始まった原発処理水の海洋放出(Ⅳ)

原子力

 漁業関係者らが心配していた範囲を超え、日本全国が影響を受ける大きな風評被害が押し寄せてきている。高をくくっていた政府は批判されて当然で、なぜ想定以上の風評被害に至ったのかを反省し、あおるのではなく、風評被害の沈静化に向けた対策を強化する必要がある。

 一方、タンクが減れば、廃炉作業で発生する放射性廃棄物の保管などの敷地が確保できる。次は、遅れ気味となっている核燃料デブリの取り出しである。並行して膨大な量の放射線廃棄物の処理と、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場を決める必要がある。まだまだ、先は見えない。

海洋放出後の課題

安全から安心へ向けて

 2023年8月、東京電力は、海洋放出の状況を知りたいというニーズに応えてALPS処理水に関するポータルサイトを刷新した。
 経済産業省も、福島第一原発近傍の海水中トリチウム濃度の分析結果について、「異常なし」表示と、「放出停止判断レベルを超える」警告表示が、一目でわかるウェブサイトを公開した。

 しかし、ウェブサイトで公開したから終わりではない。一端、原発処理水の海洋放出を始めたからには、東京電力は当事者として安全に細心の注意を払いながら、海洋放出を粛々と続ける必要があ。今後、30年間以上の長期にわたりミスは許されない。理解を得た国々からの信頼を失わないために! 

図2 東京電力の処理水ポータルサイト 出典:東京電力 

 政府は処理水の海洋放出について、科学的な安全性を柱に各国の理解を得ようとした。しかし、これは日本との信頼関係があることが前提で、信頼関係が存在しなければ、その国・地域の人々の社会的な安心を得ることはできない。
 漁業関係者らが心配していた範囲を超え、日本全国が影響を受ける大きな風評被害が押し寄せてきている。高をくくっていた政府は批判されて当然で、なぜ想定以上の風評被害に至ったのかを反省し、あおるのではなく、風評被害の沈静化に向けた対策を強化する必要がある。

福島第一原発の廃炉の遅れ

 2023年8月24日、西村経済産業大臣は「福島第一原発の廃炉を成し遂げること、そして福島の復興を実現していくことは最重要課題だ。海洋放出が始まることで、廃炉に向けた大きな一歩を踏み出した」と話した。タンクが減れば、廃炉作業で発生する放射性廃棄物の保管などの敷地が確保できる。

 東北大学新堀教授(日本原子力学会会長、原子力バックエンド工学)によると、同型の一般的な原子炉(出力:110万kW)では放射性廃棄物は1.3万トン/基とされるが、事故を起こした福島第一原発ではその100倍程度に達するとの推計もある。膨大な量の放射性廃棄物である。

 この廃炉作業に関しては、東京電力の福島第一原発廃炉に向けた中長期ロードマップに示されている。既に、第1期の使用済み燃料取り出しは始まっており、 1~6号機に貯蔵されていた使用済み燃料は、2024年~2031年内の完了を目指して取り出し作業が進められている。

 問題は第2期の燃料デブリの取り出しの遅れである。2021年11月の2号機から着手の予定が、新型コロナウイルス感染拡大の影響と作業の安全性と確実性を高めるためとし、2023年度後半以降の着手へと工程が2年程度遅れている。実質は、原子炉内部のデブリ取り出しの目途がたっていないのである。 

核燃料デブリとは:
 事故当時、1〜3号機は稼働中だったため炉心に核燃料が格納されていました。事故発生後、非常用電源が失われたことで炉心を冷やすことができなくなり、この核燃料(ウラン)が核分裂反応により過熱し、核燃料と核燃料を覆っていた金属の被覆管や圧力容器などが溶融し落下しました。その溶融した核燃料などが冷えて固まったものを核燃料デブリと言います。取り出した核燃料デブリは、発電所構内に新設予定の保管設備で保管します。

出典:東京電力 https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/retrieval/に一部追記

 汚染水は核燃料デブリを水で直接冷却することにより発生するため、核燃料デブリの取り出しが完了するまで汚染水は出続ける。東京電力は廃炉の完了目標を2041~2051年としており、処理水の海洋放出もそれまで継続されることになる。

 現在は事故機の格納容器内部の状態を把握している段階で、核燃料デブリを取り出すための調査・開発が進められている。1〜3号機の核燃料デブリの総量は約880トンと推定されており、最初に試験的に取り出すのは数グラムに留まるが、それすら運搬、保管の方法が決まっていないのが実情である。

 2023年3月、東京電力福島第一原発の事故から12年となるなか、廃炉作業は、最大の難関とされる「燃料デブリ」の取り出し開始に向け、重要な局面を迎えていると報じられた。
 核燃料デブリの取り出しは、廃炉作業における最大の難関とされている。何故なら、極めて高い放射線量で作業員は接近できず、炉内調査に使われるロボットも放射線の影響を受けたり、事故で壊れた構造物に行く手を阻まれるなどして、作業は難航している。

 格納容器内部はいまだに全容がつかめない状況にあるが、10年以上のロボットによる調査の結果、少しずつ1号機から3号機までの状況が分かってきている。
 その結果を基に、政府や東京電力は最も炉内調査が進んでいる2号機で、2022年内に英国で開発されたロボットアームの先端に取り付けた金属製のブラシで堆積物をこすり取ることを計画したが、改良や設計の見直しなどが必要になり、2023年度後半以降に延期されたのである。

図3 事故を起こした福島第一原発の核燃料デブリの予想される状況 出典:東京電力

 ロボットアームを使った核燃料デブリの取り出しは、サンプル採取には有効であろうが、880トンとされる核燃料デブリの取り出しには非現実的といわざるを得ない。そのため関係各所で様々なアイデアが検討されている段階にある。
 重要なことは廃炉措置終了までに、二次汚染などによる新たな風評被害を招かないことである。また、福島第一原発跡地をさら地として福島県に返す義務がある。そのためには膨大な量の放射線廃棄物の処理と、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場を決める必要がある。

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