福島第一原発の処理水海洋放出(Ⅱ)

原子力

 福島第一原発の事故では、炉内の燃料が溶け落ちて固まった燃料デブリが、今なお原子炉の底部に残っている。膨大な熱を発する燃料デブリは常に水で冷却し続ける必要があり、核燃料に直接触れることで高濃度の放射性物質を含んだ水、いわゆる高濃度汚染水となる。
 事故の1か月後には、この高濃度汚染水が海に流れ出していることが判明し、漏出経路の特定と遮断が最優先で進められた。

汚染水を減らすための対策

 福島第一原発の事故では水素爆発で建屋が損傷し、炉内の燃料が溶け落ちて固まった燃料デブリが、今なお原子炉の底部に残っている。膨大な熱を発する燃料デブリは常に水で冷却し続ける必要があり、核燃料に直接触れることで高濃度の放射性物質を含んだ水、いわゆる高濃度汚染水となる。

 事故の1か月後には、この高濃度汚染水が海に流れ出していることが判明し、漏出経路の特定と遮断が最優先で進められた。併せて、膨大な量の汚染水を減らすために、汚染水を浄化して再循環させ炉心を冷却する仕組みの構築が進められた。(読売新聞、2023年7月5日24特別面)

 詳細は後述するが、事故に伴う汚染水の浄化処理については未経験ため、海外からの技術支援を受けながらスピード最優先で進める必要があり、浄化装置の破損や汚染水貯留タンクからの漏出事故が相次ぎ、福島県の漁業関係者の信用を大きく失う結果となった。 

 しかし、汚染水が建屋外に流れ出るのを防ぐため、建屋の中に滞留する汚染水3500トンの水位を、建屋周辺の地下水の水位よりも低く保つ必要がある。その結果、建屋周辺の地下水は水位の低い建屋内に流れ込み、建屋周辺の雨水なども流入するため、汚染水の増加を止めることはできていない。

図5 事故後の福島第一原発では増え続ける汚染水対策が各種施された

 汚染水を減らすために様々な対策が試行錯誤的に施されてきた結果、汚染水の発生量は、2014年5月(対策前)の540トン/日から、2017年には220トン/日、2023年には90トン/日と減少傾向にある。しかし、現時点でも汚染水は90トン/日で増え続けているのである。

汚染水を海に漏らさない対策

【海側遮水壁】地下水・汚染水の海への流失を防止するため、長さ21~26mの鋼管594本を海に打ち込み接合し、全長780mの壁を設置したが、完成は2015年であった。

【海側地下水ドレン】海側遮水壁の内側に新たに5本のサブドレンを設置し、地下水をくみ上げて建屋に流入する量を抑える。くみ上げた地下水は浄化処理し、放射性物質の濃度の基準(運用目標)を下回ることを確認して排出する。

浄化処理における放射性物質の濃度の基準(運用目標)
セシウム134: 1ベクレル/リットル未満
セシウム137: 1ベクレル/リットル未満
全ベータ : 3(1)ベクレル/リットル未満*
トリチウム : 1,500ベクレル/リットル未満
*:10日に1回程度のモニタリングで1ベクレル/リットル未満を確認

https://www.tepco.co.jp/news/2015/images/150825a.pdf
汚染源に水を近づけない対策

【陸側遮水壁(凍土壁)】1~4号機の建屋周囲の地中に長さ25~30mの凍結管を打ち込み、-30℃の冷却液を循環させて周囲の地盤を凍結させる。2016年3月から凍結を始めて2年近くで全面凍結の予定であったが、冷却液漏れのトラブル発生などもあり効果は限定的といわれている。

【フェーシング】凍土壁で囲い込んだ範囲の地表をモルタルなどで覆い、雨水が土に浸透して地下水になることを防止する。完璧を目指して、き裂や継ぎ目の補修が継続されている。

【地下水バイパス】山側の高台に新たに12本の井戸(地下水バイパス)を設置し、建屋に流入する量を抑える。くみ上げた地下水は東京電力と第三者機関で分析をおこない、放射性物質の濃度の基準(運用目標)を下回ることを確認して排出する

【サブドレイン】事故後に稼働している46本を使い、建屋内の汚染水が流出しないよう地下水の水位の制御がサブドレインを使って行われている。

 今話題の処理水とは異なり、サブドレン・地下水ドレン水の浄化・排水は、原子炉建屋に入り込んだ汚染水ではないが、2015年から東京電力が福島県漁業協同組合連合会の了解を得て海洋への排出が進められおり、その総量は235万トンにのぼる。(読売新聞、2023年7月5日24特別面)

 海洋放出に反対の声を上げる福島県の漁業関係者は、科学的根拠に基づく安全性に疑問を感じているのではないだろう。処理水の海洋放出で生じるであろう『アンコントローラブルな風評被害』に危惧している。ならば、IAEA報告書内容の説明など、全く意味をなさない。
 2013年9月、当時の安倍晋三首相は東京五輪招致に向けた国際オリンピック委員会総会の場で、福島第1原発の状況を『アンダーコントロール』と語った。汚染水が500トン以上/日で増え続けている時である。当時の日本産食品への風評被害は、もっと深刻であった。

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