電動航空機の開発はリージョナル航空機(短距離輸送用ターボファンエンジン搭載航空機、旅客数:50~100人)市場を目指し、大手航空機メーカーを中心にハイブリッド化が進められている。一方で、小型プロペラ機は電動化メリットが大きいため、ピュアエレクトリック化が進められている。
しかし、2010年代後半から、都市型航空交通(UAM:Urban Air Mobility)を目指して、多くのスタートアップが「空飛ぶクルマ」を市場投入しており、小型電動航空機市場は百家争鳴の状況にある。
ピュアエレクトリック航空機
2016年7月、ドイツSiemens(シーメンス)を中心に開発された全長7.5mのピュアエレクトリック航空機「Extra 330LE」が初飛行に成功した。電動モーター(最高出力:260kW、重量:50kg)でプロペラを回転させて推進力を与える。
機体の前方にはシーメンス製の電動モーターとインバーターのほかに、スロベニアの小型飛行機メーカーであるPipistrel(ピピストレル)が開発した蓄電池モジュールを搭載している。
2019年10月、米国NASAはピュアエレクトリック航空機による高速巡航効率、ゼロエミッションフライト、高い静粛性の飛行実証のため、一人乗り小型実験機「X-57 Maxwell」の基礎研究を開始した。イタリア製の双発プロペラ機「Tecnam P2006T」のエンジンを電気モーターに換装したものである。
X-57の最終形Mod Ⅳでは、主翼端の2基の巡航モーター(出力:60kW)でプロペラを回し、翼端に生じた回り込み渦を前縁12基の小型高揚力モーターで減少させる。12基の高揚力モーターで離陸し、巡航高度に達すると高揚力モーターを停止して、2基の巡航モーターで飛行する。
2020年5月、米国航空機用電動機メーカーのmagniX(マグニクス)と航空機関連企業AeroTEC(エアロテック)は、商用の高翼単発ターボプロップ機「Cessna 208B Grand Caravan」を完全電動化したピュアエレクトリック航空機「eCaravan」で、30分間の初飛行に成功した。
eCaravanは全長:12.67m、全幅:15.8mで、magni500電動プロペラ(出力:560kW)を搭載している。
2021年8月、イスラエルEviationは全長:17.09m、翼幅:18m、乗員2名、乗客9名のピュアエレクトリック航空機「Alice」を開発し、2020年代前半の就航(EIS:Entry into service)を目指している。
magniX製電動ファン(出力:260kW)を両翼端に1基づつ、テール部に1基装備し、LIB電池(容量:820kWh)を搭載し、巡航速度:407km/h、航続距離:815kmである。Aliceのローンチカスタマーは米国マサチューセッツ州を拠点とするリージョナル航空会社Cape Airである。
2021年11月、英国のRolls-Royce(ロールス・ロイス)は、ピュアエレクトリック航空機「Spirit of Innovation」の試験飛行で、3km区間を555.9km/h、15km区間を532km/h、瞬間最高時速:623km/hの世界新を記録した。
電動モーター(出力:400kW)の開発、インバーターの改良、高エネルギー密度の蓄電池の開発により、1回の充電で航続距離:約320kmを達成している。
2021年8月、イタリア機体メーカーのテクナム(Tecnam)とノルウェーのヴィデロー(Widerøe)航空は、2026年にノルウェー国内線でピュアエレクトリック航空機「P-Volt」の就航を目指している。
テクナムの11人乗り小型プロペラ機「P2012 Traveller」を完全電動化した航空機で、離着陸時間が短く、ノルウェーの地域間移動に適している。電動推進系は英国ロールス・ロイス製を採用する。
2021年11月、米国Wright Electricは、2023年に電動モーター1基、2024年に電動モーター2基の飛行試験を実施、2026年に2MWモーター10基を搭載した乗客186人、航続距離:1300kmのピュアエレクトリック航空機「Wright 1」を完成させて、2030年の就航を目指す。
Wright ElectricはNASA、米国防総省、米空軍、米陸軍との契約で超軽量電動モーター(出力:2MW)と制御用インバーターなどを開発した。現状の航空機用電動モーターと比べて出力は2倍の10kW/kgで、500kW~4MWまで対応可能である。
コメント