日本産食品等の輸入規制について

原子力

 2023年7月、欧州連合(EU)が日本産食品に課している輸入規制を完全撤廃すると報じられた。EUは、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、日本産食品の規制を導入した。
 日本の食品安全性確保が進み規制は段階的に緩和されてきたが、現在も福島県産の魚や野生のキノコ類など計10県の一部食品を対象に放射性物質の検査証明書の添付を義務付け、そのほかの都道府県の産品でも一部に同様の証明書を求めるほか、規制地域外で生産したことを示す証明書が必要である。

 日本政府は2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円に増やす目標を掲げている。2022年は過去最高の1.3372兆円に達した。そのうちEU向けは約5%の680億円であった。8月3日以降に規制が完全撤廃されることで、EU加盟27カ国向けの輸出量の拡大が期待される。

 政府は日本産食品の安全性の検査を徹底し、科学的根拠を基に各国に働きかけた結果で、理解が広がりつつあると報じたが、、、、。

諸外国・地域の食品等の輸⼊規制の状況

 2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を契機に、日本から輸出される食品等に対し、55の国・地域により放射性物質に関する輸入規制措置が講じられた。この規制は、徐々に緩和・撤廃されてきたが、2022年7月の段階では未だ12の国・地域で輸⼊規制が継続されている。

表1 原発事故による諸外国・地域の食品等の輸⼊規制の状況(2022年7月26日) 出典:農林水産省資料

 今回、EUが規制を完全撤廃することで、EFTA(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)、仏領ポリネシアも撤廃するとみられている。その結果、輸入規制が残るのは、近隣国である韓国、中国、台湾、香港、マカオ、ロシアである。

輸入規制を撤廃した国・地域

 日本産食品の輸入規制をした55の国・地域のうち、現時点では43の国・地域で完全撤廃されている。福島第一原子力発電所の事故から米国は10年を経過し英国は11年目、今回、EUは13年目にしてようやく輸入規制の撤廃に踏み切ったのである。
 この輸入規制の撤廃は、日本との取引関係の少ない国・地域から始まり、徐々に取引関係の多い国・地域に移ってきている。

 各国政府は自国民の安全を最優先するという建前がある。「放射能汚染」という特殊な風評被害を乗り越えて、日本産食品の輸入規制を撤廃するには、いかなる技術先進国であっても国民の理解を得て決断するまでに10年超を要するということであろうか。 

表2 原発事故による食品等の輸入規制を撤廃した国・地域 出典:農林水産省資料

輸⼊停⽌措置を講じている国・地域

 農林水産省によれば、2022年の食料品などの主な輸出国・地域は第一位が中国(2782億円)、第二位が香港(2086億円)、第三位が米国(1936億円)、第四位が台湾(1489億円)、第五位がベトナム(724億円)、第六位が韓国(667億円)、第七位がシンガポール(554億円)と続く。  

図1 農林水産物の主な輸出相手国・地域と輸出金額(2022年) 出典:農林水産省資料

 注目されるのは、近隣国・地域で未だに輸入規制が残る点である。中国(日本からの輸出比率:20.8%)、香港(15.6%)、台湾(11.1%)、韓国(5%)で、その輸出比率の合計は、52.5%と過半数を超える。これら重要顧客である近隣国・地域への働きかけを、政府は最優先すべきであろう。

 近隣諸国・地域の人々は福島第一原子力発電所の事故を真近で見聞きしており、中でも日本産食品の輸入量が多い国・地域の人々は、安全性の科学的根拠を説明しても、輸入規制の撤廃に慎重となることは止むを得ない。
 国内では、現在も福島県産の食品の一部は、摂取・収穫・出荷を差し控えるよう要請が出されている。近隣諸国・地域の人々からはみれば、福島県とその周辺はほぼ一体に見える。

表3 原発事故に伴い輸⼊停⽌措置を講じている国・地域 出典:農林水産省資料

 福島第一原子力発電所の事故が起きていなければ、日本産食品の輸入規制などは起きなかった。輸入規制が撤廃されても、生産者からみれば日本産食品の輸出がようやく原点に復帰できた段階である。ゼロからの出発であることを忘れてはならない。
 日本産食品の生産者からすれば、「放射能汚染」という特殊な風評被害を二度と被りたくないと考えるのが当然であり、政府には日本産食品の徹底した安全管理の継続がのぞまれる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました