伸び悩む地熱発電の現状(Ⅰ)

再エネ

 現在稼働している日本の地熱発電所の総出力は約51万kWである。その約10%にあたる東北電力の葛根田地熱発電所1号機(出力:5万kW)の廃止は痛い。また、九州電力の大岳地熱発電所などの廃止・休止後は、新規更新でFIP/FITによる地熱発電所として再開する方向であるが、出力増加には至っていない。

 一方、特筆されるのは、電源開発などによる山葵沢わさびざわ地熱発電所(出力:4.6199万kW)で、23年ぶりに大規模地熱発電所が稼働した。また、出力1万kW以下ではあるが小型バイナリー発電所の新設も目立つ。発電電力量の低下が続く中、FIT/FIPにより推進された新設の地熱発電所の運転開始が待たれる。

地熱発電所の最近の動き

 「2050カーボンニュートラル」の実現に不可欠といわれる再生可能エネルギーであるが、風力発電や太陽光発電に比べて、どうしたことか地熱発電の明るいニュースは少ない。

地熱発電所の廃止と休止更新

■2017年4月、電源開発は、1975年3月に運転を開始した鬼首地熱発電所(出力:1.5万kW)の廃止を発表。2010年10月に水蒸気の異常噴出事故を起こし、2017年3月に運転を停止した。その後、全ての設備を一新して、2023年4月にシングルフラッシュ式の地熱発電所(1.499万kW)を再開した。
■2019年3月、東京電力は、1999年3月に運転を開始したバイナリーサイクル式の八丈島地熱発電所(出力:3300kW)の廃止を発表。発電設備の老朽化と、改修費用が高額となることが原因である。
 2017年3月、八丈町はオリックスと「地熱発電利用事業に関する協定」を締結し、八丈島地熱発電所跡地に新地熱発電所(4444kW)の建設を計画。2023年運転開始の予定であったが、動きは見えない。
■2020年10月、九州電力は、1967年8月に運転を開始したシングルフラシュ式の大岳地熱発電所(1.25万kW)の老朽設備の更新を発表。既存発電所設備を運転しながら隣接地にダブルフラッシュ式の新設備(1.45万kW)を建設し、2020年10月に運転を開始した。
■2022年8月、東北自然エネルギーは、1966年10月に運転を開始した松川地熱発電所の休止を発表。出力2.35万kWの既設発電設備を廃止し、ドライスチーム式の新発電設備(出力:1.499万kW)に縮小更新して、2025年10月に運転を開始する予定。
■2022年10月、東北電力は、シングルフラシュ式の葛根田地熱発電所1号機(出力:5万kW)の廃止を発表。1978年5月に運転を開始して電力供給を続けてきたが、蒸気量の減衰設備の経年化のため。1996年3月に運転を開始した2号機(3万kW)は運転を継続する。
■2023年6月、三井石油開発が北海道蘭越町近くで、地熱発電の掘削調査中に大量の蒸気が噴出した。蒸気噴出抑制作業により、一部道路の通行止めが実施されたが約1.5カ月後に解除された。
 三井石油開発は、2016年から蘭越町らんこしちょうとニセコ町にまたがるニセコ山系で、地熱発電所の建設の可能性を探る資源調査を進めており、当該井戸は2019年から掘削調査を始めていた。調査は中断。

 日本地熱協会によれば、2023年4月現在で稼働中の地熱発電所の総出力は約51万kWである。政府は2030年までに総出力:150万kWの目標を掲げるが、東北電力の葛根田地熱発電所1号機(出力:5万kW)の廃止は手痛い。
 一方、九州電力の大岳地熱発電所などは、廃止後に新規更新でFIP/FITの地熱発電所として再開する計画であるが、既存の地熱発電所の出力増加には至っていない。

図1 九州電力の大岳地熱発電所 出典:三菱重工業

地熱発電所の新設

 大規模地熱発電所(出力:1万kW以上)の建設には、10年以上の期間を要する。そのため最近新設されている地熱発電所は、2012年7月に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」の施行前から、初期調査が進められていた。

■2014年11月、別府温泉で大気放出されていた蒸気を利用し、コスモテックは米国ACCESS Energy製バイナリーサイクル式のコスモテック別府バイナリー発電所(出力:500kW)の運転を開始した。
■2015年6月、熊本県阿蘇郡小国町で、合同会社わいた会が東芝製シングルフラッシュ式のわいた地熱発電所(出力:1995kW)が稼働。「Geoportable(ジオポータブル)」が設置された。
■2019年1月、日本重化学工業、地熱エンジニアリング、JFEエンジニアリング、三井石油開発、金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資する岩手地熱が、シングルフラッシュ式の松尾八幡平地熱発電所(出力:7499kW)の営業運転を開始した。
■2019年5月、電源開発、三菱マテリアル、三菱ガス化学が出資する湯沢地熱が、ダブルフラッシュ式の山葵沢わさびざわ地熱発電所(出力:4.6199万kW)の営業運転を開始した。
■2022年12月、東芝エネルギーシステムズ、シーエナジーが出資する中尾地熱発電が、ダブルフラッシュ式の奥飛騨温泉郷中尾地熱発電所(出力:1998kW)の営業運転を開始した。
■2023年3月、フォーカス、レノバ、デナジサーマルが出資する南阿蘇湯の谷地熱は、シングルフラッシュ式の南阿蘇湯の谷地熱発電所(出力:2168kW、送電端:1990kW)の営業運転を開始した。
■2024年3月、三菱マテリアル、三菱ガス化学、電源開発の出資する安比あっぴ地熱が、シングルフラッシュ式の安比地熱発電所(出力:1.49万kW)の営業運転を開始した。
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■2022年4月、九州電力は鹿児島県霧島市の烏帽子えぼし岳北東部の霧島山国有林内で、地熱発電所(出力:4500kW)の建設準備を開始。バイナリーサイクル式を設置する計画で、2023年6月の工事開始、2024年度末の運転開始をめざしている。
■2022年6月、出光興産、INPEX、三井石油開発は、秋田県湯沢市でダブルフラッシュ式の地熱発電所「かたつむり山発電所(出力:1.499万kW)」の開発を発表。2022年6月中に着工し、2027年3月の運転開始をめざしている。稼働後はFITを通じ、40円/kWh(税抜)で15年間にわたり電力会社に売電する。              

 特筆されるのは、秋田県湯沢市の地熱資源を活用した山葵沢地熱発電所(出力:4.6199万kW)で、国内では23年ぶりに出力1万kWを超える大規模地熱発電所が稼働した。今後、FIT/FIPにより推進された新設の地熱発電所の運転開始が待たれる。しかし、9電力会社による新設案件は見られない

図2 電源開発の山葵沢地熱発電所 出典:東芝

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