電動航空機の開発動向(Ⅵ)

航空機

 航空機メーカーなどにより、小型機を対象に推力を含む主電源と位置付けた燃料電池航空機の飛行試験が、既存のレシプロエンジンをPEFC+電動モーターに置き換えることにより実施されている。
 一方で、中大型機を対象に機内分散電源や非常用電源のハイブリッドシステム(SOFC or PEFC+ガスタービン)への置き換えが検討されているが、最近では燃料電池プロペラ推進システムの開発が始まっている。

燃料電池航空機(2)

燃料電池航空機の開発動向

 2020年には、欧米においてガソリン車の新車販売の段階的禁止が始まった。そのため、新車のゼロ・エミッション(ZEV:Zero Emission Vehicle)車両化が各国で推進されている。ZEVとはBEVとFCEVであり、HEVとPHEVは過渡レベルと位置付けられた。ZEV化は航空機開発にも影響を与えた。

ボーイング

 主推力源として燃料電池+電動モーターに置き換える検討も行われたが、現状ではジェットエンジンの代替は困難として、小型機を対象としてレシプロエンジンのPEFC(出力:20kW)への置き換えの検討を進めている。

 また、大型機B777 クラスを対象に、小型ガスタービンのAPU(出力:440kW)をハイブリッドシステム(SOFC(出力:330kW)+ガスタービン(出力:110kW))に置き換え、地上運航時の燃費を75%削減、巡航時に主電源の代替使用で燃費を40%削減、大幅なNOx削減が可能と試算している。

 ただし、SOFCの現状技術レベルでの適用には多くの課題が残されているため、技術成熟度の高いPEFCよる機内分散電源あるいは緊急動力電源(EPU) の一つであるRAT (Ram Air Turbine) の置き換えについても検討している。 

エアバス

 ボーイングと同様に、大型機を対象に緊急動力源 (EPU) の一つである RATの燃料電池への置き換えの検討を行っている。2014年には、小型ガスタービンのAPU(出力:400kW)など既存電源のハイブリッドシステム(SOFC+小型ガスタービン)による置き換えの検討も進めている。

 一方で、2020年4月、「E-Fan X」と呼ばれるハイブリッド航空機の事業化計画を破棄することを発表した。この中止は新形コロナの感染拡大による航空機事業の環境悪化の下で、経済的な視点と技術的な成熟段階を見据えて行われた判断としている。

 2020年9月、100~200人乗りの水素燃料を用いたゼロエミッション民間航空機「ZEROe」を、2035年に実用化すると発表した。後述するが、3種類のZEROeは水素を燃料とするガスタービン・エンジンを搭載し、燃料電池によりガスタービンを補完するハイブリッド技術を採用する計画としている。

 2020年12月、「ZEROe」機開発で検討中の一つとして燃料電池プロペラ推進システム(ポッドシステム)を公表した。
 ポッドとは8枚の羽根を回して推力を得る装置で、航空機の主翼の下にそれぞれ3基ずつ取り付けられる。各ポッドには、プロペラ、電動モーター、燃料電池、パワーエレクトロニクス、液体水素燃料タンク、冷却システムなどが搭載され、スタンドアロンで機能する。

 ポッドシステムは、迅速に取り外し/取り付けが可能な仕組みで、空港でのメンテナンスと水素燃料の補給が短時間で可能である。ポッドは選択肢の1つで、2025年までに最適なコンセプトに絞り込む。

図 19 エアバス検討中のポッドシステムを6基装備した旅客機

ドイツ航空技術研究所(DLR)

 2009年7月、DLRとバーデン・ヴュルテンベルク州太陽エネルギー・水素研究センター(ZSW)は、ダイムラー・クライスラー、カナダのバラード・パワー・システムズの支援を受けて、単発プロペラ式の燃料電池航空機「Antares DLR-H2」の初飛行を実施した。
 動力源は、巡航時に使う固体高分子型燃料電池(出力:10 KW 級)と、離陸時の補助用蓄電池(容量:20kW) であり、両翼に吊り下げたポッド内に燃料電池と高圧水素タンクが収納されている。

図20 ドイツDLRの燃料電池航空機「Antares DLR-H2」

 2016年10月、DLRは4人乗りの燃料電池航空機「HY4」の飛行に成功している。双胴機「HY4」は機体中央部にPEFC(出力:80kW)による駆動システムを内蔵して前方のプロペラを回転させ、2つの胴体の前部にパイロットや乗客を2人ずつ収容する。
 カナダのハイドロジェニックスが燃料電池を供給し、離陸時・上昇時に蓄電池から電力を補給する。最高速度:200km/h、巡航速度:145km/h、機体の総重量:1500kgで、航続距離:750~1500kmである。HY4をベースにして、最大19人の乗客を運べる規模まで拡張できるとしている。

図21 ドイツDLRの燃料電池航空機「HY4」

 一方で、小型の燃料電池航空機の飛行試験の実施と並行し、最近では中大型旅客機を対象とした飛行試験も、第一ステップとして燃料電池を補助電源と位置付けた開発を進めている。

IHI

 2012年10月、IHIとIHIエアロスペースはボーイングと共同で、アメリカン・エアラインのB737-800に再生利用燃料電池システム(RFC:Regenerative Fuel Cell)を搭載し、約4時間の飛行実証を行った。PEFCをベースに、厨房設備などに電力を供給する補助電源として使用した。

 RFCは、2000~2009年にIHI エアロスペースとJAXA が開発しており、巡航時の余剰電力で水から水素と酸素を生成し、上昇・下降時に燃料電池発電で補完する仕組みである。RFCはエネルギー密度がリチウムイオン電池の2~3倍程度と高く、燃費削減と発電機の小型化を可能とする。

図22 再生利用燃料電池(RFC)のシステム構成

ゼロアビア

 2020年9月、航空機向け燃料電池パワートレインを開発する英国ZeroAvia(ゼロアビア)は、水素燃料電池航空機の20分程度の試験飛行に成功した。英国政府が支援するプロジェクト「HyFlyer」の一環として行われ、機体は6人乗りの民間航空機(Piper Mクラス機)である。

図23 英国ゼロアビアの水素燃料電池航空機

 ZeroAviaは、2023年に商用ゼロエミッション航空機を市場投入する計画で、まずは座席数:10~20人、航続距離:約800kmの短距離フライトから始め、運用コストを従来の約半分に抑える。さらに、2040年までに座席数:200人以上、航続距離:約5400kmを実現する。

HES Energy Systems

 シンガポールのHES Energy Systemsが開発中の燃料電池航空機「Element One」は、乗客4名の短距離輸送用ターボファンエンジン搭載航空機(リージョナル航空機)で、航続距離は燃料の貯蔵形態(気体/液体)により異なるが500~5000kmとしている。2025年までの初飛行を目指している。

 搭載される超軽量燃料電池推進システム「AEROPAK-XL」は、水素タンク、燃料電池、電気制御機構を一体化し、重量エネルギー密度は500Wh/kg、燃料補給には10分を要しない。推進機構を分散型とすることでモジュール性が高まり、異常時のバックアップにより安全性も向上する。

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