トランプ政権の社会実験を止めなければ、これに追随する国が出てくる。単純なCO2排出量の削減は経済成長を抑制するからである。自らの大義名分を掲げウクライナ侵攻を進めるプーチン大統領を止めなければ、これに追随する国が出てくるのと同じ理屈である。
トランプ政権の気候変動対策の動き
2025年3月、米国環境保護庁(EPA)は、トランプ大統領令に従い各種環境規制の見直しを発表。見直しの対象としてエネルギー関連で次の項目を上げている。
(1)米国のエネルギーを解放するとした案件:
1.発電所に関する規制の見直し(クリーンパワープラン2.0)
2.石油・ガス産業を抑制している規制の見直し(OOOOb/c)
3.石炭火力発電所を不適切に標的にした水銀および大気毒性物質基準の見直し
4.エネルギー供給に多大なコストを課した温室効果ガス報告プログラムの義務化の再考
5.低コストの電力を確保するための蒸気発電業界の制限、ガイドライン、基準(ELG)の再考
6.石油・ガス開発事業のための廃水規制の再考
7.石油・天然ガス精製所と化学施設を制限したリスク管理プログラム規則の再考
(2)米国家庭の生活費削減とした案件:
1.EV義務化の基礎となった小型車、中型車、大型車規制の再考(自動車GHG規則)
2.温室効果ガスに関する2009年の危険因子判定と、その判定に基づく規制、措置の再検討
3.粒子状物質に関する国家大気質基準 (PM 2.5 NAAQS)の再考
4.エネルギー、製造業向け有害大気汚染物質に関する国家排出基準(NESHAP)の再考
5.「炭素の社会的コスト」の見直し
6.環境正義、多様性、公平性、包摂性部門の廃止 等々
これらの見直しに関して、石炭火力発電の業界団体アメリカズパワーは「石炭火力発電所の廃止のほとんどは電力不足のリスクに直面する地域で起きており、トランプ政権が石炭火力発電所の廃止を防ぎ、電力消費者を保護するための多くの措置に賛成する」と歓迎の声明をあげた。
一方、環境保護団体エバーグリーン・アクションは「汚染された石炭・天然ガス発電所に炭素排出制限を設け有毒な大気汚染物質を削減する規制の撤廃は、汚染された工場からの有毒な空気を吸わざるを得ない地域社会に対する直接的な攻撃だ」と激しく批判した。
2025年7月、米国エネルギー省の長官が招集した5人の科学者の「気候ワーキンググループ(Climate Working Group, CWG)」が作成した「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」が公表。
調査対象は地球全体であるが、特に米国での温室効果ガス排出の影響に重点を置いており、環境規制の撤廃を進めるトランプ大統領の政策を裏付ける資料として活用されている。
2025年8月、米国環境保護庁は、大気浄化法(Clean Air Act)に基づく温室効果ガス排出規制の根拠となる2009年の危険因子判定の撤回提案を発表。最終決定されれば、自動車、工場、発電所などに対して温室効果ガス排出を規制する根拠が失われる。
廃止となる2009年危険因子判定は、2007年に最高裁判決でGHGが大気汚染物質であると判断されたことを踏まえ、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、および六フッ化硫黄(SF6)の6種類である。
2025年8月、米国環境保護庁(EPA)の判断を覆そうとする動きもあるが具体的には不明。最近の世論調査では、半数がトランプ政権の気候変動対策が不十分と回答した。
経済誌「エコノミスト」と調査会社ユーガブは、トランプ政権などに関する世論調査結果を発表。それによると、トランプ政権の気候変動対策について「不十分」50%、「妥当」20%、「過剰」17%であった。温室効果ガス排出規制の「拡大」37%に対して、「縮小・撤廃」24%、「現状維持」21%であった。
2025年9月、米国エネルギー省が発表した気候変動に関する報告書に、科学者から批判が続出と報じられた。化石燃料の積極活用を進めるトランプ政権の考えを正当化する記述が報告書に都合良く採用されていることが批判の理由で、米国研究チームは「科学的に信頼できない」とする意見書を公表した。
85人以上の米国の科学者らで作る研究チームは、エネルギー省に異議を唱える意見書を提出。報告書作成の過程で、結論ありきの先入観でデータを選び、専門家による査読を受けていないと指摘した。
英調査研究機関「カーボン・ブリーフ」も、報告書に掲載された情報の真偽を確かめるファクトチェックを行い、虚偽や誤解を招く記述が少なくとも100か所あると発表した。
米国トランプ政権は、「パリ協定」からの離脱を進めるなど、地球温暖化問題に関して懐疑的な立場を表明。しかし、単純に懐疑的というだけの動きではない。米国ファーストの意味の本質は、弱体化している米国の世界への指導力(hegemony、ヘゲモニー)の復活にある。
しかし、気候変動問題に関しては、中核である「風力・太陽光発電」、「蓄電池」の技術レベルで中国に先行され、現時点で優位に立てる「LNG燃料」と「原子力発電」に舵を切った。もちろん、国内の支持基盤である中間層や労働者層の利益最優先?のPRも忘れずに。
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