今、注目されている天然水素(Ⅲ)

はじめに

日本の地下にも「天然水素」は存在する可能性があり、CO2排出量が少ない純国産の一次エネルギー資源として注目が始まっている。しかし、未だに「天然水素」の生成メカニズムやポテンシャル(賦存量)は不明であるため、可採埋蔵量の把握や経済性の評価が困難な状況にある。

国内における天然水素の調査

政府関連の動き

 天然水素の実用化には、その生成を理解するための化学的・地質学的研究地球内部の熱構造や流体循環系の把握、天然水素供給の事業化に向けた地下探査技術の構築、掘削精製運搬技術構築環境影響評価(環境アセス)、社会的合意形成などがあげられる。

 2025年2月、NEDOはエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、石油技術協会(JAPT)と共同主催で、資源エネルギー庁後援の「天然水素ワークショップ(Natural Hydrogen Workshop in Japan)」を開催。天然水素の国内ポテンシャルについて議論した。

 2025年4月、JOGMECは2025年度中に、地中で自然発生している「天然水素」の発生地を国内で探す調査を始めると公表。火山国である日本には蛇紋岩による地層が頻繁に見られ、JOGMECによれば長野県の白馬村は大きな可能性を秘めている場所として注目を集めているという。

図7 蛇紋岩反応による水素の発生メカニズム

 蛇紋岩化反応とは、かんらん石や輝石の蛇紋石化変質により、蛇紋岩となる反応のことである。かんらん石や輝石は鉄元素に富む鉱物であり、この「鉄」と「水」と「熱」が条件となり、二価鉄が三価鉄に酸化するのに伴い、水が還元されて300℃以下の比較的低温で水素が生成される。
 鉄元素が鍵となる化学反応であり、鉄元素を含む多くの岩石(鉱物)でも水素は発生する。

実用化に向けた取り組み

 2022年4月、イーレックス実証型の水素専焼発電所「富士吉田水素発電所」(出力:320kW)の運転開始を発表。Hydrogen Technology(HT)が火成岩と水を反応させて水素を製造・供給(270N㎥/h)する。
 今回の実証運転は、①連続性の確認、②コスト低減が目的で、次のステップとしてHTと共同事業で大型水素実証設備(1500N㎥/h)の建設検討を進める。 

 2024年10月、大阪ガスは、天然水素の探鉱・開発・生産を手掛ける米国コロマに出資。 同年同月、三菱重工業も、米国三菱重工業(MHIA)を通じて米国コロマに出資した。
 コロマには、ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ、アマゾンのクライメート・プリッジ・ファンド、ユナイテッド航空のサステナブル・フライト・ファンド、エナジー・インパクト・パートナーなども出資している。

図8 コロマの天然水素探索サイト

 2025年4月、専門誌のみでなく、The Wall Street Journal、The Economist等の経済誌でも取り上げられ、天然水素への注目が高まっている。NHKで特集が放送されるなどホットなテーマとなりつつある。

 2025年5月、九州大学と九州電力は、九州地域における「天然水素」の実用化に向けた研究開発を開始。NEDOが公募する「先導研究プログラム/フロンティア育成事業」に採択され、九州地域を対象に、天然水素の生産・供給・利用の技術条件を整理し、将来の実用化に向けた研究開発を進める。

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