航空機用の代替燃料(化石燃料、総植物由来、水)

航空機

 図2には、航空機用の代替燃料の分類を示す。航空機用の代替燃料は、化石燃料由来動植物由来水(水蒸気)に大分類できる。
・Aircraft Technology Roadmap to 2050,https://www.iata.org/en/programs/environment/technology-roadmap/

図2 航空機用の代替燃料の分類

 石油由来の液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)は、プロパン・ブタンなどを主成分とし、圧縮することで常温で容易に液化できるため、直接燃料として用いることは可能である。実際に、燃料費がガソリンの2/3程度と安価であることから、国内ではタクシーに多用されている。
 しかし、燃料タンクに替わり圧力容器(ガスボンベ)を搭載することになるので、従来のジェット燃料の代替としての利点は見当たらない。

 石炭由来の石炭液化燃料も、高温高圧下で水素と直接反応させる直接液化法や、石炭ガス化後に合成反応させて液化する間接液化法などが開発されている。
 天然ガス由来のメタノールやエタノールなどのアルコール燃料は、自動車用に混合燃料が実用化されているが、含酸素燃料で酸化剤を吸込空気とするジェットエンジンでの利点は少ない。単位重量あたりの発熱量も現用ジェット燃料の 60%程度で、金属腐食、アルデヒドを含む排ガス対策など課題が多い。

 しかし、そもそもCO2排出量の低減を目指す観点から、化石燃料由来の燃料を従来のジェット燃料の代替として使う利点は見当たらない。

 一方、動植物由来のバイオ燃料については化石燃料を原料としないため、カーボンニュートラル(Carbon neutral)の考えに沿った代替燃料として期待が大きい。

 第一世代と呼ばれるバイオ燃料は食用油脂や糖類から合成されたもので、食用油脂の主成分であるトリグリセリドのグリセリン部分をメタノール置換して得られた脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼルと呼ばれている)が代表例である。
 この延長でジェット燃料準拠の燃料製造も可能であるが、食糧危機問題の高まりと共に、航空機用燃料としての導入の見通しはなくなった
 一方で、木屑やワラなどのバイオマスを原料とする植物廃棄物からの発酵などにより生産されているバイオエタノール(Bioethanol)などのアルコール燃料があるが、単位重量当たりの発熱量が低く、含酸素燃料のために酸化剤を吸込空気とする航空機ジェットエンジンでの利点は少ない。

 第二世代のバイオ燃料と呼ばれている非食用植物の油脂や糖類からの合成は、油脂の原料が非食用植物(ナンヨウアブラギリ、アマナズナ、カメリナ、ジャトロファなど)である。単位面積当たりの収量が大きく、食物の耕作に適さない土地でも生育できるなどの条件を満たす植物が選択されている。
 製造方法は、非食用植物のバイオマスから合成ガス(H2、CO)を発生させ、FT法(Fischer-Tropsch process)*脚注により液体炭化水素を合成した後、水素を添加してジェット燃料に変換されている。

*脚注 1923年に、ドイツのF・フィッシャーとトロプシュが開発した一酸化炭素と水素から液状の炭化水素を合成する方法である。触媒として鉄やコバルトなどの重金属が用いられているが、200℃以上の高温高圧の反応条件が必要なため、さらなる高効率化が望まれている。

 第三世代のバイオ燃料としては、藻類(ミドリムシ、ボトリオコッカスなど)を原料とする合成が進められている。
 製造方法は、①藻類の培養、②濃縮・収穫、③油分抽出、④燃料への変換の4工程で行われる。すなわち、藻類を原料としたバイオマスから合成ガス(H2、CO)を発生させ、FT法により液体炭化水素を合成した後、水素を添加してジェット燃料に変換されている。

 様々なバイオマスからジェット燃料を製造する BTL(Biomass To Liquid)と、石炭を原料とするCTL(Coal To Liquid))、天然ガスを原料とするGTL(Gas To Liquid)との環境性、経済性の比較が行われ、航空代替燃料としてBTLを使用することがCO2排出量の低減に有効であることが確認されている。
http://iadf.or.jp/document/pdf/21-5.pdf

 ところで、航空機用燃料として水素(液体水素)を使用することは、CO2を排出しないための究極の選択として以前から考えられてきた。表1には、後述するジェット燃料のASTM規格と各種のバイオジェット燃料と水素燃料の特性を比較して示す。
 水素燃料は単位重量あたりの発熱量が現状のジェット燃料の約 3 倍と大きい。しかし、液体水素にして貯留しても密度が低いため単位体積あたりの発熱量は約1/4 である。すなわち、従来のジェット燃料の34.6(kJ/L)に対して、液体水素は8.5(kJ/L)と低い。
 さらに、水素を液体状態を保つためには極低温(沸点:-259.2℃以下)で保管する必要がある。そのため、航空機用への水素燃料の導入については、1980年代から飛行試験などにより多くの検討が行われてきたが、本格的な採用には至っていないのが現状である。
http://iadf.or.jp/document/pdf/21-5.pdf
Sustainable Bio-Derived Synthetic Paraffinic Kerosene (Bio-SPK) Jet Fuel Flights and Engine Tests Program Results、AIAA 2009-7002、9th AIAA Aviation Technology, Integration and Operations Conference (ATIO) (2009).

表1 ジェット燃料のASTM規格とバイオジェット燃料(SPK)と水素燃料の特性比較

 また、水素燃料についても化石燃料の改質により製造された水素を使う限り、本質的なCO2排出量の低減にならないことは自明である。そのため水(あるいは水蒸気)を原料とし、再生可能エネルギー電力を使って電気分解により製造されたグリーン水素を航空機用燃料として使う試みが進められている。

 最近、興味深いニュース「ブルー水素、グリーンより割高に ガス高騰が影響」、日本経済新聞(022年5月26日)が流れた。経済制裁によるロシア産天然ガスの価格高騰により、天然ガス原料でCCSを行う「ブルー水素」の価格が高騰し、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と逆転した。
 これにより、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が、ロシア産の天然ガス依存からグリーン水素への転換が急速に進むとし、ロシアへのエネルギー依存を減らすため、2030年に560万トンとしていたグリーン水素の生産目標を1000万トン/年にすることを発表した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC069E70W2A400C2000000/

 欧州委員会が2020年に公表した試算では、グリーン水素の製造コストは2.6~5.8ドル/kgである。一方、ノルウェーのライスタッド・エナジーによると、2021年に2ドル/kg程度であったブルー水素の価格は、ロシアのウクライナ侵攻により814ドル/kg近くに急騰している。

 再生可能エネルギーが普及すると発電コストは今後も低下するであろう。加えて、グリーン水素をつくる水電解装置の量産化が欧州では加速されており、LNG価格が高止まりを続けると、当然のことながらグリーン水素の価格競争力は強まる。

 水電解装置の世界最大手ノルウェーのネル・ハイドロジェンは伊藤忠商事とも提携し、2025年までに米国と欧州で400万kWずつ、アジアで200万kW、合計1000万kWまで量産を拡大し、グリーン水素は1.5ドル/kgの低コスト製造を目指している。
 ドイツのシーメンスエナジーが2023年に数100万kW規模で量産を開始し、ティッセンクルップは2025年までに現在の5倍となる500万kWまで量産規模を拡大するとしている。
 英国のITMパワーは2024年までに500万kWまで、フランスのマクフィーも2024年までに100万kWまで量産規模を拡大するとしている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC069E70W2A400C2000000/

 一方で遅ればせながら、燃料電池の米国プラグパワーは1億2500万ドルを投じて水電解装置の研究開発拠点を新設する。同業の米国ブルームエナジーは2021年夏、競合より最大45%エネルギー効率が高い水電解装置を発表している。
 旭化成は1ユニット当たりの最大出力が1万kWの大型装置を、2025年を目指して開発を進めている。日立造船もラオスでグリーン水素製造の実証実験を計画しているが、電解装置の量産時期は早くても2030年前後になる見通しである。

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