再エネ出力制御の問題(Ⅲ)

再エネ

 過去を振り返ると、FITにより太陽光発電所が急増したことを受け、2015~2016年に北海道の南早来変電所(レドックスフロー電池)、宮城県の西仙台変電所(リチウムイオン電池)、福島県の南相馬変電所(リチウムイオン電池)、福岡県の豊前発電所(NaS電池)に大型蓄電設備が配備された。

 蓄電設備は系統運用の安定化に優れていることが実証されたが高コストのため、2017年頃から北海道で蓄電設備併設太陽光発電所の設置が始まるが、未だ限定的である。より大規模となる風力発電所に関しても蓄電設備併設(一部は蓄エネルギー設備)が検討されているが、試行錯誤の最中である。

大型蓄電設備の導入

 過去を振り返ると、大型蓄電設備導入に関しては、既に多くの実証事業が行われていた。

蓄電設備導入のための実証事業

 政府主導で、2006年9月~2011年3月までの5年間、北海道稚内市にメガソーラー実証研究施設(出力:5000kW)が設置され、「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化実証研究」が行われた。
 太陽光パネルで発電した電力をインバーターで420V(三相)に変換し、中間変圧器で6.6kVに昇圧した上で一部をNaS電池(出力:1500kW)に充電、特高受変電設備を通じて北海道電力の系統に接続され、電圧変動抑制3%以下、長周期の出力変動幅の縮小率80%以上を目標とした実証試験が行われた。 
 また、数時間オーダーでのメガソーラーの出力制御技術の開発を目指して、日射量予測システムの構築およびNaS電池を用いた最適運転技術の開発も行なわれた。研究終了後、この再エネ電源併設型の設備はNEDOから稚内市が無償譲渡を受け、「稚内メガソーラー発電所」として稼働している。

図4 稚内メガソーラー発電所 (出典:稚内市) 

 その後、固定価格買取制度(FIT)で太陽光発電所が急増したため、電力会社では大容量蓄電池導入による再生可能エネルギーの受け入れ可能量の検証を行うと共に、蓄電池の最適制御と管理手法の構築を目的とした以下の需要地点併設型実証事業が、国の全額補助で進められた。

●2015年2月、東北電力は、仙台市の西仙台変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:2万kWh)を設置し、「周波数変動対策蓄電池システム実証事業」を開始すると発表した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年4月、九州電力は、福岡県豊前市の豊前蓄電池変電所に日本碍子製コンテナ型NaS電池(出力:5万kW、容量:30万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始すると発表した。2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年12月、北海道電力は、勇払郡安平町の南早来変電所に住友電工製レドックスフロー電池(出力:1.5万kW、容量:6万kWh)を設置し、「平成24年度大型蓄電システム緊急実証事業」を開始すると発表した。ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク(出力:11.1万kW)に隣接しており、2019年1月まで実証試験が行われた。
●2016年2月、東北電力は、基幹系統変電所である福島県の南相馬変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:4万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2016年度まで実証試験が行われた。

 いずれも実証試験後は、各電力会社が蓄電設備として活用している。

蓄電設備併設型太陽光発電所の設置

 実証試験により大容量蓄電設備導入の有用性が確認された結果、北海道では蓄電設備併設太陽光発電所の設置が始まったが、蓄電設備が高コストのために未だ限定的である。

●2017年4月、フージャースコーポレーションは、北海道沙流郡日高町に緩効性リチウムイオンキャパシター(出力:0.9万kW、容量:0.36万kWh)を併設した日高庫富太陽光発電所(出力:1.0204万kW)を開所した。
●2017年4月、東急不動産、三菱UFJリース、日本グリーン電力開発の共同出資で、北海道釧路郡釧路町にGSユアサ製コンテナ式リチウムイオン蓄電池システム(出力:1万kW、容量:0.675万kWh)併設のトリトウシ原野太陽光発電所(出力:1.45万kW)を開所した。
●2019年8月、オリックスとソーラーフロンティアは、北海道上磯郡知内町に東芝製リチウムイオン電池(出力:1.25万kW、容量:0.72万kWh)併設の知内メガソーラ20M発電所(出力:2.4万kW)を開所した。
●2022年10月、北海道八雲ソーラーパーク合同会社は、北海道二海郡八雲町にLG化学製リチウムイオン電池( 出力5.25万MW、容量:2.7万MWh)併設のソフトバンク八雲ソーラーパーク(出力:10.23万kW)を開所した。

蓄電設備併設型風力発電所の開設

 大規模な再生可能エネルギー導入が計画されている北海道電力では、2013年に独自の系統接続条件として、特別高圧連系の接続量で40万kWを超えて新たに連系する変動性再生可能エネルギー発電所については、蓄電池設備を発電事業者が設置することによる出力変動緩和対策を義務付けた。

 しかし、再生可能エネルギーの安定化に使われている火力発電や揚水発電に比べて、大型の蓄電設備の導入には多額の費用が必要となる。そのため、再エネ発電事業の採算性を悪化させ、出力変動緩和要件は再エネ導入の阻害要因となり、電力事業での普及は難しいのが現状である。

 2017年3月、北海道電力は「蓄電池募集プロセス(系統側蓄電池による風力発電募集プロセス)」を導入し、大型蓄電設備の導入計画と共に、風力発電16.2万kWの連系を決定した。
 ユーラスエナジーHDやエコパワーなどの風力発電事業者から資金を集め、2022年4月に北海道電力の南早来変電所に需要地点併設型の大型蓄電装置(容量:1.7万kW×3h)を設置する計画である。これにより複数の再エネ発電事業者が蓄電設備を共用でき、事業者の負担は1/3以下に軽減される。
 2021年7月には風力発電43.8万kW分の公募と共に、大型蓄電装置(容量:7.8万kW×4h)の設置を発表した。その後、風力発電40万kW分の公募と、大型蓄電装置(容量:6万kW×4h)の設置を計画する。
 2020年7月、住友電気工業は、北海道電力ネットワークが進めている系統側蓄電池の活用による風力発電の連系拡大で、レドックスフロー電池設備(容量:1.7万kW×3h)を受注し、2020年度中に着工し、2022年3月末までに完工された。

図5 完成したレドックスフロー蓄電池設備

 しかし、2022年2月時点での北海道電力の再生可能エネルギー接続量は、太陽光214万kW(国内シェア15.9%)、風力58万kW(同7.1%)に留まる。そのため資源エネルギー庁は、2023年7月以降に接続検討の受付を行う新規電源については、出力変動緩和要件を求めない方針を示した。

 北海道電力管内の最大需要は500万kW程度、年間平均では350万kW程度と需要規模が小さいため、出力変動緩和対策を義務付けた経緯がある。太陽光・風力発電の増加を続ければ需給バランスが崩れるて再エネ出力制御率は確実に増加する。今後、揚水発電、蓄電設備、系統連系の増強が必須である。

 太陽光発電に比べて、より大規模となる風力発電所に関しては再エネ電源併設型需要地点併設型蓄電設備(一部は蓄エネルギー設備)の両方の実証試験が始められたが、試行錯誤の最中である。

●2013年10月、長崎県五島市椛島沖で浮体式洋上風力発電設備(定格出力:2000kW)の実証試験が開始され、2015年4月から水素電力貯蔵の実証試験が並行して進められた。余剰電力による水電解で発生させた水素をトルエンと反応させ、メチルシクロヘキサン(MCH)にしてタンクに貯蔵する。●2016年9月、ドイツのSiemens他は、風力発電の余剰電力を熱に変えて断熱カバーで覆った岩や砕石を堆積させたロックフィルに600℃を超える蓄熱(約2,000㎥の岩石に約3.6万kWh)を行い、必要に応じて蒸気タービンで発電(出力:1500kW)する風力熱発電の実証試験を開始した。
●2019年4月、北海道松前町で東急不動産と日本風力開発が開発を進めていた蓄電池併設型のリエネ松前風力発電所が運転を開始した。Siemens・Gamesa製の風車(定格出力:3400kWX12基)と、日本ガイシ製のNaS電池(容量:1.8万kW)により構成されている。
●2018年10月、北海道北部風力送電が天塩郡豊富に建設中の北豊富変電所(2023年4月商業運転を開始)への、世界最大規模のリチウムイオン電池(出力:24万kW、容量:72万kWh)による蓄電設備納入をGSユアサが受注した。
●2022年9月、北海道ガスはFIP(Feed-in Premium)制度を活用し、石狩LNG基地に隣接して「北ガス石狩風力発電所」を建設すると発表した。ENERCON製の風車(定格出力:2350kW×1基)と、蓄電池(容量:1,500kWh)を併設する。風力発電の出力変動に対して、異なる連系点のガスエンジン発電所(12台、総出力:93,600kW)を調整電源として活用する。

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