石炭火力でのバイオマス混焼問題(Ⅱ)

再エネ

 世界的な気候変動対策の強化により、2020年以降、欧州先進国を中心に「脱石炭火力発電所」が急速に進められている。米国は、石炭火力発電を低減して、豊富に産するシェールガスを燃料とするLNG火力発電への移行を進めている。

 「脱石炭火力発電」と「再生可能エネルギーシフト」で先頭を走る欧州では、環境NGOや専門家らが木材を原料とするバイオマス発電は、すべて再生可能エネルギーの枠組から除外すべきと訴え始めており、欧州委員会で活発な議論が始まった。

欧米における石炭火力発電の動向

脱石炭火力発電所に向けて

 2020年以降の世界的な気候変動対策の強化により、欧州先進国を中心に「脱石炭火力発電所」が急速に進められている。フランスは2027年、英国は2025年、カナダとイタリアは2030年までに、石炭火力発電所の廃止を表明した。
 また、石炭火力発電の比率が高いドイツも、2038年の石炭火力発電所の廃止を閣議決定していたが、その後に段階的廃止の完了時期を2030年に前倒しした。

 一方、ロシアのウクライナ侵攻による燃料不足から、欧州では石炭火力発電への一時的な回帰が見られたが、石炭火力発電への各国の拒否反応は根強く、抑制・廃止の方針は継続されている。

図4 ドイツ西部のノイラートにある石炭火力発電所 
出典:ロイタ/Wolfgang Rattay

米国で激減する石炭火力発電所

 2024年4月、米国は火力発電所の温暖化ガス排出量を2032年から90%削減する規制を導入すると発表。既存の石炭火力発電所と、新設のLNG火力発電所には「CCS設備」の設置を義務付ける
 米国は、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの増強と、豊富に産するシェールガスを燃料とするLNG火力発電への移行を進めてきた。現在、総発電電力量の4割強に達したLNG火力発電については、既存分を新規制の対象外とした。

 2000年に入り米国の石炭火力発電割合は急減し、現在、総発電電力量の2割弱にまで低減している。この石炭火力発電について、①2039年以降も運転予定なら2032年から排出量の90%を回収・貯留、②2038年までに稼働停止するなら2032年から天然ガス(LNG)を40%混焼の対応を求めた。 

 一方、新設のLNG火力発電については、常時稼働する基幹電源(ベースロード)の発電所は、2032年から排出量の90%を削減する必要がある。また、需要が急増する時間帯だけ稼働する発電設備(ピーク電源)は規制の対象外とし、安定供給に配慮した。

図5 米国の電源構成の推移 出典:日本経済新聞 

欧州の森林バイオマスの取り扱い

 「脱石炭火力発電」と「再生可能エネルギーシフト」で先頭を走る欧州では、環境NGOや専門家らが木材を原料とするバイオマス発電は、すべて再生可能エネルギーの枠組から除外すべきと訴え始めており、欧州委員会で活発な議論が始まった。

 木材を燃やして出るCO2を回収するには、燃やした木材と同じ量を植林して育てなければ持続可能にはならない。しかし、木材の栽培には数十年~100年程度を要し、伐採・加工・輸送まで含めたCO2排出量を加算すると、「カーボン・ニュートラル」は成立しないという指摘である。バイオマス発電向けに安価な木質バイオマスを大量輸入をする日本には、耳の痛い指摘である。

 2021年6月、欧州連合(EU)の欧州委員会は、木質パイオマス発電を再生可能エネルギーから除外する規制強化を検討し、「持続可能性基準」の厳格化を提案すると報じられた。バイオマス発電はEUの再生可能エネルギーの6割を占め、森林から直接取り出される木質バイマス(森林バイオマス)は同2割を占める。
 環境NGOや専門家は森林バイオマスによる発電はCO2を排出し、森林によるCO2吸収の持続的機能を低下させると訴えた。一方、バイオマス発電比率の高いフィンランドやスウェーデンなどは反対している。

 2022年9月、欧州議会の本会議において、再生可能エネルギー指令の改正案(REDⅢ:Renewable Energy Directive Ⅲ)が可決、2030年までに再生可能エネルギーを40%➡45%へ増強することが承認された。
 加えて、欧州議会は森林バイオマスを自然エネルギーに含め、REDⅢの目標達成に算定できる基本的枠組みを変えないとした。ただし、森林伐採量の増加リスクを考慮し、森林バイオマスの総エネルギーに占める割合の現状維持を求めた。
 すなわち、森林バイオマスを燃料とし熱電併給ではなく発電のみを行う場合、2026年12月末以降は補助金の支給を原則として取りやめるよう加盟国に求めた。ただし、ネガティブ・エミッションを実現するBECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage)などの適用対象外も示している。

 2023年9月、欧州三者間協議(欧州委員会・欧州理事会・欧州議会)のREDⅢ最終版では、持続可能性基準を満たすバイオエネルギーは、再生可能エネルギーとしてREDⅢの目標達成に算入できるとした。バイオエネルギーは、発電・熱利用のみならず輸送燃料も含めて適用される。
 特に、森林バイオマスについては、調達できる国や地域の要件として、森林管理のための法律と執行体制が整っていることが求められた。すなわち、伐採施業の合法性、伐採地の更新、適切な伐採方法などが、持続可能な森林経営の原則に沿って進められる必要がある。

 EUでもカーボンニュートラル実現のために、バイオエネルギーが不可欠とする認識は変わらない。ただし、森林バイオマスを燃料とする木質バイオマス発電に関しては、今後、森林破壊などを招かないための規制の強化と、それに伴う森林バイオマスの高コスト化が想定される。
 燃料を大量に輸入する国内の木質バイオマス発電所では、安価な森林バイオマスの持続的な調達が困難となりつつあり、休止・廃止が相次いでいる。一度は低コスト化で負けた国内林業の再開発により木質バイオマスの増産を再考する時が来ている。

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