伸び悩む地熱発電の現状(Ⅱ)

再エネ

 地熱発電は、1997年4月に政府による開発支援が停止した。これにより、大規模地熱発電所の開発が停止して、技術開発の停滞が生じた。
 その後、2011年3月の東日本大震災以降、ベース電源として地熱発電への期待が高まり、2012年7月に固定価格買取制度(FIT)が施行され地熱発電が盛り込まれると、地熱発電関連の研究開発予算が復活した。

地熱発電に関する政策と支援

地熱発電の重要性について

 地熱発電は燃料を必要とせず、昼夜・天候を問わずに24時間の発電運転が可能である。設備利用率は49%で、風力発電の約22%、太陽光発電の約15%と比べてはるかに高い。また、電力貯蔵を必要としないため、地熱発電はベースロード電源として期待されている。

 また、地熱発電機を国内で調達することが可能な純国産エネルギーであり、エネルギー自給率の向上に貢献する。また、再生可能エネルギーの中では発電コストが9.2~11.6円/kWhと安く、小規模にも関わらず大規模なLNG火力発電の10.7円/kWhとほぼ同等である。

 しかしながら、2022年3月時点での国内導入量は、地熱発電は年間発電電力量で2.096億kWh、設備容量で48.7万kWである。年間発電電力量で比べると風力発電の1/4、太陽光発電の1/13とわずかである。

図3 年間発電量・設備容量・利用率の比較 
出典:電気事業便覧(2022年版)を基に日本地熱協会が作成

地熱発電の抱える課題

  地熱発電所の建設では、地表調査から始めて掘削調査や探査を実施して資源量を評価し、発電所の規模決定(出力確定)を行うのに約5~7年を要し、事業化の判断に到達できる。
 環境アセスメントが不要である出力:7500kW未満の中小規模地熱発電でも運転開始まで8~9年、数万kWの大規模地熱発電は環境アセスメントに3~4年かかるため運転開始まで10年以上を必要とする。風力発電の7~8年、太陽光発電の5~6年と比べると明らかに長期間である。 

図4 地熱発電、風力発電、太陽光発電の稼働までに要する期間 出典:新エネルギー財団

 2017年3月、NEDOが風力・地熱発電の導入に関する手続期間を半減できる前倒環境調査を公表した。従来3~4年を要した環境アセスメンを、2年以内に短縮できるとした。しかし、地熱資源調査の効率化と精度向上、さらなる環境アセスメント期間の短縮は必要とされている。 

 一方、日本での地熱発電が低調の理由の一つに、開発コストの高さがあげられている。西日本技術開発が経済協力開発機構(OECD)の資料などで調べたところ、日本は地熱発電所を建設してから稼働を終えるまで10.9~18.3円/kWh(税抜)の費用を要する
 これに対して、米国は5.3~9.6円/kWh(フラッシュサイクル)、トルコが10.6~11.9円/kWh、イタリアが5.8~9.6円/kWh、ニュージーランドは3.1~5.6円/kWhと安価である。山間部が多い日本は平地主体の海外と比べて工事費が高くなり、掘削技術や大型重機をもつ企業も限られることが原因である。

 また、最近では資源価格の高騰で井戸1本当たりの掘削費は5億円を超しており、日本での掘削成功率は3割程度である。しかし、地熱発電所の新設では井戸を掘り正確な資源量を把握する必要がある。
 そのため地熱発電の建設単価は100万円/kWと、風力発電の20万円/kW、太陽光発電の37万円/kW、原子力発電の45万円/kWに比べ圧倒的に高コストである。

 さらに、地熱発電の開発には地元温泉事業者や自然保護団体などから反対の声があがる。井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や温泉源の湯量低下・枯渇などを危惧するためである。しかし、原発建設のリスクに比べると、理解を得る可能性は高い。 

2012年以降の規制緩和と開発支援

 地熱発電は、1997年4月に政府による開発支援が停止している。その経緯は後述するとして、ここでは、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)後に行われた様々な規制緩和や開発支援について示す。

 2011年3月の東日本大震災以降、ベース電源として地熱発電への期待が高まり、2012年7月に固定価格買取制度(FIT)が施行され地熱発電が盛り込まれると、地熱発電関連の研究開発予算が復活した。
 特に、地熱資源開発調査に多くの予算が投入された。そのほか、経済産業省では地熱探査技術や高効率地熱発電システムの開発、環境省では温泉バイナリー発電の高効率化、低沸点新媒体の実証などの研究開発支援が進められた。

図5 日本の地熱関係予算の推移 出典:新エネルギー財団

政府による規制緩和と開発支援:
■2015年10月、環境省は国立・国定公園内での地熱開発の規制緩和を進めた。第1種特別地域でも地表に影響がない限り地中部への傾斜井戸の掘削を許可し、景観維持のために制限されていた高さ13m超のタービン建屋設置にも特例を認めた。
 また、電気事業法の一部改正を進め、出力:300kW未満のバイナリー発電は専任のボイラ・タービン技術者を置く必要がなくなり、100kW以下では1年間の運転実務経験のある技術者を不要とした。
■2016年4月、経済産業省は出力:2.5万kW以上の大規模地熱発電に、環境への悪影響が抑えられるなどの条件が整えば、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の審査を経て重点開発地域に指定し、掘削調査費用を支援する仕組みを整備。 また、JOGMECを通じて、建設費用の最大8割まで債務保証する事業化支援策を示した。
■2018年、経済産業省は環境アセスメントを書面と実施を同時進行できるよう指針を改訂し、評価期間を2年程度に半減できるとした。国立公園内は特別保護地区を除いて規制緩和を進め、日本の全資源量(2347万kW)の70%である1600万kWの開発をめざすと表明。
 環境省は環境アセスで事業者による調査を省略するなど、審査期間を1.5~2.5年程度に半減する方針を示し、出力:7500kW未満の小規模地熱発電を環境アセスの対象から外した
■2021年8月、経済産業省と環境省は、北海道(支笏洞爺、大雪山)、東北(十和田八幡平)、中部(妙高戸隠連山、上信越高原)、九州(阿蘇くじゅう、霧島錦江湾)などの国立公園30カ所を現地調査する。
 JOGMECほかが、地表で人工的に地震波を発生させて地下構造を調査し、簡易掘削による調査を2年間実施。2019年度の地熱発電は総発電電力量の0.3%(設備容量:60万kW程度)であるが、政府は2030年度に1%(設備容量:150万kW)に引き上げる狙いである。
■2021年9月、環境省は国立・国定公園内における地熱開発の取扱いに関して、一部地域での地熱開発を「原則認めない」とする通知の記載を削除し、自然環境の保全(風致景観の維持を含む)及び公園利用上の支障がないことを前提として地熱開発を認めることを公表した。
■2023年2月、経済産業省は2023年度から海外の地熱発電事業へ、JOGMECを通じて出資を始める。INPEXが既存の地熱発電所の拡張や新たな地質調査を検討するインドネシアやニュージーランドなどが候補で、国際協力を通じて技術やノウハウを蓄える。

  一方、民間でも高リスクの地熱発電の開発を支援する動きが進められた。

民間による地熱発電の支援:
■2016年6月、東京海上日動火災保険は、地熱発電所建設で問題が生じた場合に、温泉業者が原因調査の費用や営業で生じる損失額を補償する新たな賠償責任保険を発表した。
 従来、温泉業者が発電事業者に賠償請求する場合、500~3000万円程度のボーリング調査を実施する必要があり、この費用負担が問題で温泉業者が開発に反対していた経緯がある。
■2016年8月、三井住友ファイナンス&リースが、長崎県で小規模地熱発電を手掛ける洸陽電機子会社の第一小浜バイナリー発電所合同会社(出力:125kW)と発電設備の割賦契約を締結した。これにより開発事業者はキャッシュフローが優位となり、事業拡大が容易となる。

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