再エネ出力制御の問題(Ⅳ)

再エネ

 再エネ大量導入に向けて「再エネ出力制御の常態化」「再生可能エネルギー導入の頭打ち」を打破すべく、政府はようやく重い腰を上げた。2022年1月の電気事業法の改正による大規模系統用蓄電池の普及支援と、2023年2月の揚水発電所の維持・更新の支援である。

 蓄電設備導入の最大の課題は低コスト化であるが、蓄電設備と需要地点を結ぶ送電線の空きが少ないのも重要課題である。再エネ大量導入に向けて北海道エリアでは系統に単独で直接接続する系統用蓄電池が急増し、送電線の運用容量の制約による系統混雑の発生が懸念され、実証事業が始められた。

遅れた政府の電力貯蔵対策

 蓄電設備の多くは再エネ電源併設型需要地点併設型が進められてきたが、北海道エリアでは系統に単独で直接接続する系統用蓄電池が設置されるなど多様化が進み、遅ればせながら法規制が行われた。
また、蓄電池をベースにした蓄電設備は高コストのため、短期間での増設が困難と気付いた政府は、既存の揚水発電所の活用にも支援策を打ち出した。

系統用蓄電所の普及対策

電気事業法の改正

 2022年1月、電力の安定供給に向けた電気事業法の改正案が閣議決定された。従来、大規模な蓄電池は、発電所や変電所に併設されるケースが多いため電力会社が管理してきた。今後、再エネ普及で増加する大規模系統用蓄電池を「蓄電所(仮称)」とし、事業者による単独設置を可能とした。

 電気事業法では1万kW以上の発電施設を発電事業としており、蓄電所にも同基準が適用される。発電事業に分類されることで、事業者は国へ工事計画を提出し、事故発生時の報告が求められる。また、電力ひっ迫時に事業者に供給を求めるなど、国や関連機関の影響力を強めるのが狙いである。
 一般送配電事業者に対しては、太陽光や風力など従来の発電設備と同様に、系統用蓄電池の設置事業者から接続の申請があった場合に系統連系の義務を負わせる。連系協議を経て、連系容量や工事費負担金を算定するなど、従来の系統連系に求められるプロセスを経たうえで接続される。

 また、普及促進のため1万kW未満の系統用蓄電池に関しても、系統接続・系統利用に向けた環境整備を進める。1万kW未満のうち、一定規模を超える系統用蓄電池に関しては、需給ひっ迫時に供給力を活用するため、特定自家用電気工作物設置者に含めて国への届出を求める。
 系統用蓄電池が連系されると、充電時には需要設備、放電時には発電所としての性格を持つ。充電時には託送料を不要、放電には託送料金が必要とし、充放電に伴うロス分にも託送料が発生するなどの取り決めが行われた。

収益市場の構築

 一方、系統用蓄電池の収益手段として期待される市場は、電力の需給を調整して報酬を得る「需給調整市場」、電力の供給力を売買する「容量市場」、翌日の電力量を取引する「卸電力市場」である。

「需給調整市場」は調整力を提供するまでの時間などを基準に5区分される。今は15分以内に対応できる調整力までで、2024年からは10秒以内や5分以内に対応できる調整力の売買が始まる。系統用蓄電池は瞬時に電力を調整できるため、企業が特に期待している。
「容量市場」は将来の発電能力を売買しており、2020年からオークションが開始されている。一定の出力を確保できる系統用蓄電池が増えれば、電力小売事業者は数年先の夏や冬の電力需要期をにらみ、あらかじめ必要な電力を手当てしやすくなる。
「卸電力市場」は30分ごとに電力を取引する。最近では発電所トラブルなどが起きると市場価格もすぐに急騰する。系統用蓄電池を使えば、市場価格が安い時間帯に電力を買って貯めることができ、高い時間帯に売ることができる。

 系統用蓄電池は、日本では一般送配電事業者(系統運用者)や再エネ発電事業者が所有しているが、英国ではそれ以外の事業者が単独で設置して系統連系する。卸電力市場での裁定取引のほか、系統安定化を目的とした需給調整市場や電気の品質を維持するアンシラリー市場などで収益を上げている。

 ところでm2023年2月の有識者会議で送電網と接続して余剰電力を貯める系統用蓄電池の普及状況に関する調査結果が初めて示された。2023年1月末時点で、送配電会社に接続契約を申し込んだ分が70万kW、検討中が880万kWであるが、実際に接続済みの蓄電池は0.3万kWと未だ寡少であった。

揚水発電所の維持・更新

 2023年2月、経済産業省は揚水発電所の維持や更新を支援すると公表した。2022年9月時点で、揚水発電所は国内の42地点に合計出力:2747万kWの発電能力があり、老朽化した施設の維持を進める。
 揚水発電所は2030年までに約250万kW分が建設から60年ほど経過し、運転停止や廃止のリスクが高まる。電源維持に向け、経済産業省は事業者の投資額の1/3までを補助する。

 天候を予測する人工知能(AI)の導入を支援する。数日先が好天で太陽光の発電量が多くなると予想される場合、事前に水を下部調整池に落として汲み上げに備え、設備の稼働率を上げる。
 また、新設はダム建設を伴うため工費が巨額になることから、老朽機器の取り換えなどでサイクル効率向上を図ったり、新規開発の可能性を調査したりする事業者にも1/3を上限に補助金を出す。

 当面、既存設備の更新(リプレース)を重点的に支援する。具体的には、2023年度に導入予定の「長期脱炭素電源オークション」も活用する。また、更新に伴い原則20年間にわたり発電事業者の収入を保証するなど、事業者が発電所の長期的な投資回収の見通しを立てやすくする。

系統用蓄電所の課題と実証事業

蓄電設備導入の課題

低コスト化

 蓄電設備導入の最大の課題は低コスト化である。エネルギー基本計画では産業用蓄電池の発電コストを約24万円/kWh(2019年度)から、6万円/kWh程度(2030年度)に下げる目標を掲げている。EV用蓄電池のリユース安価な中国産蓄電池の導入の声が聞こえるが、具体的な方策は見通せない。

送電線の運用

 一方、蓄電設備と需要地点を結ぶ送電線の空きが少ないのも重要課題である。再エネ大量導入に向けた系統整備/調整力の確保のため、電気事業法の改正により北海道エリアでは系統に単独で直接接続する「系統用蓄電池」が増加し、送電線の運用容量の制約による系統混雑の発生が懸念されている。
 北海道エリアでの系統用蓄電池の接続検討申込は、2022年7月末時点では61件/160万kWに上る。これは、北海道エリアの年間平均電力需要(約350万kW)の半分に迫り、北本連系設備60万kW、新北本連系設備30万kW、新々北本連系設備(2027年度末運開予定)30万kWの合計120万kWを上回る。

 2023年度に開始が予定されている「長期脱炭素電源オークション」では、最低入札容量は原則10万kWであるが、蓄電池は例外的に1万kW(送電端設備容量ベース、放電可能時間3時間以上)の予定である。しかし、1万kW蓄電池の建設費は16億円程度と試算され、実際に何件が接続されるか未定である。

止まらない再エネ出力制御

 一方、2022年2月時点、北海道エリアでは再エネ272万kW(太陽光214万kW、風力58万kW)が導入され拡大基調にある。2020年度の年間最低電力需要である226.5万kWを超える再エネ導入量であり、2022年度から晴天の低負荷日では再エネ出力制御が開始されている。

 再生可能エネルギーの大量導入に向けて動き出す一方で、再エネ出力制御が常態化するのは矛盾であることに早く気が付く必要がある。また、出力制御を抑制するため高コストの系統用蓄電装置の導入拡大を目指しているが、その技術実証が重要である

実証事業

 2022年の電気事業法の改正を受けて、系統用蓄電池の実証事業・事業参入の発表が相次いでいる。しかし、現時点で導入された系統用蓄電池の総出力は数万kW程度に留まっている。

●2022年2月、ミツウロコグループHDは、北海道北広島市に系統用蓄電所「北広島第一、第二蓄電所」の建設を発表。テスラ製大型蓄電設備「Megapack」(出力:3085.6kW、容量:1.2192万kWh)を採用し、ミツウロコグリーンエネルギー電力需給部が遠隔制御。2023年運用開始を目指す。
●2022年6月、住友商事は日産自動車と共同出資するフォーアールエナジーと協業し、北海道千歳市で2022年度に大型蓄電設備(出力:6000kW、容量:2.3万kW)の建設を開始する。福島県浪江町での系統用蓄電池の実証結果を基に、EV約700台分を束ねた蓄電設備を2023年度に稼働する。
●2022年6月、九州電力、NTTアノードエナジー、三菱商事は、太陽光発電の出力制御を蓄電池で行う実証事業の開始を発表。2023年2月に補助金で蓄電設備(容量:4200kWh)を設置し、福岡県田川郡で系統線に接続して再エネ出力制御の抑制への効果や事業性を確かめる。
 九電グループは、既に九州電力送配電が豊前発電所の敷地内に蓄電池変電所(容量:30万kWh)を設置した他、長崎・鹿児島の離島4島で蓄電池(容量:約1000kWh)を設置している。
●2022年7月、オリックスは関西電力と共同で、2023年度以降の系統用蓄電池事業へ参入する。蓄電設備の合計出力は数万kWの見通しである。オリックスが出資する地熱発電大手の米国オーマット・テクノロジーズは系統用蓄電池も運用しており、その知見も生かして日本市場の開拓を目指す。
●2022年8月、東邦ガスは津LNGステーション跡地に系統用蓄電池を導入すると発表。日本ガイシ製コンテナ型NaS電池48台(出力:1.14万kW、容量:6.96万kWh)を設置し、自社の調整力とともに、需給調整市場、日本卸電力取引所、容量市場に参入する。2025年度の運用開始を目指す。
●2022年8月、九州電力は、福岡県大牟田市で使用済みリチウムイオン電池を再利用した系統用蓄電所「大牟田蓄電所」(出力:1000kW、容量:3000kWh)の運用を開始し、NExT-e Solutionsと共同で運用すると発表した。
 NEDO助成事業としてトヨタ自動車九州の宮田工場で電動フォークリフトに使用されていたNExT-e Solutions開発の電池パック108個を回収、再生処理を施して再利用する。蓄電所の所有や維持・管理はNExT-e Solutions、九州電力は電力市場での売買などを支援する。

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