相次ぐ大手銀行の「NZBA」からの離脱が報じられる一方で、地方銀行が資金使途を脱炭素向けの融資などに限定する「グリーン預金」を相次いで導入している。
地方銀行はグリーン預金を原資に、再生可能エネルギー関連の設備投資などの資金需要に応える。中小企業はグリーン預金に資金を預けることで、脱炭素に貢献している姿勢をアピールできる?
「グリーン預金」とは?
今更であるが、人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき具体的な目標として持続可能な開発目標「(SDGs:Sustainable Development Goals)」が示された。
この目標に向かい環境(Environment)や社会(Social)に配慮し、適切な企業統治(Governance)が行われている企業に投資するのが「ESG投資」である。

特に、最近の地球環境問題に対する取り組みの必要性を受け、金融機関が社会的責任の一環として提供しているのが「グリーン預金」である。環境預金とも呼ばれ、環境問題の解決に資する事業に融資を限定して調達する預金のことである。
現在、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー関連の設備投資を融資対象にする銀行が多い。
一般に「グリーン預金」は、通常の定期預金と同じ仕組みで運営されている。異なるのは集めた資金の融資使途である。銀行により円通貨建てと外国通貨建ての二種類があり、預け入れできるのは、企業や機関投資家など大口顧客のみを対象とするものと、一般個人を対象とするものが商品化されている。
「グリーン預金」では銀行が調達した資金の使途のほか、預金残高や融資先の情報開示方針などをまとめた枠組み(フレームワーク)が策定される。このフレームワークで定めた方針の融資に問題がないことを、格付け会社などの第三者評価機関が精査し、実効性を担保する仕組みである。

都市銀行の動き
2021年4月、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)により、「NZBA(Net-Zero Banking Alliance)」が設立された。これを受けて国内の大手金融会社は、「NZBA」への参画を進める。
現在、「グリーン預金」に関しては、大手銀行の4行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行)が取り扱いを行っている。
三井住友銀行
2021年4月、三井住友銀行(SMBC)が日本国内で「グリーン預金」の取り扱いを開始した。再生可能エネルギーや省エネルギー事業等の環境に配慮したプロジェクトについて、法人のみを対象とした外国通貨建て(米ドル)定期預金である。海外拠点についても順次取り扱いを開始する予定とした。
国内外の中央銀行、金融法人、事業会社を対象にした一般外貨定期預金で、預入期間は30日~1年以内とし、預入金額は50百万米ドル以上(但し、預入期間が180日以上の場合は25百万米ドル以上)とした。
2025年1月、従来は法人のみを対象とした「グリーン預金」の取り扱いを個人も対象に加えた。一般外貨定期預金で、預入期間は1年以内とし、預入金額は3万米ドル以上とした。
また、SMBCは貧困・格差などの社会課題解決に取組むファイナンスへの充当をめざす「ソーシャル預金」の取り扱いも開始している。
三井住友信託銀行
2021年5月、三井住友信託銀行は、「グリーン預金」の取り扱いを開始した。太陽光・風力発電をはじめとする再生可能エネルギー、環境不動産など、環境改善に資する事業に資金使途を原則限定し、個人を対象とする外国通貨建て(米ドル)定期預金である。
預入期間は5年とし、預入金額は1000ドル以上とした。
三菱UFJ銀行
2022年4月、三菱UFJ銀行(MUFG Bank)は、「グリーン預金」の取り扱いを開始した。環境改善に資する事業に資金使途を限定し、法人・個人を対象とした外国通貨建て(米ドル)定期預金である。2021年の米国、2022年3月の豪州に続き、日本国内での取り扱いは3か国目で、その他海外拠点も順次取り扱いを開始する。
預入期間は1ヵ月~1年以内とし、預入金額は100万米ドル以上で2500万米ドル以下とした。
みずほ銀行
2023年4月、みずほ銀行(MIZUHO)は、「グリーン預金」の取り扱いを開始した。原則太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーなど環境保全に資する資金使途に限定し、法人(非居住者を除く)を対象とした外国通貨建て(米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、ニュージーランドドル他)定期預金である。
預入期間は1ヵ月~1年以内で、預入金額は原則10百万米ドル相当額~100百万米ドル相当額以下。
2024年10月、みずほ銀行は、資金使途を社会、環境、経済にポジティブなリターンを生む企業への融資に限定した「インパクト預金」の取り扱いを始めた。企業向けの預金商品で、1000億円を募集総額の上限とする。
預入金額は原則1億円~100億円以内とし、預入期間は1カ月〜1年とした。金利は通常の大口定期預金と同水準である。
地方銀行の動き
2025年3月、地方銀行が資金使途を脱炭素向けの融資などに限定する「グリーン預金」を相次いで導入していると報じられた。
2024年3月に日本銀行が「マイナス金利政策」を解除し、銀行の貸出金利が上昇する中、貸し出しの原資となる預金を獲得し、収益を伸ばすために再生可能エネルギー関連融資を増やすのが狙いである。
横浜銀行
2022年9月、コンコルディア・フィナンシャルグループの横浜銀行は、「グリーン外貨定期預金」の取り扱いを始めた。外貨建て定期預金として「グリーン預金」を取り扱う地方銀行は、横浜銀行が初めてである。
再生可能エネルギー分野向けなどの環境分野向け融資に使途を限定し、個人・法人を対象に「自動継続外貨定期預金」と「外貨定期預金(一般型/スワップ型)」を商品化した。
「自動継続外貨定期預金」の預入期間は1か月、3か月、6か月、1年で、預入金額は米ドルでは、20万円相当額~2億円相当額、それ以外では、20万円相当額~5000万円相当額以下。ダイレクト預金では、10万円相当額~10万米ドル相当額未満。預入通貨は米ドル、ユーロ、豪ドル、ニュージーランドドル、中国元である。
「外貨定期預金」の預入期間は一般型自由 (最長1年)で、スワップ型1年以内で自由。預入金額は一般型500米ドル相当額以上で、スワップ型1通貨単位以上とした。通貨は一般型で米ドル、ユーロ、豪ドル、ニュージーランドドル、英ポンド、スイスフラン、中国元で、スワップ型で米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン。
名古屋銀行
2023年3月、名古屋銀行は、環境課題の解決に向けて「グリーン預金」の取り扱いを始めた。太陽光・風力・水力発電の再生可能エネルギー分野を対象に、環境改善に資する事業向けの投融資に充当する。
2023年3月1日(水)~2023年4月28日(金)の約2か月間で、個人・法人を対象に、大口定期預金の募集を50億円上限に実施した。預入期間は 6か月、1年で、預入金額は1000万円以上とした。
七十七銀行
2023年3月、七十七銀行は、地域金融機関として持続可能な社会の実現に貢献するため、新たに「包括評価型サステナブル関連融資」および「77オープン型グリーン外貨定期預金」の取扱いを開始した。
「77オープン型グリーン外貨定期預金」が、太陽光・風力などの再生可能エネルギー分野を対象に環境改善に資する事業への投融資に充当する。個人・法人(個人事業主を含む)対象の、外貨建て(米ドル)定期預金である。預金期間は6カ月、1年で、預入金額は10万米ドル以上とした。
関西みらい銀行
2024年5月、りそなホールディングス傘下の関西みらい銀行は「グリーン預金」の取り扱いを始めた。太陽光・風力・小規模水力発電など再生可能エネルギーに関する事業を融資対象に限定し、法人のみを対象に預入金額を1000万円以上として、2024年7月末までの約2.5カ月間で総額100億円を上限に預金を募った。
関西みらい銀行の「グリーン預金」は、応募期限を約3週間残して上限の100億円が集まった。「グリーン預金」の残高は2024年12月末時点で30億円で、グリーン預金以外の原資も含めた脱炭素融資額は132億円にのぼり、分野別では太陽光発電向けが60%、バイオマス発電向けが34%、風力発電向けが5%と続いた。
足利銀行
2024年10月、めぶきフィナンシャルグループ傘下の足利銀行が「グリーン預金」の取り扱いを始めた。再生可能エネルギー分野(太陽光発電事業)を対象とした環境改善に資する事業への融資に限定し、個人・法人を対象に、「自由金利型定期預金(大口定期)」と「外貨定期預金(12か月)」を商品化した。
募集期間を2024年10月1日~2025年3月31日までの半年間とし、総額30億円(うち、外貨定期預金5億円相当額)を上限に募集を行った。預入期間は1年で、預入金額は円定期預金で1000万円以上、外貨定期預金では1万米ドル以上とした。
滋賀銀行
2024年10月、滋賀銀行が「グリーン預金」の取り扱いを開始した。太陽光・風力発電等の再生可能エネルギー分野を対象とする事業向けの投融資に限定し、個人・法人を対象に、「円定期預金(大口定期預金)」と「外貨定期預金」を商品化した。
募集期間を2024年10月1日~2025年3月31日の半年間とし、総額130億円(円定期預金:100億円、外貨定期預金:30億円)を上限に募集を行った。預入期間は6ヵ月~3年以内で、預入金額は円定期預金で1000万円以上、外貨定期預金で10万米ドル超(期間1年超の場合は100万米ドル以上)とした。
ふくおかファイナンシャルグループ
2024年12月、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)は、環境・社会課題の解決に向けて、傘下の福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行で「FFGグリーン預金」の取り扱いを始めた。
ESGのうち環境分野、特に再生可能エネルギー向け融資に限定し、法人のみを対象にした大口定期預金を商品化した。
募集期間を2024年12月2日~2025年1月31日の2か月間とし、100億円(福岡銀行・熊本銀行・十八親和銀行・福岡中央銀行の合計)を上限に預金を募った。預入期間は1年、預入金額は1000万円以上とした。
京都銀行
2024年8月、京都フィナンシャルグループ傘下の京都銀行は、「京銀サステナブル預金」の取り扱いを始めた。持続可能な社会の実現に向けた投融資の資金に充当し、地域の社会的課題や環境問題の解決に向けた取り組みへ貢献する。個人・法人を対象に、「円定期預金」と「外貨定期預金」を商品化した。
募集期間を2024年9月2日~2025年2月28日の半年間とし、円定期預金では100億円、外貨定期預金では30百万米ドルを上限に預金を募った。預入期間は6カ月、1年で、預入金額は円定期預金で1000万円以上、外貨定期預金では5万米ドル以上とした。
脱炭素向け「グリーン預金」の導入は、大手の都市銀行が先行した。これは2021年4月、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)による「NZBA(Net-Zero Banking Alliance)」の設立に触発されたものであり、活動報告が義務付けられる「NZBA」への参画には不可欠であった。
一方、”2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除”したことが、地方銀行を触発して「グリーン預金」による資金調達に走らせている。さらなる金利の上昇は地方銀行を活性化し、中小企業の設備投資を含めた脱炭素化の底上げに有効である。
地方銀行の「グリーン預金」の多くは期間限定で預金額に上限を設定した様子見の段階にある。良い循環を作るために、さらなる金利の上昇に期待したい。
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