福島第一原発の処理水海洋放出(Ⅰ)

原子力

 現在、福島第一原子力発電所からは、90トン/日の汚染水が発生する。これには地下水、海水、冷却水が含まれる。多核種除去設備(ALPS)でフィルター処理した水が、原発構内のタンクで保管されている。保管される処理水の量は130万トンを超え、保管場所がなくなりつつあると報じられた。

 そもそも、90トン/日の汚染水が発生するなら、すべてタンクに保管しても12年間で約39万トンである。何故、処理水の量が130万トンを超えているのか?

福島第一原子力発電所の立地の問題

 2011年3月11日、東日本大震災で15mの大津波に襲われた福島第一原子力発電所の立地場所が、建設前は海抜35mの河岸段丘であった。東京電力が1964年までに買い上げた原発建設地(約350万m2)は、旧日本軍飛行場があった場所で、海岸線に険しいがけが続く台地であった。

 地質的にみると、台地の地表から海水面までの2/3部分には地盤が弱い段丘堆積物や中粒砂岩層であった。当時、さまざまな建設方法が検討されたが、地盤強度原子炉を間接冷却する海水の取り入れを考慮した結果、地表から25m下にある比較的しっかりした泥岩層まで掘り下げる決定がなされた。

図3 海岸掘削跡地に設置された2011年3月12日の福島第一原子力発電所
(2011年3月12日) 出典:朝日新聞社

 欧米の原発では発生した余剰の熱を廃棄するため、巨大な冷却塔が設置されている。しかし、日本のすべての原発は海岸に設置されており、海水で冷却する方式のため冷却塔は無い。海水をポンプで汲み上げるためにも、経済性を考えて海抜10m程度まで掘り下げたのである。

 その結果、東電が想定した5.7mをはるかに超える15mの津波の直撃を受け、福島第一原発は高濃度の放射能漏れが続くレベル7という危機的状況に陥った。今さらであるが、海岸段丘を掘削せず建屋の基礎を泥岩層まで深く打ち込めば、地震と津波の両方の対策ができたであろう。
 津波対策を軽視した結果であることに間違いない。古来より多くの津波被害が報告されている日本では、原発を海岸線に設置すること自体を再考する必要がある。

 ところで、この岸段丘の掘削は想定外の問題を引き起こしていた。「土木技術」(1967年9月号)によると、標高32mから掘削を始めると26.5m付近から湧水が発生したことが記載されており、泥岩層の上の砂岩層が地下水を通し、福島第一原発の建屋下部は常に大量の地下水に曝されていた

 運転開始当初から福島第一原発の1~4号機の周囲にはサブドレンが59本も設置され、ポンプで吸い上げられた1000トン/日規模の地下水が、毎日、構内の排水路を通じて海へ排出されていた。この地下水が事故後の汚染水の増加に大きな影響を及ぼす。(読売新聞、2023年7月4日25特別面)

図4 事故前の福島第一原発の建屋下部は常に大量の地下水に曝されていた

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