次世代航空機の開発動向(Ⅱ)

航空機

 2018年7月に、航空機電動化コンソーシアム(ECLAIR)が設立され、日本の航空機電動化の技術開発と航空・電機産業間の連携を促進し、航空機電動化技術の国際競争力向上を目指すことを目的として活動が始まった。しかし、開発が緒に就いた段階であり、社会実装には程遠いのが現状である。

航空機におけるシステム電動化

電動化による燃費削減

 現状のジェットエンジンは航空機に推進力を与えるだけではなく、機体の空調システムや機体システムで用いられる発電機や油圧ポンプなどを駆動するための機械動力を供給するエネルギー源でもある。すなわち、燃費削減のために部分的にではあるが電動化が進み始めている。 

 以下に、航空機の電動化の経緯と未来予測をまとめる。

『航空機の電動化の経緯と未来予測』:
●1990年代以降、世界的に航空機システム電動化(MEA:More Electric Aircraft)が進められ、動力源を電力に統合してマネジメントする仕組みが機体システムにおいて実用化された。
●2000年代以降、エンジン・システム電動化(MEE:More Electric Engine)が進められ、MEA との連携により、航空機全体のさらなる効率向上や最適な運航が実現された。
●2010年代後半には、電動垂直離着陸機(eVTOL:electric Vertical Take-Off and Landing)に代表される「空飛ぶクルマ」の発表が相次ぎ、小型電動航空機による都市航空交通(UAM:Urban Air Mobility)の実現性がPRされた。
●2020年代には、小型電動航空機のUAM運用が始まると予測されている。電動航空機の最大の利点は燃料費や整備費など運航に係るコスト削減効果である。
 現時点で、電動化により燃費削減効果が顕著なのはガソリンエンジン搭載の小型プロペラ機であり、運航コストの40%近い削減効果が試算されている。
●2030年代には、中~大型民間航空機エンジンのハイブリッド電動化が始まる。中~大型機エンジンでは完全電動化で実用的な航続距離を確保することが難しく、ハイブリッド方式が中心になる。
 そのため整備費削減も限定的で、ハイブリッド化による燃費削減は数%~10数%程度と試算されている。燃費削減のメカニズムも小型機とは異なり、電動ファンの活用による空力抵抗低減や、多発化によるファンの総面積拡大で推進効率向上を図るなどの方法が検討されている。
●2040年代以降には、大型民間航空機エンジンの電動化が進み、水素タービン航空機の実用化が始まると予測されている。 

航空機電動化コンソーシアム(ECLAIR)のビジョン

 2018年7月に、航空機電動化コンソーシアム(ECLAIR:Electrification ChaLlenge for AIRcraft (ECLAIR) Consortium)が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中核となり経済産業省、IHI、川崎重工業、日立製作所、三菱電機など、政府や航空・電機産業の民間企業が参画して設立された。
 産学官連携により、日本の航空機電動化の技術開発と、航空・電機産業間の連携を促進し、航空機電動化技術の国際競争力向上を目指すことを目的としている。

 2018年12月には、東京都内で「航空機電動化コンソーシアム(ECLAIR:Electrification ChaLlenge for AIRcraft (ECLAIR) Consortium)のオープンフォーラムを開催され、電動航空機の実現や電動化技術の開発について、日本政府や民間企業の取り組みが紹介された。

 図3に示すように、ECLAIRコンソーシアムではICAOの示したCO2削減目標(2050年に2005年比で半減する)に対して、従来技術改善と次世代技術導入による寄与率の予想を具体的に掲げている。

 すなわち、ジェットエンジンのさらなる高バイパス比化、機材運用の改善などの従来技術改善により35%分のCO2排出量削減を実現する。残り60%超分はバイオ燃料の導入航空機電動化水素燃料の利用などの次世代技術導入である。

 2021年以降には航空会社へのCO2排出権を規定する枠組みが開始されるため、航空各社はCO2排出対策を加速させる必要がある。

図3 CO2排出量半減に向けた電動化の寄与の予想
出典:航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム

 図4には、ECLAIRコンソーシアムで設定された電動化ビジョンを示す。すなわち、比較的難易度の低い小型機から大型機に向けて段階的に電動化を推進する構想である。

図4 世界の航空機電動化の動向とÉCLAIRのビジョン
出典:航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム

 現状の小型固定翼機ではピストンエンジンやターボプロップエンジンの採用が多いため、機体が小さく、飛行速度が高速になるほど燃費は高くなる。そのため小型垂直離着陸機(VTOL)を含む小型機推進系の完全電動化により、燃費削減を図る必要がある。

【電動化ビジョン1】では、2020年代に「空飛ぶクルマ」を始めとした小型垂直離着陸機(VTOL)や、推進系を除く装備品部分で電動化を進めた航空機(MEA)など、小出力用途で電動化を進める。

【電動化ビジョン2】では、2030年代に航空機全体のCO2排出総量の大部分を占める民間航空機のうち席数が100~200席程度のナローボディー機に、電動化技術の適用を広げる。

 しかし、民間航空機の電動化は装備系での採用が始められたばかりで、推進系への採用は技術的に未開拓な分野である。そのため小型機では推進系を含む完全電動化が主流となるが、旅客機は航続距離の面からジェットエンジンを併用するハイブリッド方式で電動化が進む。

【電動化ビジョン3】では、2040年代に200~400席程度のワイドボディー機を含めたほぼ全ての航空機で電動化を適用して燃費を大幅に削減し、一部で水素燃料の導入によりCO2排出量の削減を進める。

【電動化ビジョン4】では、2050年の電動化対象と電動化率の最大化を進める。

航空機電動化のリスク対応について

 一方で、航空機の電動化には様々なリスクが伴う。

「空飛ぶクルマ」を始めとした小型垂直離着陸機(VTOL)のリスク
①従来の回転翼機のオートローテーション機能がないため、推進系の故障発生時には即時に墜落
②操縦系統に機械的機構がなく、コンピューターや通信系などの電気系故障により即座に制御不能
③騒音が大きいため低空飛行が許容されないなど。。。

高高度飛行を行う電動旅客機のリスク
①低圧下における電気系のコロナ放電と絶縁破壊
②高放射線下における半導体素子の故障(シングルイベント効果)
③低空気密度による冷却機能低下
④ジェットエンジンとのハイブリッド化による電気系の故障と故障確率の増加
⑤最大出力持続時間(離陸定格で5分以上)が長いため電動デバイスが過熱

 ECLAIRコンソーシアムでは、これらの電動化リスクに対応した重要技術課題として、以下の8項目をあげており、重要開発課題としている。

共通の重要技術課題
①電動要素の高出力密度化
②蓄電池の安全性と高エネルギー密度の両立
③推進効率の高効率化
④推進系の安全性・信頼性保証
高高度飛行の重要技術課題
⑤電気の耐放電・耐放射線
⑥電動要素の熱&パワー管理・制御
低高度飛行の重要技術課題
⑦電動推進システムの耐故障
⑧ファン・プロペラの低騒音化

特に重要である①電動要素の高出力密度化と②蓄電池の安全性と高エネルギー密度の両立については、それぞれ定量的な数値目標を図5と図6に示している。

図5 電動モーターとインバータの合計出力密度の目標
出典:航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム

 ①電動要素の高出力密度化の目標値に関して、小型電動航空機については現状技術に近いオーダーの数値が示されているが、民間航空機レベルについては現状技術とは大きなギャップが存在するため、今後の重要な開発課題としている。

図6 蓄電池の電源電圧とエネルギー密度の目標
出典:航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム

 ②蓄電池の安全性と高エネルギー密度の目標値に関しては、小型電動航空機については現状技術でもエネルギー密度が1/2程度と低く、民間航空機レベルについては現状技術とは大きなギャップが存在するため、今後の重要な開発課題である。

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