次世代自動車とは?

燃費向上から低環境負荷へ

 1990年代以降、次世代自動車は従来の燃費向上対策から、温暖化ガス対策(CO2排出量削減)が開発メインテーマとなる。バイオ燃料は高価格で需要に見合う供給量が確保できず、今後も大きな伸びは期待できない。そこでインフラ整備を充実させて電力や水素を燃料とする方向に向かった。

 また、自動車の燃費向上を目指した構造材料の軽量化は継続的に進められた。すなわち、車体材料である炭素鋼の高張力鋼化による薄板化、軽量なアルミニウム合金炭素繊維強化複合材料(CFRP)の部分的な適用であるが、これを可能としたのは薄板の接合技術異種材料の接合・接着技術である。

 図1には、このような使用燃料と構造材料の開発の流れを示す。

図1 自動車の低環境負荷を実現する使用燃料と構造材料の変革

 一方、温暖化ガス対策(CO2排出量削減)がメインテーマとなることで、次世代自動車の開発はガソリンエンジン車を基軸としたハイブリッド車(HEV)から、2000年代以降は電気自動車(BEV)燃料電池車(FCEV)の開発に移行している。

 ただし、その根底にあるのは再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素であることはいうまでもない。経済的理由によりに火力発電で発電した電力や化石燃料を改質して得られた水素を使う限り、低環境負荷の最終目的は達成されない

 ここで分岐点となるのは次世代自動車の形式選択、電気自動車(BEV)なのか?燃料電池車(FCEV)なのか?の判断であった。日本が先行するFCEVを欧米中がBEVで追い上げる状況が続いたが、インフラ整備で先行したBEVが蓄電池の性能向上で走行距離を伸ばし、BEV優位となっているのが現状である。

 大きな出口を失った燃料電池車(FCVE)は、その技術の適用先として長距離トラック、バス、電車、船舶、航空機など、新たな出口を目指して模索が始まっている。

次世代自動車の占める割合

 図2には、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が予測している世界の乗用車販売台数に占める次世代自動車の割合を示す。2012年の少々古いデータではあるが、2050年までの長期予測を行っている。Energy Technology Perspectives 2012 – Analysis – IEA

 ガソリン車やディーゼル車などのエンジンで走行する車の販売は2020年をピークとし、その後は2050年に向けて漸減傾向を示し、ガソリンHV(Hybrid Vehicle)とディーゼルHV、ガソリンPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)とディーゼルPHVが市場を牽引する。

 2040年頃には、ガソリン車とディーゼル車、ガソリンHVとディーゼルHVの販売合計が、EV(Electric Vehicle)、ガソリンPHVとディーゼルPHV、FCV(Fuel Cell Vehicle)の販売合計と同等となり、2040年以降は次世代自動車の需要が順調に拡大する。

 EV、ガソリンPHVとディーゼルPHVは2020年以降に、FCVは2035年以降に顕著な増加傾向を示すとしている。2025年の車種別割合は、エンジン車+HV+PHVが95.6%、EVが4.4%であり、2035年にはエンジン車+HV+PHVが84.4%、BVが11.2%、FCVが4.4%の割合になると予測している。

 先進国ではEVやFCVへの移行が加速されるが、開発途上国ではエンジン車、HV、PHVの需要は当面の間は増加傾向を示す。ここで注意すべき点として、2050年においてもガソリン車+ガソリンHV+ガソリンPHVが50%を超える割合で存在すると予測している点である。

図2 世界の車種別自動車販売台数の将来予測
出典: IEA:ETP(Energy Technology Perspectives)2012

 また、2022年1月、英国調査会社のLMCオートモーティブによれば、世界の乗用車販売台数に占める次世代自動車の割合を図3のように予測している。自動車産業ポータルMARKLINES

 乗用車の世界販売台数は、2021年にエンジン車が6750万台とBEVの15倍の規模であるが、2033年にはBEVが4698万台に拡大してエンジン車を2割上回ると予測している。BEVの市場規模は12年間で10倍に拡大する計算になる。しかし、2033年にはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)の影は薄い

 一方で、新型コロナの影響で世界全体の乗用車の販売台数は低迷しているが、2022年1月の季節調整済み年率換算販売では8,400万台/年に改善されるとしている。また、2033年時点でガソリン/ディーゼル車+HEV+PHEVは60%程度存在すると予測している。

図3 世界の乗用車販売台数に占める車種別構成比の予測(2022年1月)
出典:英調査会社LMC Automotive Ltd、

駆動システムの発展の流れ

 図4には、近年の自動車の駆動システムの発展の流れを示す。

 現行のガソリンや軽油を燃料として走るエンジン車の駆動システムは、タンクに貯めた燃料をエンジンに供給し、駆動したエンジンで車軸を回転させて走行する。この内燃式のレシプロ・エンジン自体は複雑な構造であるが、駆動システムとしては単純である。

図4 低環境負荷/燃費変革に向けた自動車の発展

ハイブリッド車(HEV)とは

 エンジンのみで駆動するエンジン車の燃費改善を目的に開発されたのがハイブリッド車であり、HV(Hybrid Vehicle)あるいはHEV(Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。以下ではHEVの略称を用いる。

 HEVではエンジンを使って発電し、その電気を大型蓄電池に貯め、モーターで車軸を回転させて走行する。一般にシステム電圧は200V以上の高電圧が採用されている。

 HEVでは2つの動力源であるエンジンとモーターの使い方により、図5に示すように (a)シリーズ方式、(b)シリーズ・パラレル(スプリット)方式、(c)パラレル方式の3種類に分類される。

図5 ハイブリッド車の分類とその構成

 シリーズ方式は、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄え、その電力でモーターを駆動させる。エンジンは発電にのみ使われ、車の駆動はモーターのみのため、走行感覚は電気自動車BEVと変わらない。充電に必要な時だけエンジンを使うため、エンジン車よりも低燃費である。
 日産自動車のノートやセレナなどの「e-POWER」に採用されている。

 シリーズ・パラレル方式スプリット方式とも呼ばれ、エンジンのほかに走行用モーターと発電用モーターを搭載している。発進時や低速時はモーターのみで走行し、高負荷時や高速走行時にはエンジンも始動させる。パラレル方式よりもエンジン駆動を抑制することができるため低燃費である。
 トヨタ自動車のプリウスや本田技研工業のフィットに採用されている。

 パラレル方式は、エンジン駆動が主体のシステムで、発進時や低速時などに補助的にモーターを駆動させて燃料の消費を抑える。蓄電池に電気がなくなるとモーターが発電機として充電を開始するため、動力源はエンジンのみとなる。構造が簡単でシステム重量が軽く、低コストである。
 本田技研工業フリードの「SPORT HYBRID i-DCD」や、スバル XVの「e-BOXER」などに採用されている。

 最近はHEVの低コスト化を目指す流れから、パラレル方式を発展させてエンジンを主体とし、モーターを完全に補助とするマイルドハイブリッド車が商品化されている。そのため、従来のハイブリッド車はストロングハイブリッド車(あるいはフルハイブリッド車)とも呼ばれている。

 ストロングハイブリッド車は、エンジンのみあるいはモーターのみでの駆動が可能であるが、マイルドハイブリッド車はモーターのみでの駆動はできない。このマイルドハイブリッド車は使用するモーターにより、交流モーター方式と直流モーター方式に分類される。

 交流モーター式は基本的には従来のハイブリッド車と同じシステム構成で、走行に使用するモーターにハイブリッド用の小型蓄電池と発電用の交流モーターが搭載され、システム電圧は100~200V以上である。蓄電池とモーター間には交流変換器とモーター制御用のインバータが必要である。

 直流モーター式は直流電流で駆動するためのインバータが不要で、システム電圧も12Vと低圧で、電装品用の鉛蓄電池とハイブリッド用の小型蓄電池の両方を活用するシステムである。
 スズキ「ワゴンR」、「スペーシア」や「ハスラー」、三菱自動車「eKワゴン」「eKスペース」、日産自動車「デイズ」「ルークス」などに採用されている。

 また、欧州を中心にシステム電圧を48Vとし、ハイブリッド用の中型蓄電池を搭載した48Vマイルドハイブリッド車が商品化され、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン(アウディ)、BMWなどが採用を進めている。

プラグインハイブリッド車(PHEV)

 プラグインハイブリッド車は、外部からも充電が可能で蓄電池容量を大きくしたHEVのことである。PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)あるいはPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれる。以下ではPHEVの略称を用いる。

 充電のためにエンジンを動かす必要がなく、エンジン駆動を抑制できるため低燃費である。走行時には外部からの電力を積極的に利用し、数十km程度の短距離走行は BEV 走行を行い、長距離になれば HEV 走行に移行する方式が一般的である。
 トヨタ自動車のRAV4 PHV、プリウスPHVや、三菱のアウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEVなどに採用されている。

 最近では、BEVの航続距離を伸ばす目的でレンジエクステンダーBEVが開発されているが、システム構成はシリーズ方式のハイブリッド車である。レンジエクステンダーBEVは大型蓄電池を搭載しており、エンジンは補助的に使われている。

 以上、ハイブリッド車はエンジン車から電気自動車(BEV)あるいは燃料電池自動車(FCEV)への過渡的な“つなぎ”の役割りを目的に実用化が進められてきた。しかし、予想以上に地球環境問題の深刻さが増しており、現状では究極の環境車に向けた開発に力点が移行している。

電気自動車(EV、BEV)とは

 電気自動車は、排気ガスを出さない環境に優しい車として開発が進められてきた。すなわち、蓄電池に貯めた電気でモーターを駆動し、車軸を回転させて走行する。EV(Electric Vehicle)と略称で呼ばれているが、ハイブリッド車も含めて電気を動力にして動く車両の総称として用いられる場合がある。

 図6には、広義の電気自動車(EV)の分類についてまとめる。広義の電気自動車(EV)には、電気のみで走る狭義の電気自動車であるBEV(Battery Electric Vehicle)に加えて、電気でも走るハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれる。

図6  広義の電気自動車(EV)の分類

 これら広義の電気自動車(EV)に共通するのはモーターを搭載していることである。減速時に生じるエネルギーを利用してモーターが発電(回生ブレーキ)し、蓄電池に充電できるために燃費が改善できる。図4からも明らかなように、BEVはHEVやPHEVに比べて駆動システムが単純である。

 当初、BEVは航続距離が短い点が指摘されていたが、現在は蓄電池性能が向上したことでエンジン車と遜色はない。一般にBEV は乗用車タイプで 蓄電池容量:20 kWh程度であるが,HEV の代表車種であるプリウスは1.3 kWh 程度である。ただし、充電に時間を要する問題は残されている。

 表1には、補助金の対象となっている代表的なBEVについて諸特性と価格を比較する。2009年に2車種であったBEVも、2020年には12車種となり、乗用車からバンまで幅広い用途で販売されている。最近は、自宅で充電可能なPHEVも増加し、BEVとPHEV合わせて37車種が補助金対象になっている。

表1 補助金の対象となっている代表的なBEV
出典:次世代自動車振興センター2020年6月)

燃料電池車(FCEV)とは

 燃料電池車も、排気ガスを出さない環境に優しい車として開発が進められてきた。すなわち、搭載された水素タンクから水素燃料の供給を受け、空気中の酸素と反応させる燃料電池により発電し、蓄電池に貯めた電力でモーターを駆動して車軸を回転させる。

 FCV(Fuel Cell Vehicle)あるいはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。以下ではFCEVの略称を用いる。FCEVは、BEVに水素タンクと燃料電池を搭載した車であり、走行中に排出するのは水(水蒸気)のみであり、CO2は排出しない。

 表2には、補助金の対象となっている代表的なFCEVについて諸特性と価格を比較して示す。

表2  補助金の対象となっている代表的なFCEV
出典:次世代自動車振興センター(2020年6月)

次世代技術「CASE」とは?

インターネットに接続する「Connected」、自動運転の「Autonomous」、カーシェアサービスなどの「Shared & Service」、電動化の「Electric」の4つの頭文字から作られた造語「CASE(ケース)」は次世代車を表す言葉として活用されている。

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