航空機用構造材料の変革(Ⅳ)

航空機

 航空機構造では、溶接が比較的難しいアルミニウム合金やチタン合金、溶接が不可能なCFRPなどが多用されているため、胴体外板同士の締結や外板と補強部材の締結などにはリベットやボルトによる機械継手が多く採用されているのが現状である。
 これら航空機構造の機械継手部や溶接継手部では安全率を高く設定する必要があり、機体の軽量化の障害となっている。そのため摩擦撹拌接合(FSW)や線形摩擦接合(LFW)などの高い信頼性を保持できる新しい接合技術の適用が望まれている。

 新しい接合技術の適用 

摩擦撹拌接合(FSW)

 摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、1991年に英国TWI(The Welding Institute)によって開発された新しい接合プロセスである。高速回転ツールを接合部に押し当て、摩擦熱を生じさせて軟化した部分を攪拌し、塑性流動を生じさせて固相接合する。

 材料を局部的に溶かして接合する従来の溶接技術に比べて、溶接変形や強度劣化などを抑制でき、アルミニウム合金のような難溶接材料でも大気中での接合が可能であるため、鉄道車両への適用に始まり、自動車や航空宇宙機器への適用が急速に広がっている

 欧州ではWAFS(Welding of Airframes using Friction Stir)やTANGO(Technology Application to the Near Term Business Goals and Objectives of the Aerospace Industry)などの国家横断的プロジェクトなどで、航空機構造へのFSW適用が積極的に進められた。

 欧州エアバスではリベット接合の代替として、中央翼、主翼、胴体などの 1 次構造部への適用検討が積極的に進められた。A350XWB機の胴体外板の長手方向の接合にFSW適用が検討されたが、設計変更により胴体構造がアルミニウム合金からCFRPに変更され、FSW 適用も立ち消えている。

 米国ボーイングでは、宇宙機器であるデルタロケットやスペースシャトルのアルミニウム合金製あるいはアルミニウム-リチウム合金製の燃料タンク製造にFSWを適用している。
 航空機の1 次構造部への適用検討は遅れているが、輸送機のアルミニウム合金製床構造部などへの適用が始まっており、B747やB777 Freighterのカーゴバリヤービーム組立にFSWが使用されている。

 米国Eclipse Aviationでは、小型ジェット機「Eclipse 500」へのFSW適用を公表している。外板と骨材の重ね接合のリベットを廃してFSWを採用し、大幅なコスト低減を実現した。また、翼部材にもFSWを採用しており、富士重工業が施工している。

 三菱重工業は、2005年にH-ⅡB ロケットのアルミニウム合金製の推進薬タンク製造にFSWの適用を公表している。ボビンツールと呼ばれる接合工具を実用化して裏当て金なしの状態でFSWを行い、タンク軸方向接合に加えて円周方向接合を実現している。

 川崎重工業は、2012年にリベット結合や抵抗スポット溶接の代替となる摩擦攪拌点接合(FSJ:Friction Spot Joining)技術を開発し、自動車メーカーの生産ラインに導入された。接合部に工具の圧入痕が残るため、航空機の機体接合用に平滑な外観が得られる穴無しFSJ接合ツールを開発している。

 現在、アルミニウム合金以外にも、FSWによる金属材料の接合技術開発は難燃性マグネシウム合金、チタン合金、各種鋼材などについても実施されている。

 今後、航空機機体へのCFRP適用が増加すると、耐食性の観点からチタン合金の適用増が見込まれている。チタン合金とアルミニウム合金、チタン合金とCFRPなどの異種材料接合について、信頼性の高い接合・接着技術の開発と、継手設計や非破壊検査を含めた総合的な接合技術の開発が重要である。

線形摩擦接合(LFW)

 航空機ジェットエンジンでは、動翼(Blade)とディスク(Disk)を一体化したブリスク(Blisk)を、ファンや圧縮機のロータに積極的に採用する事例が、民間機用の航空機エンジン(2008年:GEnx-1B、2014年:PW1100G-JM、2015年:LEAP-1A)で増加している。

 このブリスクは、鍛造素材から動翼部を削り出す製造方法が一般的である。しかし、ファン、圧縮機のディスク、動翼には高価なチタン合金が使われることが多いため、コスト低減のために線形摩擦接合(LFW:Linear Friction Welding)が戦闘機用エンジンなどで採用されている。今後、民間機用の航空機エンジンへの適用拡大が想定されている。

 このLFWは、接合する材料同士を押し付け、一方を接合面に平行に線形運動で擦りあわせ、接合界面に発生する摩擦熱を利用して、加圧により塑性変形を与えて接合する固相接合法である。
 溶融溶接に比べて接合部の組織粗大化や気孔などの欠陥を生じないが、接合界面に融合不良を生じる場合もあることから、非破壊検査による確認は必須である。特に、異種材料間の接合については、接合界面に金属間化合物が形成される場合も想定され、継手強度評価が重要である。

図5 線形摩擦接合(LFW)プロセスの概略図
出典: IHI技報

積層造形技術(AM)

 最近では、積層造形技術(AM:Additive Manufacturing)の航空機への適用が積極的に進められている。米国ボーイングはB787機にはエアダクト、内装品の小部品、後部ギャレーフィッティングなど25000点のAM部品が採用されている。
 また、CFMインターナショナルのLEAPエンジンの燃焼器ノズルにもGEが開発したAM部品が採用されており、高低圧タービン翼やベアリングハウジングなどの試作が行われている。

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