航空機用構造材料の変革(Ⅰ)

航空機

 航空機の燃料消費低減のために軽量化は重要課題であり、機体やエンジン部品(ファン、ファンケース、ファン動翼)への軽量合金や炭素繊維強化プラスチックス(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)の適用開発が、従来から継続的に進められている。
 ジェットエンジンでは、圧縮機の高圧力比化・高温化やタービン入口温度の高温化に向け、耐熱材料開発、冷却技術開発、空力設計技術開発が行われている。最近では、燃焼器やタービンなど高温部へのセラミックス基複合材料(CMC:Ceramics Matrix Composite)の適用が進められている。

機体構造材料の軽量化

 航空機においては、燃費の向上や航続距離の延伸長のために、機体構造材料の軽量化は必須であり継続的に開発が進められてきた。図1には、各種構造材料について比強度(強度σf/密度ρ)と比弾性(弾性率E/密度ρ)の関係を示す。比強度と比弾性が大きい材料ほど、機体の軽量化には有効である。

図1 各種構造材料の比強度と比弾性
出典:新構造材料技術研究組合(ISMA)

機体構造材料の変遷

  • 1930年代には、従来の布、木、鋼に替えて、比強度と比弾性に優れたアルミニウム合金が航空機の機体材料として使用され始めた。その後、アルミニウム合金の高強度化開発が進められ、機体材料の主流となり適用範囲が拡大される。
  • 1940年代には、比弾性に優れたマグネシウム合金の開発が始まり、2010年代に座席など内装品への適用が認可されたが、アルミニウム合金の代替には至っていない。
  • 1940年代後半には、高強度アルミニウム合金(ジュラルミン、A2024-T7)の代用としてフラップ、舵構造材などの2次構造材にガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)が採用された。しかし、GFRPはアルミニウム合金と比べて比強度は高いが比弾性は劣るため、1次構造材への採用には至っていない。
  • 1950年代には、チタン合金(主にTi-6Al-4V合金)の使用検討が開始された。
  • 1960 年代後半には、アルミニウム合金よりも圧倒的に比強度と比弾性が高い各種の先進複合材料(Advanced Composites)の開発が進み、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)の航空機構造材料への採用検討が開始された。
  • 1980年代に入ると、CFRPは航空機の2次構造材である主翼と尾翼のラダー(方向舵)や客室桁材などに採用された。
  • 1980年代後半には、大型の1次構造材である垂直・水平尾翼安定板や胴体への使用が進められた。CFRPー金属材料の継手では、両材料間の腐食電位差により金属材料側にガルバニック腐食が生じる。そのため、CFRPを多用する機体ではガルバニック腐食を生じにくいチタン合金が多用されている。
     ただし、高価なチタン合金の使用は大負荷が作用する主脚、エンジンを支えるパイロン、垂直尾翼、補助動力装置(APU:Auxiliary Power Unit)取付部、尾翼を支える下部構造などに限定されている。

材料メーカーの動向

 2022年3月、国際航空運送協会(IATA)は2024年の世界の航空旅客数が40億人とコロナ前の2019年を3%上回ると予測している。
 新型コロナの感染拡大で、2021年の国内線・国際線を合計した旅客数は2019年比で47%に留まったが、2022年には83%に、2023年には94%にまで回復し、2024年には103%に、2025年には111%に増加すると予測している。

 今後も航空業界では難局が続くと考えられているが、2022年6月に入り、新型コロナ禍で低迷した航空機部材メーカーの生産回復が進められている。ウクライナ危機による燃料高騰や環境規制の強化により、航空機軽量部材の需要は強まっている。

 東レは、新型コロナ感染拡大の影響で2020年夏に停止した米国サウスカロライナ州の炭素繊維の主力工場で、2022年内に航空機向けの出荷を再開する方針を示した。原糸製造からCFRP加工まで一貫生産を担う中核拠点で、ボーイングの中型機B787の主翼や胴体などに使われる予定である。

 帝人は、航空機向けの炭素繊維とCFRP部材の生産について、日本とドイツの工場で稼働率を高め、2022年3月期比で2023年3月期には2割の増産、2024年3月期には4割の増産計画を表明している。

 東邦亜鉛は、航空機の降着装置(ランディングギア)やエンジン部品の耐久性を高める電解鉄(世界シェア7割)の増産を表明している。2023年3月期には生産を前期比2割増と新型コロナ感染拡大前の水準に戻す。2024年3月期には自動車向けの出荷も増して同7割増にする。

 国際民間航空機関(ICAO)は2021年、航空各社がCO2排出を2019年より増やさないとのルールを導入した。現在は各国の自主的な対応となっているが、2027年には義務化する方針である。環境規制が強まれば、金属の代わりに軽量高強度のCFRP需要が増える。

コメント

タイトルとURLをコピーしました