次世代炉として注目される高温ガス炉は、中性子減速材に黒鉛、原子炉冷却材に高温ヘリウムガス(He)を使う熱中性子炉である。ウラン燃料を黒鉛などで被覆するため、燃料温度が高くなると自然に中性子を吸収して核反応が減衰する。また、化学的に安定なHeガスを使うため、水素爆発や水蒸気爆発の危険性が無い。
原子炉出口のHeガス温度が700〜950℃と高く、直接にガスタービンに導いて発電できるほか、熱の多用途展開(熱化学法水素製造、高温熱供給による原子力製鉄、地域暖房、海水淡水化)が可能とされている。中でも、水素社会の実現に向けて、水を原料としたカーボンフリーの高効率水素製造が注目を集めている。
高温ガス炉とは
高温ガス炉の開発
次世代炉として注目される高温ガス炉(HTGR:High Temperature Gas Reactor)は、高温ガス冷却炉とも呼ばれ、中性子減速材に黒鉛を用い、原子炉冷却材として高温ヘリウムガス(He)を使う熱中性子炉である。
原子炉出口の冷却材温度が700〜950℃のものを高温ガス炉(HTGR)と呼び、原子炉出口冷却材温度が950℃以上のものを超高温ガス炉(VHTR)と呼ぶこともある。
高温ガス炉の開発のながれ:
■1960~1980年代に、主に米国とドイツで開発が進められ、両国において出力:30万kW級の原型炉が運転され、発電プラントとしての基本性能が実証された。
■1980年代前半に、原子炉固有の安全性を高めて、炉心溶融や大量の放射性物質放出の恐れがないモジュール型高温ガス炉の概念が生まれた。
■1990年代前半、モジュール型高温ガス炉とガスタービンを組合せた発電プラントが開発され、米国General Atomicsの「GT-MHR」(出力:29万kW)は、ロシアとの共同開発に発展。原子炉から取り出した高温Heガスで直接ガスタービンを駆動し、45~50%の高い発電効率を実現した。
■2003年1月、ドイツの協力を得て中国清華大学でペブル・ベット型試験炉「HTR-10」(出力:2500kW、原子炉出口温度700℃)が稼働した。2023年12月、「HTR-PM」(電気出力:21万kW、原子炉出口温度:750℃)が世界初となる商業運転に移行した。
運転温度を高く設定できるため発電効率が高く、様々な熱利用が可能となる。ただし、炉心は高温となるため金属材料に代わり黒鉛やセラミックスで構成される点が、他の炉型と比較した時の最大の特徴である。
冷却材に化学的に安定なHeガスを用い、水素爆発や水蒸気爆発の危険性が無い。また、ウラン燃料を中性子減速材の黒鉛で被覆するため、燃料温度が高くなると自然に中性子を吸収して核反応が減衰する。
一方、軽水炉と比べると出力密度が小さく、同出力の炉心に対して原子炉が相対的に大きくなるため、経済性の観点から大型化には不向きとされ、小型モジュール化が進められている。
高温ガス炉用の燃料
直径:200~600μmの燃料核(ウラン、トリウムの酸化物あるいは炭化物)を、核分裂生成物を閉じ込めるために熱分解炭素(PyC:Pyrolytic Carbon)、炭化ケイ素(SiC)で多層被覆した直径:0.5~1mmのTRISO被覆燃料粒子が使われている。
TRISO被覆燃料粒子を黒鉛粉と混合・焼結して成形された燃料体は、中性子減速材の黒鉛製構造物に組み込んで使われる。この燃料体の形式により、高温ガス炉はぺブルベッド型高温ガス炉とブロック型高温ガス炉に分類される。
ぺブルベッド型高温ガス炉
ぺブルベッド型高温ガス炉では、TRISO被覆燃料粒子を黒鉛内に分散・焼結して直径:約6cmの黒鉛球に閉じ込めた球状燃料をドイツが開発して使われている。球状燃料を炉の上部から下部に流動させる方式で、高温ガス炉を運転しながら燃料の供給・排出が可能で、制御棒無しで反応制御ができる。
中国が2023年12月に営業運転を開始した「HTR-PM」や、米国のX-energy(X-エナジー)が開発中の「Xe-100」は、ぺブルベッド型高温ガス炉に分類される。
ブロック型高温ガス炉
ブロック型高温ガス炉では、TRISO被覆燃料粒子を多数含んだ棒状の燃料コンパクトを分散・焼結し、六角柱の黒鉛ブロック内に設置する。原子炉停止時に燃料交換を行い、反応制御には制御棒が用いられる。
ブロック型は、燃料コンパクトを六角黒鉛ブロックの多数の穴に装填して封入する米国型のマルチホール型燃料と、環状ペレットに成形した燃料コンパクトを黒鉛スリーブに挿入して燃料棒とし、六角柱黒鉛ブロックに多数本装填するピンインブロック型燃料が開発されている。
このピンインブロック型燃料は、日本の高温工学試験研究炉(HTTR)で採用されている。
高温ガス炉の安全性
高温ガス炉の安全性が高いとされる理由:
■耐熱性に優れた多層被覆のTRISO燃料粒子が採用されており、1600℃までの高温に耐える。また、事故が起きても、多層被覆により放射性核分裂生成物の大量放出を防止できる。
■原子炉冷却材として化学的に不活性なHeガスを用いており、冷却材が燃料や構造材料と化学反応を起こさず、軽水炉のような水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。
■軽水炉に比べ1桁ほど出力密度が低く、炉心に大熱容量・高熱伝導率・耐熱温度:2500℃の多量の黒鉛を配置しており、冷却材のHeガスが消失しても自然放熱により冷却されて炉心溶融に至らない。
上記の高温ガス炉の安全性は、長らく机上の想定であったが、最近になり安全性を確認する実証実験が国内で始まっている。
2022年1月、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の国際共同試験を、高温工学試験研究炉(HTTR)を使って実施した。その結果、全電源喪失に遭遇しても炉心溶融などは起きないことを公表した。
実験は冷却材のHeガス循環を停止するなど、全電源喪失に相当する過酷条件下で実施された。停止直後に燃料温度は若干上昇したが、制御棒を用いることなく原子炉は自動停止し、炉心の自然放冷も進行した。ただし、原子炉出力30%での試験であり、2024年3月下旬、原子炉出力100%での試験を実施する計画である。
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