航空機開発の失敗と成功(Ⅰ)

 近年、航空機開発においては、「三菱スペースジェットの失敗」「ホンダジェットの成功」は大きな注目を浴びた。対象がリージョナルジェット機小型ビジネスジェット機で、単純比較は難しい。
 しかし、戦闘機やヘリコプターを製造し、航空機部品の一次サプライヤーでもある重工メーカーが失敗し、航空機とは無縁の自動車メーカーが成功したのである。 
 「新しい航空機の開発でナンバーワンを狙った重工メーカーに傲慢ごうまんな点はなかったであろうか?」、一方、「オンリーワンを狙った自動車メーカーは謙虚に開発を進めたのであろうか?」

三菱スペースジェットの失敗

 2023年2月、三菱重工業は連結子会社の三菱航空機が進めていた国産初となる「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発事業からの撤退を発表した。三菱重工業が約1兆円、経済産業省も約500億円(1/2補助)を投入して開発を支援したが、20年間の努力もむなしく事業化は失敗に終わった。

三菱スペースジェットとは

 2003年5月に経済産業省の助成事業で、国産航空機の研究開発が始まった。三菱重工業は全日本空輸の発注を受け、2008年4月にリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の事業化を目的に、100パーセント子会社の三菱航空機を設立した。
 三菱航空機は機体設計、型式証明取得、部品調達、顧客サポートなど、三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所は航空機試作、飛行試験、量産製造、ジャムコが航空機の内装を担当した。
 また、2014年10月、民間航空エンジン分野での競争力強化を目的に、三菱重工航空エンジン(MHIAEL)を設立した。

 MRJの外観は一般的な小型ジェット旅客機と同様、機体には後退翼を採用し、主翼下面にジェットエンジンを搭載している。機体にはアルミ合金が採用され、軽量化のため主翼・尾翼を炭素繊維強化複合材料(CFRP)としていたが、強度上の問題から後に主翼はアルミ合金製に変更された。

 76席のMRJ70と88席のMRJ90の2機種の開発を進め、機体の長さ33.4m(35.8mMRJ90)、高さ10.4m、幅29.2mである。巡航速度は829 km/h、MRJ70の航続距離は1880標準型3090延長型3740m長距離型、MRJ90の航続距離は212標準型0、2870延長型3770m長距離型である。欧州や米国の全域をカバーできる。

 エンジンにはPratt & Whitney(P&W、プラット・アンド・ホイットニー)製のギヤードターボファンエンジン(GTF:Geard Turbofan)である新型エンジンPW1215G(MRJ70)PW1217G (MRJ90)を、燃費性能、静粛性、排気清浄度の観点から採用した。
 後に、搭載するエンジンPW1200Gは、最終組み立てを国内で三菱重工航空エンジンが行う計画で、愛知県小牧市の三菱重工航空エンジン本社工場の生産ラインは、米国連邦航空局(FAA)によるP&Wのエンジン組立工場に対する承認を拡大することで製造証明を取得する予定であった。

図1 三菱航空機の三菱スペースジェット「MSJ」  出典:三菱重工業

MRJ開発の背景

 1990年代、旅客数で50~100席程度の短距離輸送用のターボファンエンジン搭載の小型リージョナル・ジェット(RJ:Regional Jet)は、必要な滑走路が短く低騒音のために注目が集まり、カナダ・ボンバルディアブラジル・エンブラエルなどが販売機数を急速に伸ばした

 2000年代に入っても、ターボプロップ機を抑えてRJ市場の拡大が続いたことから、2002年に経済産業省は旅客数が30~50人程度の「環境適応型高性能小型航空機」と「環境適応型小型航空機エンジン」のRJ開発方針を示し、航空機市場への参入を推進した。

 経済産業省とNEDOは、2003年4月から5年間、開発費は総額500億円(国は1/2補助)を計画し、主契約企業が三菱重工業で、富士重工業(現SUBARU)と日本航空機開発協会(JADC)が協力する国家プロジェクトが発足した。小型航空機エンジンの開発は、IHIが担当した。
 プロジェクトでは、環境面への配慮からターボプロップ旅客機並みの優れた燃費性能を実現するため、機体は最先端の複合材料により軽量化し、空気抵抗を減らす機体設計で高性能化を目指した。

 初期のプロジェクト開発計画:
■軽量化や高性能化のための新技術を2004年までに開発し、2005年までに試験を実施
■2004年までに機体の概観、2005年に構想図、2006年までに製造図面、機体の試作・組立
■2007年に試作機の初飛行、2008年にかけて試験飛行を行い、2009年に型式証明を取得
■2009年までに最初の顧客(ローンチカスタマー)を確保できない場合は量産を中止

 2006年7月、英国ファーンボロ航空ショーで、RJ模型と開発計画(基本の90席機、小型の70席機、大型の96席機)を展示。30席機市場には限界があり、21世紀前半にはアジアで航空需要の急成長が見込めると予測し、対象を70~90席機に拡大し、初飛行は2011年に計画修正された。

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