非軽水炉型の新型炉の多くでは、従来の軽水炉用の核燃料よりもウラン濃縮度を増した「HALEU燃料」の使用が検討されている。しかし現在、HALEU燃料の製造をロシア国営企業ロスアトムの系列企業が独占しているため、核燃料の脱ロシア化が欧米を中心に始まっている。
次世代原子炉用の核燃料
HALEU燃料とは
高純度低濃縮ウラン(HALEU:High-Assay Low-Enriched Uranium)燃料は、 天然ウランに0.7%しか含まれない核分裂反応を起こすウラン235を、5~20%まで高めた核燃料である。
海軍船舶用の高濃縮ウランに比べて低濃縮とすることで核兵器への転用を防ぎ、一方で従来の低濃縮ウランよりも少量で大きなエネルギーを発生させることができるため、原子炉の小型化や燃料交換頻度を下げるのに有効で、放射性廃棄物の排出量も少ない。
2022年10月、米国テラパワーは、米国GEと日立の合弁企業グローバル・ニュークリア・フュエル・アメリカズ(GNF-A)と、ノースカロライナ州ウィルミントンで次世代原子炉用の核燃料製造施設の建設で合意した。施設は、2023年に建設開始の予定である。
テラパワーが開発する次世代原子炉は、ナトリウム冷却型高速原子炉技術と溶融塩エネルギー貯蔵システムを組み合わせ、HALEU燃料を使用する。2021年6月に、ワイオミング州に次世代原子炉の実証プラント建設を発表、同年8月には、次世代原子炉向けウラン燃料の国内サプライチェーン構築を提唱した。
2023年6月、米国セントラス・エナジー(旧USEC)は、オハイオ州パイクトンの米国遠心分離プラント(ACP)でのHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%)製造を、原子力規制委員会(NRC)から承認された。年末までに、HALEU燃料の実証製造を開始し、900 kg/年の製造を目指す。
2019年11月にエネルギー省(DOE)と結んだ契約に基づき、独自開発の新型遠心分離機「AC100M」16台によるカスケードをACPサイト内に建設。最終的に商業規模の120台まで拡大し、HALEU燃料を約6000 kg/年の製造を検討している。
2023年8月、米国の原子炉開発企業オクロは、ウラン濃縮企業のセントラス・エナジーとの協力を拡大すると発表。両社は2021年、オクロ製のマイクロ高速炉「オーロラ(Aurora)」に装荷するHALEU燃料の製造施設の建設を、オハイオ州南部で協力して進める基本合意を締結した。
2023年10月、米国オハイオ州のセントラス・エナジーの工場で、小型次世代原子炉用のHALEU燃料の製造が開始された。2022年11月、ロシア国営企業ロスアトム系列企業が独占するHALEU燃料の製造を危惧する声が高まり、米国はセントラスへの約1.5億ドル(約230億円)の補助を決めた。
米欧核燃料の脱ロシア化
米国の一般の原子力発電所は、英独蘭合弁会社ウレンコ(ニューメキシコ州)から低濃縮ウランの供給を受けるが、2割近くがロシア依存であるため、経済制裁の対象外となっている。
欧州はさらにロシア依存度が強く、ハンガリーやスロバキアなど5か国にロシア製原発が計18基あり、燃料もロシア製の低濃縮ウランを使っている。
欧州連合(EU)は計11回の対ロシア経済制裁を発動してきたが、原子力関連はハンガリーの反対で除外された。現在、ハンガリーとトルコでは、ロシア製原発(VVER-1200)の建設が進められている。
一方で、2022年6月、チェコは核燃料の調達先をフランスのフラマトムなどに切り替える契約を締結した。ウクライナは米国ウエスチングハウスと協定を結び、燃料供給と原発「AP1000」の導入を9基に拡大した。スェーデン、スロバキアもロシア以外からの核燃料の調達を検討している。
フィンランドはロシアからの核燃料調達の契約終了後、米国ウェスチングハウスに切り替える方針で、ロスアトムと進めていた原発建設計画も中止するなど、脱ロシア化が進められている。
2024年1月、米国DOEは、一般の原子力発電所で燃料に使う低濃縮ウラン(ウラン235が3~5%)の生産体制を、約22億ドル(約3200憶円)の予算を投じて米企業の設備増強を支援する方針を公表した。日英仏加と協力して、脱ロシアの国際的な供給網構築を目指す。
1993年、米国は核不拡散のためロシアの核兵器用の高濃縮ウランを低濃縮ウランに作り直して購入することで合意し、安い製品の輸入を続けたことで国内の核燃料産業は衰退した。エネルギー安全保障上、重要な原子力分野でロシアに依存する状況を解消する狙いである。
英国核燃料の脱ロシア化
2024年1月、英国政府は、3億ポンド(約558億円)を投じて、HALEU燃料の製造計画を立ち上げると発表。COP28でG7の原子力パートナーと協力し、ロシア製燃料への世界的な依存を減らすことを表明しており、2020年代末までに英国にウラン転換能力を取り戻すために、政府と産業界が協働を開始している。
現在、ロシアは世界のウラン転換能力の約20%、濃縮能力の約40%のシェアを持つ。今回の資金提供により、英国政府はHALEU燃料の国内製造を支援して、2050年までに民生用原子力発電設備を最大2,400万kWまで拡大し、国内電力需要の約25%を原子力でまかなう方針。
加えて、1,000万ポンド(約18.6億円)を投じ、英国内で他の新型燃料の製造技術や設備を開発する。すなわち、イングランド北西部の核燃料生産拠点を強化し、長期的な国内核燃料供給体制を確立する。また、海外の需要にも応えることにより国際的な連携に貢献するとした。
既に、2023年7月、英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省は、核燃料の国内サプライチェーン構築をめざすプロジェクトに、原子燃料基金(NFF)から総額2,230万ポンド(約41.5億円)の拠出を発表している。
■米国ウェスチングハウスの英国スプリングフィールドにある原子燃料製造工場の拡張・アップグレードや、HALEU燃料製造の検討を含む多様な燃料製造への支援(1,050万ポンド、約19.5億円)
■カーペンハーストにあるウレンコのウラン濃縮工場における低濃縮ウランおよびHALEU燃料製造への支援(950万ポンド、約17.6億円)
■ニュークリア・トランスポート・ソリューションズのHALEU燃料輸送パッケージの開発支援(100万ポンド以上、約1.9億円)
■溶融塩炉の国内開発企業であるモルテックスFLEXのAMRに関して、バーナー・リグなど溶融塩の製造に必要な機器の製造と運転の支援(120万ポンド、約2.2億円)
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