国内でのCCS事業化の動向(Ⅵ)

火力発電

 JOGMECプロジェクトには、北海道電力、東北電力、中国電力、関西電力、九州電力、電源開発が参画する。その他、JERA、中部電力、北陸電力にも動きがみられる。CCS事業への取り組みには電力会社間で温度差が顕著である。次に、電源開発、JERA、中部電力、北陸電力の現状を示す。

大手電力会社のCCS事業(2)

「電源開発」は国内火力トランジションに取組む

 国内大手電力会社に先駆けて、電源開発は非効率石炭火力のフェードアウトのロードマップを公表した。具体的な火力発電所を対象に、脱炭素化の方向性を公表したことは特筆に値する。

 2024年5月、電源開発は「中期経営計画2024-2026」において、非効率石炭火力をフェードアウトするとともに、高効率石炭火力も地点の特性を踏まえて最適な技術を選択し、電力安定供給に貢献しながら低炭素化・脱炭素化を図るとして、国内火力トランジションの方向を示した。

 すなわち、竹原火力発電所1号機ではバイオマス混焼拡大+CCS(BECCS)、松島火力発電所2号機ではIGCC+CCS、松浦火力発電所2号機ではアンモニア燃料/CCS、石川石炭火力発電所1,2号機ではIGCC+CCSであり、合計5基の火力発電にCCSを追設する計画を示した。
 竹原火力発電所1号機は、⑧マレーシア・マレー半島沖南部CCS事業の一環で取り組む。

図14 脱炭素化に向けた国内火力発電トランジションの方向性  出典:電源開発

具体的な取組みが遅れる「JERA」

 2019年4月、東京電力フュエル&パワーと中部電力の火力発電所とLNG基地が統合された「JERA」は、国内総発電量の3割を占める最大の発電会社である。電源構成は、LNG火力が71%と大多数を占め、15%を占める石炭火力と残り14%が石油火力である。
 現在、排出したCO2の海外貯留のFSを進めているが、具体的なCCS事業への取組みは遅れている

 2024年4月、JERAは、マレーシア国営石油・天然ガス会社Petroliam Nasional Berhadペトロナス・ナショナル・プルハドの子会社PETRONAS CCS Solutionsペトロナス・シーシーエス・ソリューションズ (PCCSS) との間で、日本国内で排出するCO2の分離回収とマレーシアへの輸送および貯留の事業可能性調査について初期的な共同検討実施の合意書を締結した。
 日本国内で排出するCO2の分離回収、輸送方式や出荷・受入条件等の両国間輸送を検討し、マレーシアのガス田への貯留までのCCS事業の実現可能性を共同で検討する。 

 2024年5月、JERAとINPEXは、日本国内で排出するCO2の分離回収と豪州への輸送・貯留の事業可能性調査の初期的な共同検討実施の合意書を締結した。
 JERAは国内火力で排出したCO2を分離回収・液化してオーストラリアの油田やガス田跡地の地下貯留、INPEXはオーストラリア北部の天然ガス開発事業「イクシス」で採掘時に出るCO2を、オーストラリア北部の別鉱区に2030年までに貯留することを検討する。

「中部電力」はJERAと連携して推進

 火力発電資産はJERAが保有し発電事業を行っているが、火力発電のゼロエミッション化に向けてJERAの取組みに関与すると共に、中部電力グループ全体で脱炭素を達成するため連携しながらCCS事業化への取組みを進めている。 

 2024年8月、中部電力と英国BP子会社のBP Berauは、名古屋港からインドネシア・西パプア州タングーまでのCCSバリューチェーン構築に向け、国際的CCSハブ&クラスター構築の協力協定を締結した。両社は、商業的なCCSプロジェクト実現のための課題整理とビジネスモデルの検討等に取り組む。
 インドネシア最大のガス生産プロジェクト「タングーLNG」でBPが運営するタングーCCUSプロジェクトは、2021年に政府承認を受けて基本設計が始まり、2024年3月に実現可能性調査を完了した。その結果、CO2貯留可能量は約18億トン-CO2である。

 2024年10月、中部電力とINPEX Browse E&P (IBEP)は、名古屋港から豪州・北部準州沖合のボナパルト堆積盆地に至るCCSバリューチェーン構築に向け共同検討の合意書を締結した。
 中部電力は、名古屋港周辺で排出されるCO2を回収してCCUS事業の調査を進めており、IBEPとともに名古屋港からボナパルト堆積盆地へのCO2の船舶輸送に関する実現可能性調査を実施する。

 2024年10月、中部電力とオーストラリアのSantosサントスは、脱炭素分野での包括的な協力で覚書を締結した。名古屋港からサントスが運営する豪州ムーンバCCSプロジェクトへのCCSバリューチェーン構築と、クーパー盆地で進める脱炭素プロジェクトへの地熱などの再生可能エネルギーの利用に関する検討を行う。

 一方、中部電力は四日市バイオマス発電所(出力:4.9万kW)を保有しており、東芝と協力して「CCS付きバイオマス発電(BECCS)」のFSを開始している。中部電力グループ全体では数多くのバイオマス発電所を保有しており、将来のBECCS化に向けた布石とも考えられる。

「北陸電力」はINPEXとの協業で推進

 カーボンニュートラルに向けたロードマップを公表しており、ゼロエミッション火力の実現に向け、石炭火力のバイオマス混焼から専焼化、アンモニア・水素等への燃料転換、CO2回収技術等(CCUS)導入を掲げている。

 2025年1月、北陸電力とINPEXは、「エネルギーシステムの低炭素化及び高度化に関する包括連携協定書」を締結した。CCSや水素・アンモニア等の次世代燃料や再生可能エネルギーの導入推進をめざす。
 北陸電力は販売電力量に占める石炭火力の割合が4割と電力大手のなかでも高い。そのため、INPEXとの協業で火力発電の低炭素化を進めるほか、非化石電源の拡大を進める。

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