次世代火力発電システムとは?(Ⅳ)

火力発電

 アンモニア(NH3)は液化水素の 1.5 倍の体積水素密度を有し、国内では直接燃料として使用することが検討され、IHIと三菱重工業により有害な窒素酸化物(NOx)を出さない燃焼法が開発されている。

 一方、欧米は水素キャリア(運搬媒体)としてのアンモニア利用に着目している。将来的にアンモニア燃料による発電を電源構成に盛り込んでいる先進国は、日本と韓国の2カ国にとどまる

アンモニア燃焼タービンの開発動向

 水素キャリアでもあるアンモニア(NH3)は、毒性を有するものの、液化水素の 1.5 倍の体積水素密度を有し、比較的取り扱いが容易で貯蔵方法も確立されており、国内では直接燃料として使用することが検討され、有害な窒素酸化物(NOx)を出さない燃焼法が開発されている。

水素を輸送・貯蔵する手段:
液体水素は水素を超低温(沸点:-253℃)で液化して輸送・貯蔵し、気化させて消費する。
有機ハイドライド(MCH:Methylcyclohexane)は、芳香族化合物に水素を結合させた水素化物にして輸送・貯蔵し、水素分を分離して消費する。
アンモニア(NH3は、低温(沸点:-33℃、プロパンと同様)や加圧(20℃で約8.5気圧)により液化して輸送・貯蔵し、直接燃焼、あるいは水素を分離して消費する。

アンモニアの燃焼方法

 アンモニアを発電用ガスタービンで燃焼する場合、燃焼方法では直接燃焼方式と、ガスタービン排熱でアンモニアを水素と窒素に分解した後に燃焼する分解ガス燃焼方式に分類できる。

 また、直接燃焼方式の場合、その供給方法によりアンモニアガス供給方式液体アンモニア直接噴霧方式に分類できる。アンモニアは常温では約0.8MPaで気化する。また、通常のガスタービンでは燃焼器圧力が 0.8 MPa 以上となるため、アンモニアを液体状態で安定して噴霧することもできる。

図9 ガスタービンによるアンモニア燃焼方法

 2017年9月、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環で、中国電力が水島発電所2号機(石炭火力、出力:15.6万kW)で、アンモニア混焼試験を実施した。発電機出力を12万kWに下げ、混焼率は体積比約0.8%で運転し、NOなどによる環境影響に問題ないことが検証された。
 SIPではアンモニア直接燃焼方式について、IHIと三菱重工業によりマイクロガスタービンおよび小型ガスタービンでの検討が行われた。また、アンモニア分解ガス燃焼方式は、三菱重工業により大型ガスタービンでの検討が進められた。

 2018年以降、IHIは出力:2000kW級ガスタービン「IM270」にアンモニア供給設備を付帯し、液体アンモニア直接噴霧方式によるアンモニア+都市ガス混焼による発電実証を進めた。
 燃焼器をバーナー側の1次領域と出口側の2次領域に分けて燃料と空気の混合比を調整し、リッチ・リーン二段燃焼方式により安定燃焼とNOx排出量の低減を実現し、アンモニア70%の混焼を実現した。

 2021年3月、三菱パワーは、アンモニア専焼「H-25型中型ガスタービンシステム」(出力:4万kW級)の開発に着手した。アンモニアの直接燃焼ではNOx発生の課題があり、NOx 排出量を低減する燃焼器の開発と脱硝装置を組み合わせて、2025年に実用化する。
 また、大型ガスタービンでは、排熱を利用したアンモニア分解ガス燃焼方式を採用し、開発済みの水素混焼用燃焼器あるいは開発中の水素専焼燃焼器を搭載した GTCCの開発を進めている。2025年には、システム出力:40~50万kWの実用化を見込んでいる。
 原料アンモニアを分解させる際に残る微量の残留アンモニアが、燃焼器での NOx生成の原因となるため、残留アンモニア量を低減できる分解装置の機器構成、分解触媒の選定等を進めている。

図10 アンモニア分解ガス燃焼方式による GTCC システム  出典:三菱重工業

 2022年6月、IHIは、2000kW級ガスタービンで70~100%とアンモニア混焼率を上げ、液体アンモニア直接噴霧方式により温室効果ガスを99%以上削減することに成功した。
 液体アンモニアは供給システムの簡素化や制御性向上に有利であるが、燃焼性が低いためにCO2の約300倍の温室効果を示す亜酸化窒素(N2O)を排出する。この対策を施し、2025年の液体アンモニア100%の実用化を目指している。

 2023年1月、IHIと米国GEが、アンモニア燃料で発電する出力:40万kW級の大型ガスタービン開発での提携を発表した。GE製のLNG焚ガスタービンの燃焼器を改良し、アンモニアの燃焼効率を高めて発生するNOxを抑制する。2030年の実用化を目指している。 

石炭火力発電所のアンモニア混焼実証試験

 2021年5月、JERAとIHIは、NEDO「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業」(2021~2025年)による碧南火力発電所4号機(石炭火力、出力:100万kW)でのアンモニア体積比率20%の混焼試験を公表した。
 JERAはアンモニア貯蔵タンクや気化器等の付帯設備やアンモニア調達、IHIは燃焼器開発を担当。

 2022年1月、JERAは、2028年度までに石炭火力発電所でのアンモニア混焼率を20~50%以上に高め、三菱重工業と専焼用のバーナーを開発し、2040年代にはアンモニア専焼発電所の稼働も視野に入れると公表した。

 2022年5月、JERAは、石炭火力発電所のアンモニア混焼の実証を2023年度内に始めると発表した。2030年代前半に保有する石炭火力全体で混焼率20%を実現し、2027〜28年に商用運転、2031〜32年に混焼率50%での商用運転、2040年代にはアンモニア専焼を目指す。

 2023年4月、九州電力は、石炭火力の苓北発電所1号機(出力:70万kW)でアンモニアの混焼試験を開始した。2030年までに火力発電の燃料に水素1%、アンモニア20%を混ぜる技術の確立を目指している。

 2023年5月、JERAは、2030年に200万トン/年規模のアンモニアを輸入すると発表した。米国からは最大50万トン/年を2027年度から2040年代までに輸入する方針で、肥料用のアンモニア製造大手CFインダストリーズなど2社と協業の覚書を締結した。
 大型火力発電所1基で20%の混焼を続けるには50万トン/年のアンモニアが必要になる。そのため、米国以外のオーストラリア、アジア、中東などからの調達も検討する。アンモニアの20%混焼では、大型火力発電所1基で100万トン/年のCO2排出量を削減できるとの試算もある。  

 資源エネルギー庁によると、将来的にアンモニア燃料による発電を電源構成に盛り込んでいる先進国は、日本と韓国の2カ国にとどまる。韓国では、石炭火力発電所で2027年までにアンモニア20%混焼を実証、2030年に石炭火力発電所43基中の24基で20%混焼を目指している。
 一方、欧米は水素キャリア(運搬媒体)としてのアンモニアに着目している。例えば、欧州では域外からアンモニアを輸送するための供給網がすでに存在し、製造や取り扱い方法も確立されている。アンモニアは、液化水素などと比べて有望な水素キャリアになりうる。

 アンモニア燃料に関しては海外からの批判も多い。水素燃料に比べ扱いやすいとするアンモニアでも、その製造・運搬・貯蔵・利用を考えると巨額の設備投資が必要である。欧米は究極の水素燃料を目指して戦略を立てている。日本はメガトレンドを外さぬよう十分な注意が必要である。

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