となる。2019年3月に新北本連系設備が運用開始し、送電容量は60万kWから 90万kWに増加された。

 新北本連系設備は、北海道の北斗変換所と青森県の今別変換所、両変換所間を結ぶ約122kmの直流送電線で構成され、交流を一度直流に変換して送電する高圧直流送電システム(HVDC:High Voltage Direct Current transmission system)に日本で初めて自励式変換器が採用された。

 打つ手が遅れ、2018年9月6日に発生した「平成30年北海道胆振東部地震」には間に合わなかった。その結果、北海道全域の大規模停電”ブラックアウト”を引き起こした。その後、2028年3月運用を目指して、新北本連系線は現在の90万kWから120万kWへの増強が決定している。

■東京ー中部連系設備

 東日本大震災の時に50Hz⇔60Hz周波数変換設備は、東西の電力連系の弱点であることが露呈した。この東京ー中部連系設備は、容量:60万kWの新信濃周波数変換設備(FC:Frequency Converter)、30万kWの佐久間FC、30万kWの東清水FCで構成され、総容量:120万kWと低目であった。

 2015年5月、政府は大規模災害発生時の電力安定供給確保に向けてFC増設を決定した。2021年4月に新信濃FCが90万kW増強されて210万kWの運用が始まった。さらに2027年度末を目指し、佐久間FCで30万kW、東清水FCで60万kWの増設を決定し、総容量:300万kWを目指している。

■東北ー東京間連系線

 再生可能エネルギーの拡大南海トラフ地震などの巨大災害に備えるとして、東北と関東を結ぶ連携設備(東北-東京間連系線)は、最新の報告では2ルート化により現状の605万kWから2027年を目標に1028万kWに増強する計画が、2027年11月運用を目指して進められている。

■中国ー九州間連系線

 九州電力は豊富な太陽光発電を、中国ー九州間連系線(関門連系線)238万kWを使って送電している。しかし、他地域へ送る電力量を拡大するには、関門連系線の事故などが発生した場合でも電気のバランスを保てることが必要で、瞬時に発電機を停止させる転送遮断システムを開発した。

 2019年4月から転送遮断システムの運用を開始し、九州から他地域への送電可能量を最大30万kW拡大した。しかし、九州電力での再エネ出力制御は常態化しており、送電容量の増強が必須である。

新送電網の整備計画

 しかし、再生可能エネルギーの導入速度には追いつけず、再エネ出力制御が常態化するに至った。政府は再生可能エネルギーの大量導入巨大災害への耐性向上を実現するため、2050年までの送配電網の整備計画(新送電網の整備計画地域内送電網の増強)をまとめ約6兆〜7兆円の投資を決定した。

 2021年8月、政府は北海道と本州を結ぶ直流の送電線を海底ケーブルで整備し、2030年度までに風力発電を中心に首都圏に送電する計画を示した。エネルギー基本計画の原案で、2030年度の総発電量に占める再エネ比率を36~38%にするという計画に対応するための施策である。

 海底ケーブルは約800kmの長さで、北海道から日本海側を経て北陸周辺に通す案と太平洋側を通す案があった。送電容量400万kWとして整備費は1兆円を超える。2022年度予算の概算要求に調査費を盛り込み、2023年度にも事業者を決めると発表した。

 費用は電気料金に上乗せし、全国の消費者が負担する再生可能エネルギー向けの賦課金などで賄われる。経済産業省は送電網の増強にあたり、新たに陸上に整備するよりも直流送電で海底ケーブルを使った方がコストを抑制できるとしており、今後、九州から関西圏への海底送電も検討を進める。

 2022年7月、経済産業省は洋上風力発電の導入が進む北海道や東北で発電した電気を東京に送るため、日本海側を通る200万kWの新しい海底送電線の整備計画の策定に入ることを公表した。今後2年間で電力広域的運営推進機関が詳細な計画を作り、2030年度までの運用開始を目指す。
 併せて、九州と本州を結ぶ送電線(関門連系線など)の増強計画も策定する。

図14 電力ネットワークの次世代化、2022年12月6日 
出典:資源エネルギー庁
 

地域内送電網の増強と運用

 風力ポテンシャルの高い北海道・東北エリアは、これまで電力需要が少なかったため、地域内電力網が脆弱なため、再エネ発電事業者が送電網に接続できる送電量が限界に達していた。そのため経済産業省は、2013年度から北海道・東北地域内の送電網整備を開始した。

 具体的には、風力発電の集中整備地区として北海道北部名寄地区と東北地方の下北半島津軽半島秋田県の沿岸山形県の酒田・庄内地域が指定され、それぞれの地域で商社などの風力発電事業者が風力発電の送電会社を設立して送電網を整備し、その整備費の半分を国が補助する。

 送電網の利用料を送電会社が徴収して投資資金を回収する「有料道路方式」で、大手電力会社に振替供給を行う事業である。J-Power(送電線路亘長こうちょう:2,407.9km)北海道北部風力送電(北海道北部:77.8km)福島送電合同会社(福島県ルート:約75km)が送電事業許可を得ている。

 2018年10月、ユーラスエナジーHD系の北海道北部風力送電が1050億円を投じて、稚内恵北開閉所と開源開閉所から新設する北富豊変電所を経由し、北海道電力の設備までの77.8kmに域内送電網の新設計画を発表した。合計で出力60万kWの送電を可能とし、国から4割の補助を受け、2023年3月に運転を開始した。
 送電線は北電ネットワークの西中川変電所と接続し、さらに各所へと送られる。また、出力制御の影響を最小化するため、2023年4月には道北の豊富変電所には蓄電設備が稼働した。リチウムイオン電池の出力:24万kW、容量:72万kWhは世界最大級である。

 2020年1月、福島送電は福島県沿岸部及び阿武隈山地における再生可能エネルギーの導入拡大に向けた送電網の増強を図るため、共用送電線網(総延長:約80km)の設計及び建設工事を進めており、設備の一部竣工により新設の太陽光発電所との接続を開始した。

送電網整備の課題

■送電網整備には長期間・膨大な費用を必要とするため、明確な長期展望が不可欠である。再エネ出力制御が常態化している現状を考えると、明らかに送電網整備は遅れた。政府は2050年までの送配電網の整備計画をまとめ約6兆〜7兆円の投資を決定しているが加速が必要である。 

■また、送電線の初期費用負担が風力発電事業者にとって深刻な問題となっている。日本の送電網は大手電力会社が保有し、新設の場合には発電事業者が工事代の一部を負担する必要がある。欧州では電力料金を通じて社会全体が負担するため、発電事業者の費用負担は日本の1/3.5程度である。

 2018年4月、政府は老朽化した送配電網の維持・更新・拡充を進めるため、大手電力会社が送配電網の利用料として徴収する託送料金を、電力小売り業者に加えて再エネ発電事業者にも負担を求める制度改革の検討を始めた。再エネ推進の妨げとなるため再考する必要がある。
 発電事業者は送配電網に接続する時に初期費用を負担する。新制度ではこれは軽減されるが、新たに託送料金を支払う。発電事業者の負担が増えれば、再エネの普及を妨げることになる。

■日本の基幹送電線の実際の利用率は全国平均で19%程度と低い。現状稼働していない原子力発電所や火力発電所がフル稼働することを想定しているためである。この送電線の空き容量を実態に近い値に設定することで、短期間で設置コストの削減や再生可能エネルギーの導入加速が可能となる。

送変電機器の開発動向

 高圧直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current)は電力系統間で送電するための技術で、送電側の電力を交流から直流に変換して送電し、受電側で交流に戻して電力を使用する。長距離送電に適しており、周波数が異なり直接交流で接続できない系統間の連系に適している。
 今後、再生可能エネルギーの拡大や電力システム改革の進展に伴い、洋上風力発電所との連系や送電系統の広域的連系などでHVDCの導入が本格化する。

高圧直流送電(HVDC)

 2016年10月、日立製作所とスイスのABBが、国内向け高圧直流送電(HVDC)の合弁会社を設立した。日立製作所が受注するHVDCプロジェクトに、ABBが持つ最新技術を導入するのが目的である。

 2020年7月、日立製作所が合弁電会社の株式の80.1%をABBから約7400億円で買収し、スイス・チューリッヒを本社とする「Hitachi ABB Power Grids Ltd」を設立し、残り19.9%も2023年以降に取得すると発表した。同10月には社名を「Hitachi Energy Ltd.」に変更している。

 日立製作所によれば、2020年のパワーグリッド市場規模は約1000億米ドル、中でも予兆保守や分散電源、資産最適化などのデジタル化市場に高い伸びが見込まれている。2021年6月には浮体式洋上風力発電所向け変圧器の提供を開始した。

 2021年3月、東京ー中部間連系プロジェクトの最初の計画である中部電力パワーグリッド飛騨変換所「飛騨信濃周波数変換設備」が運用を開始した。HVDC技術の採用で電力安定供給に貢献し,平常時には東日本と西日本をまたぐ電力取引に重要な役割を果たしている。

図15 中部電力パワーグリッド飛騨変換所飛騨信濃周波数変換設備

 一方、2017年3月、住友電気工業とドイツのシーメンスが電力インフラ事業での提携を発表。再生可能エネルギーの普及や開発途上国の電力需要の伸びを受け、世界的に大規模送電網の整備が進む中で、住友電気工業の送電線とシーメンスの電力変換装置(コンバータ)を電力会社に一括提案する。
 両社によるコンソーシアムは、インド送電公社から同国で初めて導入される高電圧直流ケーブルを含む高圧直流送電(HVDC)システムを受注した。

 2021年9月、同コンソーシアムは、グリーンリンク(Greenlink Interconnector )より、英国ーアイルランド間の国際連系送電システム建設プロジェクト向けに、±320kV高圧直流送電システムをEPC契約で受注した。2022年に着工し、2024年にシステム引き渡しの予定である。

 2023年5月、日立製作所子会社の日立エナジーは、再エネ開発事業者のパターン・エナジーから高圧直流送電(HVDC)を2基受注し、2025年末までに納入する。ニューメキシコ州サンジア風力発電所(350万kW)の試運転を2026年に始め、最大300万kWを885km離れたアリゾナ州の消費地に送る。

 2023年5月、日立製作所は、サウジアラビアで建設が進むスマートシティー「NEOM(ネオム)」向けに、サウジアラビア電力公社からHVDC変換所を2基を受注した。ネオムの工業都市オキサゴンに、650km離れたサウジアラビア西部の都市ヤンブーから電力を供給する。

 2023年6月、日立製作所は、スペインとフランスの送電事業社が設立したイネルフェからHVDC設備を受注した。2027年までに4基のHVDC変換所を納入し、両国に面するビスケー湾に設置される400kmの海底ケーブルで最大200万kWを送電する。

 2023年11月、日立製作所子会社の日立エナジーはブラジルとアルゼンチンをつなぐブラジル南部のガラビ高圧直流送電(HVDC)変換所を制御するシステムの更新を受注した。2025年までに納入する。電流や電圧、周波数などを正確に管理し、送配電網を従来よりも安定させる。

超電導送電

 高圧直流ケーブルは従来から油浸紙絶縁ケーブルであったが、近年では許容運転温度が高く、環境保全性に優れているXLPE(架橋ポリエチレン)絶縁ケーブルが主流となっている。しかし、次世代に向けて電気抵抗ゼロの超電導ケーブルが実証試験を終わり、実用化に一歩踏み出そうとしている。

 2019年6月、BASFジャパン戸塚工場の敷地内で、2017~2018年度に昭和電線ケーブルシステムが開発したイットリウム系超電導線材を用いた三相同軸型超電導ケーブルの実証試験を開始した。
 化学工場や製鉄所などではプラント内で窒素ガスや液体窒素を使用しており、既設の6.6kV系統の一部に長さ約250mの超電導ケーブルを設置し、既存冷熱でケーブルを冷却する。

 2022年7月、昭和電線ホールディングスは超電導送電を2026年度までに事業化することを発表した。2023~2024年度に協業する企業を探し、工場などに超電導ケーブルを導入する計画である。通常の送電網にも適用可能であり、マイクログリッド向けの需要を探している。
 2020~2021年、BASFFジャパン戸塚工場での実証試験の結果、高温の夏場でも問題なく送電でき、一般ケーブルと比べ電力損失を95%超も削減できることを確認した。電力消費が3万kWで液体窒素を利用する工場の場合、超電導ケーブルを導入しても8年ほどで投資コストを回収できる。

図16 BASFジャパン戸塚工場内での超電導ケーブル実証試験 出典:NEDO

 2020年11月、昭和電線ケーブルシステムとエア・ウォーターは共同開発したサブクール式冷却システムを組み込み、4カ所の屈曲部(90°、曲げ半径1.5m)がある400m超電導ケーブルの実証試験を開始した。その結果、約1年間の無事故電力供給を行い、盛夏期でも安定した液体窒素の循環を確認した。

 開発した冷却システムは、密閉容器内の液体窒素を減圧し液体が気体に変わる際の蒸発熱を使う方式で、液体窒素は超電導導体中央のフォーマ内部流路と外側の内部コルゲート管の空間の外側流路を往復路として流れる。減圧で排気した窒素ガスは回収してプラントに戻し利用する。

 実証試験での結果を基に、長さ1000mの超電導ケーブルと従来のケーブルに3000Aの三相交流電流を通電して1年間に生じる送電損失を比較したところ、従来ケーブルで発生する電力損失量を95%削減できる目途が立ったとしている。

 2022年1月、鉄道総合技術研究所(JR総研)は超電導ケーブルを覆う形で液体窒素を流し、効率よく送電線を冷やす技術を開発し、三井金属エンジニアリングと世界最長級で実用レベルの1.5kmの送電線(電圧:1500V、電流:数100A)を宮崎県に設置し、実証試験を開始した。

 日本エネルギー経済研究所によると2018年での国内の送電ロスは約4.3%発生している。送電ロス低減は海外でも重要な課題で、米国では4.9%、英国8.0%、フランス6.8%、ドイツ4.8%、中国6.5%、インドでは17%に達している。超伝導ケーブルの導入は、この送電ロスを抑える鍵となる。

 既に、中国では2021年11月、国有送電会社の国家電網が上海市に1.2kmの超電導送電線を設置している。また、ドイツでは経済・気候保護省主導で、ミュンヘン市の地下に12kmの超電導送電線を敷設する「スーパーリンク」と呼ばれるプロジェクトが2020年秋に開始している。

タイトルとURLをコピーしました