伸び悩むバイオマス発電の現状(Ⅵ)

再エネ

 2010年以降、順調に木質系バイオマス発電所の建設が進む一方で、バイオマス発電所の中止・撤退の発表が相次いでいる。その理由は、周辺住民からの反対、バイオマス燃料の供給不足、建設費の高騰である。東南アジアからのバイオマス燃料の大量輸入に基づくバイオマス発電を推進したFIT/FIP支援に問題がある。

バイオマス発電の中止・撤退問題

中止・撤退の報道状況

●2019年2月、日本製紙は秋田工場内で計画していた石炭バイオマス混焼の火力発電所(出力:11.2万kW)の新設計画を撤回。理由は十分な事業性が見込めないためで、バイオマス発電への参入が相次ぎ、海外調達する木質ペレットや建設費の高騰が大きな影響を与えた。
●2022年2月、日本製紙は山口県岩国市の自社工場敷地内でのバイオマス発電所(出力:11.2万kW)の建設計画の中止を発表。大型船が入港できるふ頭に隣接し、木質ペレットや木質チップなどの燃料を輸入する計画であった。
●2020年6月、日立造船は京都府舞鶴市で計画中のパーム油バイオマス発電所の事業撤退を公表。事業主体である合同会社の撤退が直接の原因であるが、地元住民や環境団体は、騒音やNO排出などの影響、パーム椰子の農園開発に伴う東南アジアでの熱帯林破壊を懸念して建設に反対していた。
●2020年12月、三恵観光は京都府の三恵福知山バイオマス発電所(出力:1760kW)の廃止を公表。パーム椰子から得られるパーム油を燃料に2017年6月に稼働したが、住民から音や臭気の苦情が出て裁判調停中であった。事業者は新型コロナ終息が見込めず、様々な観点から廃止を判断と説明した。
●2022年3月、バイオマス燃料の売買や製造を手掛けるバイオマスフューエルが、福井県坂井市のバイオマス発電所(出力:3.3万kW)の計画を中止した。燃料として想定していたパーム椰子殻(PKS)の価格上昇で、安定的に燃料調達の見通しが立たないことが原因である。
●2022年10月、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)関連会社のHISスーパー電力は、2021年1月に稼働したパーム油を燃料に使う宮城県角田市の発電所「HIS角田バイオマスパーク」(出力:4.11万kW)から撤退し、九州おひさま発電に売却すると発表。
 パーム油の価格高騰によりFIT売電価格では採算が取れなくなったことに加え、インドネシアやマレーシアでパーム油が生産される際の環境・人権問題も原因とされている。
●2022年12月、日立造船が運営する茨城県の宮の郷木質バイオマス発電所が一時休止。内陸部に位置する発電所で燃料を国産の未利用材に限定しているが、搬入コストが高騰し、加えて輸入材が取り合い状態となり入手できないためである。
●2022年12月、関西電力は、2016年12月に稼働した朝来バイオマス発電所(出力:5,600kW)の年内での事業停止を発表した。兵庫県森林組合連合会が運営する燃料供給センターの未利用材の調達コストが高騰し、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻が追い打ちをかけ事業撤退に至ったのが原因である。

 バイオマス発電での中止・撤退発表が続いているのは、ごみ焼却発電である一般廃棄物発電や産業廃棄物発電ではなく、木質バイオマス発電パーム油バイオマス発電に関するものである。

バイオマス発電の抱える問題と対策

【無理な目標設定】

 資源エネルギー庁によると、2022年6月末時点でバイオマス発電所は全国560カ所において計361万kWが稼働している。政府はこれを2030年度までに出力:800万kWに引き上げる目標を掲げている。

 一般廃棄物発電と産業廃棄物発電の、いわゆる「ごみ焼却発電」による実力は300~400万kWである。政府は残りの400~500万kWを木質と食品・畜産等によるバイオマス発電でまかなう無理な試算を行い、固定価格買取制度(FIT)により新規参入を募ってきた。

 バイオマス発電事業者協会によると、出力:1万kW以上の大型木質バイオマス発電所では、地元の国産材だけでは燃料をまかなえず、輸入材に頼らざるを得ない。しかし、輸入燃料価格の上昇が2020年後半から始まり、ロシアのウクライナ侵攻後の各種資源価格の高騰や円安が価格高騰に拍車をかけている。

 その結果、大型の木質バイオマス発電計画の中止・廃止の発表が続いているのである。木質バイオマス燃料の価格高騰による採算悪化は改善される見込みはなく、調達すらできない状況に陥っている。今後も輸入燃料を燃やす大型バイオマス発電所の中止・廃止が続く可能性は高い。 

【森林破壊を助長しない規制】

 一方、2019年度から経済産業省はパーム油で発電した電力の固定価格買取制度(FIT)での買取条件として、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証の取得を要求している。これは森林破壊や児童労働などの問題が取り沙汰されるパーム油供給の持続可能性を担保するのが狙いである。

 今後、RSPO認証取得の要求以前に確保していたパーム油で発電した電力は、FITで売電できなくなる可能性がある。先行してパーム油発電を開始していた発電事業者は、認証取得の猶予期限である2022年3月末までに新たな調達契約を結ぶ必要があったが、発電継続に必要な量を確保するのは困難であった。

 このような森林破壊を助長しない規制と燃料費の高騰が、パーム油バイオマス発電からの撤退を引き起こしている。FITによる売電価格で採算が合わなければ、企業は撤退するのが当然の道筋である。このような認証取得と価格高騰はパーム椰子殻(PKS)でも始まっている。 

【早急な原点への回帰が必要】

 本来、バイオマス発電は地産地消の分散型電源として期待されていた。その本質を無視し、燃料を海外からの輸入材に依存して大型バイオマス発電所を稼働させることを、FITにより推進した政府方針に問題がある。その後、森林破壊を助長しない規制などで、参加企業の首を絞めている。

 一方で、欧州の環境NGOや研究者らは、木材を原料とするバイオマス発電は、すべて再生可能エネルギーの枠組から除外すべきだと訴え始めている。
 木材を燃やして出るCO2を回収するには、燃やした木材と同じ量を植林して育てなければ持続可能にはならない。しかし、木材の栽培には数十年を要し、伐採・加工・輸送まで含めたCO2排出量を加算すると、「カーボン・ニュートラル」は成立しないという指摘である。木材を大量輸入をする日本には、耳の痛い指摘である。

 重要なのは、バイオマス発電の原点への回帰である。そのためには「国内林業の活性化」が不可欠であり、地産地消型のバイオマス発電を進めることでエネルギー自給率は100%が実現できる。
 当然のことながら、地道な「ごみ焼却発電」による発電量の増加(回収率向上、設備更新)の努力も忘れてはならない。

 2023年7月、大東建託はバイオマス発電事業への参入を発表した。関電エネルギーソリューション、兵庫県森林組合連合会と、「朝来バイオマス発電所」「be材供給センター」の事業譲渡契約を締結した。FITには14年間の残存期間があるが、事業者変更後はフィード・イン・プレミアム(FIP)に切り替える計画である。
 大東建託は、地元木材を使った燃料を循環させるスキームを継続する予定とし、木材の育成を目的とした間伐材、植林を前提とした保安林や森林経営計画に基づく森林の木材、構造材として活用されない根株や枝葉を活用する。また、大東建託の工場が排出する製材端材も活用するとしている。

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