世界中で様々な「空飛ぶクルマ」が開発されているが、現時点で、空飛ぶクルマに明確な定義はない。無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる「ドローン」を乗車可能にしたものや、EVベースに翼・プロペラや自動制御システムを備えたものなどが開発されている。
固定翼機は、走行時に翼を折りたたみ飛行時に翼を展開するSTOLから、フラップに推力偏向電動ダクト(DEVT)ファンを並べたeVTOLへと進化している。
固定翼/回転翼複合機では、垂直離着陸用と前方への推進用に2種類のプロペラを使い分けるeVTOLと、離着陸時には上を向き巡航時には進行方向を向く推力偏向型のeVTOLが開発されている。
回転翼機/ドローン型の場合、All electric VTOLが主流で開発が進められている。しかし、現在の蓄電池性能では大型化と飛行距離に制限が生じるため、燃料電池+蓄電池システム搭載へと進化が始まっている。
回転翼機/ヘリコプター型の場合、飛行速度を上げるためにメインローターと左右両舷に主翼やプロペラを持つ複合型ヘリコプターが開発されたが、現在は中断されている。
空飛ぶクルマとは?
現時点で、「空飛ぶクルマ」に明確な定義はないが、一般には無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる「ドローン」を乗車可能にしたものや、EVベースに翼・プロペラや自動制御システムを備えたものなどが開発されている。
中でも注目されているのは、「短距離離着陸機(STOL:Short Take Off and Landing)」や「垂直離着陸機(VTOL:Vertical Take-Off and Landing aircraft)」と呼ばれており、その電動タイプは「eSTOL」や「eVTOL」と略称されている。
2018年8月、空飛ぶクルマの実現に向けた「空の移動革命に向けた官民協議会」が設立された。第1回協議会では日本において取組むべき技術開発や制度整備などについて協議が行われ、同年12月には実用化に向けたロードマップの素案が示されている。
ロードマップでは、事業者による利活用の目標として2019年から試験飛行や実証実験を行い、実証結果や事業者が提示するビジネスモデルを踏まえて制度や体制の整備を進め、2023年を目標に事業をスタートさせ、2030年代から実用化をさらに拡大させていく方針が示された。
特に重要な制度面では、実証実験の結果をフィードバックしながら、①試験飛行のための離着陸場所や空域の調整・整備、②技能証明の基準、③機体の安全基準など必要な制度について、国際的な議論を踏まえながら整備していく。
また、2019年8月には、実証試験の促進などに向け「地方公共団体による空の移動革命に向けた構想発表会」が開催され、福島県、東京都、愛知県、三重県、大阪府の5都府県が空の移動革命に向けた構想を発表した。
2022年3月には、2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)に導入される「空飛ぶクルマ」の運航計画の概要が発表された。会場と周辺の空港や大阪市内などを結ぶ8つの路線を候補とし、1時間に20便程度の運行を目指す。
しかし、2023年5月に丸紅、2024年6月にスタートアップのスカイドライブが商用飛行を見送り、2024年9月には、安全審査の遅れなどから日本航空(JAL)とANAホールディングスが見送ることを発表した。そのため、空飛ぶクルマを運航する4陣営全てが、一般客を乗せた飛行を実施しないことになった。
空飛ぶクルマの分類
世界各国で様々な「空飛ぶクルマ」が開発されている。空飛ぶクルマは、固定翼を持つタイプか、回転翼(プロペラ)を持つタイプ、両機を複合化したタイプに大きく分類される。いる
固定翼機
主翼を持つのが特徴で、道路走行時は主翼を折りたたんで格納し、走行時に展開するのが一般的である。代表的な固定翼機をスロバキアのAeroMobilha(エアロモービル)が開発しており、2014年にプロトモデル「AeroMobil3.0」を完成させて試験飛行に成功し、欧州での飛行認可を取得している。
固定翼/回転翼複合機
固定翼/回転翼複合機は、主翼を持っているが垂直離着陸が可能な航空機である。代表的な複合機を米国のKitty Hawk(キティーホーク)が開発し、2019年6月にボーイングと提携している。2人乗り電動垂直離着陸機「Cora」の飛行はすべてコンピュータ制御で行われ、パイロットを必要としない。
回転翼機
プロペラを持つ回転翼機は、ドローンをそのまま大きくして乗車を可能にしたドローン型と、道路走行を可能としたヘリコプター型に分けられる。ドローン型は個々の羽根の回転数を制御して移動するが、へリコプター型はメインロータが回転する位置で翼の傾きを変化させることにより移動する。
●ドローン型の回転翼機
ドローン型の回転翼機は、ドイツのVolocopter GmbHが開発した「Volocopter(ボロコプター)」が著名である。世界で初めて有人ドローンとして欧州連合航空安全局(EASA)から設計組織承認(DOA)を取得し、2019年にシンガポールで空飛ぶタクシーの有人試験飛行に成功している。
●ヘリコプター型の回転翼機
ヘリコプター型の回転翼機は、オランダのPAL-V International B.V.(パルヴィインターナショナル)が生産している「PAL-V Liberty」が知られている。地上走行時はメインローターを折りたたみ三輪車の形状で走行し、ヘリコプターの形状に復元して飛行する。
現状の蓄電池性能を考慮すると、いずれも大型化と飛行距離には問題があるため、「空飛ぶクルマ」の駆動源としてエンジンと蓄電池のハイブリッド化が有望視されている。
固定翼機
スロバキアのエアロモービル
一般に固定翼を持つ「空飛ぶクルマ」は、走行時は翼を折りたたみ、飛行時に展開する。スロバキアのAeroMobilha(エアロモービル)はエンジン駆動の固定翼機を開発しており、2014年にプロトモデルSTOL「AeroMobil3.0」を完成させて試験飛行に成功し、欧州での飛行認可を取得している。
飛行時はガソリン・ターボエンジンで後部についたプロペラを回転させる。走行時は翼を格納し、エンジンで発電してモーターで走行する。搭乗者数は最大2人、飛行時の最高速度:360km、航続距離:最大600kmである。米国、中国へと販路を拡大する計画である。
ドイツのリリウム
2019年5月、eVTOL「Lilium Jet (リリウム・ジェット)(PHOENIX)」が試験飛行に成功した。独自の「推力偏向電動ダクト(DEVT:Ducted Electric Vectored Thrust)」を搭載し、5人乗りで垂直に離着陸して翼による水平飛行に移行、最高速度:300km/h、航続距離:300kmである。
2020年には、欧州航空安全機関(EASA)のCRI-A01認証を得ている。フラップ部に30基のダクトファン(ダクト内にプロペラを収容する構造)を配置し、離陸時はフラップを下げて垂直に上昇し、その後はフラップを上げて水平飛行する。ダクトファンにすることで、推進方向にのみ気流を送れるので飛行効率が高まる。
2021年3月には、2024年サービス開始を目指すeVTOL「7-Seater Lilium Jet」を発表した。全長8.5m、翼幅13.9m、翼幅13.9m、7人乗りで、高度:3000mを巡行速度:280km、航続距離:250km以上で運行する。 2025年の型式証明の取得を目指している。
「推力偏向電動ダクト(DEVT)」には、デンソーと米国Honeywell Internationalが共同開発した旅客機の補助エンジン用ガスタービンに使う電動航空機用モーターを採用した。重さ約4kgで出力100kW、他社の10倍以上となる25kW/kgの出力密度を実現した。
30基のダクトファンを駆動するために、リチウムイオン電池(容量:30kWh、重量:約110kg)を機体の両側に5個ずつ、合計で10個搭載する。専用の急速充電システム(出力:360kW)で、電池残量:30%からのフル充電が約45分で完了するとし、欧州で普及が進むEV用の急速充電規格である「CCS」に準拠している。
2024年7月、「Lilium Jet」が世界最大規模の航空ショー「Farnborough International Airshow(FIA) 2024」(2024年7月22日~26日開催、英国ファンボロー空港)に出展。展示モデルはパイロットを含めて5人乗りで、7人乗りなどに座席をレイアウト変更できる。
全長:8.35m、翼幅:13.7m、離陸重量:3175kg、航続距離:175kmで、飛行速度は最高248km/hで、2024年に地上テスト、2025年初頭に飛行テストを実施し、2026年度内の商用運転開始をめざしている。
米国のNFT
2021年4月、米国スタートアップのNFTは、4人乗りSTOL/VTOL「ASKA」の事前予約を開始した。主翼を折りたたむことで、大型SUVサイズで通常の道路走行が可能であり、6基のローターを搭載する主翼を展開することで、垂直や短い滑走距離での離着陸ができる。
リチウムイオン電池に加えて、充電するためのデュアルガスモーター(発電機)を搭載する。飛行中の操縦は半自律飛行で行い、米連邦航空局(FAA)の自家用の小型飛行機ライセンスを必要とし、最高速度:241km、航続距離:402kmである。
フランスのアセンダンス・フライト・テクノロジーズ
スタートアップ企業「ASCENDANCE FLIGHT TECHNOLOGIES(アセンダンス・フライト・テクノロジーズ)」が、5人乗りの航空機「ATEA」の開発を進めている。モーターとエンジンを併用するハイブリッドの駆動方式が採用され、航続距離は東京―大阪間に相当する400kmを目指している。
胴体に設置された先翼・主翼に計8つの「ローター」が埋め込まれた「ファンインウィング」のデザインが特徴で主に垂直飛行を、胴体最前部と垂直尾翼上に設置された「水平プロペラ」が主に水平飛行を担う。「ATEA」は就航は、早ければ2026年を予定している。
シンガポールのウィジェットワークス
シンガポールのスタートアップであるWigetworks(ウィジェットワークス)が、固定翼を持つ表面効果翼船注釈のSTOL「Airfish 8」を開発した。2015年10月に試作機の初フライトを成功させ、改良を重ねた後、フィリピンなどで商用運航に向けた試験航行が行われている。
パイロット2人以外に6~8人が搭乗でき、機体寸法は全長17.2m、全幅15m、全高3.5mである。ガソリン車用の500馬力のV8エンジンを搭載し、海面7mの高さまでを最高速度:約190km/h、航続距離:約560kmで飛行する。離水には500m、着水には300~500mの距離が必要である。
米国のリージェント・クラフト
2023年11月、日本航空(JAL)は、2020年に設立した米国スタートアップのREGENT Craft(リージェント・クラフト)と電動海上輸送機に関する連携協定を締結した。2026年の商業運航を目指している。また、JAL子会社JALUXが日本での販売も担う予定で、低コスト・安全に高速飛行する新輸送手段として注目されている。
電動シーグライダーと呼ばれる翼についたプロペラを使い、翼と水面の間に閉じ込められた空気のクッションを揚力として水上数mを飛行する。JALは安全運航に向けた制度や体制の検討、実証に向けたインフラ整備、認証取得に関する連携など運用に向けた取り組みで協力する。
2022年、JALはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「JALイノベーションファンド」を出資しており、ヤマトホールディングスや米国地域航空会社のメサ航空、ロッキード・マーチンなども出資している。
日本のファロスター
FaroStar(ファロスター)は、2025年大阪・関西万博での実証試験を目標に開発を進めている。モーターと蓄電池による電動推進システムを採用して環境負荷や騒音を低減し、パイロットが不要な自律運航を目指しており、乗客輸送以外に物流用途への展開も視野に入れている。
2022~23年に総重量400kg程度(2人乗り+荷物)の小型実証機を開発、2023~25年に4人乗りAll electric VTOLの表面効果翼電動無人船「WISE-UV」を開発する。巡行速度:100~350km、短距離なら空港と都市部の繁華街近辺までを5分、長距離なら150km以内を最大30分程度で輸送する。
注釈)表面効果翼船とは?
海上数mを走る空飛ぶ船、空飛ぶクルマより安く遠くへ | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
出発・到着時は船として航行し、巡航時は航空機となる。飛行体が海面すれすれを飛ぶと翼端渦の一部が海面で遮られ、翼の下側から上側に回り込む空気量が少なくなるため、通常よりも高い揚力を得られる。したがって、eVTOL機のように高度150m以上ではなく、波の高さにもよるが、海面上1~5mの高さをeVTOL機と同等の100~350km/hで航行する。
表面効果翼船は、eVTOL機に対して多くのメリットを持つ。最大のポイントは、船体の安全性の認証に航空法ではなく「船舶法」が適用される点で、開発コストは数分の1と低く、メンテナンスコストも低減できる。また、飛行高度はわずか数mなので、仮に電源喪失などのトラブルが生じた場合のリスクも航空機に比べて低い。eVTOL機では専用の離着陸場(Vポート)を整備する必要があるが、通常の桟橋を利用することができる。また、eVTOL機は飛行の際に、飛行経路や離着陸場付近の住民の社会受容性に基づく同意を得る必要があるが、表面効果翼船は海上を航行するので、そのハードルがかなり低くなる。
表面効果翼船は、欧米などでは軍用を含めると1960年代から開発が始まった。ドイツ、ロシア、米国、中国、韓国などで船体の開発例はあるが、まだ商用ベースでの成功例はない。
固定翼/回転翼複合機
米国キティーホーク
固定翼/回転翼複合機は、垂直離着陸が可能な航空機である。代表的な複合機を米国キティーホーク(Kitty Hawk)が開発しており、2019年6月にボーイングと提携している。2人乗りのAll Electric VTOL「Cora」の飛行はすべてコンピュータ制御で行われ、パイロットを必要としない。
全長6.4 m、全幅11mの主翼には垂直離着陸用モーターとローターが12組取り付けられ、前方への推進は機体後部に取り付けられた大型プロペラ1基を使う。飛行高度:約153~915m、飛行速度:約180km/h、航続距離:約100kmである。
2022年、1人乗りの「フライヤー」の試験飛行などを重ねてきたが、経営陣の対立などから、2022年に事業を休止した。
米国ウィスク・エアロ
Wisk Aero(ウィスク・エアロ) は、2019年にボーイングとキティホーク・コーポレーションの合弁により設立した電動垂直離着陸機(eVTOL)開発企業である。パイロットが搭乗しない自律飛行機能を特徴としている。
2023年5月、ウィスク・エアロは日本航空(JAL)との提携を発表した。両社は協力して日本で自動運転の「空飛ぶタクシー」の運航を目指す。予定する「空飛ぶタクシー」は数人乗りである。
2022年に開発を表明した4人乗りの新型機では民間航空機の管制技術を応用し、操縦席をなくすとともに地上からの制御も少なくしている。
ウィスク・エアロは操縦士の人件費を不要とすることで、乗客1人分の運航コストを「1マイル(約1.6km)当たり3ドル(約450円)に下げられる」と試算する。ニューヨークのタクシー料金とほぼ同じ水準である。
2024年7月、第6世代のフルスケールモデルを、英国で開催中の航空ショー「Farnborough International Airshow(FIA) 2024」(2024年7月22日~26日開催、英国ファンボロー空港)で出展した。。翼幅は約14mで、1回の充電での航続距離が144km。最大速度は222km。充電時間は15分を予定している。
米国ジョビー・アビエーション
Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)は開発したAll electric VTOL「S4」について、米連邦航空局(FAA)と型式証明の取得に向けて審査プロセスを進めている。2023~2024年頃に型式証明の取得を完了し、2024年頃の商用化を目指している。
「S4」の寸法は全長7.3m、翼幅10.7m である。プロペラは主翼に4基、機体後部に2基搭載し、離着陸時には上を向き、巡航時には進行方向を向く推力偏向(Vectored Thrust)型である。電気モーター6基を搭載した搭乗員5人乗りで、最高速度:約320km/h、航続距離:約240kmである。
2020年、米国Uber Technologies(ウーバーテクノロジーズ)のeVTOL研究開発部門を買収するなど、空飛ぶクルマ業界のリーダー的な存在である。機体開発のみならず、「空飛ぶタクシー」サービスを計画し、2022年5月には「Part 135 Air Carrier Certificate」の認可を取得した。
2023年6月、米国の連邦航空局から航空機の特別耐空証明書を取得し、量産プロトタイプの飛行テストが開始可能になった。
英国バーティカル・エアロスペース
2021年6月、英国Vertical Aerospace(バーティカル・エアロスペース)は、ロールス・ロイス製ガスタービン・ハイブリッドシステムを搭載し、推力偏向型の機体で5人乗りのeVTOL「VA-X4」を開発した。滑走路を必要とせず、最高時速:約320km/h、航続距離:160km強である。
英国ヴァージンアトランティック航空は、最大150機の「VA-X4」購入を発表した。米国ではアメリカン航空が最大250機、Avalonが最大310機の予約購入に合意。2021年、日本航空は最大100機を予約購入する権利、丸紅は市場調査などに向けた業務提携と最大200機を予約購入する権利を取得した。
2026年末には、商業運航に必要な型式証明を取得する方針である。
日本のテトラ・アビエーション
2021年11月、一人乗りのAll electric VTOL「teTra Mk-5」を開発し、国内企業として初となる予約受付を米国で開始した。世界で40台の販売目標を掲げており、納品は2022年末を予定している。飛行速度:160km/h、航続距離:160kmである。
小型プロペラ32枚を固定翼に並べて垂直に離着陸し、尾翼のプロペラと固定翼により飛行する。翼幅8.62m、全長6.15m、全高2.51m、重量90kgで、ジョイスティックで操縦を行い、日本では自家用操縦士、米国ではプライベートライセンスの免許取得が必要である。
本田技研工業
2021年秋、空飛ぶクルマ「Honda eVTOL」を開発し、2030年代の実用化を目指すと発表した。ガスタービン発電機と蓄電池を利用したシリーズ方式のハイブリッドeVTOLを開発し、最大400km程度の都市間移動を2時間程度で実現する目標を設定している。
離着陸時にガスタービン発電機と蓄電池を利用し、巡航時に発電した電力を蓄電池に蓄えながら電動モーターを駆動する。2025年に米国でハイブリッドエンジンの機体を飛ばして米国連邦航空局(FAA)での認証取得を目指す。最終的にはSAF100%の燃料を使用し、カーボンニュートラルを目指す。
LYTE Aviation
2023年11月、欧州拠点の新興航空機メーカーLYTE Aviationは、40人乗りの民間航空機「LA-44、スカイバス」の開発を進めている。最大速度:300km/h、航続距離:1000kmで、垂直離着陸対応のため滑走路が不要で、ヘリコプターより燃料効率が5倍高くなるように設計され、2025年までに試作機を制作する。
8発のプロペラ推進装置(推進用ターボプロップエンジンを4基、翼端に姿勢制御用に4基の水素燃料電池駆動の電動機)を搭載し、2枚の主翼を全面的に動かし角度を変えて垂直離着陸と高速巡航を実現する「ハイブリッド電動タンデム ティルト ウィング」である。
回転翼機(ドローン型)
中国イーハン
2021年6月、岡山県「笠岡ふれあい空港」で、中国山東省のEHang Holdings Limited(イ―ハン)が開発し2人乗りのAll electric VTOL「EHang 216」の無操縦者飛行デモが行われた。最大積載量 220kg、飛行速度:130km/h、航続行距離:30~40kmで、同モデルは世界で80台以上販売されている
2016年、世界初の空飛ぶタクシーとして1人乗りAll electric VTOL「Ehang 184」を発表し、2018年に有人飛行を公開。2020年、中国民間航空局(CAAC)から商用パイロット運用許可を取得。2020年8月から、オーストリア・リンツで「EHang 216」のUAM(都市型航空交通)試験運用を開始。
2023年10月、自動操縦機能を持つ新型機「EH216―S」について、中国当局から商業運航に必要な型式証明を取得したと発表。2021年に型式証明を申請後に4万回を超える試験飛行で安全性を検証した。広東省内の工場では600機/年の生産体制を整えている。
「EH216-S」は、全長:約6.05m、高さ:1.93mで2人乗り、自動制御で飛行する。最大速度:130km/h、航続距離:30kmで、中国では239万元(約5000万円)、国外では41万ドル(約6200万円)で販売する。既に、国内外から約1000機の予約を受けている。
2024年4月、空飛ぶクルマの生産許可を中国民用航空局から得たと発表。
離着陸場の整備や、飛行のための法整備が必要で、当面は観光や災害などでの活用が見込まれている。同社の胡華智会長は7日の式典で、「量産化に入る重要な節目を迎えた。生産を拡大し、増加する市場の需要に応えたい」と語った。
ドイツのボロコプター
Volocopter GmbH(ボロコプター)が開発したAll electric VTOL「Volocity(ボロシティー)」は、世界で初めて有人ドローンとして欧州連合航空安全局(EASA)から設計組織承認(DOA)を取得し、2019年にはシンガポールで空飛ぶタクシーの有人試験飛行に成功した。
9基の独立した強制空冷式LIBシステムを搭載し、充電時間:120分以内、急速充電:40分以内で、飛行時間:27分程度、航続距離:27kmである。モーターとローターはそれぞれ18基が搭載され、ブラシレスの三相永久磁石同期モーターが採用されている。日本航空は合計100機の購入を決定した。
2023年11月、ボロコプターは、パリでボロシティを使用した初めての航空輸送を行った。18基のローターが付いており、2人乗りで、2024年までに短距離輸送の開始を目指す。
米国アラカイ・テクノロジーズ
2019年7月、米国Alaka’i Technologies(アラカイ・テクノロジーズ)が、液体水素を燃料とする燃料電池搭の5人乗りAll electric VTOL「Skai(スカイ)」を発表した。緊急着陸用パラシュートがついており、燃料切れの場合にはオートローテーションに頼らず安全に着陸できる。
BMW傘下のデザインワークスと提携して、燃料電池駆動の回転翼を6基(計450馬力)搭載し、航続時間:最大4時間、航続距離:約644kmである。燃料補給は水素ステーションにおいて10分以内で可能としている。
日本のスカイドライブ
2020年8月、SkyDrive(スカイドライブ)と有志団体CARTIVATORは、All electric VTOL「SD-03」による有人飛行の公開試験を実施した。1人乗りで飛行時間は約4分間であった。ローターを4か所に配置し、1か所あたり上下2つのローターを電動モーターで回転して駆動力を生み出す。
2022年9月、開発中のAll electric VTOL商用機「SD-05」のデザインを発表した。パイロットと乗客の計2人乗りで、最大航続距離:約10km、最高巡航速度:100km/hで、日本で初となる国土交通省の型式証明の取得と、2025年の大阪・関西万博での飛行実現を目指している。
2023年4月、スカイドライブは個人向けに機体の販売を開始した。機体は「SD-05」で価格は150万ドル(約2億円)、納期は大阪・関西万博が開催される2025年以降。12基のモーターとローターが配置され、LIBバッテリーシステムは米国Electric Power Systems製、モーターは多摩川精機製を採用している。
12基のローターは同一平面上ではなく、ドーム状の曲面の上に配置し、前進時に機体後方のローターに負荷が集中するのを防ぎ、電力効率を最適化した。
2023年3月、香川県で早期実現に向けた官民協議会が発足し、同4月、大豊産業がスカイドライブの商用機を購入予約し、香川県・愛媛県にある離島観光向けの航路実現をめざし準備を進める。
2022年3月、スズキと空飛ぶクルマの事業化に関して連携協定を締結した。同年6月、両社は製造面の協力について基本合意書を締結した。
2023年9月には、スズキは製造を手掛ける「Sky Works」を設立し、スズキグループが静岡県磐田市内に保有する工場を活用して、年間最大100機の「SKYDRIVE」製造体制を目指し、2024年春ごろに製造を開始する。
2023年6月、SkyDriveは、開発中の空飛ぶクルマの最新情報を公開した。名称は「SkyDrive式SD-05型」を改め「SKYDRIVE(スカイドライブ)」とした。機体はやや大きくなり、最大搭乗人数(パイロット1人を含む)は従来の2人から3人に変更し、航続距離も約15kmに延ばした。
SkyDriveは、2025年の大阪・関西万博でSKYDRIVEの運航を目指し、2025年に耐空証明を取得し、2026年に型式証明を取得して量産を開始する。
2023年 9月、スカイドライブは、韓国の航空機リース会社「Solyu(ソリュー)」と、空飛ぶクルマSKYDRIVE導入に関する覚書を締結し、最大50機の購入を予約した。その他、ベトナムや米国、韓国で航空機リース大手などから購入予約を獲得した。
2024年3月、スカイドライブは子会社スカイワークスを通じて、スズキグループが磐田市に保有する工場で「SKYDRIVE(SD-05型)」の製造開始を発表。2億円/機程度で、予約数は国内外から計263機に上る。
2024年6月、2025年大阪・関西万博で「空飛ぶクルマ」の運航事業者に選ばれていたが、万博会場で旅客を乗せて飛行する商用運航を断念すると発表。前提となる、性能や部品の安全性について国の承認を得る「耐空証明」を、万博までに取得しない方針に転換した。
「SKYDRIVE(SD-05型)」の型式証明申請がアメリカ連邦航空局(FAA)に受理されたと発表、国土交通省航空局を通じて行われた。
HIEN Aero Technologies
2023年6月、HIEN Aero Technologiesは、ガスタービン発電機によるハイブリッドeVTOL機の浮上試験に成功した。電力制御システム「BUTTERFLY」を開発し、垂直離着陸時はガスタービン発電と蓄電池を組み合わせ、水平飛行時には蓄電池主体で駆動するなどの制御で長距離飛行を目指している。
今後、実証実験機「HIEN Dr-One」を開発し、2023年内をメドに浮上試験を実施する。同機はペイロード(最大積載量)が25kgの無人機で、最大速度:180km/h以上、航続距離:150km以上が目標で、燃料は灯油(Jet-A1 / B)である。
また、2025年ごろのデモフライトを目標に2人乗りの「HIEN 2」を開発する。同社がゴールとしているのは、2030年の市場投入を目指す、6人乗りの「HIEN 6」である。
三菱重工業
展示会「Japan Drone 2024」(2024年6月5~7日@幕張メッセ)で全長:約6m、最大積載量:200kgの大型マルチコプター型ドローン(無人航空機)を出展。有人ヘリコプターの代わりに、民間での物流や安全保障のデュアルユースをめざし、現在、リチウムイオン電池搭載機の実証試験を行っている。
6本のアーム先端に上下2基ずつ、合計12基のローターを装備し、タブレット操作での自律飛行や自動ルート計画に対応し、巡航速度:60km/h、最大速度:90km/hである。トラックからの自動離着陸機能を有し、アームを取り外せば4トントラックで運搬できる。長時間運行用のエンジンと蓄電池のハイブリッドタイプを開発中。
回転翼機(ヘリコプター型)
オランダのパルヴィ・インターナショナル
PAL-V International B.V.(パルヴィ・インターナショナル)のエンジン駆動のSTOL「PAL-V Liberty(パルヴィリバティー)」は、地上走行時はメインローターを折りたたみ三輪車形状で走行し、飛行時にはヘリコプター形状に戻る。2020年11月には欧州公道での走行許可を取得した。
PAL-V Libertyは重量664kgで、走行時は全長4m、全幅2m、全高1,7m、飛行時は全長6.1m、全幅2m、全高3.2m、ローター径:10.75m。180m滑走して離陸、高度3500mを巡航速度:140~160km/h、航続距離:400~500km、最大離陸重量:910kg、着陸滑走距離:30mである。
川崎重工業
2020年10月、モーターサイクル「Ninja H2R」のスーパーチャージドエンジンを搭載する無人VTOL機「K-RACER」の飛行試験に成功した。K-RACERは、直径4mのメインローターと、左右両舷に主翼やプロペラを持つ複合型ヘリコプターである。固定翼によりスピードを出せるのが特徴である。
現在、固定翼をなくした「K-RACER-X2」の開発を進めている。山岳輸送をターゲットに、無人VTOL機による自動運航で高度3100mに200kgのペイロードを運搬でき、航続距離:100kmで、2026年のサービス運行を予定している。
インフラ・部品供給事業
2023年6月、ニデックは、「空飛ぶクルマ」のリージョナルジェット機最大手のエンブラエル(ブラジル)と合弁会社「ニデック・エアロスペース」を設立し、空飛ぶクルマ向けの部品事業に参入すると発表した。
メキシコにモーターの生産拠点を置き、ニデックの高出力モーターと、エンブラエルのモーター制御技術を生かし、空飛ぶクルマメーカーにモーターと制御システムをセットで提供する。まず、空飛ぶクルマを開発するエンブラエルの子会社「イブ・ホールディング」に供給する。
2023年11月、関西電力は、スカイドライブ、英国バーティカル・エアロスペースと業務提携契約を締結し、充電設備を納入する。充電設備は機体の仕様に応じた開発が必要であり、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)での運航に備えて、機体の仕様に関する情報の提供を受け、共同で充電設備を開発する。
国内での導入状況
「空飛ぶクルマ」に関しては、世界中に様々な情報が発信されている。日本も遅れずにキャッチアップする必要がある。①環境や安全基準の作成、②パイロットの技能証明、③自動運転などの運航方法の確立など、法規制が十分ではなく、新規産業育成を促すためにも諸環境の整備を急ぐ必要がある。
しかし、空飛ぶクルマの成功の鍵を握るのは、自動車と同様に低環境負荷が基本にあることを忘れてはならない。そのためには、バイオ燃料や再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素を使うことが必要であり、欧米は既にその方向に舵を切っている。
2021年8月、トヨタ自動車は、米国カリフォルニア州のJoby Aviationに3億9400万ドルの出資を発表した。2009年からJoby Aviation はeVTOLの開発を進めており、2023年に米連邦航空局(FAA)から商用航空の許認可を取得し、2024年には正式な運用開始を計画している。
最高速度:320km/h、航続距離:240km以上、定員はパイロット1名を含めた5人乗りである。トヨタ自動車は、設計や素材、電動化の技術開発などで協力するほか、トヨタ生産方式(TPS)のノウハウを導入し、品質とコストを両立した機体を実現して早期の量産を目指す。
2021年10月、日本航空(JAL)は英国Vertical Aerospace(バーティカル・エアロスペース)が開発を進めるeVTOL「VA-X4」を最大100機購入またはリースできる契約を結んだ。2025年開催の大阪・関西万博での実用化を目指す。日本航空はVolocopterのドローン型空飛ぶクルマも導入する方針である。
2021年10月、スカイドライブが電動垂直離着陸機「eVTOL」の型式証明の取得を申請した。2人乗りの機体で、2025年大阪・関西万博開催時の大阪ベイエリアでのエアタクシーサービスの実現、各地域での事業展開を目指している。
型式証明は機体の型式ごとに安全性や環境適合性を審査する制度であり、国土交通省では図面や部品強度を検証し、飛行試験も実施する。
2022年2月、ANAホールディングス(HD)が日本で「空飛ぶタクシー」の運航事業への参入を発表した。Joby Aviationと業務提携して同社が開発しているeVTOLの導入を計画している。今後、運航に加えインフラ整備やパイロット養成、航空管制などの面で協力する。
具体的な事業の開始時期は明らかにしていないが、2025年大阪・関西万博を機に地元自治体などが空飛ぶクルマの実用化を目指しており、目標の一つに置いている。
2022年3月、スズキはスカイドライブと空飛ぶクルマの事業化を目指して連携協定を締結し、インドを中心に世界展開を検討している。
2022年10月、2025年の大阪・関西万博での飛行を目指す「空飛ぶクルマ」について、国土交通省とアメリカ連邦航空局が連携強化をはかる声明への署名式が行われた。日米で機体の認証や運航基準の整備などを円滑にすすめるのが目的である。
2022年10月、米国のJoby Aviationが、eVTOLに関して海外企業として初めて安全基準などが適合していることを証明する型式証明を国土交通省に申請した。
今後、2国間で連携して審査を進める。型式証明が取得できれば、次に航空機の所有会社が耐空証明の取得を申請して取得することで実用化が実現する。
2023年2月、日本国際博覧会協会は、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)で実用化を目指す「空飛ぶクルマ」の運航事業者に、ANAホールディングス、JAL、米国ジョビー・アビエーション、スカイドライブ、丸紅を選定した。万博会場内に設置する離着陸場(ポート)はオリックスが運営する。
同協会は今後、事業者と連携して具体的な運航体制の構築をめざす。
2023年5月、日本航空(JAL)は、ボーイングが出資する米新興のウィスク・エアロと提携した。協力して日本で数人乗り自動運転の「空飛ぶタクシー」の運航を目指す。
ボーイングのエンジニアも開発に参加し、数年以内の事業化を目指し、日本における型式認証の取得や航空安全当局との協議、デモフライトの実施に向けて連携する。JALグループの整備会社JALエンジニアリングが整備計画の立案で協力する。
2024年1月、日機装は、宮崎県にあるグループ工場からジョビー・アビエーションに構造部品を初出荷した。航空機のジェットエンジンの気流を制御するカスケード部品で、軽量・高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を一体成型して製造し、ジョビー・アビエーションから高い評価を得ている。
2024年3月、関西電力は、韓国の航空機リース会社ソリュー・カンパニーと空飛ぶクルマの充電設備の業務提携を発表した。ソリューはスカイドライブから50機の機体購入予約をしており、関西電力は充電設備50台をソリューに提供し、両社で世界に機体や充電設備の提供先を開拓する方針である。
2024年4月、関西電力は、大阪市内で「空飛ぶクルマ」の充電設備を公開した。2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)に合わせて運用を始める。充電器は電力機器を手掛けるダイヘンと共同開発した。
2024年9月、2025年国際博覧会での「空飛ぶクルマ」の商用飛行について、安全審査の遅れなどから日本航空(JAL)とANAホールディングスが見送ることを発表。2023年5月に丸紅、2024年6月にスタートアップのスカイドライブが見送る判断を示しており、4陣営全てが一般客を乗せた飛行を実施しないことになった。
JALは独ボロコプター、ANAは米ジョビー・アビエーションの機体を使用する計画であったが、所管する欧州航空安全機関(EASA)、米連邦航空局(FAA)の型式証明が取得できず、国内での商用飛行は欧米の認証取得後、改めて国土交通省による審査が必要となるため、2025年4〜10月の実現は難しいと判断した。
多数の「空飛ぶクルマ」が市街地の上空を安全飛行するためには、運航ルールや操縦士免許などの制度整備が欠かせない。一方で、飛行地域の住民の安心を得て社会受容性を高める取り組みが必要となる。メーカー任せではなく、政府の積極的なリーダーシップが期待される。