ネットゼロ・バンキング・アライアンスから離脱(Ⅲ)

はじめに

 米国の銀行や保険会社の「業態別アライアンス」を通じた活動が反競争的であるとの指摘や、トランプ大統領の就任に対する政治的な配慮が「GFANZ」の活動に影響した可能性が大きい。「GFANZ」は国・地域ごとの事情を踏まえ、より現実的な行動に適応する脱炭素化ビジネスモデルに移行しつつある。
 一方で、日本の金融機関の「NZBA」からの離脱が始まった。どこまで本音か分からないが、「2050年までのネット・ゼロ排出へのコミットメントを維持する」ことに期待したい。

相次ぐ日本の金融機関の離脱

 2025年3月4日、米国のトランプ大統領は連邦議会で施政方針演説を行って以降、三井住友ファイナンシャルグループに始まり、野村ホールディングス、三菱UFJファイナンシャルグループ、農林中央金庫と相次いでNZBAからの脱退を表明した。 

三井住友フィナンシャルグループ

 2025年3月4日、「三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)」は、脱炭素をめざす国際的な金融機関の連合「NZBA」からの離脱を表明。日本からは6金融機関が加盟しているが、脱退は初である。
 脱退の理由は海外の動向も踏まえて総合的に判断したとし、同社は2050年に投融資事業をネットゼロとする目標を独自に設定し取り組みを進めており、社内体制の整備・高度化も進んできているため、NZBAへの加盟を継続せずとも独自に対応できる状況にあると説明した。  

 SMFGの脱退を受けてオーストラリアの非政府組織(NGO)の環境団体は「三井住友銀行(SMBC)が「NZBA」から脱退したことは非常に憂慮すべきこと。2050年までのネット・ゼロ排出へのコミットメントを維持し、新たな石油・ガスへの融資を終了することが重要」とコメントした。

野村ホールディングス

 2025年3月12日、野村ホールディングス(NOMURA)が「NZBA」からの離脱を表明。米国を始めとして各国・地域で脱炭素化への取り組みに差が出始めており、NOMURAは各地域ごとの政策に基づいて事業を展開する方針で、国際的枠組みに参加する意義が薄れたと判断した。
 証券会社である野村のビジネスモデルが銀行と異なることも、離脱を決断した理由の一つとみられる。

 NOMURAは、脱炭素に関する取り組み自体には引き続き注力する方針で、2050年度までに主な投融資先の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標は維持するとしている。脱炭素に関する企業の資金調達支援額は、2026年3月までの5年間で1250億ドル(約19兆円)をめざしている。

三菱UFJフィナンシャルグループ

 2025年3月19日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は「NZBA」からの離脱を表明した。理由は、加盟継続のメリットを総合的に判断した結果と説明した。現在、同団体は戦略の見直しを進めているとし、変化する状況への適応を継続できるとしている。
 MUFGの広報担当者は、NZBA脱退後も引き続き気候変動対応にはしっかり取り組むと説明した。

農林中央金庫

 2025年3月25日、農林中央金庫が「NZBA」から離脱した。その理由は、加盟継続で得られるメリットなどを総合的に判断した結果であり、気候変動の課題に対しては独自に体制整備を進めており、不断の取り組みを続けるとした。

三井住友トラストグループ

 2025年3月28日、三井住友信託銀(SMTB))が「NZBA」から現時点では脱退しない方針が明らかになった。同行の親会社である三井住友トラストグループの広報担当者は、「他社の脱退にかかる状況等は認識しているが、当社においては現時点(3月28日)で脱退について決まっていることはない」と回答した。

 また、「当グループでは、「NZBA」、「NZAM」に加入しており、当グループの顧客である国内外のアセットオーナーの考え方も理解しながら行動することが重要と考えている。しかし、アライアンス参加の有無にかかわらず、気候変動対応の重要性は変わらず、引き続き脱炭素化をめざして活動していく。」としている。

みずほフィナンシャルグループ

 2025年3月31日、みずほフィナンシャルグループ(MHFG)は「NZBA」からの離脱を表明した。その理由については、NZBA加入当時の目的を達成したためとした。
 MHFGとして温暖化ガス排出量を取引先などサプライチェーン(供給網)全体で計測する「スコープ3」の設定や脱炭素に向けた移行計画の策定が完了し、今後は移行のための実務的な支援に移るなか、NZBAへの加盟意義などを勘案し脱退を決めた。脱退後も脱炭素への取り組みは継続する方針としている。 

「ポスト脱炭素」の動きは?

 2024年11月、国連環境計画(UNEP)が「Emissions Gap Report 2024」を公表した。2023年における世界の温室効果ガス総排出量は前年から1.3%増加し、571億トン(CO2換算)と過去最多を記録した。

 1990年以降、世界の温室効果ガス総排出量は、多少の増減はあるものの増加傾向が続いている。1990年の総排出量は378億トン(CO2換算)だったが、2010年には510億トンに増加。2020年は新型コロナ禍の影響もあり前年より減少したが537億トンになり、2023年には571億トンに達した。

  2015年12月に合意された「パリ協定」では「産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を2℃未満に、できる限り1.5℃に抑える」としたが、UNEPは各国が一致して温室効果ガス排出の削減対策を強化しなければ、世界の平均気温の上昇幅は今世紀中に最大3.1度に及ぶと警告している。

図2 世界の温室効果ガス総排出量(CO2換算)の推移  出典:UNEP

 国別の排出量では、中国が160億トン(CO2換算)で世界の排出量の30%を占める。二位が米国が59.7億トン(11%)三位がインドで41.4億トン(8%)、四位が欧州連合32.3億トン(6%)、五位がロシアで26.6億トン(5%)、ブラジルが13億トン(2%)で、G20加盟国(アフリカ連合を除く)の合計は世界全体の77%を占めた。
 報告書に日本の排出量は記載されていないが、環境省による2022年度の排出量は10.85億トンである。

 ここで重要なのは、2005~2010年をピークに米国、欧州連合、日本などは排出量を減少しているが、中国、インド、ロシア、ブラジルなどは排出量が増大している点である。その結果として、世界の温室効果ガス総排出量の増加傾向は止まらないのである。

 この状況を見る限り地球の温暖化は止まる気配すら見えない。ならば、経済の停滞を伴う「脱炭素」の推進を止めて、化石燃料に大きく依存して自国の発展をめざす道を選んだのが、温室効果ガス排出量二位の米国である。すなわち、「ポスト脱炭素」の道である。
 これが4年間の試行に終わるのか?新しい展開を見せるのか?注意深く見守る必要がある。

 一方、米国の銀行や保険会社の「業態別アライアンス」を通じた活動が反競争的であるとの指摘や、トランプ大統領の就任に対する政治的な配慮が「GFANZ」の活動に及ぼした影響は大きい。
 欧州連合を中心とした「脱炭素」の取り組みは継続され、「GFANZ」は国・地域ごとの事情を踏まえ、より現実的な行動に適応する脱炭素化ビジネスモデルへの移行を加速するであろう。

 「脱炭素」が現在の世界経済を停滞させる大きな要因となることは明らかである。しかし、これを乗り越えて、科学技術の進歩により明るい未来を創造しようと「脱炭素」にチャレンジしているのである。
 米国の「ポスト脱炭素」に追随することは容易な道である。過っての安部政権は第一期トランプ政権におもねり、カーボンニュートラルへの着手が大幅に遅れた。同じ過ちを繰り返してはならない。

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