欧米では1979年のスリーマイル島原発事故以降、原発の新規建設が途絶え、2011年の福島第一原発事故により、日本も原発の新規建設が中断された。現在、世界の原子力市場は中国とロシアが主体となっており、米国、カナダ、英国などが「小型モジュール炉(SMR)」で原子力分野の巻き返しを図っている。
国内では、福島第一原発事故を教訓として安全性を高めた大型商用炉「革新軽水炉」の開発を進めたが、欧米では「小型モジュール炉」に注目が集まった。すなわち、原子炉をモジュール化して工場内で組み立て、ユニットとして輸送・設置することで、安全性と経済性を両立させ、多目的用途を目指している。
小型モジュール炉(SMR)とは
国際原子力機関(IAEA)の定義による電気出力:30万kW以下の小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)が、世界で注目を集めている。小型高速炉、小型軽水炉、小型高温ガス炉など様々な炉型がSMRと呼ばれているが、モジュール化により工場内で組み立て、ユニットとして輸送・設置する炉の総称である。
小型モジュール炉(SMR)の特長:
■安全性:SMRは小型・低出力のため、事故時に自然冷却による炉の冷温停止が可能で、構造の簡素化や防災計画エリアの縮小を実現できる。また、燃料交換不要あるいは交換頻度を低減できるため、核セキュリティ・核不拡散の面でも優れており、初期投資を抑えることができる。
■モジュール化:工場でモジュールを製造して組み立て、ユニットとして運搬し、現地で設置することができる。そのため、品質の維持・向上、工期の短縮、建設費の低減ができる。
■用途:寒冷地や離島などでの分散電源、原子炉モジュールの台数増による大規模集中発電、あるいはクリーン水素製造、熱供給、医療用など柔軟な使い方ができる。
国際原子力機関(IAEA)は、「SMRは世界で80以上の開発が進められている」と報告している。既に、ロシア極東地域チュクチ自治管区内ペベクの小型PWRを搭載した海上浮揚型原子力発電所と、中国山東省栄成の石島湾の高温ガス炉実用炉「HTR-PM」は発電運転を開始している。
一方、欧米では1979年の米国スリーマイル島原発事故以降、原子力発電所の新規建設が途絶え、2011年の福島第一原発事故により、日本も原子力発電所の新規建設が中断された。現在、世界の原子力市場は中国とロシアが主導しており、米国、カナダ、英国などがSMRで原子力分野の巻き返しを図っている。
2021年5月、国際エネルギー機関(IEA)は、2050年の脱炭素を想定した「ネット・ゼロ・シナリオ」を公表し、達成に向け原子力発電の貢献を重視している。先進国ではSMR開発に重きが置かれ、2021~2035年にかけて約450万kW/年で拡大すると予測している。
米国では電気出力:30万kW以下の軽水炉を「SMR」と呼び、非軽水炉型の炉は出力に関係なく「新型炉」と定義し区別している。また、英国では出力:100万kW以下の小型軽水炉を「SMR」と称し、非軽水炉型の先進モジュール炉(AMR:Advanced Modular Reactor)とは区別している。
本稿では、米国方式の分類に従い小型軽水炉である「SMR」と、非軽水炉系の「新型炉」の開発動向を区別し、小型軽水炉「SMR」の開発動向をレビューする。
また、小型モジュール炉の中でも、熱出力:2万kW以下、または電気出力:1万kW以下の超小型の原子炉は「マイクロ炉」と呼ばれる。その多くはトラックや輸送コンテナで運べる規模で、ディーゼル発電機に代る小型分散型電源として、多様な利用をめざして開発が進められている。
小型軽水炉「SMR」の開発動向
米国
ニュースケール・パワーの「VOYGR」
NuScale Power(ニュースケール・パワー)が開発する「NuScale Power Module (NPM)」は、PWR型の小型軽水炉(熱出力:20万kW、電気出力:7.7万kW、炉心出口温度:316℃)である。
1モジュールは圧力容器・蒸気発生器・加圧器・格納容器を含む一体型パッケージで、最大12基のモジュールが大きな地下プールの中に設置される。大型の冷却水ポンプや大口径配管が不要で、それぞれ独立したタービン発電機と復水器に接続される。
モジュール12基が設置された「VOYGR-12」は総出力:92.4万kWで、6基が設置された「VOYGR-6」は46.2万kW、4基が設置された「VOYGR-4」は30.8万kWを、ラインアップしている。
2020年9月、米国原子力規制委員会(NRC)はモジュール1基の出力が5万kWのNPMについて、SMRとして初の「標準設計承認(SDA)」を発給し、2023年1月、設計認証(DC:Design Certification)を発給した。その後、設計改良が行われ、2023年1月、モジュール1基の出力が7.7万kWのNPMのSDAを申請している。
DOEによる支援を受け、西部6州の電気事業者48社で構成されるユタ州公営共同事業体(UAMPS)が、アイダホ国立研究所敷地内にNPM初号機「VOYGR-6」を建設する計画で、最初のモジュールは2029年の運転開始をめざしている。2021年4月に日揮HD、2021年5月に IHI が相次ぎ出資を表明した。
2022年1月、英国シアウォーター・エナジーと、SMRと風力発電を組み合わせたハイブリッドエネルギー・プロジェクトをウェールズで進める協力覚書を締結した。また、同年2月、KGHMポーランド採掘会社は、2029年までにNPMをポーランド国内で建設するため先行作業契約を締結した。
2022年4月、NPM初号基建設に向け、韓国の斗山エナビリティ(=Doosan Enerbility、旧斗山重工業)と、原子炉圧力容器の鍛造材生産を始めとする主要機器の製造を、本格的に開始する契約を締結した。
2022年12月、SMRを活用したクリーン水素製造を共同開発・実証するため、Shell Global Solutions(シェル・グローバル・ソリューションズ)、アイダホ国立研究所(INL)、ユタ州公営共同事業体、Fuel Cell Energy(フュエルセル・エナジー)他と共同研究協定を締結した。
固体酸化物形電解セル(SOEC)で水素を製造・貯蔵し、逆反応である固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いて、貯蔵した水素から発電することで、出力変動する再生可能エネルギーの負荷調整をめざす。
2023年11月、米国ニュースケール・パワーは、INLで2029年の稼働を計画していた初号基「VOYGR-6」の建設中止を発表した。同年9月には中部電力も出資を発表しており、関係者に衝撃が走った。
米国初の案件であったが、2023年1月、発電価格が8.9セント(約13円)/kWhと当初計画より約5割高くなる見通しを発表し、さらにインフレや金利高で建造費なども高騰し、経済性が見込めないのが理由である。
その他、米国Xcelエナジーやデイリーランド電力共同組合が、「VOYGR」導入を検討している。米国外では、カナダ、チェコ、エストニア、ポーランド、ルーマニアなどの企業が「VOYGR」導入を検討しており、それぞれが実行可能性調査などの了解覚書をニュースケールと締結している。今後の動向が注目される。
ホルテック・インターナショナルの「SMR-160」
Holtec International(ホルテック・インターナショナル)が進める「SMR-160」は、子会社SMRが開発中のPWR型の小型軽水炉(電気出力:16万kW、炉心出口温度:321℃)である。事故時に、外部からの電源や冷却材の供給なしで、炉心冷却が可能な受動的安全系を備えている。
カナダのSNC-ラバリン、米国のエクセロン・ジェネレーションなどが開発で参加し、燃料はフランスのフラマトムが供給する。
また、2022年3月、三菱電機は、米国子会社 Mitsubishi Electric Power Productsを通じて、ホルテックと「SMR-160」向けの安全運転を支える計装制御システムの設計契約を締結した。
2022年10月、主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業とし、米国他での「SMR-160」の建設プロジェクトを加速するため、韓国の現代建設と事業協力契約を締結した。
2023年2月、「SMR-160」の機器製造協力で、英国の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズと了解覚書を締結した。
「SMR-160」は、ニュージャージー州で保有する旧オイスタークリーク原子力発電所サイト、あるいは南部2州の候補サイトで初号機建設を計画している。
また、2019年6月、ウクライナでの展開に向け、国営原子力発電企業エネルゴアトムらと国際企業連合を結成した。2022年7月、米国エンタジーと1基以上を建設する実行可能性調査で協力覚書を締結した。2022年9月、チェコ電力(ČEZ)とテメリン原子力発電所での「SMR-160」増設の評価継続で覚書を締結した。
GE日立・ニュークリアエナジーの「BWRX-300」
GE日立・ニュクリアエナジーと日立GEニュークリア・エナジーが開発するBWR型の小型軽水炉「BWRX-300」(熱出力:87万kW、電気出力:30万kW、炉心出口温度:288℃)である。実用化済みの改良型沸騰水型軽水炉「ABWR」の構造・部品を流用するため技術的な課題は少なく、早期の市場投入が可能である。
原子炉上部に設置した冷却用プールの大量の水を使い、ポンプや非常用ディーゼル発電機を不要とし、受動的に安全を確保する。工場で製造した部品(モジュール)を現地で組み立て、一次系以外に一般産業技術を積極採用することで建設費や工期を抑え、建設費用は約1000億円/基としている。
現時点で、「BWRX-300」は米国原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)を受けていない。2022年8月、テネシー峡谷開発公社(TVA)がクリンチリバー・サイトで建設する可能性出てきたため、予備的な許認可手続きを開始し2032年までに完成させる予定である。
2021年11月、カナダの電力会社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)が「BWRX-300」を選定した。受注額は4基合計で3000億円規模とみられ、オンタリオ州ダーリントンに建設する。2022年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請し、早ければ2028年末の初号基稼働をめざす。
2022年6月、サスカチュワン州営電力も、2030年代半ばまでにSMRを建設する場合、「BWRX-300」を採用すると表明し、同年9月に候補地2か所(サスカチュワン州のエステバンとエルボー)を選定した。
2021年12月、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントスのグループ企業が、ポーランドの石油精製企業PKNオーレンと合弁企業オーレン・シンソス・グリーン・エナジーを設立し、2030年代初頭までに少なくとも10基の「BWRX-300」の建設に取り組む方針を発表した。
2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギアは、同国初のSMRに「BWRX-300」を選定した。2030年代初頭の完成をめざしている。
ラストエナジーの「PWR-20」
Last Energy(ラストエナジー)が開発を進めるPWR型の小型モジュール炉「PWR-20」(熱出力:6万kW、電気出力:2万kW)は、10基建設してベースロード用電源(総出力:20万kW)としての活用をめざしている。
従来の大型軽水炉と比べて製造に必要な費用と時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することめざしている。運転期間は42年を想定している。
2022年6月、ポーランド政府所有の電力会社Enea(エネア)グループは「PWR-20」導入を目指し、ラストエナジーと建設の基本合意書を締結した。SMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給と廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、ラスト・エナジーが協力する。
2022年7月、ポーランドのレグニツァ経済特別区運営会社(LSSE:Legnica Special Economic Zone SA)とエネルギーの効率化サービスを提供するDBエナジーは、「PWR-20」を南西部レグニツァ地区内で10基建設することで基本合意書を交わした。
英国
ロールス・ロイスSMRの「UK-SMR」
Rolls-Royce(ロールス・ロイス)が主導する企業連合は、既存技術をベースに「UK-SMR」と呼ばれるPWR型の小型軽水炉(熱出力:127.6万kW、電気出力:47万kW)を開発中で、2031年の初号基稼働をめざしている。その後、政府の関与を前提に2035年までに10基、2050年までに最大16基の建設を目指している。
2021年7月、ロールス・ロイスと英国原子力エンジニアリング会社のCavendish Nuclear(キャベンディッシュ・ニュークリア)は、SMRの設計・許認可、製造等の協力覚書を締結した。
2021年11月、ロールス・ロイスは米国エクセロン・ジェネレーション、フランスのBNFリソーシズUKと、英国内のSMR開発に今後3年間で合計1.95億ポンド(約295億円)投資すると発表。これを受けて英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、2.1億ポンド(約318億円)を提供する方針を表明した。
2022年3月、英国原子力規制庁(ONR)は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)からロールス・ロイス子会社のロールス・ロイスSMR製の小型モジュール炉設計について、包括的設計認証審査(GDA)の実施を要請された。
2022年8月、ロールス・ロイスSMRは、オランダでのSMR建設に向けて協力していくため、オランダの新興原子力事業社であるULC-エナジーと独占契約を締結した。今後、オランダでSMRの建設準備を進める。また、海外受注をめざし、トルコ、チェコ、エストニアとは実行可能性調査の覚書を締結した。
ロシア
ロスアトムの海上浮揚式原子力ユニット
国営原子力総合企業ROSATOM(ロスアトム)は、世界初の海上浮揚式原子力発電所の「アカデミック・ロモノソフ号」を開発・建造した。小型PWR「KLT-40S」(最大熱出力:19万kW、電気出力:3.5万kW)2基の海上浮揚式原子力ユニット(NFPU)が搭載され、2019年12月、極東チュクチ自治区管内ペベクに送電を開始した。
2020年5月、営業運転を開始してロシア原子力発電所に正式承認された。世界初のSMR発電所でもある。
また、ロスアトム傘下のOKBMアフリカントフが「KLT-40S」をベースに開発した「RITM-200」(電気出力:5万kW)2基で構成されるNFPUを、アトムエネルゴマシが4隻に搭載する計画である。2022年8月、船体部分の起工式が中国の造船所で行われた。
船体は長さ140m×幅30m、総重量:2万トン近くなる見通しで、1隻目はチュクチ自治区のバイムスキー銅鉱山に近いナグリョウィニン岬に係留され、運転開始は2026年末頃である。
一方、「RITM-200」(電気出力:5万kW)は、2020年10月就航の最新式原子力砕氷船「アルクティカ」に搭載された。また、2020年12月には陸上設置版である「RITM-200N」(電気出力:5.5万kW)が、極東サハ共和国北部ウスチ・ヤンスク地区のウスチ・クイガ村で、2028年までに完成する計画が発表された。
中国
中国核工業集団公司(CNNC)の「玲瓏一号(ACP100)」
2021年7月、中国核工業集団公司(CNNC)は海南省の昌江原子力発電所で、国産のPWR型SMR実証炉「玲瓏一号(ACP100)」(電気出力:12.5万kW)の建設開始を発表。国際原子力機関(IAEA)の安全性評価も通過し、発電のみならず多目的用途(暖房、蒸気生産、または海水淡水化)向けに設計されている。
一方、2016年11月、中国広核集団有限公司(CGN)が海上浮揚式原子力発電所「ACPR50S」(熱出力:20万kW)を開発するため、実証炉(6万kW)の原子炉容器購入契約を東方電気と締結した。2020年の発電開始を目指していたが、開発に遅れが生じている模様。
PWR型の小型原発セパレート型エネルギーシステムは、中国の近海・遠洋・島嶼などの地域にエネルギーを安定供給するための重要な手段としている。
フランス
フランス電力(EDF)の「NUWARD」
2021年10月、政府は10億ユーロ(約1300億円)を投じてSMR開発を進めると表明。フランス電力(EDF)は原子力・代替エネルギー庁(CEA)、小型炉開発企業のテクニカトム(TechnicAtome)、フラマトムと協力し、小型PWR×2基で構成されるSMR「NUWARD」(熱出力:54万kW、電気出力:34万kW)の概念設計を進める。
2022年5月、ベルギーの大手エンジニアリング企業Tractebel(トラクテベル)が、「NUWARD」の概念設計の確認調査を請け負い、フランス電力は2022年中に基本設計に入ることを表明した。2030年には実証炉の建設を開始し、世界市場をめざす方針である。
2023年1月、フランス電力(EDF)とポーランドのリスペクト・エナジー(Respect Energy)は、EDFが中心となって開発している「NUWARD」のポーランド国内での共同建設に向け協力協定を締結した。
2023年6月、フランス電力(EDF)と子会社のNUWARD、ベルギーのトラクテベルは、「NUWARD」の技術開発の協力強化の枠組み協定に調印した。
ロードマップよれば、2025~2030年に「NUWARD」の詳細設計と正式申請が予定され、同期間中の設計認証とサプライチェーンの開発を経て、2030年に初号基に着工し、建設期間は約3年と見込まれている。
アルゼンチン
アルゼンチンの「CAREM-25」
2014年2月、アルゼンチン原子力委員会(CNEA)は、PWRタイプのSMR原型炉「CAREM-25」(熱出力:10万kW、電気出力:2.5万KW)の建設工事を開始したと発表。CNEAが設計、総投資額35億ペソ(約455億円)で国内のIMPSAに発注し、機器・関連サービスの7割を国内企業から調達する方針で、現在製造中である。
一次冷却システム(炉心、蒸気発生器、一次冷却材、蒸気ドーム)は、高さ11m×直径3.5mの自己加圧容器内に収められる。蒸気発生器は炉心上部に設置され、一次冷却材は自然循環が行われるため一次系ポンプが不要など、構造の簡素化が進められている。
建設サイトはブエノスアイレス州パルティード・デ・サラテ市で、アトーチャ原子力発電所に隣接する。当初、2022年建設完了をめざしていたが、政府からの建設費支払遅延や設計変更などで作業が中断した。
2023年11月、CNEAとアルゼンチン原子力委員会(NA-SA)は、建設再開中の小型モジュール炉(SMR)の開発に関する技術支援の枠組み協定に署名した。多くの国営企業が「CAREM-25」の実現に向けて様々な分野で参加することで、完成は2027年末となる見込みである。
日本
日本は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、海外のSMR実証プロジェクトとの連携で、2030年までにSMR技術の実証を目指すとしている。また、文部科学省と経済産業省が原子力イノベーション促進(NEXIP)イニシアチブ事業を行い、SMR実証炉を開発する民間企業等を支援している。
2022年7月、経済産業省が示した工程表では、小型軽水炉について、2030年代から国内で機器の製造・建設を始め、2040年代に実証運転を開始する目標を掲げている。
三菱重工業の多目的軽水小型炉
2021年6月、国内電力会社大手とPWR型の多目的軽水小型炉(出力:30万kW)の概念設計に入った。一次冷却材管および1次系主要機器(蒸気発生器、一次冷却材ポンプ、加圧器など)を原子炉容器内に統合する一体型原子炉で、 2040年頃の市場投入を目指し、建設費は2000億円/台としている。
原子炉内の冷却材の温度差を利用して一次冷却材を自然循環させることでポンプを不要とし、配管破断による冷却材喪失や電源喪失による事故発生を原理的に排除する。また、重要な建屋を地下設置して航空機衝突などの外部ハザードへの耐性や、二重格納構造による放射性物質の閉じ込め機能を強化する。
将来の電源ニーズの多様化/分散化に向け、小規模グリッド電源向けの発電用炉や、離島・島しょ地域など極小グリッド向電源や災害地域への緊急電源、舶用動力などのモバイル電源への展開を想定している。
小型軽水炉「SMR」の課題
国内では、福島第一原発事故を教訓に、安全性を高めた大型商用炉である「革新軽水炉」の開発をめざした。しかし、欧米では安全性と経済性を両立させた「小型モジュール炉」に注目が集まっており、スタートアップを含む多くの原子炉メーカーが小型軽水炉「SMR」の開発を進めた。
その後、国内原子炉メーカーである日立GEニュークリア・エナジーは「BWRX-300」、三菱重工業は多目的軽水小型炉(PWR)と、いずれも早期に市場投入が可能な軽水炉タイプの小型モジュール炉(SMR)の概念設計を進め、海外市場をめざしているのが現状である。
日本原子力研究開発機構(JAEA)は期待が先行するSMRの課題として、経済性、安全基準、サプライチェーンの構築を示している。ただし、SMRの定義には、小型軽水炉と新型炉の両方が含まれている。
①経済性:
従来のスケールメリット(大型化)によるコスト削減の方向に反している。将来的に炉型を集約して標準化・量産化を進め、発電単価を低減する必要がある。加えて、大量生産しなければコストダウンが難しい。
②安全基準:
軽水炉タイプのSMRには従来の安全基準の適用が可能と考えられるが、高温ガス炉や高速炉タイプのSMRは安全基準が確立されるまで許認可に時間を要し、開発期間が長引く。
③サプライチェーンの構築:
軽水炉タイプのSMR以外は、既存の軽水炉と異なる新たなサプライチェーンの構築が必要となる。
国内における小型軽水炉「SMR」の課題は、大型商用炉として開発を進めている「革新軽水炉」に置き換わる可能性の有無である。
小型化することで基本的に安全性が担保されると考えると、大量生産による小型軽水炉の低コスト化が必須課題である。今後、基本設計・詳細設計が進められる中で、経済性の評価が小型軽水炉実現の可能性を決める。加えて、実績のない小型軽水炉では、実証炉による製造・建設・運転・管理の確認が不可欠である。
既に、2023年11月、小型軽水炉で先行する米国ニュースケール・パワーは、西部アイダホ州で2029年稼働を計画していた6基のSMR建設中止を発表した。主な原因は、経済性が見込めないためとされた。
政府は2030年の電源構成に占める原子力の割合について、20~22%を目指すとしている。これは大型軽水炉(出力:120万kW)の27基分に相当する。
国内電力会社は既存原発の再稼働・運転延長を指向しており、安全性を強化した「革新軽水炉」への建て替え時期すら見通せないのが現状である。従来、発電単価を抑えるために大型化を進めてきた軽水炉開発の経緯を考えると、あえて「小型軽水炉」を多数新設することのメリットは見込めない。