航空機開発の失敗と成功(Ⅳ)

はじめに

 1986年に米国ミシシッピ州立大学ラスペット飛行研究所を拠点に航空機開発に本格着手し、1993年3月、世界初のオールコンポジット製実験機(MH-02)の初飛行に成功、1997年に「HondaJet」のコンセプトスケッチができるまで約10年を要した。
 2006年7月航空機市場への参入を発表するまで約10年、その後、2015年12月に「HondaJet」がFAAから型式証明、2016年7月に製造認定を取得するまで約10年を要した。30年間にわたる航空機開発のリーダーシップも素晴らしいが、それを許容した本田技研工業の社風はさらに驚きである。

HondaJet事業化の経緯

 2003年12月、「HF118」エンジンを自社開発し、搭載した「HondaJet」実験機での飛行試験を開始した。静粛性を目指した主翼上面へのエンジン配置、空気抵抗低減を実現した自然層流翼・ノーズなどの新技術を採用し、従来機と比較して燃費やキャビンの広さを格段に向上させた。

 2006年7月、本田技研工業は、「HondaJet」で航空機市場への参入計画を発表。

 2010年12月、 米国連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)の型式認定に向け、量産型初号機を開発。ピードモント トライアッド国際空港から離陸し「HondaJet」の初飛行に成功。

 2013年12月、FAAより型式検査承認(TIA:Type Inspection Authorization)を取得。今後、認定試験用「HondaJet」にFAAパイロットが搭乗し、型式証明(TC:Type Certificate)の取得に向けた最終的な認定飛行試験を行うことが承認された。

 2013年12月、ホンダ エアクラフトのカスタマーサービスセンターが、FAAの連邦航空規則(FAR)Part 145に定める航空機整備工場の認定を取得。また、エアロ エンジンズのターボファンエンジンHF120」が、連邦航空規則のPart33が定める型式証明を取得した。
 エンジンの組み立ては、マサチューセッツ州リンのGE工場で進行中で、2014年に量産段階に入り次第、ノースカロライナ州バーリントンのホンダ エアロの工場に移管予定。

 2014年6月、「HondaJet」量産1号機が、ピードモントトライアッド国際空港で初飛行に成功。

 2015年3月、米国ノースカロライナ州バーリントンにあるホンダ エアロの航空機エンジン工場が、FAAによる連邦航空規則のPart 21が定める製造認定(PC:Production Certificate)を取得

 2015年12月、「HondaJet」がFAAから型式証明の取得。ホンダ エアクラフトは、米国ノースカロライナ州グリーンズボロ市の本社で「HondaJet」の引き渡しを開始。

 2016年7月、ホンダ エアクラフトが、FAAから「HondaJet」の製造認定を取得。

HondaJetの事業拡大

 米国連邦航空局(FAA)からの型式証明の取得後、市場拡大を目指して「HondaJet」の型式証明を様々な対象国から取得している。

■2016年3月、メキシコ通信運輸省民間航空局(Civil Aviation Safety Authority of Mexico)
■2016年5月、欧州航空安全局(EASA : European Aviation Safety Agency )からは、
 「HondaJet」と共に小型ジェットエンジン「HF120」の型式証明を取得
■2017年8月、ブラジル民間航空局(Brazilian National Civil Aviation Agency)
■2018年10月、インド民間航空局(Directorate General of Civil Aviation)
■2018年12月、国土交通省航空局(Japan Civil Aviation Bureau)

 一方で、主に航続距離の延長と機体運用の安全性などを盛り込み、「HondaJet」のアップグレードに向けたて開発が継続されている。

■2018年5月、「HondaJet Elite」を発表し、航続距離を約396 km延長(2661km)、客室内の静粛性向上、離着陸時および飛行時の安定性や安全性の機能を強化。
■2021年5月、「HondaJet Elite S」を発表し、最大離陸重量を200ポンド(約91kg)増加、パイロットの負荷を軽減し、機体運用の安全性を向上。
■2021年10月、「HondaJet Echelon(ホンダジェット・エシュロン)」を発表し、航続距離4862km、全長17.62m、翼幅17.29m、全高4.84mに拡大され、最大11人乗り、最大運用高度は約14326m、最大巡航速度は約834km/hに向上し、エンジンは米国ウィリアムズ・インターナショナル製「FJ44-4C」を搭載。2028年頃の販売を目指して開発。
■2022年10月、「HondaJet Elite II」を発表し、航続距離を約204km延長(2865km)、燃料タンクの拡張、最大離陸重量増加、機体運用の安全性を向上。

空飛ぶクルマに向けて

 新型航空機については、まず型式証明を取得し、その後に当局の安全要求規定に従い、航空証明の発効・許可などを受ける必要がある。その型式証明は、材料・設計・製造工程を特定した型式が、航空法の全要件に適合していることを証明する必要がある。

 現在開発中の「Honda eVTOL」は、離着陸用のロータ8機、推進用のローター2機を備え、機能分散により高い冗長性と旅客機並みの安全性を実現する。また、ローターの小径化により圧倒的な静粛性を実現し、離着陸時や飛行時の周辺環境への影響を最小限に抑える。

 一方、開発中の空飛ぶクルマの多くが、蓄電池のみで飛行する「All Electric eVTOL」で、航続距離が100km前後の都市近郊移動を想定している。「Honda eVTOL」は、ガスタービン・ハイブリッド・パワーユニットを搭載し、航続距離400kmで都市間移動を想定している。

図10 垂直離着陸用に8つのローター、推進用に2つのローターを備えるHonda eVTOL 
出典:本田技研工業

 今後、空飛ぶクルマなどの次世代航空機の開発は避けて通れない。「HondaJet」の開発は、これらを成功に導くための興味深い事例といえる。
 航空機業界では機体メーカーとエンジンメーカーは、それぞれ別個に存在しているが、本田技研工業は両方を独自に開発した。時間を要したが、航空機の全体像を把握するためには必要なプロセスであった。全体像が分かれば、ショートカットが可能である。次の一手が待ち遠しい。

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