電動航空機の開発動向(Ⅱ)

航空機

 現状の蓄電池性能では航続距離の問題から完全電動化が困難な中大型旅客機を対象に、ハイブリッド航空機が大手航空機メーカーを中心に開発が進められている。小型航空機のハイブリッド化の開発も報告されているが、中大型旅客機のハイブリッド化ための第一ステップと位置付けられている。

ハイブリッド航空機(1)

ボーイング

 代表的なのが亜音速旅客機「SUGAR(Subsonic Ultra-Green Aircraft Research)」で、GE製のハイブリッド電気推進エンジン(Hybrid electric engine)装備し、通常燃料の「SUGAR Volt」液化天然ガスの「SUGAR Freeze」の2ケースが検討され、NASAが2030~2035年の実用化を目指している。

図8「SUGAR Volt」機の完成予想図

 パラレル方式の「SUGAR VoltはB737機とほぼ同サイズで、長大な支柱付き主翼(TBW:Truss-Braced Wing)により、現在主流の片持ち式翼に比べ燃費5~10%改善を目指している。蓄電池は窒化ボロン・ナノチューブ(Boron Nitride Nanotube)を使う高容量型を開発し、両翼下面ポッドに収納する。

 短距離巡航時はコアエンジンを使わず、蓄電池の電力で超電動モーター注釈)を回し、その動力をファン駆動軸に伝えて飛行する。長距離飛行時はコアエンジンを使ってファンを駆動し、その余剰分を超電導モーター/発電機に伝えて蓄電池を充電する。 

 コアエンジンに超電動モーターと発電機が連結され、バイパス比は20近く、コンプレッサー圧力比(OPR:Overall Pressure Ratio)も現在の40程度から50+に上げる計画である。燃費、騒音、排ガスを大幅に改善し、現用機に比べ燃費60%低減を目標とするNASA「N+3」プロジェクトに対応する。

 シリーズ・パラレル・パーシャル方式の「SUGAR Freeze」では機体後部にBLIファンを設置し、胴体表面に生じる境界層を吸い取り、抵抗を減らし推力を増して燃費低減を目指している。

図9 「SUGAR」のハイブリッド電気推進エンジンの概念図

 2022年2月、ボーイングはGEアビエーションとハイブリッド航空機デモンストレーションプログラム(EPFD)で提携した。GEアビエーションとNASAは高出力のハイブリッド電気推進システムを搭載したナロウボディー機の実現に向け研究協力を進めており、このプログラムにボーイングが参加する。
 子会社のオーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)を通じて、近距離用双発ターボプロップ旅客機「サーブ340B」の機体に、GE製CT7-9B型のハイブリッド電気推進システムを搭載して2020年代半ばに地上試験と飛行試験を実施する。

注釈)超伝導モーターとは

 そもそもなぜ航空機の推進システムに超伝導技術が必要なのでしょうか? これは一般的に,モータが銅線コイルと鉄心でできた,いわば「銅と鉄の塊」であることに理由があります.一般に超伝導線材は,液体窒素(−196 °C, 77 K)や液体水素(−253 °C, 20 K)などの冷媒を用いて極低温まで冷却することで,銅線の数十,数百倍の電流を流すことが可能です.言い換えれば,同じ電流を流すことができる断面積が,超伝導線材の場合は銅線と比べて数十,数百分の一で済むということを意味します.つまり銅線と比べて軽量・コンパクトなコイルを作り出すことが可能です.

 また,モータには一般に銅線コイルで発生させた磁束密度を有効活用するため,磁気回路を形成するために鉄心を使用します.しかし,そもそも超伝導コイルはコンパクトなサイズで大電流を流し,銅線の場合よりも強力な磁界を発生させることができるので,鉄の使用量を大幅に低減することが可能です.以上から,超伝導線材を用いることで重量を大幅に低減した高出力密度な電動推進航空機用のモータを実現できる可能性があります.

超伝導技術は大空へ超伝導モータによる航空機推進系の電動化革命 寺尾 悠著 、応用物理学会より抜粋

ズナム・エアロ

 また、ボーイングの出資を受ける米国ZUNUM Aero(ズナム・エアロ)は全長13 m、翼幅16 m、12客席、最大離陸重量:5.2トン(内蓄電池重量:1.4 トン)のシリーズ方式の小型ハイブリッド航空機を開発し、2022年に短距離リージョナル航空機市場への参入を目指している。
 2018年5月、ローンチカスタマーとしてカリフォルニア州南部のジェットスイーツ(JetSuite)が名乗りを上げている。

 フランスのサフラン・ヘリコプター・エンジン(Safran Helicopter Engines)製の「Ardiden 3Z」を改造したジェットエンジンと発電機(出力:500kW)を機体後部に設置し、機体後部両側に電動ファンを2基搭載している。巡航速度:540 km/hで航続距離:1100 kmである。

 コアエンジンの電力で電動ファンを駆動して上昇、巡航高度に達すれば停止し、蓄電池だけでファンを回して巡航する。蓄電池技術が進歩すれば、ピュアーエレクトリック化する計画としている。ジェットエンジンの供給元であるサフランと連携して開発を進めている。

図10 ズーナムエアロのハイブリッド航空機のイメージ図

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