CO2回収貯留とその有効利用(Ⅰ)

火力発電

 日本のCO2排出量は約12憶トン/年である。資源エネルギー庁によると、2050年カーボンニュートラルを実現するには、CCSによるCO2貯留量を1.2億~2.4億トン/年にする必要があるとし、2030年までに600万〜1200万トン/年のCO2を地下貯留する目標を掲げている。

 火力発電所や製油所などからCO2を回収し、船舶やパイプラインで国内外に輸送して貯留する構想で、2023年度にはCO2回収設備の設計貯留地域の選定に向けた調査が進められる。今後、CO2貯留適地調査を進めて周辺住民の同意を得ること、貯留したCO2の有効利用が大きな課題である。

CCS/CCSUによるCO2回収・貯留目標

世界の動向

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、パリ協定の目標「2100年までに世界の気温上昇を2℃以下に抑える」を達成するために、2070年カーボンニュートラル時までの累積CO2削減量は、各国の目標値からさらに約358億トン/年の削減が必要とされている。
 多くCO2削減施策が示される中で、カーボンニュートラル時までの二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(CCUS)削減貢献量として約69億トン/年が必要とされている。これは約358憶トン/年の15%を占める量である。

 すなわち、産業活動で排出されたCO₂を回収して貯留する二酸化炭素回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)に加え、有効利用する二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の重要性が示されたのである。

図1 世界のエネルギー起源CO2排出削減貢献量 出典:IEA “Energy Technology Perspectives 2020”

 欧米では、CCS/CCUS事業に関して初期投資から操業後まで、政府が補助金や税額控除で後押しを行っている。オーストラリア・グローバルCCSインスティテュートによると、2022年に世界で稼働中のCCS事業は約30件で、160件以上の大規模開発計画がある。

 例えば、米国ではメキシコ湾海底下に大規模なCCS計画があるほか、ノルウェーでは欧州各国から集めたCO2を陸上貯蔵した後、地下貯留する計画が進められている。英国では国内各地にCCS設備を設置する計画がある。

図2 世界のCCS設備の建設数の推移

国内の動向

 パリ協定の目標「2100年までに世界の気温上昇を2℃以下に抑える」を達成するために、2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」では、国内の温室効果ガスの大幅削減にとどまらず、世界全体の排出削減に日本として最大限貢献することを目指すとした。
 そのためには世界のカーボンニュートラル、さらには過去のストックベースでのCO2削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする革新的技術の実現が必要で、2050年までに確立することを目指している。

 2023年1月、経済産業省はCCSの国内事業化に向け、新法制定を表明した。2030年までのCCS事業開始を目指し、2023年秋の臨時国会への法案提出を進めている。CCSでは海底貯留などで1000~3000m掘削する必要があり、新法でCCSのための貯留事業権を定める。
 また、CO2漏出などのトラブルが発生した場合に事業者が負う責任の範囲や期間なども明確化し、事業者に保険加入を義務づける規定も設ける方針である。

 日本のCO2排出量は約12憶トン/年(2018年)である。政府は、2050年カーボンニュートラルを実現するにはCCSによるCO2貯留量を1.2億~2.4億トン/年とし、2030年までに600万〜1200万トン/年のCO2を地下貯留する目標(石炭火力発電2~3基分に相当)を掲げている。
 政府は、民間のCCS事業参入を後押しするため、新法制定を急ぐとともに、2023年度予算案には関連費用として35億円を計上し、先進的な取り組みについて財政支援する。

 2023年6月、経済産業省はCCS事業推進に向け国内外の7か所を選出した。
 選出されたのは、エネオスグループと電源開発が計画している九州沖合や、出光興産などが検討中の北海道の沿岸に加えて、東北新潟首都圏の国内5カ所、マレーシア沖オセアニア海域の海外2か所である。
 いずれも日本企業が主導し、各プロジェクトに参加する企業は、経済産業省所管のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と業務委託契約を結び、2023年度にはCO2回収設備の設計や貯留地域の選定に向けた調査などを進める。

CCS事業を目指す企業動向

 2022年2月、三菱商事と三井物産はオーストラリア西部沖合の海底でCCS事業に乗り出すと発表。資源大手の英国BP、豪州ウッドサイドと共同で、現地工場などで排出されるCO2をパイプラインを通じて受け入れ、2030年頃のCCS設備の稼働を目指す。将来的には、日本からCO2を海上輸送する。

 2022年5月、電源開発とENEOSホールディングスは、2030年までに国内CCSの事業化を目指す。電源開発は石炭火力発電、ENEOSは石油精製過程で発生するCO2を回収し、他社が排出したCO2の貯留も視野に入れる。2023年以降に設計を進め、2026年を目途に事業化を判断する。

 2022年11月、三井物産は、CO2を地下貯留するCCS権益を2035年までにアジア太平洋地域を中心に1500万トン/年を確保する。2022~2024年にCCSに適した地下貯留層の探索・調査を進め、2030年にも日本企業などからCO2回収から輸送・貯留を請け負う。
 インドネシア国営プルタミナと、スマトラ島中部にある陸上油田・ガス田地帯での貯留量を調査する。マレーシア国営石油ペトロナスとは、貯留量や同国外からのCO2受け入れ用のCO2運搬船の航路などを調査する。また、タイ石油公社系が持つガス田ではCCS実証実験を始める。

 2023年6月、三井物産は、マレーシアでCCS事業を2030年頃までに始めると発表した。マレーシア国営石油会社のペトロナスやフランスのトタルエナジーズと貯留地を共同で開発する。日本、韓国、台湾の製造業から排出されるCO2の受け入れを見込んでいる。

2023年1月、伊藤忠商事、出光興産、ENEOSの3企業連合はCCS事業化の調査を開始した。 
■伊藤忠商事・三菱重工業・INPEX・大成建設:
 回収されたCO2を、船舶を使って国内の貯留地まで運搬する事業の共同調査を開始
■出光興産・北海道電力・石油資源開発(JAPEX):
 北海道苫小牧を拠点としたCCSや、CO2再利用事業の検討を開始
■ENEOS・電源開発・JX石油開発:
 共同で調査会社を同年2月に設立、ENEOSや電源開発の製油所や発電所から出るCO2の2030年貯
 留開始を目指して、西日本で適地選定の準備を開始

 2023年7月、丸紅は、CCS事業を手掛けるカナダのバイソン・ロウカーボン・ベンチャーズと協業する契約を結んだ。額は不明であるが、2023年中に投資する予定。
 バイソン社がカナダに建設する2カ所のCCS事業への合計投資額は420億円程度で、それぞれ世界最大級となる300万トン/年を受け入れる計画。トラック輸送やパイプラインを通じ、主にカナダ域内のアンモニア工場や石油化学工場から排出されるCO2を貯蔵する。

 地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算では、CO2回収・輸送・貯留のコストは1.3万〜2万円/トン程度を要する。欧州連合(EU)の排出量取引の相場より高いため、経済産業省は2050年までにコストを現状の6割以下とするよう技術開発を促している。

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