伸び悩むバイオマス発電の現状(Ⅰ)

再エネ

 2023年1月、バイオマス発電所の稼働中止・撤退が相次いでいると報じられた。もともと間伐材などを燃料として活用する地産地消型モデルは、①国内林業の停滞で調達が進まず、②アブラヤシ(パームヤシ)やヤシ殻(PKS)など安価な輸入材への依存が強まり、早々に変質してしまったのが原因である。
 加えて、ロシアのウクライナ侵攻に伴う③ロシア産木材の輸入減、④パーム油の価格高騰が追い打ちをかけ、大型の木質バイオマス発電所やパーム油バイオマス発電所で採算悪化が生じている。

日本におけるバイオマス政策

 バイオマス活用推進基本法(2009年法律第52号)に基づき、2010年12月「バイオマス活用推進基本計画」が閣議決定され、2020年に向け「約2600万炭素トンのバイオマス活用」、「約5000億円規模の産業創出」、「7府省のバイオマス活用推進会議」の目標が設定され、2012年9月「バイオマス事業化戦略」が策定された。

 「バイオマス事業化戦略」では、農林水産省を中心に多種多様なバイオマス(木質、食品廃棄物、下水汚泥、家畜排せつ物、液体燃料化は余剰・規格外農産物、廃食用油等、廃棄物系と未利用間伐材等)が整理され、重点活用する実用化技術(メタン発酵・堆肥化、直接燃焼、固形燃料化、液体燃料化)が選択された。

 その結果、2012年7月施行の固定価格買取制度(FIT)の中で、他の再生可能エネルギーと共にバイオマス発電の事業化が推進され、「エネルギー基本計画」に導入拡大が明記された。
 FITにおけるバイオマスの調達区分は、①メタン発酵ガス化発電(下水汚泥、家畜糞尿)、②未利用木材燃焼発電、③一般木材(含パームヤシ)燃焼発電、④廃棄物燃焼発電(木質以外の一般廃棄物、下水汚泥)、⑤リサイクル木材燃焼発電に分類され、買取期間は20年間とされた。

 2016年度には、総務省が森林整備や国内産木材の有効活用に取り組む自治体向けに500億円の財政支援を発表し、林業の活性化、木質バイオマス発電の振興、林業で働く若手育成の推進などを表明した。
 FIT導入後、急速に再生可能エネルギーの総導入量は伸びている。しかし、非住宅用太陽光発電(出力:10kW以上)の伸びと比べて、バイオマス発電の伸びは低い。

バイオマス資源とは

 バイオマスは生物起源による有機物資源である。これを燃やして、従来の火力発電システムを用いて電力を得る。バイオマスは生産時にCO2を固定化しており、それを燃やすことでCO2を発生するが、循環利用によりCO2の総量は増加しないため「カーボンニュートラル」が成立する。
 そのため、バイオマス発電は地球温暖化対策に有効な再生可能エネルギーと位置付けられている。この点が、他の再生可能エネルギーと大きく異なる。しかし、植林・栽培が不可欠であることを忘れてはならない。

 バイオマス資源は地球温暖化対策に有効であると共に、廃棄物や未利用資源を有効活用することで循環型社会を形成することが可能である。しかし、エネルギー密度が低いため、広く存在するバイオマス資源の効率的な収集・運搬の方法と、地域での活用の仕組みの再構築が必要である。
 また、トウモロコシを原料としたバイオエタノールの製造など食料供給との競合の問題も、廃棄物系原料の有効利用により回避する必要がある。

 バイオマス資源は「廃棄物系資源」、「未利用系資源」、「生産系資源」に大別される。これまで一般的な利用はごみ発電など廃棄物系資源に集中していたが、最近では急速に輸入による未利用系資源の利用が増大している。栽培などによる生物系資源については、今後の利用拡大が期待されている。

図1 バイオマス資源の分類 出典:NEDO他

廃棄物系資源

 FITの対象である「リサイクル木材燃焼発電」や、「廃棄物燃焼発電(木質以外の一般廃棄物、下水汚泥)」の燃料に使用される最も一般的なバイオマス資源である。
 リサイクル木材と、家庭・商店・事務所などからの一般廃棄物、下水汚泥、食品廃棄物、廃棄物固形燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)、黒液(亜硫酸パルプ廃液)などが、実際に燃料として使われている。

 また、FITではバイオマス資源だけが対象で、廃プラスチックス(RPF:Refuse Paper & Plastic Fuel)など化石燃料由来の廃棄物系資源は含まれない。そのため、バイオマス資源には、その種類毎に、年間の利用予定数量、予定購入価格、調達先等を記入した燃料使用計画書の添付が義務付けられている。
 また、一般廃棄物などで廃プラスチックスと混焼が行われる場合には、混焼比率を明示する必要がある。

未利用系資源

 FITの対象である「未利用木材燃焼発電」や、「一般木材等燃焼発電」の燃料に使用されている。設備認定において、未利用木材であることが確認できた間伐材や主伐材を燃やす。一般木材等では、未利用木材及びリサイクル木材以外の木材(製材端材や輸入木材)や、稲わら、もみ殻、PKSなどを燃やす。

 しかし、国内調達には限界があるため、2019年1月に燃料多様化によるコスト低減を目的に、次のバイオマス資源が新規燃料として承認された。

■一般木質バイオマス:従来の一般木材、パーム椰子殻(PKS)、バームトランクに加えて、ネピアグラス、ソルガム、ジャトロファ種子、パーム椰子空果房(EFB)、ココナッツ殻、くるみ殻、ビスタチオ・アーモンド殻、ひまわり種殻、ベンコワン種子
■バイオマス液体燃料:パーム油に加えて、キャノラー油、大豆油、落花生油、ひまわり油、ポリアルファオレフィン(PAO)

生産系資源

 木質系、草藻系、微生物系などで、エネルギー利用のために栽培されるバイオマス資源である。木質系ではヤナギ等の短周期栽培木材が実用化されているが、草藻系、微生物系などの多くは研究開発段階にある。
 現時点で、生産系資源はFITの対象ではないが、将来の循環型社会を目指した計画的なバイオマス資源の生産は、地域活性化とエネルギー供給源の多様化を進めるために重要である。

新バイオマス燃料の開発状況

 2005年に近畿大学が考案した「バイオコークス」が商品化されている。木くず、もみ殻、茶かすなどの植物性廃棄物を砕いて乾燥し、加圧処理(約180℃、20MPa、約15分)により直径:8~10cmの円柱形状に成型する。長時間燃焼が可能で、製造時に廃棄物を出さないため、石炭コークスの代替燃料として期待されている。
 2016年12月、近畿大学は神戸市やスターバックスコーヒージャパンと提携し、剪定した街路樹の枝葉や、コーヒー豆かすなどをバイオコークスに加工して、地域で使う実証実験を行った。現時点では、発熱量あたりの製造単価(¥907/10kg(税別))が高く、実用化には低コスト化が必要である。 

 また、既存の石炭火力発電所でのバイオマス混焼率の向上をめざし、新バイオマス燃料の開発が進められている。

 2018年7月、宇部興産は石炭火力発電所で10%以上の混焼が可能な木質バイオマス燃料「トレファイドペレット」を開発し、6万トン/年の実証設備の建設を発表。粉砕した木材を円筒状に固め、比較的低い温度で炭化させることにより、耐水性や石炭との混合粉砕性を改善した。
 一般的な木質バイオマスを石炭と混焼する場合の専用ハンドリング設備が不要で、現在はバイオマス燃料比率が6%程度であるが、新型燃料を使い16%程度に高める計画。2019年10月から、宇部興産のコールセンターおよび石炭火力発電所で実証試験を進めている。

 2021年10月、出光興産は、木くずを固めて低温で炭化処理して繊維質を減らした新燃料「ブラックペレット」を開発し、ベトナムでの大型プラント設置を発表。タイ企業に製造委託して輸入し、2018年度から国内電力会社に石炭の約3倍の価格で販売しており、混入率を従来の5%程度から最大30%に拡大できるとしている。

 2027年8月、新日鉄住金エンジニアリングは、東南アジアのパーム農園で廃棄される植物から不純物を搾り取って固形燃料を作る装置を開発し、2018年度からインドネシアやマレーシアに装置販売し、日本向け輸入ルートの構築を進めている。この新燃料により混入率を最大30%に高めることができるとしている。 

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