国内ではIHI、ユーグレナに次いで、新たに本田技研工業がSAF製造に手を上げた。バイオエタノールの製造を進める日本製紙、王子HDも、SAFの商用生産を目指している。
一方で、石油元売り各社は各地域の需要を見極め、どの製油所でどのような燃料を製造するかの検討を進めている。コンビナートや電力会社が多い地域はアンモニア需要が高く、鉄鋼会社が多い地域は水素需要が高い。もちろん、空港近辺ではSAF需要が高くなる。
日本におけるSAF製造動向
SAF(サフ)とは、持続可能な航空機燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)のこと。未だ確定した製造方法はなく、多くの機関でバイオジェト燃料や合成燃料(e-fuel)として開発が進められている。
バイオマス関連企業
ユーグレナ
微細藻類ミドリムシを原料としてバイオ燃料製造を開始し、2020年1月に「ASTM D7566 Annex7」で認証されたCHJ技術で製造を開始した。2018年10月、横浜市鶴見区に125kL/年の製造実証プラントを建設し、2019年夏からバイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料の供給を始めた。
2021年3月、米国Chevron Lummus GlobalとApplied Research Associatesが開発したバイオ燃料アイソコンバージョンプロセスを使い、「ASTM D7566 Annex6」規格に適合した微細藻類ユーグレナ等由来のバイオ燃料を完成した。
現在、バイオ燃料は従来燃料に混ぜて使用する規程があり、混合比率は10%程度である。しかし、同社の製造方法では国際規格で最大50%までの混合が認められている。
2021年6月、ユーグレナ製バイオ燃料の商品名「サステオ(SUSTEO)」が登録された。サステオには、軽油の代替となる「次世代バイオディーゼル燃料」とジェット燃料の代替となる「バイオジェット燃料」などの総称である。
バイオジェット燃料サステオは、原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油などを使用している。今後も、CO2排出量の削減効果と持続可能性が期待される原料の探索は継続される。
2022年12月、マレーシアのエネルギー大手Petroliam Nasional Berhad、イタリアの次世代バイオディーゼル燃料製造メーカーEni(エニ)と共に、バイオ燃料製造プラントを建設・運営する計画を発表。
マレーシア・ジョホール州にあるPetroliam保有の石油プラントを改造し、商業プラント建設を開始した。2026年に本格稼働し、72.5万kL/年の生産規模を計画している。現在、サステオの価格は約1万円/Lであり、海外メーカーの200~1600円/Lに向け低コスト化を進めている。
電源開発
2016年5月から、東京農工大、日揮と協力して珪藻のソラリス株(春~秋)とルナリス株(冬)を使い分け、北九州市若松研究所で実証設備を稼働している。培養槽400m2、1kL/年の燃料油生産ラインを整備し、2025年にジェット燃料への適用、2030年には500円/Lでの販売を目指している。
2021年3月、2030年のSAF事業化を公表した。ガラス管に藻類を含んだ培養液を流し、大気に触れさせずに日光を浴びせるクローズ型培養設備と、屋外で大量培養するオープン型培養設備を組み合わせ、温暖な気候と寒冷な気候のそれぞれに適した2種類の藻類を大量培養する。
IHI
高速増殖型の藻類ボツリオコッカスを発見したG&Gテクノロジー 、ネオ・モルガン研究所と、IHIネオジー・アルジ(IHI NeoG Algae)合同会社を設立し、HC-HEFA SPKで製造を進めている。
藻類ボツリオコッカスは重油成分に近い炭化水素を細胞周りに貯め、乾燥重量に含まれる炭化水素量が50%以上で、水素化処理時の脱酸素が不要なため効率良くSAFを製造できる。2015年3月、鹿児島市に1500m2の培養池を建設し、2030年代の商用化を目指している。
2020年、SAFの商用飛行に必要な国際規格「ASTM D7566 Annex7」の認証を取得し、東京国際空港(羽田空港)発のANA定期便に供給した。
一方、2022年年12月、シンガポール科学技術研究庁の化学・エネルギー・環境サステナビリティ研究所(ISCE)と共同で、CO₂を原料とする合成燃料(e-fuel)の新触媒を機械学習等を活用して開発し、触媒反応試験で世界トップレベルである26%の液体炭化水素収率を確認した。
本田技研工業
2023年2月、航空機燃料SAFの製造に乗り出すことを公表した。原料となる藻類の培養事業を国内外の工場で拡大し、SAFの製造・流通に向けて国内エネルギー関連企業と連携を始め、2030年代の実用化を目指す。培養した藻類は自動車生産で出たCO2の吸収にも活用し、自社工場の脱炭素化を進める。
また、新たに原料にCO2と水素のみを使用する合成燃料(e-fuel)の研究を開始している。
日本製紙
2023年2月、住友商事などと提携し、社有林から直接切り出した国産木材を使いSAFの原料になるバイオエタノールを生産すると発表した。独自の微生物発酵技術を持つ都内のGreen Earth Instituteの出資を受け、2024年をめどにバイオエタノールを製造販売する共同出資会社を設立する。
日本製紙の既存工場内に専用の生産設備を導入し、2027年に数万kL/年の製造を始め、石油元売り会社に販売する。並行して、伐採地には従来より成長が1.5倍速く、CO2吸収量も1.5倍となる品種の苗木を植え、持続可能な原料確保を進める。
王子ホールディングス
2023年2月、社有林の木材を使ってバイオエタノールの生産研究を進めており、SAFの商用生産を計画している。2024年度までに500kL/年の生産体制を構築し、燃料の製造販売には、石油会社との協業も視野に入れている。
石油プラント関連企業
石油元売り各社は各地域の需要を見極め、どの製油所でどのような燃料を製造するか検討を進めている。コンビナートや電力会社が多い地域はアンモニア需要が高く、鉄鋼会社が多い地域は水素需要が高い。もちろん、空港周辺ではSAFの需要が高くなる。
一方、製油所を次世代エネルギー拠点に転換する動きは、海外でも進められている。フランス・トタルは、複数の製油所で化石燃料由来で製造過程で出るCO2を分離回収するブルー水素やグリーン水素の製造プロジェクトを計画する。
フィンランド・ネステは主力製油所でグリーン水素プロジェクトを計画する。英国シェルも自社製油所に水素製造装置を導入するほか、オランダの製油所にバイオディーゼルやSAFプラントを計画している。
コスモ石油
2021年7月、日揮HD、レボインターナショナルと協力して、SAFの国内生産を2025年から大阪府堺市で開始すると発表した。コスモ石油の堺製油所内に3万kL/年の製造工場を建設する。
工場でジェット燃料とSAFを混合し、成田空港、羽田空港、関西国際空港など国際線が就航する空港に向けて出荷する。販売価格は、従来のジェット燃料並みの100円台/Lを目指す。
2022年7月、三井物産と共同でSAF製造に取り組むと発表した。三井物産が出資する米国ランザジェットが開発したエタノールを触媒に反応させるATJ技術を使い、コスモ石油の製油所内で2028年末までに22万kL/年の製造を目指す。
同時に副産物として製造される2万KL/年のバイオディーゼル燃料は、空港内の輸送機やトラック・重機等を対象に販売する。
出光興産
2022年4月、千葉事業所でエタノール由来のSAF製造を始めると発表した。原料のバイオエタノールは廃食油に比べて原料が確保しやすく、国内外からの調達(18万KL/年)と10万kL/年級のATJ製造商業機の開発に取り組み、2026年度から供給を開始する。
2030年までに他の生産拠点の立ち上げも検討し、50万kL/年規模まで製造設備を増強して、価格を100円/L台に抑える。事業所敷地内の石油タンクはエタノール・タンクに改修する。
現在主流の廃食油由来SAFは1000円台/Lと現用ジェット燃料の最大10倍で、脱水や重合などエネルギー密度を高める工程のために高コストである。米国やブラジルなどで自動車用燃料の原料としてエタノールは安価に大量製造されているが、原料輸入は将来にわたる持続可能性に関して問題がある。
2023年3月、苫小牧市の北海道製油所で合成燃料の実用化を目指し、調査を北海道電力や石油資源開発(JAPEX)と進めると発表した。2030年までに製油所などで排出するCO2とグリーン水素を合成した液体燃料を製造し、ガソリンスタンドなどへの供給を目指す。
ところで、出光は2030年までに製油所を低炭素・資源循環エネルギーのハブへの転換を計画している。石油精製を停止した徳山事業所では2020年代後半までに、海外調達のアンモニアを受け入れ、近隣の工場や電力会社に重油代替の燃料として販売する予定である。
ENEOS
2022年4月、フランス・トタルエナジーズとSAF製造に関する事業化調査を実施し、2023年10月に石油精製をやめる和歌山製油所でSAFを共同製造する計画を公表した。廃食油、獣脂などの廃棄物や余剰物を原料とし、2026年までに量産体制を整える。将来は30万トン/年の製造を目指す。
原料調達は化学品商社の野村事務所を通じて、廃食油回収業者や専門商社から安定確保し、2025年をめどに競争力の高いSAFの量産供給体制を目指す。
また、2022年から特殊触媒を使い、CO2と水素から合成燃料(e-fuel)の生産を始める。160L/日の生産から始め、2030年には最大1600L/日に高めて商用化する。清水製油所跡地では、太陽光発電由来のグリーン水素の製造を計画し、2024年には周辺施設への供給を始める。
商用化時には、オーストラリアなどから再生可能エネルギー由来のグリーン水素を調達し、製油所から排出されたCO2を使うことで、実質CO2排出ゼロの燃料を製造する。また、2030年までに製油所から排出されるCO2を分離回収し、西日本地域に貯蔵することも検討している。
川崎製油所では、常温での運搬ができるように水素をトルエンに反応させてメチルシクロヘキサン(MCH)から水素を取り出す実証試験を進めており、近隣には電力会社や鉄鋼会社などの需要家がいるため、水素供給拠点としての活用を考えている。
日揮
日揮グループはSAFの大規模商用生産に向け、レボインターナショナル、コスモ石油と共同で、使用済み食用油を水素化処理する国産SAF製造サプライチェーンの構築を進めている。
2022年3月、レボインターナショナル、全日本空輸、日本航空などと共同で、国産SAFの商用化および普及・拡大に取り組む合同会社「ACT FOR SKY」を設立した。新会社は国産SAFの大規模生産を目指し、100%廃食用油を原料とするSAFの国内供給(約3万kL/年)を目指す。
生産設備はコスモ石油の堺製油所内に2024年内に設置し、2024年度下期~2025年度初に稼働する予定。同設備ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサや、バイオディーゼルも生産する。
2022年11月、三菱地所とSAF製造に向け原料となる廃食油回収の相互協力を発表した。SAFは原料の廃食油の確保が課題であり、三菱地所は2023年3月から保有物件に入居する飲食店と回収業者を仲介し、2024年度の稼働を見込む大阪府堺市のSAF工場に供給する。
2023年4月、回転ずし「スシロー」などを運営するFOOD&LIFE COMPANIESが、廃食油を利用してSAFを生産すると発表した。レボインターナショナルが全国約680店舗から廃食油を回収し、日揮HDが堺市に建設中のSAF製造プラントへ運び、サファイア・スカイ・エナジーがSAFを製造する。
生産開始に向け3社と基本合意書を交わしており、提供する廃食油は約90万L/年を見込み、SAF約75万L/年の生産を計画し、早ければ2024年中にも生産を始めて2025年からの供給を目指す。
2023年4月、SAFの原料となる家庭や飲食店などから排出される廃食用油を、資源として回収するための環境整備などに取り組むプロジェクト「Fry to Fly Project」の発足を、28機関と共同で公表した。廃食用油から製造されたSAFは、従来の航空燃料と比較してCO2排出量を約80%削減できる。
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