実走が始まった電気推進船!

 広義の電気推進船(ES)は、ディーゼルエンジンと電動モーターを使うハイブリッド推進船(HEA:Hybrid Electric Ship)、蓄電池の電気のみで航行する完全電気推進船(PEA:Pure Electric Ship)、燃料電池を使った燃料電池推進船(FCES:Fuel Cell Electric Ship)に分類できる。
 現在の電気推進船の主流は、内燃機関(エンジン)、電動機、蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進船である。

ディーゼルエンジンの電動化

 図1に、現在主流となっている船舶の推進技術は、直接機械駆動推進(Direct mechanical)システムディーゼル電気推進(Diesel electric)システムの2方式である。

 直接機械駆動推進システムは大型タンカーなどで採用されており、ディーゼルエンジンで直接にプロペラを回転して推進する方式である。居住区と補助システム用電力は、補機である別のディーゼルエンジンが駆動する発電機が供給する。

 ディーゼルエンジンは、吸気から排気までの一工程でピストンが2回上下する2サイクル型4回上下する4サイクル型があり、低速回転の2サイクル型は大型船、高速回転の4サイクル型は中・小型船に使用されている。

 船舶用ディーゼルエンジンは低コストの重油を燃料として使いエネルギー効率が約50%と高い。また、排熱もエコノマイザーなどで有効活用されている。しかし、重油燃料には排ガス中に大気汚染の原因となる有害物質(NOx、SOxなど)や多量のCO2が含まれるため問題視されている。 

図1 現在主流となっている船舶の推進システム

  一方、ディーゼル電気推進システムは制御性に優れるため、出力変動が頻繁な船舶への適用が進行している。ディーゼルエンジン駆動の発電機により得られた電力で、電動機(モーター)を動かしてプロペラを回転する方式で、居住区などへの電力供給も同一電源から配電盤を介して行う。

 このディーゼル電気推進システムは、オフショア支援船 (OSV:Offshore Supply Vessel )や、スペースの柔軟性が必要とされるクルーズ船などに広く使われ、現在では外航船の80%が採用している。

 また、ディーゼル発電機からの余剰電力を蓄電池に充電して利用するハイブリッド推進システムも、電力需要の高い大型客船などで採用されている。エンジンや発電機とプロペラの配置の自由度が高く、電気系統による機器の制御性に優れ、エンジンを小型化できるため静粛化が期待できる。

 しかし、いかに高効率化が進められても、燃料に重油を使うかぎり排ガス中に大気汚染の原因となる有害物質(窒素酸化物NOx硫黄酸化物SOxなど)や多量のCO2が含まれることに変わりはない。

 船舶の電動化は大きなメリットを生み出している。代表的なものが、スイスのABBが1990年に商品化したアジポッド(Azipod®)技術である。ギアレスの360°操舵可能な推進システムで、電動機が船外の海中ポッド内に格納されてプロペラを回転させる。

 アジポッド技術を採用することで、舵なしで船舶は正確にあらゆる方向に推進でき、時間と燃料を節約できる。旅客船、貨物船、砕氷タンカーを含むすべてのタイプの船舶で使用でき、従来のシャフトラインシステムと比較して燃料消費量を最大20%削減できると報告されている。

図2 スイスのABBが1990年に商品化したアジポッド(Azipod®)技術

電気推進船の分類

  次世代ゼロエミッション船の開発には、バイオ燃料(合成メタンを含む)、水素、アンモニアなど、重油に代る船舶用燃料の使用が検討されている。これと並行して、ディーゼル電気推進システムに蓄電池を搭載することで、エネルギー効率を向上させた船舶が実用化されている。 

 これらの電力を推進機構に使う船舶の総称として使われる広義の電気推進船(ES:Electric Ship)の分類を、図3に示す。

図3 広義の電気推進船(ES)の分類

  広義の電気推進船(ES)は、エンジンと電動機を組み合わせたハイブリッド推進船(HEA:Hybrid Electric Ship)、蓄電池の電力で電動機を駆動して航行する完全電気推進船(PEA:Pure Electric Ship)、燃料電池の電力で航行する燃料電池推進船(FCES:Fuel Cell Electric Ship)に分類される。
 港湾での給電インフラが整備されればプラグイン・ハイブリッド船(PHES)も出現するであろう。

図4 旭タンカーの完全電気推進船「あさひ」

 以上のように、自動車の電動化とよく似た様相を示す船舶の電動化であるが、燃費改善の仕組みには大きな違いがある。
 広義の電気自動車(EV)に共通するのは回生ブレーキであり、減速時に生じるエネルギーを利用して電動機が発電し、充電池に充電できるために燃費が大幅に向上する。しかし、航空機の場合と同様に船舶の電動化には回生ブレーキの仕組みがないため、燃費改善の仕組みが全く異なる。 

船舶用蓄電池システム

 電気推進船で使用されている蓄電池の主流は、リチウムイオン電池(LIB:Lithium-Ion Battery)である。船舶用蓄電池は数万個のセルで構成されている。特定数のセルが標準モジュールに組み込まれ、このモジュールが複数個組み合わせられて、通常は1000V 以上の標準システム電圧を実現する。

 モジュールの集合体はパックあるいはラックと呼ばれ、電力需要により所定の電圧を供給する。家庭用蓄電池(電池容量:4~12kWh)や電気自動車(電池容量:10~85kWh)はパックレベルで使用され、電力系統用大型蓄電池(数千~数万kWh)ではアレイレベルで使用される。

図5 船舶に搭載される蓄電池の構成例

単セルをモジュールに組む時にはセルの電極部を結合する。単セルが円筒型・角型の場合はバスバー(金属板)、ラミネート型の場合は電極端子のタブ同士を直接溶接し、複数の単セルを接続する。
モジュールには過充電/過放電/過昇温などを防止する保護回路、電圧や温度を監視するバッテリー・マネジメント・システム(BMS)、充放電回路、冷却機構などを付帯してケースに収める。
パックは電力需要により複数のモジュールを接続してラックに収め、全体のコントローラーを付帯したものである。複数のパックを接続して並べたものがアレイである。

 船舶用蓄電池は、各船舶の電力需要に応じてモジュールが設計される。セルメーカーの多くは船舶の規模と環境に合わせてモジュールの組立てを行い、カスタム化した船舶用蓄電池システムを供給する。船舶用の汎用蓄電池システムを大量生産することはなく、低コスト化は難しいのが現状である。

 一般に、船舶用蓄電池システムは蓄電池メーカーが設置・接続を行い、各規則とメーカー仕様に従ったガス検知器、換気システム、空調システム、防火・消火システム、外壁、ケーブル配線の設置作業は造船メーカーが担当する。

ハイブリッド推進船

 環境規制の厳格化により、欧州では船舶のエネルギーを調整・最適化できる蓄電池の標準搭載が鍵と考えられている。現在、蓄電池を搭載しているの旅客船、オフショア船、作業船、および出力需要が変動する船種である。遠洋航行船舶は、その出力需要の大きさから蓄電池の搭載は一部に限定される。 

構成

 現在の電気推進船の主流は、内燃機関(エンジン)電動機蓄電池を組み合わせたハイブリッド推進船である。現時点で、船舶用蓄電池の容量とコストがディーゼルエンジンのレベルに達していないため、船種に応じてエンジンと蓄電池を組み合わせ、エネルギー効率の向上を図っている。

 ハイブリッド推進船は動力源であるエンジンと電動機の使い方により、シリーズ方式とパラレル方式に分類できる。

 シリーズ方式は、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄え、その電力で電動機を駆動させてプロペラを回転させる。エンジンは発電にのみ使われ、駆動は電動機のみで行われる。必要な時だけエンジンを使い蓄電池で充電を行うため、蓄電池の無いディーゼル電気推進船よりも低燃費である。

 一方、パラレル方式は、エンジンで直接プロペラを回転させるのが主体のシステムで、発進時や低速時などに補助的に蓄電池で電動機を駆動させて燃料消費を抑える。蓄電池に電気がなくなると補機の発電機を使って充電を行う必要があるため、動力源はエンジンのみとなる。

図6 ハイブリッド推進船の分類と構成

開発動向

 2013年3月、日本郵船グループのウィングマリタイムサービスが所有・運航する国内初の船舶用ハイブリッド推進システムを搭載したタグボート「翼」(総トン数:256トン)が、横浜港に就航した。
 タグボートは航行時間の約75%が負荷率20%以下の低負荷使用のため、作業内容に応じてディーゼルエンジンと電動機を単独もしくは組み合わせるパラレル方式で低燃費化と低騒音化を実現した。蓄電池の充電には船内の発電機だけでなく、陸上の電源設備からの給電も可能である。

 2021年9月、日本製鉄、日鉄セメント、NSユナイテッド内航海運、石油資源開発、常石造船、川崎重工業は、NSユナイテッドの石灰石運搬船「下北丸後継船」(総トン数:約5560トン)に、川崎重工業製の天然ガス専焼エンジン(8L30KG)を搭載したハイブリッド推進船の建造契約で調印した。
 リチウムイオン電池(容量:2847kWh)、7%Ni鋼製のLNGタンクを搭載し、2024年2月の運航開始を予定する。LNGのみで高出力・長距離・ 長時間の航行を行い、入出港時・停泊時は蓄電池から推進力と船内電力を供給するシリーズ方式が採用され、主要航路は尻屋岬港~室蘭港である。

 2021年11月、日本郵船とWallenius Linesが等分出資する欧州域内の完成車輸送事業を行うUnited European Car Carriers(UECC)が、中国の江南造船集団有限責任公司から液化天然ガス燃料自動車専用船「AUTO ADVANCE」(総トン数:35667トン)の引き渡しを受けた。
 本船はLNGと重油を燃料とする二元燃料エンジンを搭載し、エンジンにより駆動する発電機と蓄電池を組み合わせたシリーズ方式で、効率良く船内電力を供給する。

図7 バッテリーハイブリッドLNG燃料自動車専用船

 2022年5月、東京汽船の電気推進タグボート「大河」(総トン数:約 280 トン、曳航力:50トン)の進水式が行われた。e5 ラボが考案した大容量リチウムイオン電池(容量:2.5MWh)とディーゼル発電機を組み合わせたシリーズ方式が採用され、金川造船で建造された。
 システムインテグレーターのIHIが発電機とL-Drive型推進装置を供給し、スイスABBの電力システムプラットフォーム「Onboard DC Grid」を採用して低燃費化を実現した。2022 年12月に完成し、主に横浜港・川崎港でハーバータグとして就航し、横浜本牧の専用浮き桟橋に給電設備が設置された。

図8 東京汽船のハイブリッド推進タグボート「大河」

 

完全電気推進船  

構成

 完全電気推進船はエンジン(内燃機関)を搭載せず、充電インフラから船内あるいは陸上に設置された給電設備からAC/DCコンバーターを通じて充電池に貯めた電力のみで電動機を回し、プロペラを回転させて推進する。
 一部の内航船、主にフェリーやプレジャーボートなどは小型で航続距離が短いため、現用の蓄電池のみによる航行が可能であるが、現時点での利用は限定的である。欧州の船級規則では、1 基のシステムが故障した場合(電欠)を考慮し、2 基の独立した蓄電池システムの搭載を必要としている。

図9 完全電気推進船の推進機構

開発動向

 2012年、ツネイシクラフト&ファシリティーズが完全電気推進旅客船「あまのかわ」(総トン数:約11トン)を建造した。船体はアルミニウム合金製で、リチウムイオン電池(容量:26.64kWh x2 基)を搭載し、全長15m、幅3.2m、乗員数42人で、大阪の道頓堀などの運河を航行する。

図10 ツネイシクラフト&ファシリティーズが建造した完全電気推進旅客船

 2019年6月、大島造船所が建造した国内最大級の完全電気推進船「e-Oshima」(総トン数:340トン)が竣工した。リチウムイオン電池(容量:約600kWh)と自動操船システムを搭載し、全長35mで乗員数は最大50人、普通乗用車8台が積載できる。
 自動操船システムはMHIマリンエンジニアリングと共同開発し、実証運航を通じて事前に設定した航路の保持、衝突・座礁事故などの防止、自動離着桟など機能の確立を目指す。

 2019年8月、旭タンカー、商船三井、三菱商事、エクセノヤマミズは、広義の電気推進船の開発会社である「(株)e5(イーファイブ)ラボ」を設立した。
 2021年半ばまでに、大容量の蓄電池を備えた完全電気推進タンカーを3~5隻ほど東京湾内で運航する計画を立て、商船三井が船の製造ノウハウ提供、三菱商事は先行するノルウェーからの技術導入、旭タンカーは貨物船への燃料供給船(バンカリング船)を担う。
 通常、内航船の建造費は7~8憶円/台であり、完全電動化すれば20~30%高コストとなる。そのため、電気駆動による低燃費化が、今後の完全電気推進船の普及の鍵を握る。

 2020年5月、旭タンカー、出光興産、エクセノヤマミズ、商船三井、東京海上日動火災保険、東京電力エナジーパートナー、三菱商事の7社は、電気推進船の開発・実現・普及への取り組みを進めるため、新しい海運インフラサービスの構築を目指す「e5(イーファイブ)コンソーシアム」を設立した。

 2022年4月、旭タンカーが重油を運搬する完全電気推進タンカー第一号船「あさひ」(全長62m、全幅10.3m、総トン数:499トン)が就航した。川崎港を拠点に、東京湾内で外航船に燃料補給を行う燃料供給船である。
 船体に煙突がないのが特徴で、大容量リチウムイオン電池(容量:3480kWh)で駆動する川崎重工業製の内航船用電気推進システムを搭載している。e5ラボが企画・デザインし、興亜産業が建造した。
 緊急時には陸上に非常用電力を供給する事業継続計画対策(BCP:Business Continuity Plan)や、地域の生活継続計画対策(LCP:Life Continuity Plan)に活用できる。

図11 旭タンカーの完全電気推進タンカー「あさひ」

 2023年4月、井村造船が建造した旭タンカーの「あかり」(全長62m、全幅10.3m、総トン数:499トン、蓄電池容量:3480kWh)が就航した。補給用の重油を1280m3積める。
 朝に川崎港を出発し、石油基地で重油を積み、東京湾に停泊する外航船に重油を海上補給し、夕方に戻ってきて夜光係留桟橋の充電設備で10時間充電、翌朝にはフル充電となり再び出航する。ディーゼルエンジンに比べ、365トン/年のCO2を削減できる。

図12 船尾から充電中の完全電推進タンカー「あかり」

 2000年前後からフランス、オランダ、ノルウェー、スェーデンなどで完全電気推進船が、数十隻就航している。その多くは環境規制の厳しいフランス、オランダなどの都市部の内陸水路で運航され、旧式の鉛蓄電池が採用されていた。
 2013 年以降の電気推進船にはリチウムイオン電池が搭載され、旅客船や比較的大型のフェリーで内陸水路以外にも欧州で幅広く航行している。

 2018年1月、ノルウェーのFjord1(フィヨルド1)は、完全電気推進フェリー「Ampere(アンペレ)」(重量トン数:11トン)3台による運航を開始した。リチウムイオン電池(容量:800kWh)を搭載し、船の両端に設置されている2台の電動駆動システムはシーメンスが開発した。
 蓄電池の充電は一晩で満タンになるが、50分の運航で180kWhを消費するため、片道20分間の運航を1日34回を行うためには、停泊中にも9分間の充電が必要になる。

図13 フィヨルド1の完全電気推進フェリー「Ampere」

 2022年1月、国際イノベーション会議「Hack Osaka 2022」のスタートアップ・コンテストで「大阪・関西万博/JETRO大阪本部賞」を受賞したスイスMobyFly(モービーフライ)は、ゼロエミッション水中翼船で初の航行試験を実施した。船長10~18m、乗船数12~300人の3モデルに対応する。
 航行速度:70km/h、水深50cmまでの航行が可能で、現時点では蓄電池搭載による完全電気推進船であるが、燃料電池推進船の実現可能性も調査実施済みである。

図14 スイス・レマン湖上を走るモービーフライの完全電気推進水中翼船「MBFY10」

 2022年11月、米国General Motorsが出資して注目されたのが、2011年に創業したボート用電動船外機を手掛ける米国Pure Watercraft(ピュア・ウオータークラフト)である。電動船外機は静粛性に優れ、小型・軽量、長寿命で、メンテナンスが容易、またエネルギー効率に優れている。
 電動機(出力:25kW)を搭載した50馬力相当の電動船外機を製品化し、主に既存のボートに取り付ける「レトロフィット」用製品である。

図15  ピュア・ウオータークラフトの電動船外機を搭載した小型ボート

電気推推進への充電ステーション

 現在、港湾で出るCO2の4割が、停泊中の船舶で稼働するディーゼル発電機からの排出分であり、騒音・振動、NOxやSOxなど有害物質の排出が問題視されている。そのため、火力発電所や再エネ由来の電力を供給することで港湾でのCO2排出低減を目指す動きが始まっている。

 2023年7月、三菱造船、e5ラボ、マリンドウズ、e-Mobility Power、CHAdeMO(チャデモ)協議会、日本船舶技術研究協会、日本政策投資銀行は、電気推進船などに陸上から電力を供給するステーションの普及に向け「船舶向けゼロエミチャージャー普及推進協議会(仮称)」を立ち上げた。
 2025年度までに阪神港と京浜港の2カ所で試作の陸上給電設備を設置する。その後全国の港湾や漁港、海外などに普及を進める。規格を標準化して汎用性を高める。 

燃料電池推進船

 環境規制の厳格化に伴い、現状の技術レベルで実現可能なゼロエミッション船として燃料電池推進船も有望視されている。欧州では幾つかの船舶用プロジェクトが進行中である。燃料電池技術自体は実用化されているが、舶用利用に関しては更なる技術開発と承認プロセスが必要な状況である。

構成

 これまで燃料電池推進船は内燃機関を搭載せずに燃料タンク(都市ガス、LPガスなど)を搭載し、改質器により燃料から水素を取り出し、燃料電池で発電した電力を充電池に貯めて電動機を回し、プロペラを回転させて推進する方式が検討されてきた。
 完全電気推進船と比較すると複雑な推進システムである。しかし、最近はFCEVで実用化されているように直接水素を燃料とすることで、改質器が不要な純水素燃料電池推進船が検討されている。

図16 燃料電池推進船の構成

 燃料電池推進船用に検討されているのは、固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の2種類である。
 動作温度が100℃以下と低いPEFCは、FCEVに実用化されるなど成熟度が高く、高圧水素タンクとともに搭載されて実証試験が行われている。また、発生した余剰熱は温水供給や船内暖房に利用される。

 経済性の観点から、現時点で燃料電池推進船は実証試験レベルであり、本格的な導入には至っていない。低コスト化を含めて、今後の技術開発への期待が大きい。

燃料電池推進船の技術開発

国内動向

 2015年6月、戸田建設、ヤマハ発動機、岩谷産業、フラットフィールドなどが、全長12.5m、幅3.15m、定員12人の燃料電池推進船「長吉丸」(総トン数:5.2トン)を開発した。
 PEFC(出力:30kW×2基)、蓄電池(容量:132kW×1基)、水素タンク(容量:450L)、推進用電動機が搭載され、運行速度:37km/h、航続時間:2h(充電用停泊:2h)で、小型漁船としての実用化が検討され、グリーン水素を用いた実証試験が行われた。

 2017年3月、国土交通省海事局がガイドライン策定を目的に、燃料電池推進船の実証試験を広島県尾道市因島重井町で開始した。海上技術安全研究所が主体となりバスフロート船を改造し、ヤンマーHDが開発したPEFC(出力:5kW)、BEMACが開発したリチウムイオン電池(容量:60kWh)、水素タンク(容量:7000L)、推進用電動機(出力:50kWx2基)が搭載された。

 2020年9月、日本郵船、東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、日本海事協会、ENEOSは、高出力燃料電池推進船の実証事業を発表した。2021年に設計開始、2023年から燃料電池推進船と水素供給設備の建造・製作、2024年に横浜港沿岸での実証運航を開始する。
 商業利用可能な高出力燃料電池推進船(総トン数:150トン級、出力:約500~600kW、全長25m、全幅8m、旅客数100人程度)を開発する。水素供給を含むバリューチェーン構築を取り組みの対象とし、災害時には港施設への電力供給が可能としている。

 2021年4月、ヤンマーホールディングス、ヤンマーパワーテクノロジーは、トヨタ自動車「MIRAI」の燃料電池ユニットを搭載した舶用水素燃料電池システムの実証試験を、大分県国東市近海で開始した。船体型式はEX38A で、全長12.4m、全幅3.4m、総トン数:7.9トンである。
 PEFCを2基、高圧力水素タンク(70MPa)を8本、電動機(出力:250kW)を搭載する。2021年9月、航行速度:22km/h、航続時間:3hを達成した。燃料補給には移動式の水素ステーションを活用し、豊田通商と共同で30mの専用ホースを試作した。

図17 ヤンマーホールディングスが実証試験を進める水素燃料電池試験艇

海外動向

 海外では、旅客船産業が強い欧州で燃料電池推進船の開発ニーズが高まっており、実証試験が積極的に進められている。

 2019年12月、中国船舶集団は500kW級船舶用燃料電池システムソリューションを公表しており、内陸河川航行向けにリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した水素燃料電池貨物船の実証を進めている。

 2021年5月、e5ラボはスイス・ローザンヌAlmatech(アルマテック)が開発した燃料電池推進船(ZESST:Zero Emission Speed ShuTtle)の日本市場参入のプロモーション提携を発表した。乗客数50 ~400人の4モデルに対応し、2023~2024年に第一号艇の組み立て、試験、進水を行う。
 高効率水素燃料電池、リチウムイオン電池、水素タンク、電動機を搭載し、乗客数・航行距離あたりエネルギー消費量は従来のディーゼルエンジン船の約1/5としている。
 100人乗りの場合は、全長25m、全幅8m、喫水1.5~3.2m、総トン数:32トンで、航行速度:50km/h、航続距離:100kmの自律航行が可能である。船体構造には植物性繊維強化プラスチックスが採用され、2枚のアクティブ制御型格納式水中翼により高速巡航と航走波の低減を両立している。 

 2022年8月、スイスAlmatechが、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)への燃料電池駆動による水上モビリティの参加を契機に、燃料電池推進船ZESSTの日本での製造販売に進出し、水素供給インフラも構築すると発表した。2024年末~2025年初頭に、100人乗りを先行導入する計画である。

 一方、ドイツの「Pa-X-ell」プロジェクトでは高温固体高分子型燃料電池(HT-PEFC)を開発し、船舶への適用検討が進められた。
 PEFCの高温化(200℃)により改質後の浄化リアクターが不要となり、セルの不純物感受性が低減するためLNG、メタノール、エタノール、ディーゼル油などが使用できる。エネルギー効率は従来の PEFC と同等か若干低下するが、高温運転により発生した余剰熱は船内暖房などに利用できる。

 2016年、HT-PEFC(出力:30kW×3 基)は バルト海クルーズフェリー「MS Mariella」に搭載され試験航行が行われた。2021年には「Pa-X-ell2」プロジェクトでドイツ・フロイデンベルグが開発したHT-PEFCを外航クルーズ船「AIDAnova」へ搭載された。
 燃料の水素は、再生可能エネルギーで製造したメタノールから改質したものが使用されている。

 ノルウェーでは2026 年までにフィヨルドを運航するクルーズ船とフェリーのゼロエミッション化を目標に掲げ、政府支援も含めて多くの水素燃料電池船の開発・実証プロジェクトが活動している。 
 例えば、「HySHIP」プロジェクトでは、貨物と液体水素コンテナの両方を輸送する液体水素燃料RORO船「Topeka」に、PEFC(出力:3MW)と蓄電池(出力:1MW)を搭載して実証運航する計画が進められている。

 さらに、欧州では固体酸化物形燃料電池(SOFC)の船舶への適用が検討されている。SOFC は高効率・高温(700~1000℃)で作動し、燃料から水素への改質はセル内部で行われるため使用燃料の柔軟性が高く、高温排熱の有効利用により総合熱効率を70~80%に向上させることが可能である。
 ドイツの「SchIBZ」プロジェクトで開発された燃料電池推進船「MS Forester」には、SOFCが搭載されている。

 2023年3月、中国国有発電大手の三峡集団は、国内初の水素燃料電池推進船「三峡氫舟1号」が広東省中山市で進水したと発表した。定格出力:500kWでリチウムイオン電池も搭載し、航行速度:最高28km/h、航続距離:最高200kmである。三峡ダムエリアの交通、パトロールなどの業務に使用される。

複合モードの電動船

 2024年4月、商船三井テクノトレードなどが出資するMOTENA-Seaが、本瓦造船で建造したハイブリッド旅客船「HANARIA(ハナリア)」の福岡県北九州市での営業開始を発表した。水素燃料電池もしくはバイオディーゼル燃料による発電から動作モードを選択して動く電動観光船である。
 全長約33m、全幅約10m、喫水は約1.4mで総トン数は238トン。乗船定員は100名。およそ10.5ノットで航海できる。現状、水素だけではコストや航続距離(半日程度の運行が可能)に課題を残すため、バイオディーゼル燃料によって発電するハイブリッドシステムを併用して1日に必要な航続距離を担保している。

図18 水素とバイオディーゼルを燃料として使用可能なハイブリッド旅客船「HANARIA」 出典:商船三井
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