停滞する太陽光・地熱の導入

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 政府は、2012年の固定価格買取制度(FIT)の導入により再生可能エネルギーの積極的な導入を推進し、第6次エネルギー基本計画では2030年度の再生可能エネルギーの達成目標を36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)と設定した。

 しかし、現時点で目標の達成見通しは立たず、加えて導入過程で多くの問題を引き起こしている太陽光パネルの国内市場も安価な中国・韓国メーカーがシェアを高めている。また、地熱発電電力量が1997年をピークに年々減少傾向にある。

太陽光パネルの縮小・撤退

 太陽光パネルは、2000年代前半にはシャープが世界シェア1位で、京セラ、パナソニック、三菱電機などの日本企業が上位5社を占めた。しかし、中国・韓国企業が2010年前後に急拡大していた欧州市場向けに大幅な設備投資を進めた結果、現在は中国企業が世界シェア1~5位を独占している。

 コモディティ化が進むシリコン系太陽光パネルは、他メーカーへの入れ替えが容易であるため、毎年上位順位が変動する過当競争市場にあり、その価格は年々低下している。当面は規模の経済によるコスト優位の中国企業がシェア上位を占め、日本企業の再参入は難しい

国内太陽光発電の導入状況

 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の調査によれば、固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、東日本大震災当時(2011年度)に比べると2021年度の太陽光発電の年間発電電力量は約18倍に増加し、天候などの影響を受ける太陽光発電と風力発電が総発電電力量に占める割合は10.4%に上昇した。

 特に、太陽光発電の伸びは顕著で、前年度の8.9%から約0.6ポイント増えて国内の年間発電電力量の9.5%に達している。これは水力発電の7.6%をすでに上回る割合である。一方、天候などの影響を受けにくい小水力発電、地熱発電、バイオマス発電についても徐々に増加している。

 第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の再生可能エネルギーの達成目標は36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)であり、再稼働の進まない原子力発電と比べて、太陽光発電の伸長は優等生であるかに見える。

 しかし、2010年以降の太陽光発電による発電電力量の顕著な伸びは、安価な中国・韓国製の太陽光パネルに支えられており、国内の太陽光パネルメーカーの縮小・撤退が始まったのである。

図1 日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電量の割合のトレンド 出典:ISEP

太陽光パネルメーカーの変遷

 2018年5月、太陽光パネルの国内総出荷量は2014年をピークに、2017年時点において3年連続で減少していると報じられた。これは固定価格買取制度(FIT)の買取価格の低下による影響が大きく、国内のメガソーラー新設が一巡して需要が減少したことが大きな原因と考えられた。

 さらに中国・韓国からの安価な太陽光パネルの流入が追い打ちをかけた。各メーカーの発電効率が20%程度まで上昇し、長期信頼性などの性能を含めて同水準となった。特に、中国企業は政府主導で増産投資を繰り返し、太陽光パネルの価格が2012年に比べて2017年時点で約60%も下落した。 

 その結果、2005年に世界市場を席捲した日本企業(シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機)とドイツのQセルズは業績不振に陥り、2017年には上位を中国企業(ジンコソーラー、トリナ・ソーラー、JAソーラー)、中国系カナダ企業(カナディアンソーラー)、韓国企業(ハンファQセルズ)が占めた。

図2 太陽電池パネルメーカーの世界シェア
出典:2005年は生産量ベースでPVNews調べ、2017年は出荷量ベースでIHSMarkit調べ

 その後、2018年5月、市場規模1位の中国でFIT買取価格の引き下げと共に新規メガソーラ―が買取対象外とされた。市場規模2位の米国は、2018年1月に国内の太陽光パネル産業保護のためにセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、3位のインドもこれに追随を表明した。

 米国のセーフガードは安価な太陽光パネルの国内流入を制限するもので、結晶シリコン系太陽電池 の輸入製品に対して4 年間にわたり関税を課した。複数の大手メーカーが米国内で生産拡大を表明したが、多くは太陽光モジュール(パネル)の組み立てに終わり、セル生産には踏み込めなかった。

 一時期、供給過剰となった太陽光パネル市場ではあるが、2020年には世界の太陽光パネル出荷量は、結晶シリコン系と金属化合物系など合せて前年比7%増の131.7GWにまで拡大した。国別で見ると、中国が全出荷量の67%と最大を占めた。

 SPV Market ResearchのSolar Flareによると、2020年の世界シェア1位はロンジ(Longi)、2位はトンウェイ・ソーラー(Tongwei Solar)、3位JAソーラー、4位アイコ・ソーラー(Aiko Solar)、5位トリナ・ソーラー(Trina Solar)と中国メーカーが占め、5社合計で総出荷量の43%であった。

 種別では、2019年に単結晶シリコン系の出荷量が、多結晶シリコン系を超えてシェア62%、2020年は88%に達した。薄膜タイプのシェアは2020年に総出荷量の5%を占めたが、その9割は米国ファースト・ソーラーの金属化合物系であるCdTe型太陽光パネルで、世界シェアは10位であった。

 2022年8月、米国ファースト・ソーラーは、国内4カ所目の新工場建設などに最大12億ドルの投資を発表した。自給自足を目指す米国政府は、再生可能エネルギー企業への投資優遇を進めており、再生可能エネルギー由来の電力を利用する家庭にも、1000ドル以上/年の税額控除を実施した。

国内太陽光パネルメーカーの苦境

 太陽光パネルの国内市場も、安価な中国・韓国メーカーがシェアを高めている。生産規模の小さい日本企業の太陽光パネル価格は30~50%以上割高である。そのため日本企業は高価格でも売れる国内住宅向けに販売をシフトして生産規模を縮小したが、価格が一層高くなる悪循環に陥った。

 太陽光パネルの国内市場の大幅縮小と中国・韓国メーカーによる低コスト攻勢を受けて、日本の太陽光パネルメーカーはいずれも経営不振に陥り、米国のセーフガードような政府支援の発動も行われなかったため、国内生産量の大幅縮小が進められた。

三菱電機

 2018年3月、長野県中津川製作所飯田工場でのセル生産を終了し、同製作所京都工場で外部調達したセルのパネル組み立てのみに縮小した。しかし、2020年3月、自社ブランドの太陽光発電システムの製造販売を終了した。
 再生可能エネルギー分野の事業は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)、V2X(自動車用充放電器)などの領域に注力し、太陽光発電システムの調達は京セラと連携すると発表した。

パナソニック

 2018年、パナソニックは大阪府二色の浜工場のセル生産を停止し、滋賀工場を閉鎖してパネル組み立てをマレーシア工場に移管したが、2019年5月にはマレーシア工場を中国企業GSソーラーに売却し、研究開発機能を分離してGSソーラーと新会社を設立すると発表した。
 その後、2021年1月、太陽光パネルの生産から撤退し、2021年度に主力のマレーシア工場や島根県の工場での生産を終了し、今後はスマートシティー向けの電力管理システムなど独自技術を生かした再生可能エネルギー事業を目指すと発表した。

ソーラーフロンティア

 市場で主流の結晶シリコン系太陽電池とは異なり、銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)の3元素を用いた金属化合物系であるCIS型太陽電池パネルの製造販売が事業の中心である。 結晶シリコン系と比べて光の吸収能力が高く、発電層の厚さを1/100程度薄膜タイプにできる特徴がある。

 中国・韓国企業の低コスト攻勢により経営状況が悪化し、宮崎工場や宮城県東北工場での太陽光パネル生産を宮城県国富工場に集約したが、2021年10月、出光興産子会社のソーラーフロンティアは太陽光パネル生産から撤退し、薄膜タイプのCIS型太陽電池の生産を2022年6月末で終了した。

 今後、太陽光発電所の設計・調達・建設事業、運用保守事業、自家消費システムの提案、リサイクル事業などを強化する。研究開発は出光興産次世代技術研究所に集約し、CISの高放射線耐性を生かせる宇宙空間用途、電動自動車や通信用ドローンなど移動体用のタンデム型太陽電池への活用を検討する。

 2022年10月、住宅向けの単結晶シリコン太陽電池モジュールの新製品「SFB250-88A」を発表したが、OEM調達によるもので国内生産されている。

京セラ

 2015年度以降、太陽光パネルの生産量が低下傾向となり、収益性も悪化したため、2017年4月、三重県伊勢市のパネル組み立て工場を休止し、国内生産拠点である滋賀県野洲工場への集約を進めると公表した。自社製太陽光パネルの生産は規模を縮小して継続されている。

シャープ

 経営不振から、2016年8月、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の傘下に入った。2016年度における太陽光パネルの生産量は70万kWで、2014年度と比較すると60%の減少で、太陽光パネル事業からの撤退も報道されたが、鴻海の生産力や販売網を生かせば黒字化が可能と判断し事業は継続されている。

 その後、住宅用太陽光発電システム「サンビスタ」の販売を始めた。BLACKSOLARと呼ばれる新しい太陽光パネルが核で、エネルギー変換効率は19.6%と業界最高レベルである。

 日本はエネルギー自給率が12.1%と世界的にみても低い。これは石炭・石油・天然ガスなど化石燃料への依存度が高く、そのほとんどを輸入に頼るためである。その結果、輸入先の社会情勢や国家間の関係性などの影響を受け、現在も「電力ひっ迫」や「電気料金高騰」などが起きている。

 エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギーの導入が有効であるが、その旗頭である太陽光発電について、自前の優れた太陽光パネル技術を有するにも関わらず、安価な中国製を導入しているのが現状である。国産パネルの保護・育成に向け、政策転換の潮時ではないか?

国内太陽光発電の抱える問題

何故、日本メーカーは苦境に陥ったのか?

 太陽光パネルは、2000年代前半にはシャープが世界シェア1位で、京セラ、パナソニック、三菱電機などの日本企業が上位5社を占めていた。しかし、中国・韓国企業が2010年前後に急拡大していた欧州市場向けに大幅な設備投資を進めた結果、現在は中国企業が世界シェア1~5位を独占している。

 日本企業は総合電機メーカーが太陽光パネルの生産を手掛けており、専業メーカーに比べて投資規模で劣り、原材料であるシリコンの調達などでコスト競争に負けたのである。明らかに貿易摩擦が発生しており、国内企業の保護が必要な状況にも関わらず、十分な政府支援は行われなかった

 コモディティ化が進むシリコン系太陽光パネルは、他メーカーへの入れ替えが容易であるため、毎年上位順位が変動する過当競争市場であり、太陽光パネルの価格は年々低下している。当面は規模の経済によるコスト優位の中国企業がシェア上位を占め、日本企業の再参入は難しい現状にある。

 2023年2月、東芝エネルギーシステムズは住宅用太陽光発電システムの新規販売の終了を発表した。東芝は2010年に提携した米国サンパワー製の太陽光パネル(変換効率:20%超)を使い発電システムの供給を進めてきたが、国内外の多くのメーカーが市場参入し、競争が激化した結果の撤退である。
 産業用太陽光発電事業については継続を表明しているが、大型のパワーコンディショナーや受変電設備に強みがあるためで、安価な中国製太陽光パネルの拡大は止まらない。

国際エネルギー機関(IEA)の予告

 2022年7月、国際エネルギー機関(IEA)は太陽光パネルの主要製造段階での中国シェアが8割を超えると公表した。2021年にはポリシリコンの世界生産能力の79%を占め、その42%は新疆ウイグル自治区にある。主要素材のポリシリコンやウエハーは、今後数年で中国シェアが95%になる。
 その結果、中国で火災や自然災害が発生すれば世界への供給が滞るほか、価格上昇につながる可能性があり、中国と西側諸国の対立が深まれば輸出が止まるリスクもある。今後、生産地の多様化を進める必要性をIEAは訴えている。

 日本はエネルギー自給率が12.1%と世界的にみても低い。これは石炭・石油・天然ガスなど化石燃料への依存度が高く、そのほとんどを輸入に頼るためである。その結果、輸入先の社会情勢や国家間の関係性などの影響を受け、現在も「電力ひっ迫」や「電気料金高騰」などが起きている。

 エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギーの導入が有効であるが、その旗頭である太陽光発電について、自前の優れた太陽光パネル技術を有するにも関わらず、安価な中国製を導入しているのが現状である。国産パネルの保護・育成に向け、政策転換の潮時ではないか?

図3 主要国の一次エネルギー自給率比較(2019年)
出典:IEA「World Energy Balances 2020」の2019年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2019年度確報値

次世代太陽光パネルの危機

 最近、ペロブスカイト型太陽電池(PSC:Perovskite Solar Cell)への注目度が高い。色素増感型太陽電池の一種であるPSCは、従来の色素の代わりにペロブスカイト結晶構造を持つ有機無機混合材料を用い、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発表したもので、世界中で研究が進められている。

 PSCはフィルムなどの基板に有機無機混合溶液を塗布して製造するため、シリコン系太陽電池に比べて重さが1/10程度で、折り曲げ可能、耐荷重の低い工場屋根や湾曲壁面などにも設置でき、雨天など弱い光でも発電できる。
 積水化学工業、東芝、アイシンなどが2025年以降の事業化を目指して研究開発を加速しており、将来的には製造・設置コストも安くなるとされている。

 2022年8月、積水化学工業はJR西日本が開業を目指す「うめきた(大阪)地下駅」にフィルム型PSCを提供・設置すると発表した。積水化学工業は独自に30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセスを構築しており、変換効率15.0%、屋外耐久性10年相当を確認している。
 今後、2025年の実用化に向けて1m幅の製造プロセスの確立し、変換効率20%、屋外耐久性20年相当を目指している。

 また、2023年2月、積水化学工業とNTTデータは、フィルム型PSCを建物外壁に設置する実証実験を、2023年4月から開始すると発表した。

 2023年2月、東芝は、桐蔭学園・東急・東急電鉄・横浜市が東急田園都市線の青葉台駅正面口改札前自由通路にPSCを設置し、屋内光の下での発電実証を実施するため、大面積(24.15cm×29.10cm、面積702.8cm2)のフィルム型PSCを提供する。
 東芝独自のメニスカス塗布法で製造しており、大面積での変換効率16.6%を確認している。

 2023年5月、東京都と積水化学工業は、PSCの実証実験を大田区にある森ヶ崎水再生センターで開始した。大きさの異なる電池3種類×3枚(合計面積は約9m2、合計出力は約1kW)を、水処理施設の反応槽覆蓋上部に設置した。

 2023年10月、日揮HDは、出資先の京大スタートアップのエネコートテクノロジーズが開発するペロブスカイト型太陽電池で電力事業を始めると発表。他社の物流倉庫や工場などの屋根や壁を間借りして太陽電池を設置し、得られた電力を長期間にわたり固定価格で売り、電力小売事業も検討する。
 2024年に北海道苫小牧市の物流倉庫を用いて発電効率や耐久性などを実証し、2026年をメドに大規模発電に乗り出す。大量生産や壁面取り付け工法を開発し、2028年までに発電コストを既存の太陽電池を下回る水準にする。

 2023年10月、半導体商社のマクニカは、宮坂力特任教授が代表のペクセル・テクノロジーズとフィルム加工メーカーの麗光と連携し、ペロブスカイト型太陽電池を、2024年春頃までに横浜港大さん橋に約15m2のパネルを設置し、塩害など過酷な環境下で耐久性や発電効率などを調べる。
 発電出力は計1.5kWを想定。発電効率は当初12〜15%程度を目標とし、徐々に高めていく計画で、2025年度には10倍超の規模で実証実験を行う。課題の一つの耐久性に関しては、発電部のモジュールなどが劣化した際には交換できる設計とし、交換式によって採算性が高まるかも検証する。

 2023年12月、ペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しするため、政府は新たに税制優遇を設けて税制改正大綱に盛り込む。ペロブスカイト型太陽光発電設備の固定資産税の課税標準額を原則2/3に軽減し、自治体の判断で、軽減率を最大1/2にもできるようにする。
 ただし、脱炭素に向けた技術開発を支援する「グリーンイノベーション(GI)基金」の事業への採択が条件で、2024年度からの適用を目指す。ペロブスカイト型は、主な材料となるヨウ素の生産量は日本が世界2位で、エネルギー安全保障の観点からも注目される。

 2023年10月、積水化学工業と積水樹脂は、大阪本社が入居する堂島関電ビルのリニューアル工事で、最上階の12階外壁にフィルム型ペロブスカイト太陽電池(約1m角のパネルを48枚)を実装した。
 積水化学のPSCと接着剤技術、積水樹脂の軽量不燃パネル「プラメタル」を組み合わせた「フィルム型ペロブスカイト太陽電池付き建材パネル」を共同開発した。プラメタルは、アルミニウムまたは鋼などの金属とプラスチックまたは無機材との積層複合板で、マンションやビルの外壁や天井に多く使われている。

 現在、次世代太陽光パネルと目されているペロブスカイト型太陽電池(PSC)は、国内ではNEDOなどの政府支援を受けて発電実証が進められている。一方で、PSCの量産に関しては、次のような報道が流れた。 

 2022年7月、中国のスタートアップ大正微納科技が薄くて曲がるペロブスカイト型太陽電池の大型パネルで世界初の量産を始めた。製造コストは既存の太陽光パネルの3倍だが、将来シリコン系太陽電池の半分まで下げられる可能性があり、スマートフォンへの搭載を想定している。

 開発段階で日本が先行している次世代太陽電池のペロブスカイト型PSCについても、量産への投資に消極的な日本企業を尻目に中国企業が動き始めているのである。シリコン系太陽電池の二の舞を演じて、同じ失敗を繰り返すことになるのか?

 政府は研究開発段階の支援のみならず、企業における事業推進段階においても十分な指導とサポートを行い、世界で通用する大企業を育成する必要があるのではないか?1企業だけの損得勘定に任せれば、リスク回避により次世代太陽電池についても早期の縮小・撤退が待っている。

太陽光発電”設置義務化”の問題点

 政府方針の「2050年カーボンニュートラルの実現」を受け、「ゼロカーボンシティ宣言」を行う自治体が、相次いで太陽光発電”設置義務化”を表明している。今後、他の自治体からも再エネ利用促進の実施目標が発信されるが、太陽光発電の設置、断熱・省エネなどが取り上げられるであろう。

 東京都は太陽光発電”設置義務化”の新制度の対象を中小新築建物、設置義務者は住宅を注文する個人(施主)ではなく建物供給事業者であるとし、2030年度に200万kW以上を目指して太陽光発電の設置義務化を推進する。東京電力の電力需要ひっ迫の一助となるが、問題もある。

改正地球温暖化対策推進法(改正温対法)

 2022年4月、地球温暖化対策推進法の一部改正法である「改正地球温暖化対策推進法」(改正温対法)が施行された。改正温対法の主なポイントは次の3点であり、太陽光発電”設置義務化”は(2)に該当する。

(1)「2050年カーボンニュートラルの実現」を基本理念として法律に明記
 条文には「我が国における2050年までの脱炭素社会の実現を旨として、国民・国・地方公共団体・事業者・民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならないものとする」と記された。
(2)地方公共団体実行計画に再エネ利用促進などの実施目標を設定
 従来法でも、地方公共団体に再エネ利用促進などを求める実行計画制度を定めていたが、実施目標の設定は定められていない。今回の改正では、都道府県・政令市・中核市の実行計画に、実施目標の追加を定め、再エネ利用促進などの実効性向上を図る。
(3)企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化
 改正温対法では、企業の温室効果ガス排出量報告を原則デジタル化し、排出量情報の公表に要する時間短縮を図り、手続き不要で閲覧可能とし、企業の脱炭素化の取り組みを透明性高く可視化する。

ゼロカーボンシティ宣言を行う多くの自治体

 改正温対法を受けて、環境省では「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業」により、ゼロカーボンシティ宣言を行う自治体を支援することになっている。

 2023年2月末時点で、2050年 二酸化炭素(CO2)排出の実質ゼロを表明している 自治体は、東京都・京都市・横浜市を始めとする871自治体(45都道府県、510市、21特別区、252町、43村)にのぼり、表明している自治体の総人口は約1億2,455万人に達する。

図1 ゼロカーボンシティ宣言を行う自治体と人口・数

京都府・市は、2050年までに「温室効果ガス排出量実質ゼロ」の実現を目指し、中期目標として2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度と比べ46%以上削減を掲げている。
 2020年12月、「京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例」により、延べ床面積2000m2以上の建物を対象に、太陽光発電などの再エネ設備の設置を義務化した。2021年4月からは、延べ床面積300m2以上の建物を対象にすると義務化を拡大した。
群馬県は、2050 年に向けた『ぐんま5つのゼロ宣言』実現条例の規定に基づき、2022年6月に「群馬県地球温暖化対策指針(排出量削減計画・再生可能エネルギー導入編)」を公表した。これにより、延べ床面積2000m2以上の建物に太陽光発電などの再エネ設備の設置を義務付けた。
東京都は、エネルギーの大消費地の責務として、「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、「2030年カーボンハーフ」(2000年比で温室効果ガス排出量50%削減、エネルギー消費量50%削減、再エネ電力使用割合50%程度)を表明している。
 都内CO2排出量の7割超が建物でのエネルギー使用に起因する。都は「環境確保条例」を改正し、新築建物の年間着工棟数の98%を占める中小規模建築物を対象に「建築物環境報告書制度」を新設した。代表的な施策が、2025年4月からの太陽光発電の設置義務化である。(詳細は後記)
川崎市議会は、2030年度末までにCO2排出量を2013年度比で50%削減する目標を掲げ、条例の改正により家庭からの排出量抑制を進めるため、2025年4月から戸建て住宅を含む新築建物への太陽光発電設置義務化を始める。
 延べ床面積2000m2未満の新築建築物の場合、住宅メーカーなどの事業者、延べ床面積2000m2以上の新築・増築建築物はデベロッパーなどの建築主に設置義務を課す。戸建ての場合、日当たりの悪い住宅や設置が難しい狭小住宅については除外するなど全戸を対象とはしない。

 政府方針の「2050年カーボンニュートラルの実現」を受け、ゼロカーボンシティ宣言を行う自治体が、相次いで太陽光発電”設置義務化”を表明している。今後、他の自治体からも再エネ利用促進の実施目標が発信されるが、太陽光発電の設置、断熱・省エネなどが同様に取り上げられるであろう。

東京都の太陽光発電”設置義務化”とは?

 2025年4月から始まる東京都の太陽光発電”設置義務化”について、もう少し詳しく見てみよう。

新制度「建築物環境報告書制度」の対象

 中小規模建築物とはのべゆか面積が2000m2未満のビルや住宅(マンション・戸建)で、都内の年間着工棟数の 98%(約49,000棟)を占めている。新築が対象で、既存住宅等の増築や大規模修繕・リフォームは対象外、2000m2以上の大規模建築物は、既に「建築物環境計画書制度」で義務化済みである。

太陽光発電の設置義務対象者

 太陽光発電の設置義務者は、住宅を注文する個人(施主)ではなく、都内において年間に延床面積の合計で2万m2以上供給する建物供給事業者が義務対象者(特定供給事業者)である。約50社が該当し、年間新築棟数のうち約53%をカバーする。知事から承認を受けた事業者も制度に参加できる。

 新制度の建築物環境報告書制度」は2025年4月に施行される予定で、2022年12月の都条例改正から2年程度の周知期間が設けられる。制度対象事業者に対して、1年間で供給する住宅等について一定量以上の再エネ設備の設置が求められる。 

事業者、施主・購入者に求められること

 再エネ設備とは、太陽光発電だけでなく、太陽熱利用や地中熱利用も含まれる。特定供給事業者は、施主・購入者に対して環境性能について説明する義務があり、施主・購入者は特定供給事業者からの説明を聞き、建物の環境配慮について理解して必要に応じて措置を講じ、環境への負担軽減に努める。

ZEV充電設備の整備基準を新設

 東京都は2030年までに乗用車の新車販売台数に占めるゼロエミッション車(ZEV)比率50%の目標を設定しており、普及を後押ししている。(ZEV:電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、燃料電池自動車(FCEV))

 新制度の「建築物環境報告書制度」では、ZEVの充電設備の整備基準も導入した。戸建住宅については、充電設備の設置は任意であるが、充電設備用配管等の整備を義務化する。ZEV充電設備の整備や断熱・省エネ性能設備の整備についても、義務化の対象は特定供給事業者である。

 一般家庭でBEV/PHEVを導入する場合、太陽光発電とBEV/PHEVの大容量蓄電池を組み合わせることで多くのメリットが生じる。そのための布石である。

ところで問題は無いのか?

 以上のように、東京都は太陽光発電”設置義務化”の新制度の対象を中小新築建物とし、設置義務者は住宅を注文する個人(施主)ではなく建物供給事業者とし、2030年度に太陽光発電200万kW以上を目指している。このトレンドは他の自治体にも波及し、一般家庭でも太陽光発電は拡大するであろう。

 温暖化対策などの大義名分は良しとして、東京電力の電力需要ひっ迫の一助にはなる。しかし、何の対策も施さずに太陽光発電”設置義務化”の新制度を進めて良いものであろうか?また、ZEVの充電設備の整備基準を導入するメリットは?さらに問題点を深堀りしてみる必要がある。

中国製太陽光パネルの大量導入

 現在、都内の建築物総数約225万棟のうち、太陽光発電設備の設置は9.5486万棟(4.2%)に留まる。東京都は本制度による太陽光発電導入量として4万kW/年程度の導入を見込み、大規模建築物や既存建物も含めて2030年度には200万kW以上へ増加させることを目指している。

 一方、2023年3月、経済産業省は2023年度の電力供給の余力を示す予備率をまとめ、東京電力管内の予備率は7月に3%と「電力需給逼迫注意報」の発令基準となる5%を下回る見通しを示した。東京都の太陽光発電の大量導入が進めば、電力不足を助ける一助となろう。

 しかし、国内の太陽光パネルメーカーは安価な中国勢にシェアを奪われ、高価格でも売れる国内住宅向けに販売をシフトして生産規模を縮小したが、価格が一層高くなる悪循環に陥り、三菱電機・パナソニック・ソーラーフロンティアの大手メーカーが生産から撤退した経緯がある。

 何の対策も施さなければ、安価な中国製太陽光パネルに国内住宅向け市場も席捲されるであろう。米中対立を背景に、中国一国への過度な太陽光パネル依存は、供給遮断などのエネルギー安全保障上のリスクを背負う。京セラなど国内生産を継続している太陽光パネルメーカーの支援が急務である。

再エネ出力制御率の増大対策

 2023年3月、東京電力はエリア内において、太陽光発電等の再エネ電源を中心とした発電設備の連系量が増加しており、今後必要に応じて需要と供給のバランスの維持を目的とした再エネ出力制御(系統からの遮断)を実施する可能性を表明し、政府はこれを了承した。

 東京電力は、2022年9月時点で太陽光発電1795万kW、風力発電43万kWの接続量を保有している。5月連休などで電力需要が低下した時に、晴天で太陽パネルがピーク発電すると、その出力変動を火力発電の出力制御揚水発電の電力貯蔵では調整できず、再エネ出力制御(一時停止)が行われる。

 東京電力管内のルールでは、住宅用太陽光発電(出力10kW未満)は、当面の間、出力制御の実施対象外である。しかし、2030年度に200万kW以上に増加した場合、再エネ出力制御(一時停止)率が高まるのは明らかであり、住宅用太陽光発電の対象外は保証されるものではない。

 何よりも重要なのは、東京電力が太陽光発電の出力変動を100%調整できずに再エネ出力制御を行う状況が続けば、再エネ導入拡大に支障が生じることである。東京電力が出来ないのであれば、家庭用太陽光発電の設置義務化と並行して、住宅用蓄電池の設置推進を図る必要がある。 

 他の自治体においても太陽光発電設備の設置義務化が進み、今後、さらに拡大することが予想されるため再エネ出力制御(一時停止)率は益々高まる再エネの出力変動を火力発電の出力変動で調整する現状から脱却し、真の脱炭素社会を実現するためには家庭用蓄電池の設置は必須となる。

様々な住宅用蓄電設備の導入ケース

 重大な問題を抱えるものの、住宅用太陽電池の導入は脱炭素社会の構築には有効な施策である。住宅用太陽光発電”設置義務化”ばかりが先行してPRされているが、地方自治体はV2Hシステムを含む住宅用蓄電池設備の導入に関しても、堂々とPRを進めるべきである。

住宅用太陽光発電設備と蓄電設備の経済性

●住宅用太陽光発電設備の導入

 東京都は一定の前提条件のもとで、住宅に太陽光発電設備を設置した場合の経済性を試算している。

試算条件
4kW設置の初期費用:98万円
現行の補助制度:10万円/kW
売電単価:17円/kWh(FIT制度10年間)、8.5円/kWh(11~30年)税込
電気料金:33円/kWh(2022年5月実績)税抜

 一般に太陽光パネルの寿命は20~30年といわれており、30年間で119万円(補助金ありでは159万円)のメリット、20年間で45万円(補助金ありでは85万円)のメリットが得られる試算結果である。また、初期費用98万円の回収期間は10年間(補助金ありでは6年)程度である。

 一方、東京電力グループが提供しているサービス「エネカリ/エネカリプラス」では、初期費用ゼロ円で自宅に太陽光発電を導入できるプランを提供している。

●住宅用蓄電設備の導入

 一方、住宅用蓄電設備を設置した場合の経済性についても試算が行われている。

試算条件
蓄電池設置の初期費用:平均13.7万円/kWh
平均的な住宅用蓄電池容量:7~8kWh
設置工事費:約35万円
現行の補助金:3.7万円/kWh(国のDER補助金)+10万円/kWh(東京都、最大80万円)

 一般的な容量(7~8kWh)の住宅用蓄電設備を設置するには、130~140万円が必要となる。国と自治体からの補助金は96~110万円であるから、実質30~34万円の初期費用が必要となる。ただし、補助金には予算枠や付帯条件などがあり、十分な事前検討が必要である。

●住宅用太陽光発電+蓄電設備の場合

 上記から、住宅用太陽光発電+蓄電設備の導入では、30年間で85~89万円(補助金ありでは125~129万円)のメリット、20年間で11~15万円(補助金ありでは51~55万円)のメリットが得られる。

 太陽光発電設備の単独導入に比べて蓄電装置の導入分だけ経済的メリットが減少するが、一方で、電気代が安くなる可能性があり、夜間・災害時に電気が使えるなどのメリットが出てくる

住宅用太陽光発電+蓄電設備の導入メリット

 蓄電設備を導入すれば、太陽光発電した電力を貯めて何時でも自家消費することが可能になる。固定価格買取(FIT)制度の買取価格は2022年度は17円/kWh(税込)に対し、2022年5月の実績電気料金は33円/kWh(税抜)であり、売電するよりも自家消費の方が電気代が安くなる可能性がある。

 さらに、固定価格買取(FIT)制度の買取価格は毎年下がる傾向にあり、一方、最近では燃料費の高騰により電気料金は上昇傾向にあるため、ますます差額は広がる傾向にある

 一方、災害などで停電した時のために、太陽光発電には売電しない「自立運転」モードがある。しかし、太陽光発電は太陽が出ている時しか発電できない。住宅用太陽光発電+蓄電設備の「自立運転」モードでは、夜間・災害時にも電気が使え、電気が余った時にも蓄電設備が活用できる。

BEV/PHEVを蓄電池として使う場合のメリット

 BEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)を住宅につなぎ、停車中に蓄電池として活用する方法もある。これはV2H(Vehicle to Home)システムと呼ばれる。安価な夜間電力でEV/PHEVに充電し、その電気を昼間に家庭で利用すれば電気代の節約が可能である。

 太陽光発電を設置している場合は、その余剰電力をEV/PHEVに充電し、夜間に家庭へ給電することも可能である。一般にEVやPHEVの蓄電池は大容量であるため、災害などの停電時には非常用電源として数日間の対応も可である。

 多くのV2Hシステムでは、一般的な200V充電用コンセント(3kW)に対し、最大2倍(6kW)の速度で充電できる倍速充電機能を有するため、BEV/PHEVの充電時間を短縮することが可能である。

図2 BEV/PHEVの電力を手軽に賢く使うV2Hのデモンストレーション

試算条件
V2H機器の初期費用:約50~100万円
設置工事費:約30~40万円
現行の補助金:(国のCEV補助金)機器購入費の1/2(上限75万円)、工事費上限40万円
       (地方自治体の補助金)併用できる場合とできない場合がある。

 設置するV2Hシステムにより異なるが、機器の本体価格は約50万円~100万円で、30〜40万円の工事費が加算され、初期費用として80~140万円が必要である。国の補助金は1/2、工事費上限40万円が獲得できると、実質25~50万円の初期費用が必要となる。地方自治体分が併用できれば、さらに減額。

 また、東京電力グループが提供しているサービス「エネカリ/エネカリプラス」では、工事費を含む初期費用ゼロ円で自宅にV2Hシステムを導入できるプランも提供している。

浮体式太陽光発電は伸びるのか?

 洋上風力発電所の建設に関しては、政府主導で大規模なウィンドファーム計画が進められている。一方で、ため池や貯水池などの水面上に設置する「浮体式太陽光発電所の開発が国内外で始まっている。
 水上太陽光発電所水上メガソーラーとも呼ばれ、最近では洋上での浮体式太陽光発電所の建設も始まっている。果たして、浮体式太陽光発電は新たに設置できる余地として期待できるであろうか?

浮体式太陽光発電とは

 国土の75%を山地が占める日本列島では、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設できる平坦な土地は限られており、現在は利用できる土地が減少してきている。実際には、起伏が多い土地にメガソーラーを開発するため、平地造成に多額の費用を要する問題が起きている。

 そこで注目されているのが、ため池や貯水池などの水面上に設置する浮体式太陽光発電所である。水上太陽光発電所水上メガソーラーとも呼ばれ、最近では洋上太陽光発電所の構想も現れている。

浮体式太陽光発電所のメリット:
①土地の造成費が不要なために開発費を抑制でき、陸上に比べて賃借料も安価となる。
②太陽光パネルが水面からの冷却効果で、陸上設置よりも発電量が10~20%増加する。
③太陽光をさえぎることで貯水の蒸発減を抑制でき、水草や藻類の発生防止に役立つ。

浮体式太陽光発電所のデメリット:
①バックシートなどを水上仕様とするため、太陽光パネルの価格が10~20%増加する。
②水上設置のためのフロート設備、アンカーなどの施工費が陸上に比べて割高である。
③太陽光をさえぎるため、水環境が変化し、動植物に影響を与える可能性がある。

国内の浮体式太陽光発電の動向

設置状況

 2017年5月、日本アジア投資は、香川県さぬき市の農業用ため池で、浮体式太陽光発電所の「野間池ソーラー発電所」(出力:2400kW)、同9月には「御田神辺池みたかべいけソーラー発電所」(出力:1520kW)を設置し、四国電力に売電を開始した。香川県はため池が多く、周辺には遮へい物が少ないため日照条件が良好である。

図1 香川県さぬき市の浮体式太陽光発電「野間池ソーラー発電所」
出典:日本アジア投資

 また、2017年11月、三井住友建設は香川県三木市の農業用ため池に平木尾池ひらぎおいけ水上太陽光発電所」(出力:2600kW)を設置し、四国電力に売電を開始した。自社開発のフロート「PuKaTTo(プカット)」上に、三菱電機製太陽光パネルを搭載した。フロート内部に発泡剤を充填し、損傷しても浸水を防ぎ水没を回避する。
 その後、2020年1月には女井間池めいまいけ水上太陽光発電所(出力:2822kW)を完成、2021年4月には、香川県坂出市に蓮池はすいけ水上太陽光発電所(出力:1957kW)を完成し、売電事業を開始した。
 同社の水上太陽光フロートシステムは、台湾を初め、中国、インド、タイ、シンガポールなど、東南アジアで積極的に販売を進めている。

 2018年3月、東京センチュリーと京セラの共同出資会社である京セラTCLソーラー合同会社が、千葉県市原市の山倉ダムに「千葉・山倉水上メガソーラー発電所」(出力:1.37万kW)を設置し、東京電力エナジーパートナーに売電を開始した。ダム湖の面積は約6000km2あり、その30%を太陽光発電に利用する。
 フランスのシエル・テール製フロートは、前後左右が連結され、湖底に打ち込まれた約500本のアンカーで固定されており、その上に50000枚の太陽光パネルが搭載された。
 建設費は陸上のメガソーラーと同程度であった。難航したのは送電線の接続工事で、約1km先の送電線まで電力を送る工事が必要となり、着工から2年後に運転開始にこぎつけた。

図2 千葉・山倉水上メガソーラー発電所の全景
出典:京セラTCLソーラー

 また、2018年3月、いちごが岡山県笠岡市の農業用ため池に建設した水上メガソーラー「いちご笠岡岩野池ECO発電所」(出力:2640kW)が売電を開始した。中国のトリナソーラー製の両面受光が可能な太陽光パネル「単結晶両面ガラスパネル」が採用された。
 トリナソーラーは、2019年2月にパネル設置角度を自由に設定できる新型フロート架台と、両面受光が可能な浮体式太陽光パネル「DUOMAXtwin」の商品化を発表した。

 2022年1月、三井住友建設は、東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」の先行プロジェクトとして、洋上浮体式太陽光発電が事業採択されたと公表した。東京湾中央防波堤エリアの海の森水上競技場の指定域での社会実装で、国内初となる実用化を目指した海水域での取り組みである。

2022年5月、太陽グリーンエナジーが兵庫県三木市に水上太陽光発電所「中央池水上太陽光発電所」(出力:2300kW)を開設。2015年10月に埼玉県比企郡の嵐山花見台工業団地の調整池を手始めに、兵庫県、奈良県、三重県、岐阜県、愛知県、香川県の7県で、計14基の水上太陽光発電施設を開設している。

設置のための技術基準

 2019年9月、台風15号が千葉県市原市に上陸し、山倉ダムに設置された水上太陽光発電設備に大損害を与えた。アンカーが湖底から外れ、太陽光パネルが流されて損壊し、火災が発生した。浮体式水上太陽光発電には、地上型のような設置ガイドラインが存在せず、災害大国日本に合うガイドライン策定が必須である。

 これを受けて2020年4月、経済産業省は、水上設置型の太陽光発電設備に対する技術基準の策定方針を示した。各種部材や設計について、浮体式太陽光発電の特有の負荷を考慮した基準が盛り込まれる。
 これまで地上設置を前提として示されていた自重、地震荷重、風圧荷重、積雪荷重などのほか、水上設置型特有の条件として、係留部、フロート、接合部に対して波力や、水位、水流、凍結圧力などの負荷に対する耐久性が求められることになった。

 2021 年 11 月、「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン 2019 年版」に、傾斜地設置型・営農型・水上設置型の特殊な環境下での構造設計、電気設計・施工の項目を加え、3種類の「太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版」を、NEDOが公開した。

 2023年4月、各種設置形態への適用性をより向上させるため、実証実験結果などを反映し、浮体式太陽光発電所向けに「水上設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン 2023年版」をNEDOが公開した。

海外の浮体式太陽光発電の動向

 国内では、2017年頃から農業用ため池や貯水池を対象に、浮体式太陽光発電の開発が進められてきた。同様に、世界でもオランダ、タイ、中国など数カ国が、フロート式太陽光発電システムの導入を発表している。

 2021年3月、米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のレポートの記述「世界で稼働中のダム式水力発電所のダム湖に水上メガソーラーを設置すれば、世界の年間電力消費量の約48%を確保できる。」に関し、国際環境経済研究所は、水力発電と浮体式太陽光発電の組み合わせの有効性を評した。

 メリットは、既設の水力発電所用の送電線が利用できる。また、ダム式水力発電所は晴天の多い乾期に発電量が下がり、雨期には上がるため、水力発電と浮体式太陽光発電とは相互補完的に稼働できる。特に、揚水発電と浮体式太陽光発電の組み合わせは、新電源として興味深い。

オランダ

 2018年2月、大規模な陸上設置が難しいオランダで、浮体式洋上太陽光発電所の建設計画が発表された。3カ年計画で、スタートアップ企業Oceans of Energy、エネルギー研究センター(ECN)、ユトレヒト大学など、オランダの6企業と研究機関が参加する。
 ユトレヒト大学では、北海に面した南ホラント州スヘフェニンゲンから15kmの海上に発電システムのプロトタイプを設置し、エネルギー生産量などの調査を実施する。

タイ

 2019年3月、国営タイ発電公社(EGAT)は、2037年までに水力発電ダム9ヶ所に合計16の浮体式太陽光発電所を設置すると発表した。16ヶ所のうち出力:30万kW級が5ヶ所あり、完成すると総出力:270万kWとなる。
 最初のプロジェクトはタイ南東の「シリントーン・ダム」案件(出力:4.5万kW)で、建設コストは20億バーツ(約85億円)と試算し、営業運転開始は2020年である。タイ政府は、2037年までに全発電設備容量の27%を再生可能エネルギーとする目標を掲げている。 

ブラジル

 2020年2月、フランスのエネルギー大手Engie傘下のエンジニアリング会社Tractebelは、ブラジル国営電力会社Eletrobras FurnasのBatalha(バタラハ)水力発電所(出力:5.22万kW)向けに、浮体式太陽光発電所(UFVs)I、II、III(総出力:3万kW)の基本設計を行い、一部の稼働を始めた。
 また、ブラジルでは、2016年からバイーア州のSobradinho(ソブラディーニョ)水力発電所(出力:17.5万kW)でも、浮体式太陽光発電所(出力:1000kW)を開所しており、将来的に5000kWまで拡大される予定である。

ロシア

 2020年9月、水力発電メーカーRushydroと太陽光発電メーカーHevelは、極東アムール地方にあるルシドロ所有のNizhne-Bureyskaya(ニジネ・ブレイスカヤ)水力発電所(出力:32万kW)のダム湖に、浮体式太陽光発電所(出力:125kW)の設置を完了した。発電所設備向けの電力として使われている。
 140枚のヘテロ接合型太陽電池パネルをポンツーン型フロートに搭載して設置された。パネル面積は474m2で、10列のPVモジュールで構成され、それぞれ14枚のパネルが15°の傾斜角度で取り付けられている。浮体式モジュールには特別な接続方式が採用され、数mの水位差と波浪に耐えるように設計されている。

シンガポール

 2021年3月、シンガポールの太陽光発電事業会社Sunseapグループによる浮体式洋上太陽光発電所(出力:5000kW)のジョホール海峡への設置が完了した。3万超のフロートの上に、1万3312枚の太陽光パネル、40台のインバーターを搭載し、約600万kWhの発電を見込んでいる。
 気候条件の変化や波による上下変動に耐えるために係留システムを備えて安定性を確保し、海水腐食や海生生物の付着対策など洋上特有の要因も考慮してる。

図3 シンガポールでSunseapが設置した浮体式太陽光発電所
出典:Asian Scientist

中国

 2017年4月、中国の大手パワーコンディショナ・メーカーの陽光電源(Sungrow Power Supply、サングロウ)が、安徽省淮南市で浮体式水上メガソーラー(出力:7万kW)を稼働した。石炭の露天掘跡地にできた水深4~10mの巨大な水たまりの有効利用で、太陽光パネル16万6000枚を設置し、運転年限は最大25年である。

 2017年12月、中国長江三峡グループ(China Three Gorges)が、安徽省で浮体式水上メガソーラー(出力:15万kW)の建設を発表した。ダム湖に設置したもので、総工費1億5,100万ドルで、2018年5月に稼働。

 2023年11月、中国初の半潜水型の浮体式洋上太陽光発電プラットフォーム(出力:400kW)が、山東省煙台市の沖合で稼働した。発電プラットフォームは4つの浮体が四角形に配置されており、波高6.5m、風速34m/s、潮位差4.6mの条件を満たした広い海域で稼働する。
 この半潜水型の設備はモデルプロジェクトである。中国の洋上太陽光発電の開発条件を満たした海域面積は71万km2あり、試算では総出力:7000万kWを超える。

インドネシア

 2023年11月、インドネシア西ジャワ州チラタダムで、中国企業が建設した浮体式太陽光発電所(出力:19.2万kW)が送電を開始した。約2.5km2の水面に13列の太陽光パネルが並ぶ。
 インドネシア国営電力会社(PLN)とアラブ首長国連邦(UAE)の国営再生可能エネルギー大手マスダールが共同で開発し、中国インフラ大手の中国電力建設集団の傘下の華東勘測設計研究院が設置した。

図4 インドネシアで稼働した浮体式太陽光発電所  出典:新華社

浮体式太陽光発電の課題

 2023年4月、「水上設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン 2023年版」が、NEDOにより公開された。今後も、必要に応じて浮体式太陽光発電の設計・施行ガイドラインは見直しが必要であろう。
 少なくとも、ため池と海上では大きな差がある。洋上太陽光発電に関しては、潮位の変化や高波などを考慮した設置ガイドラインを策定し、海水腐食や海生生物の付着などへの対策が必要となる。

 一方、浮体式太陽光発電の設置に関する環境アセスメントも重要な課題となる。太陽光パネルや浮体(フロート)などの経年劣化に伴う水質汚染の可能性もあり、材料規制が必要となる。また、太陽光をさえぎるために水中の生態系に及ぼす影響も明らかにしておく必要がある。

 自然保護の観点からは、現在進められている農業用ため池やダム湖など人工的な貯水池への浮体式太陽光発電の設置が好ましいと考えられる。特に、大手電力会社が管理する水力発電所のダム湖への大規模な設置は、送電系統も含めて最も適した設置形態といえる。今後の、設置拡大が期待される。

 千葉県では、水面面積 3600km2 の君津市郡ダムについても、2 カ所目となる浮体式太陽光発電所(出力:8200kW)の検討を実施したが、送電線に空き容量がなく発電設備を接続できないため断念した。
 系統運用の新ルール「日本版コネクト&マネージ」により、平常時には空き容量がある送電線の有効活用を急ぐ必要がある。

 2023年8月、オーストラリア国立大学では、洋上太陽光発電所の設置に最適な、穏やかな海と風がある場所を示したヒートマップを公表した。 それによれば、赤道に近い熱帯地域で、”無風帯”と呼ばれる緯度に位置するナイジェリアやインドネシアの近辺が、洋上太陽光発電に最適であることが統計的に示されている。

 洋上太陽光発電に関して、国内で展開するためには十分な台風対策が必要である。この対策の経済性が陸上設置に比べて高コストとなれば、洋上に設置する意味が薄れる。

図5 浮体式太陽光発電の適正ヒートマップ、赤が最も良く、黄色、緑、濃い青の順、灰色の線は熱帯低気圧の進路
出典:オーストラリア国立大学、Blakers / Silalahi

 ところで、肝心の太陽光パネルの国内市場は、安価な中国・韓国メーカーがシェアを高めている。生産規模の小さい日本企業の太陽光パネル価格は30~50%以上割高である。そのため日本企業は生産規模を縮小し、市場からの撤退が相次いだ。
 今後、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を拡大させるにあたり、大量の太陽光パネルを輸入することになる。しかし、昨春以降の急激な円安に加えて世界的なインフレの影響で、メガソーラーの建設コストの増大は明らかであり、再生可能エネルギー導入拡大のネックになる。

伸び悩む国内の地熱発電

 固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、多くの再生可能エネルギーによる発電電力量が伸びる中で、地熱発電は小規模設備の導入は進むものの累積導入量は約55万kWとほとんど増加せず、2021年度の総発電電力量に占める割合は0.3%にすぎない。地熱発電は、期待できない再エネなのか?
 地熱発電電力量は1997年をピークに年々減少傾向にあり、総発電電力量は3割程度減少している。これは生産井からの蒸気量の減少が主原因とみられるが、機器の経年劣化現象も知られている。地熱発電所の新設に注目が集まっているが、短期的には設備更新や老朽化対策への政府支援が重要である。

 地熱発電は稼働までに探査・掘削・設置、環境アセスメントなどに10年以上(平均14年)を要する。太陽光発電の1年、バイオマス発電の5年、風力発電の8年に比べて明らかに長期間である。そのため、大規模地熱発電所の新設は長期的視野に立つ計画と遂行が不可欠である。
 一方、短期的には小中規模のバイナリー・サイクル地熱発電所が地産地消の分散電源として拡大が鍵である。また、既設の大規模地熱発電所については、経年的な発電効率の低下対策と老朽更新などリパワリングの推進が緊急の課題である。

国内地熱発電の導入状況

 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の調査によれば、固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、東日本大震災当時(2011年度)に比べると2021年度の太陽光発電の年間発電電力量は約18倍に増加し、天候などの影響を受ける太陽光発電と風力発電が総発電電力量に占める割合は10.4%に上昇した。

 一方、天候などの影響を受けにくい小水力発電、バイオマス発電についても年間発電電力量が占める割合は徐々に増加している。しかし、地熱発電については小規模設備の導入は進むものの累積導入量は約55万kWとほとんど増加せず、2021年度の総発電電力量に占める割合は0.3%にすぎない。

 第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の再生可能エネルギーの達成目標は36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)であり、地熱発電は期待の薄い再生可能エネルギーであるかに見える。

図1 日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電量の割合のトレンド 出典:ISEP

 地熱資源量に注目すると、世界最大規模のカリフォルニア州ザ・ガイザース地熱地帯を有する米国が地熱資源量3000万kWで世界第1位、多くの火山島からなるインドネシアが2800万kWで第2位、日本は2300万kWで第3位である。第4位は700万kWのケニア、第5位が600万kWのフィリピンと続く。

 このように地熱資源量に恵まれた日本であるが、発電設備容量でみると世界第10位に留まっている。すなわち、米国の1/6、インドネシアやフィリピンの1/3などで、明らかに地熱発電開発が遅れている。残念ながら、日本は総地熱資源量の2.4%程度しか開発されていない

図2 主要国における地熱発電設備容量の推移
出典:石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料(2018.7)、BP Review of World Energy, June 2018

 一方、海外では出力:5~10万kW級の大規模地熱発電所が数多く稼働しており、世界の地熱発電設備シェアの69%は日本で、三菱重工業(25%)東芝(24%)、富士電機(20%)が製造している。技術レベルが高いのに国内の地熱発電開発が進まなかったのは、長期的な展望を見誤ったためである。

1997年で止められた地熱発電の開発

 1973年と1979年に起きた石油ショックを契機に、日本では石油代替エネルギーの開発が国家プロジェクトとして進められた。地熱発電もその一環で開発が推進されたが、他の再生可能エネルギーとは異なり、政府からの開発支援が1997年で途切れた。その経緯を、次にレビューしてみよう。

■1974~1992年「サンシャイン計画」、1993~2000年「ニューサンシャイン計画」の中で地熱発電の開発は推進され、発電設備容量の総計が約50万kWに達した。
■一方、1979年の米国スリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発電事故により、世界的に原発建設の低迷期に入るが、日本は国策として原子力発電所の建設が強力に推進された。
■1996年11月、出力:1万kW以上の大規模地熱発電所である九州電力の滝上発電所が稼働した。
*次の大規模地熱発電所は、2019年5月の電源開発などによる山葵沢発電所(4.6199万kW)の稼働まで23年間の空白ができる。
■1997年4月、石油価格が安定化し、原発建設が順調に進められたことから、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」において、従来型のフラッシュ・サイクル発電方式注釈の地熱発電が促進対象から外された
■2003年4月、施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RSP:Renewables Portfolio Standard法)」の促進対象から大規模地熱発電所は除外され、併せて地熱発電の研究開発予算が大幅に縮小された。
環境省による自然公園内での開発規制や温泉利権者からの反対が、地熱発電所の新設に急ブレーキを掛け続けた
■2006年4月、八丁原はっちょうばる地熱発電所にバイナリー・サイクル発電注釈設備(出力:2000kW)が併設され、杉乃井ホテルに自家用の小規模地熱発電所(出力:1900kW)が建設されたが、小規模であるため総設備容量に大きな伸びを与えることはなかった。

図3 日本の地熱発の電開発状況
出典:火力原子力発電技術協会(2018)、地熱発電の現状と動向2017年版

注釈:
 フラッシュ・サイクル発電は最も良く使われる方式で、生産井から得られた熱水と蒸気を汽水分離器で分離した後、蒸気をタービンに供給して発電を行う。熱水は還元井を通じて地中に戻し、タービンを出た蒸気は復水器で冷却して水に戻し、蒸気の冷却水として使う。
 バイナリー・サイクル発電は、150℃未満の低圧蒸気の場合に使われる方式で、得られた熱水あるいは蒸気を使い、熱交換器を介してブタン、ペンタン、代替フロンのような低沸点の有機媒体を蒸発させ、得られた蒸気をタービンに供給して発電を行う。
 最近は、高温の温泉水を入浴に適した温度に下げる湯温調整用でもある小型バイナリー・サイクルによる温泉発電が、井戸の掘削を必要としないため注目されている。

 ところで、図3からも明らかなように、地熱発電電力量が1997年をピークに年々減少傾向にある。火力原子力発電技術協会によると、国内の地熱発電量は2020年度で26.6億kWhで、1997年度の37.5億kWhから3割程度減少しており、大きな問題となっている。

 出力:1万kW以上の大規模地熱発電所14基の発電電力量(2013年度)について、岩手県松川地熱発電所が-35%、葛根田かっこんだ地熱発電所1号機が-66%、葛根田地熱発電所2号機が-52%、福島県柳津西山やないづにしやま地熱発電所が-58%、鹿児島県山川地熱発電所が-35%と、顕著な出力低下が報告されている。

 その結果、2017年には柳津西山地熱発電所はタービンを入れ替え、定格出力を6.5万kWから3万kWに引き下げた。また、2022年10月、葛根田発電所1号機(出力:5万kW)は廃止された。

 これは生産井からの蒸気量の減少が主原因とみられるが、熱水中のシリカ(SiO2などが、井戸(鉱井)や発電所の配管、タービン翼などの表面にスケールとして付着し、経年的に発電効率が低下する設備の老朽化も大きな影響を与えている。これらの対策にも積極的に取り組む必要がある。

図4 地熱発電所の要素部品で見られるシリカスケールの付着・堆積

地熱発電の重要性と課題

 地熱発電は燃料を必要とせず昼夜・天候を問わずに24時間の発電運転が可能であり、設備利用率が57%と高い。この設備利用率は風力発電の約21%、太陽光発電の約14%と比較してはるかに高い値であり、電力貯蔵を必要としない。そのため、地熱発電はベースロード電源として期待されている。
 また、地熱発電は発電機を国内で調達することが可能な純国産エネルギーであり、エネルギー自給率の向に貢献する。また、再生可能エネルギーの中では発電コストが9.2~11.6円/kWhと安く、小規模にも関わらず大規模なLNG火力発電の10.7円/kWhとほぼ同等である。

 しかし、地熱発電所の建設には、地表調査から始めて掘削調査や探査を実施して資源量を評価し、事業化の判断を行う必要がある。通常はこのプロセスで約5年を要し、その後に発電設備の建設を行う。
 そのため環境アセスメントを必要としない出力:7500kW未満の中小規模地熱発電設備でも運転開始まで7~8年、数万kW規模の大規模地熱発電設備については環境アセスメントに3~4年を要し、運転開始まで10年以上を必要とする。

 2017年3月、NEDOが風力・地熱発電の導入に関する手続期間を半減できる前倒環境調査を公表している。これにより3~4年を要する環境アセスメンを2年以内に短縮できるとしている。しかし、地熱資源調査の効率化と精度向上と、さらなる環境アセスメント期間の短縮が求められている。

 地熱発電の開発には、地元温泉事業者や自然保護団体などから反対の声が上がる。井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や温泉源の湯量低下・枯渇などを危惧するためである。しかし、原発建設のリスクに比べると、理解を得る可能性が高い。 

2012年以降の地熱発電の再立ち上げ

 1997年4月に政府による開発支援が停止した地熱発電は、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)で再立ち上げが開始した。併せて、政府による様々な規制緩和や開発支援が行われた。

規制緩和と開発支援

 2011年3月の東日本大震災以降、ベース電源として地熱発電への期待が急速に高まった。その結果、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)が施行され地熱発電が盛り込まれると共に、地熱発電関連の研究開発予算が復活した。
 経済産業省では地熱探査技術や高効率地熱発電システムの開発、環境省では温泉バイナリー発電の高効率化、低沸点新媒体の実証などの研究開発支援が進められた。

 2015年10月、環境省は国立・国定公園内での地熱開発について規制緩和を進めた。従来認められなかった第1種特別地域でも地表に影響がない限り地中部への傾斜井戸の掘削を許可し、景観維持のために制限されていた高さ13m超のタービン建屋設置に特例を認めた。
 また、電気事業法の一部改正を進め、出力:300kW未満のバイナリー発電は専任のボイラ・タービン技術者を置く必要がなくなり、100kW以下では1年間の運転実務経験のある技術者を不要とした。

 2016年4月、経済産業省は出力:2.5万kW以上の大規模地熱発電に関して、環境への悪影響が抑えられるなどの条件が整えば、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の審査を経て重点開発地域に指定し、切削調査費用を支援する仕組みを整備した。
 また、JOGMECを通じて、建設費用の最大8割まで債務保証する事業化支援策を打ち出した。

 2018年、経済産業省は環境アセスメントを書面と実施を同時進行できるよう指針を改訂し、評価期間を2年程度に半減できるとした。また、環境や埋蔵調査を行う候補地点をこれまでの2倍に増やし、採掘技術の進歩などから、事業化までの期間を10年程度に短縮できる発表した。
 また、国立公園内については特別保護地区を除いて規制緩和を進め、日本の全資源量(2347万kW)の70%である1600万kWの開発を目指すとした。
 環境省は環境アセスで事業者による調査を省略するなど、審査期間を1.5~2.5年程度に半減する方針を示し、出力:7500kW未満の小規模地熱発電を環境アセスの対象から外した

 2021年8月、経済産業省は環境省と連携し、全国の国立公園、すなわち北海道(支笏洞爺、大雪山)、東北(十和田八幡平)、中部(妙高戸隠連山、上信越高原)、九州(阿蘇くじゅう、霧島錦江湾)などの30カ所を現地調査することを公表した。
 2019年度の地熱発電による発電量は総発電電力量の0.3%(設備容量:60万kW程度)であるが、政府は2030年度に1%(設備容量:150万kW)に引き上げる狙いである。JOGMECなどにより、地表で人工的に地震波を発生させて地下構造を調査したり、簡易掘削による調査を2年間実施した。

 2021年9月、環境省は国立・国定公園内における地熱開発の取扱いに関して、一部地域での地熱開発を「原則認めない」とする通知の記載を削除し、自然環境の保全(風致景観の維持を含む)及び公園利用上の支障がないことを前提として地熱開発を認めた。

 一方で、民間でもリスクである地熱発電の開発を支援する動きが進められた。

 2016年6月、東京海上日動火災保険は、地熱発電所建設で問題が生じた場合に、温泉業者が原因調査の費用や営業で生じる損失額を補償する新たな賠償責任保険を発表した。
 従来、温泉業者が発電事業者に賠償請求する場合に500~3000万円程度のボーリング調査を実施する必要があり、この費用負担が問題で温泉業者が開発に反対していた経緯がある。

 また、2016年8月には三井住友ファイナンス&リースが、長崎県で小規模地熱発電を手掛ける洸陽電機子会社の第一小浜バイナリー発電所合同会社(出力:125kW)と発電設備の割賦契約を締した。これにより開発事業者はキャッシュフローが優位となり、事業拡大が容易となる。

FIT導入による地熱発電所の増設

 図4には、国内の地熱発電所の運転開始時期と発電方式を示す。1997年を最後に出力:1万kW以上の大規模地熱発電所の新設は途絶えた

 2012年以降は、固定価格買取制度(FIT)と政府による規制緩和により、新規の地熱発電所の建設件数は急増していることが分かる。しかし、多くは出力:1万kW未満の小規模バイナリー・サイクル発電であり、2019年から大規模フラッシュ・サイクル発電が稼働を始めた。

 井戸堀削を伴わない温泉バイナリー・サイクル発電は、温泉源の湯量低下や枯渇を危惧する必要がなく、建設工期が短いため、FIT導入の後押しを受けて地元温泉事業者に受け入れられた。ただし、その多く出力:1万kW未満と発電量が少なく、地産地消の分散電源として拡大している。

 図5 国内の地熱発電所の出力と運転開始時期

 2021年度の総発電電力量に占める地熱発電の割合は0.3%にすぎない。政府はこれを2030年に1%に伸ばす高い目標を掲げた。小規模バイナリー・サイクル発電設備の導入は進められたものの、2021年の地熱発電設備の累積導入量は約55万kWで、20年前からほぼ横ばいの状態が続いている。

 2030年に1%の高い目標をクリアするためには、大規模地熱発電所の新設だけに頼るのではなく、環境対策が整えられている既設の地熱発電所の経年的な発電効率低下への対策と、老朽更新によるリパワリング(発電効率向上)が鍵を握る

長期的視野に立つ新設計画を

 2030年に1%の高い目標の達成には新設が不可欠である。発電量を大きく伸ばすことができる大規模地熱発電所の新設に向けては、開発中断の失敗を繰り返すことなく、長期的な視野に立った計画とその遂行が必要である。 

 地熱発電所の新設では井戸を掘り正確な資源量を把握する。資源価格の高騰で井戸1本当たりの掘削費は5億円を超し、日本での掘削成功率は3割程度である。そのため地熱発電の建設単価は100万円/kWと、風力発電の20万円/kW、太陽光発電の37万円/kW、原子力発電の45万円/kWに比べ高価である。

 また、西日本技術開発によると、日本では地熱発電所を建設してから稼働を終えるまで税抜き10.9~18.3円/kWhの費用を要するが、米国は5.3~9.6円/kWh(フラッシュサイクル)、トルコが10.6~11.9円/kWh、イタリアが5.8~9.6円/kWh、ニュージーランドは3.1~5.6円/kWhと安価である。
 山間部が多い日本は平地主体の海外と比べて工事費が高くなり、専門の掘削技術や大型重機をもつ企業も限られるためとしている、。

 大規模地熱発電の開発を推進するためには、政府は日本での地熱発電に関して投資に見合う収益を改めて示す必要がある。2022年度からは再生エネの補助制度「FIP」が導入されたが、電力会社が規定価格で買い取るFITと異なり、先々のコスト試算が難しい。

 政府による規制緩和が進められているが、掘削を伴う大規模地熱発電所の開発には地元温泉事業者や自然保護団体等から反対の声が上がる。これは井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や、温泉源の湯量低下・枯渇等を危惧するためであり、政府の積極的な支援は不可欠である。 

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