電動航空機の開発動向(Ⅴ)

航空機

 燃料電池の航空機への適用は、2005 年頃からボーイングとエアバスがフィージビリティー・スタディーを開始している。全電動化航空機(AEA)構想の一環で、油圧・空気圧による駆動も電気系統で統一し、飛行の推力以外は全て電動化することで、燃費向上、低コスト化を実現するのが狙いである。

燃料電池航空機(1)

国内における燃料電池の開発状況

 日本では1970年代の2度の石油ショックを経て、1981年に開始された通商産業省「ムーンライト計画」(1993年以降は「ニューサンシャイン計画」)で、水力・火力・原子力に次ぐ第4の発電方式と位置付けて、「燃料電池(Fuel Cell)」の開発が推進された。

 1990年代にはリン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)が実用化段階に入り、産業用途で出力:100~200kWのオンサイト発電(熱電併給)が行われた。その後、大規模発電用途を目指して、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC:Molten-Carbonate Fuel Cell)の開発が進められた。

 2000年代に入ると、2002年に本田技研工業とトヨタ自動車が相次いで、固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)と水素タンクを搭載した燃料電池車(FCEV)を発売したことで、再び燃料電池が脚光を浴びる。

 一方、PEFCの出力密度が大幅に向上し、長寿命化が達成されたことで、2009年には一般家庭を対象に定置用燃料電池システム(出力:0.7kW)の商品化が相次いだ。

 2010年には一般家庭を対象に、総合効率の高い固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の定置用燃料電池システム(出力:0.7kW)が商品化されたが、その後、高出力の業務・産業用途(出力:5kW~)へのシフトが進められている。

航空機への燃料電池の適用検討

 一般に燃料電池は電解質の種類によって分類され、以下のように作動温度が異なり、高温タイプほど発電効率は高くなる傾向にある。また、液体電解質のPAFCとMCFCは大規模発電向きとされているが、固体電解質を使うPEFCとSOFCはコンパクト化が容易であり、移動体の電源として適している。

①アルカリ型燃料電池  (AFC:Alkaline Fuel Cell、作動温度:~250℃)
②リン酸型燃料電池   (PAFC、作動温度:150~200℃)
③溶融炭酸塩型燃料電池 (MCFC、作動温度:600~700℃)
④固体高分子型燃料電池 (PEFC、作動温度:~100℃)  
⑤固体電解質型燃料電池 (SOFC、作動温度:700~1000℃)

 実際に、燃料電池車(FCEV、出力:110~130kW)には、固体高分子型燃料電池(PEFC)が採用されており、燃料容器として高圧水素ボンベ(使用圧力:70MPa~)が搭載されている。

 定置式燃料電池では、家庭用燃料電池「エネファーム」(出力:700W)には固体高分子型燃料電池(PEFC)、業務・産業用燃料電池(出力:5kW~)には固体酸化物型燃料電池(SOFC) が採用され、都市ガス(CH4)やLPガスから水蒸気改質法による燃料改質器で水素を生成・供給する。

 航空機への適用に関しては、2005 年頃からボーイングとエアバスが燃料電池適用に関するフィージビリティー・スタディーを進めている。従来からジェットエンジンに連結された交流発電機、あるいは小型ガスタービンによる補助動力装置 (APU;Auxiliary Power Unit) の燃料電池への置き換えである。

 全電動化航空機(AEA:All Electric Aircraft)構想の一環で、油圧・空気圧による駆動も電気系統で統一し、飛行するための推力以外は全て電動化することで、機体システムとして燃費向上、低コスト化を実現するのが狙いである。
 具体的には、自動車で実用化されたPEFC(数十kWクラス)の航空機用非常用電源や機内分散電源への採用が進められいる。将来的には、小型・高効率のSOFC(数百kW~MWクラス)による補助電源あるいは主電源への採用が進むと考えられている。

 2008年4月に、ボーイングは、航空機史上初となる燃料電池航空機の有人飛行に成功している。翼幅が16.3mのオーストリアDiamond Aircraft Industries製の2人乗りモーターグライダー「Dimona」を使用し、スペインのマドリード南オカーナの飛行場で、SENASAにより飛行試験が実施された。

 Boeing Research & Technology Europe(BR&TE)製のPEFCと蓄電池(LIB)を搭載し、従来のプロペラに接続して電動モーターを駆動させた。離陸時や上昇時には蓄電池から電力を補給し、巡航時には燃料電池のみで巡航速度:100km/hで、約20分間の直線飛行に成功している。

図18 ボーイングによる初の燃料電池航空機の飛行試験 

 また、エアバスも、2008年に固体高分子型燃料電池(出力:20kW)システムを A320機 に搭載し、耐航空機搭載の可能性について飛行実証を行っている。

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