浮体式太陽光発電の現状(Ⅰ)

再エネ

 洋上風力発電所の建設に関しては、政府主導で大規模なウィンドファーム計画が進められている。一方で、ため池や貯水池などの水面上に設置する「浮体式太陽光発電所」の開発が国内外で進められている。
 水上太陽光発電所水上メガソーラーとも呼ばれ、最近では洋上での浮体式太陽光発電所の建設も始まっている。果たして、浮体式太陽光発電は新たに設置できる余地として期待できるであろうか?

浮体式太陽光発電とは

 国土の75%を山地が占める日本では、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設できる平坦な土地は限られており、利用できる土地が年々減少してきている。そのため、起伏が多い土地にメガソーラーを開発することで、平地造成に多額の費用を要する問題が起きている。

 そこで注目されているのが、ため池や貯水池などの水面上に設置する浮体式太陽光発電所である。水上太陽光発電所水上メガソーラーとも呼ばれ、最近では洋上太陽光発電所の構想も現れている。

浮体式太陽光発電所のメリット:
①土地造成費が不要なため開発費を抑制でき、陸上設置に比べて賃借料も安価
②太陽光パネルが水面からの冷却効果で、陸上設置より発電量が10~20%増加
③太陽光をさえぎることで貯水の蒸発減を抑制し、水草や藻類の発生防止に有効

体式太陽光発電所のデメリット:
①水上仕様とするため、バックシートなどで太陽光パネル価格が10~20%増加
②水上設置向けのフロート設備、アンカー設置など施工費が陸上に比べて割高
③太陽光をさえぎるため、水環境が変化し、動植物に影響を与える可能性あり

国内の浮体式太陽光発電の動向

設置状況

 2017年5月、日本アジア投資は、香川県さぬき市の農業用ため池で、浮体式太陽光発電所の「野間池ソーラー発電所」(出力:2400kW)、同9月には「御田神辺池みたかべいけソーラー発電所」(出力:1520kW)を設置し、四国電力に売電を開始した。香川県はため池が多く、周辺には遮へい物が少ないため日照条件が良好である。

図1 香川県さぬき市の浮体式太陽光発電「野間池ソーラー発電所」
出典:日本アジア投資

 また、2017年11月、三井住友建設は香川県三木市の農業用ため池に平木尾池ひらぎおいけ水上太陽光発電所」(出力:2600kW)を設置し、四国電力に売電を開始した。自社開発のフロート「PuKaTTo(プカット)」上に、三菱電機製太陽光パネルを搭載した。フロート内部に発泡剤を充填し、損傷しても浸水を防ぎ水没を回避する。
 その後、2020年1月には女井間池めいまいけ水上太陽光発電所(出力:2822kW)を完成、2021年4月には、香川県坂出市に蓮池はすいけ水上太陽光発電所(出力:1957kW)を完成し、売電事業を開始した。
 同社の水上太陽光フロートシステムは、台湾を初め、中国、インド、タイ、シンガポールなど、東南アジアで販売を進めている。

 2018年3月、東京センチュリーと京セラの共同出資会社の京セラTCLソーラー合同会社が、千葉県市原市の山倉ダムに「千葉・山倉水上メガソーラー発電所」(出力:1.37万kW)を設置し、東京電力エナジーパートナーに売電を開始した。ダム湖の面積は約6000m2あり、その30%を太陽光発電に利用する。
 フランスのシエル・テール製フロートは、前後左右が連結され、湖底に打ち込まれた約500本のアンカーで固定されており、その上に50000枚の太陽光パネルが搭載された。
 建設費は陸上のメガソーラーと同程度であったが、難航したのは送電線の接続工事で、約1km先の送電線まで電力を送る工事が必要となり、着工から2年後に運転開始となった。

図2 千葉・山倉水上メガソーラー発電所の全景
出典:京セラTCLソーラー

 また、2018年3月、いちごが岡山県笠岡市の農業用ため池に建設した水上メガソーラー「いちご笠岡岩野池ECO発電所」(出力:2640kW)が売電を開始した。中国のトリナソーラー製の両面受光が可能な太陽光パネル「単結晶両面ガラスパネル」が採用された。
 トリナソーラーは、2019年2月にパネル設置角度を自由に設定できる新型フロート架台と、両面受光が可能な浮体式太陽光パネル「DUOMAXtwin」の商品化を発表した。

 2022年1月、三井住友建設は、東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」の先行プロジェクトとして、洋上浮体式太陽光発電が事業採択されたと公表。東京湾中央防波堤エリアの海の森水上競技場の指定域での社会実装で、国内初となる実用化を目指した海水域での取り組みである。

設置のための技術基準

 2019年9月、台風15号が千葉県市原市に上陸し、山倉ダムに設置された水上太陽光発電設備に大損害を与えた。アンカーが湖底から外れ、太陽光パネルが流されて損壊し、火災が発生した。浮体式水上太陽光発電には、地上型のような設置ガイドラインがなく、災害大国日本に合うガイドライン策定が必須である。

 これを受けて2020年4月、経済産業省は、水上設置型の太陽光発電設備に対する技術基準の策定方針を示した。各種部材や設計について、浮体式太陽光発電の特有の負荷を考慮した基準が盛り込まれる。
 これまで地上設置を前提として示されていた自重、地震荷重、風圧荷重、積雪荷重などに加え、水上設置型特有の条件として、係留部、フロート、接合部に対して波力や、水位、水流、凍結圧力などの負荷に対する耐久性が求められる。

 2021年11月、「地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン2019年版」に、傾斜地設置型・営農型・水上設置型の3種類の特殊な環境下での構造設計、電気設計・施工の項目を加え、新たに「太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版」を、NEDOが公開した。

 2023年4月、各種設置形態への適用性をより向上させるため、実証実験結果などを反映し、浮体式太陽光発電所向けに「水上設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン 2023年版」をNEDOが公開した。

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