空飛ぶクルマ(Ⅱ)

航空機

 固定翼機は、走行時に翼を折りたたみ飛行時に翼を展開するSTOLから、フラップに推力偏向電動ダクト(DEVT)ファンを並べたeVTOLへと進化している。
 固定翼/回転翼複合機では、垂直離着陸用と前方への推進用に2種類のプロペラを使い分けるeVTOLと、離着陸時には上を向き巡航時には進行方向を向く推力偏向型のeVTOLが開発されている。
 現状の蓄電池性能を考慮すると、いずれも大型化と飛行距離には問題があるため、ガスタービン発電と蓄電池のハイブリッドエンジン搭載が有望視されている。

固定翼機

スロバキアのエアロモービル

 一般に固定翼を持つ「空飛ぶクルマ」は、走行時は翼を折りたたみ、飛行時に展開する。スロバキアのAeroMobilha(エアロモービル)はエンジン駆動の固定翼機を開発しており、2014年にプロトモデルSTOL「AeroMobil3.0」を完成させて試験飛行に成功し、欧州での飛行認可を取得している。

 飛行時はガソリン・ターボエンジンで後部についたプロペラを回転させる。走行時は翼を格納し、エンジンで発電してモーターで走行する。搭乗者数は最大2人、飛行時の最高時速:360km、飛行距離:最大600kmである。米国、中国へと販路を拡大する計画である。

図2 エアロモービルが開発したプロトモデルSTOL「AeroMobil3.0」

ドイツのリリウム

 2019年5月、eVTOL「Lilium Jet (リリウム・ジェット)(PHOENIX)」が試験飛行に成功した。独自の「推力偏向電動ダクト(DEVT:Ducted Electric Vectored Thrust)」を搭載し、5人乗りで垂直に離着陸して翼による水平飛行に移行、最高時速:300km/h、航続距離:300kmである。
 2020年には、欧州航空安全機関(EASA)のCRI-A01認証を得ている。

 2021年3月には、2024年サービス開始を目指してeVTOL「7-Seater Lilium Jet」を発表した。全長8.5m、翼幅13.9m、翼幅13.9m、搭乗者数7人で、高度:3000mを巡行時速:280km、航続距離:250km以上で運行する。 2025年の型式証明の取得を目指している。

 「推力偏向電動ダクト(DEVT)」はフラップに36基のダクトファンを並べ、離陸時はフラップを下げて垂直上昇し、フラップを上げて水平飛行する。デンソーと米国Honeywell Internationalが開発した旅客機用の補助エンジン用ガスタービンを利用した電動航空機用モーターを採用している。

 蓄電池セルの構成にはシリコン含有負極のリチウムイオンパウチセルを採用し、サービスイン時の重量エネルギー密度は330~350Wh/kgで、充電時間は80%充電で15分、100%充電で30分以内を目指している。 

図3 ドイツ・リリウムが開発したeVTOL「Lilium JET」

米国のNFT

 2021年4月、米国スタートアップのNFTは、4人乗りSTOL/VTOL「ASKA」の事前予約を開始した。主翼を折りたたみ大型SUVサイズで通常の道路走行が可能であり、6基のローターを搭載する主翼を展開することで、垂直や短い滑走距離での離着陸ができる。

 リチウムイオン電池に加えて、充電するためのデュアルガスモーター(発電機)を搭載する。飛行中の操縦は半自律飛行で行い、米連邦航空局(FAA)の自家用の小型飛行機ライセンスを必要とし、最高速度:241km、飛行距離:402kmである。2026年に発売を予定している。

図4 米国NFTが開発しているSTOL/VTOL「ASKA」

シンガポールのウィジェットワークス

 固定翼を持つ表面効果翼船注釈のSTOL「Airfish 8」を、シンガポールのスタートアップであるWigetworks(ウィジェットワークス)が開発した。2015年10月に試作機の初フライトをに成功させ、以後、改良を重ねた後、フィリピンなどで商用運航に向けた試験航行が行われている。

 パイロット2人以外に6~8人が搭乗でき、機体寸法は全長17.2m、全幅15m、全高3.5mである。ガソリン車用の500馬力のV8エンジンを搭載し、海面7mの高さまでを最高速度:約190km/h、航続距離:約560kmで飛行する。離水には500m、着水には300~500mの距離が必要である。

図5 シンガポールWigetworksが開発した表面効果翼船「Airfish 8」

日本のファロスター

 FaroStar(ファロスター)は、2025年大阪・関西万博での実証試験を目標に開発を進めている。モーターと蓄電池による電動推進システムを採用して環境負荷や騒音を低減し、パイロットが不要な自律運航を目指しており、乗客輸送以外に物流用途への展開も視野に入れている。

 2022~23年に総重量400kg程度(2人乗り+荷物)の小型実証機を開発、2023~25年に4人乗りAll electric VTOLの表面効果翼電動無人船「WISE-UV」を開発する計画。巡航速度:100~350km、短距離なら空港と都市部の繁華街近辺までを5分、長距離なら150km以内を最大30分程度で輸送する。

注釈)表面効果翼船とは?
 出発・到着時は船として航行し、巡航時は航空機となる。飛行体が海面すれすれを飛ぶと翼端渦の一部が海面で遮られ、翼の下側から上側に回り込む空気量が少なくなるため、通常よりも高い揚力を得られる。したがって、eVTOL機のように高度150m以上ではなく、波の高さにもよるが、海面上1~5mの高さをeVTOL機と同等の100~350km/hで航行する。
 表面効果翼船は、eVTOL機に対して多くのメリットを持つ。最大のポイントは、船体の安全性の認証に航空法ではなく「船舶法」が適用される点で、開発コストは数分の1と低く、メンテナンスコストも低減できる。また、飛行高度はわずか数mなので、仮に電源喪失などのトラブルが生じた場合のリスクも航空機に比べて低い。eVTOL機では専用の離着陸場(Vポート)を整備する必要があるが、通常の桟橋を利用できる。また、eVTOL機は飛行の際に、飛行経路や離着陸場付近の住民の社会受容性に基づく同意を得る必要があるが、表面効果翼船は海上を航行するので、そのハードルがかなり低くなる。
 表面効果翼船は、欧米などでは軍用を含めると1960年代から開発が始まった。ドイツ、ロシア、米国、中国、韓国などで船体の開発例はあるが、現在まで商用での成功例はない。

海上数mを走る空飛ぶ船、空飛ぶクルマより安く遠くへ | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

固定翼/回転翼複合機

米国キティーホーク

 固定翼/回転翼複合機は、垂直離着陸が可能な航空機である。代表的な複合機を米国キティーホーク(Kitty Hawk)が開発しており、2019年6月にボーイングと提携している。2人乗りのAll Electric VTOL「Cora」の飛行はすべてコンピュータ制御で行われ、パイロットを必要としない。

 全幅約11mの主翼には垂直離着陸用モーターとローターが12組取り付けられ、前方への推進は機体後部に取り付けられた大型プロペラを使う。飛行高度:約153~915m、飛行速度:約180km/h、飛行距離:約100kmである。

図6 キティーホークが開発したAll electric VTOL「Cora」

米国ジョビー・アビエーション

 Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)は開発したAll electric VTOL「S4」について、米連邦航空局(FAA)と型式証明の取得に向けて審査プロセスを進めている。2023~2024年頃に型式証明の取得を完了し、2024年頃の商用化を目指している。

 全長7.3m、翼幅10.7m で、プロペラは主翼に4基、機体後部に2基搭載し、離着陸時には上を向き、巡航時には進行方向を向く推力偏向(Vectored Thrust)である。電気モーター6基を搭載した5人乗りで、最高速度:約320km/h、航続距離:約240kmである。

 Joby Aviationは、米国Uber Technologies(ウーバーテクノロジーズ)のeVTOL研究開発部門を買収するなど、空飛ぶクルマ業界のリーダー的な存在である。機体開発のみならず、「空飛ぶタクシー」サービスを計画し、2022年5月には「Part 135 Air Carrier Certificate」の認可を取得した。

図7 米国ジョビー・アビエーションが開発したAll electric VTOL「S4」

英国バーティカル・エアロスペース

 2021年6月、英国Vertical Aerospace(バーティカル・エアロスペース)は、ロールス・ロイス製ガスタービン・ハイブリッドシステムを搭載し、推力偏向型の機体で5人乗りのeVTOL「VA-X4」を開発した。滑走路を必要とせず、最高時速:約320km/h、飛行距離:160km強である。

 英国ヴァージン・アトランティック航空は、最大150機の「VA-X4」購入を発表した。米国ではアメリカン航空が最大250機、Avalonが最大310機の予約購入に合意。2021年、日本航空は最大100機を予約購入する権利、丸紅は市場調査などに向けた業務提携と最大200機を予約購入する権利を取得した。

図8 バーティカル・エアロスペースが開発したeVTOL「VA-X4」

日本のテトラ・アビエーション

 2021年11月、1人乗りのAll electric VTOL「teTra Mk-5」を開発し、国内企業として初となる予約受付を米国で開始した。世界で40台の販売目標を掲げ、納品は2022年末を予定している。飛行速度:160km/h、飛行距離:160kmである。

 小型プロペラ32枚を固定翼に並べて垂直に離着陸し、尾翼のプロペラと固定翼により飛行する。翼幅8.62m、全長6.15m、全高2.51m、重量90kgで、ジョイスティックで操縦を行い、日本では自家用操縦士、米国ではプライベートライセンスの免許取得が必要である。

図9 テトラ・アビエーションが開発したAll electric VTOL「teTra Mk-5」

本田技研工業

 2021年秋、空飛ぶクルマ「Honda eVTOL」を開発して2030年代をめどに実用化すると発表した。ガスタービン発電機と蓄電池を利用したシリーズ方式のハイブリッドeVTOLで、最大400km程度の都市間移動を2時間程度で実現する目標を設定している。

 離着陸時にガスタービン発電機と蓄電池を利用し、巡航時に発電した電力を蓄電池に蓄えながら電動モーターを駆動する。2025年に米国でハイブリッドエンジンの機体を飛ばして米国連邦航空局(FAA)での認証取得を目指す。最終的にはSAF100%の燃料を使用し、カーボンニュートラルを達成する。

図10 本田技研工業の「Honda eVTOL」のイメージ図と構造距離-移動時間の比較

 

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