次世代航空機の開発動向は、同様に低環境負荷を目指す次世代自動車と極めて良く類似している。ただし、次世代航空機ではバイオジェット燃料の供給の可能性は十分にあるとして、空港のインフラ整備による持続可能な航空燃料(SAF)の検討が進められている。
一方で、航空機の形式をジェットエンジン機→ハイブリッド機→電動航空機・燃料電池航空機・水素タービン航空機へと向かう研究開発が始められている。
次世代自動車とのアナロジー
次世代自動車
図1には、低環境負荷に向けて進められている次世代自動車の変革を示す。国内では、バイオ燃料の供給可能量が懸念されており、今後も大きな伸びは期待できない。そのため、CO2排出量の低減を実現するために、インフラ整備を充実させて電力あるいは水素を燃料とする方向を目指している。
また、構造材料も車体の軽量化に向けた技術開発が継続的に進められているが、これは駆動形式とは無関係に燃費節減のために必要な開発項目と位置付けられる。
現在は低環境負荷を実現するために、自動車の形式はガソリン車(ディーゼル車を含む)→ハイブリッド車→電気自動車・燃料電池車へと向かっている。ハイブリッド車は、ガソリン車から電気自動車・燃料電池車へと向かうための「つなぎ役」との認識が一般的である。
しかし、電気自動車・燃料電池車についても、再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素を使用することを前提とする。経済的理由により火力発電で発電した電力や化石燃料を改質して得られた水素を使う限り、低環境負荷の最終目的は達成されない。
一方で、蓄電池の高性能化が急速に進行しており、普通乗用車に関しては走行距離の問題も電気自動車(BEV)でクリアできるレベルに達している。そのため燃料電池は大型のトラックやバスなど、さらなる長距離を輸送する移動体などへの採用検討に移っている。
次世代航空機
図2には、低環境負荷を実現するための次世代航空機の使用燃料と構造材料の変革を、次世代自動車について示した図1と対比して示す。比較することで、同じ低環境負荷を目指す次世代自動車と次世代航空機の構図は、極めて良く似ている。ただし、次世代航空機の開発は始まったばかりである。
ところで、2018年の日本における石油総消費量は2億631万kLで、その内訳は自動車が42%、航空機が2.6%、運輸・船舶が2.0%である。自動車の莫大な燃料消費量に比べて航空機による消費量は限定的である。また、航空機の燃料供給拠点は空港に限定されるなど、燃料に関しては少々状況が異なる。
実際に、次世代航空機ではバイオジェット燃料の供給の可能性は十分にあるとして、空港のインフラ整備による持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の検討が進められている。SAFの供給量が需要を満たせば、現状の航空機体系を大きく変える必要がないため有望視されている。
ジェットエンジンの開発には膨大な費用を要し、その安全性・信頼性確保には長い期間が必要とされている。このことがバイオジェット燃料の導入拡大の背景となっている。2020年代には、中~大型民間航空機へのバイオジェット燃料の導入が進むと考えられている。
一方で、構造材料の軽量化に向けた開発は、航空機が自動車よりも先行して進められてきた。しかし、今後は次世代自動車向けに開発された熱可塑性炭素繊維強化複合材料や異種材料接合技術などの航空機への適用展開が期待される。
また、2050 年カーボンニュートラルを実現するため、航空機の形式をジェットエンジン機→ハイブリッド機→電動航空機・燃料電池航空機・水素タービン航空機へと向かう研究開発が始まっている。現在、次世代自動車と同様に、短距離向け小型航空機は電動航空機へと向かっている。
中~大型航空機は、ジェットエンジン・メーカーが燃料を水素に替えた水素タービンの開発を進めており、燃料電池は補機やハイブリッド化によるサポート電源と位置付けられる傾向にある。そのため燃料電池航空機の実現には、スタートアップ企業などの斬新なアイデアが期待される。
燃料電池航空機、水素タービン航空機いずれの場合も、大量の水素燃料の搭載方法が大きな課題である。自動車用の高圧水素タンクでは長距離運航に問題が生じるため、液体水素の検討が始まっている。
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