革新軽水炉はいつ稼働するのか?(Ⅴ)

原子力

 現在普及している軽水炉をベースに、新技術を導入した新型炉が「革新軽水炉」と呼ばれる。再生可能エネルギーとの共存のための出力調整機能の強化テロ対策、福島第一原発事故を教訓とした自然災害への耐久性向上・溶融炉心対策・放射性物質放出防止など、過酷事故対策の設計が盛り込まれる。

革新軽水炉とは?

 地球温暖化対策(CO2削減)に貢献し、安定的に電力供給を行う電源として軽水炉を長期的に利用していくためには、安全性、信頼性、効率性を向上していくことが必須である。
 そのため、安全性向上、過酷事故対策、高経年化対策、稼働率向上、発電出力の増強、セキュリティ対策などの様々な課題に対する技術開発が、国内原子炉メーカーを中心に進められている。 

 国内では、沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)があり、国内原子炉メーカーが別々に革新軽水炉の開発を進めている。採用する具体的な技術は異なるが、それぞれの原子炉が目指す安全対策、過酷事故対策、用途に関しては共通点が多い。

 中でも過酷事故対策は、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャーと事故対性燃料(ATF)の開発、③事故時に放射性物質の外部放出を抑えるシステムなどは共通して検討されている。ただし、概念設計の段階であり、実用化には至っていない。

図8 革新軽水炉の安全性向上の例 出典:令和4年度版原子力白書

東芝エネルギーシステムズ

 革新軽水炉「iBR(innovative, intelligent, inexpensive BWR)」を公表している。iBRは実績のある改良型沸騰水型軽水炉(ABWR、電気出力:135万kW)と基本設計は同じで、安全性能を追加し、再生可能エネルギーの電力需給調整に柔軟に対応でき、経済性に優れた革新軽水炉である。

 電気出力は80万kW、100万kW、135万kW、160万kWに対応可能。安全対策を大幅に強化し、ABWRへの追加設備は、既存技術に基づき信頼性の高さを強調している。また、炉内の冷却水の流量制御で発電出力の調整を行い電力需給調整を可能としているが、金属疲労への対策は明らかにされていない

 なお、複数のiBRラインアップのうち、電気出力:135万kWの建設単価は60万円/kWとしている。安全系の追加により、1990年代に建設されたABWR価格の2倍を想定している。耐震設計の条件などで変化するが、iBR(電気出力:135万kW)1基の建設には8100億円を要する計算である。

東芝iBRの安全対策
①非常時の電源喪失対策と多様化を強化した動的安全システム
 自然災害のあらゆるケースを考慮し、多様な非常用電源(ディーゼル/ガスタービン)を分散配置して電源喪失を防ぐと共に、系統の多様化(海水冷却/大気冷却)を進める。
②万が一、非常用電源を失っても炉内や格納容器を冷やす静的安全システム
 電源不要、運転員の操作も不要とし、電源喪失後も非常用復水器で上部冷却プールの水を使い7日間の炉内自然冷却を可能とする。
③万が一の炉心溶融事故時でも住民を守る革新的安全システム:
 水素と放射性物質を閉じ込めるため二重円筒格納容器と静的フィルターシステムを採用し、溶融落下した燃料デブリを受け止めるため、下部冷却プールで冷却されるコアキャッチャーを設置する。
 また、燃料被覆管の耐熱性・高温強度を高め、事故時の水素発生を抑制するため、SiC複合材料を適用した事故耐性燃料(ATF)の開発を進めて適用する。
④外部からの物理的な脅威に対する安全対策:
 航空機衝突、テロ行為などや、地震、津波などの甚大な自然災害に対応できる建屋構造として、鋼板コンクリート構造ドームと、二重円筒格納容器を採用する。

 仮に炉心溶融が発生すると、下部冷却プールの水や蒸気には放射性物質と水素が含まれる。蒸気は図左上の熱交換器により上部冷却プールで冷やして下部冷却プールに戻す。このとき放射性物質は左下のフィルターで除去、残りの放射性物質(希ガス・有機ヨウ素)や水素は右下のアウターウェル内に貯蔵される。

 アウターウェルには事前に窒素を封入して福島第一原発で起きた水素爆発の発生を抑え、外部へのベント(大気放出)を不要とする。圧力容器から溶け落ちた燃料デブリは、耐熱材料製のコアキャッチャーで受け止め、下部冷却プールの水が自然循環して高温のデブリを冷やす仕組みである。 

図9 東芝エネルギーシステムズの革新軽水炉 iBR 出典:東芝

日立GEニュークリア・エナジー

 革新軽水炉「HI-ABWR(Highly Innovative ABWR)」を公表している。HI-ABWRは福島第一原発事故の教訓を反映した英国・欧州の規制要求を満たし、英国の設計認証を取得した国際標準ABWR設計をベースに、新たに革新的安全性を組み込んだ軽水炉である。

 すなわち、地震や津波などの自然の脅威、航空機の衝突による物理的損傷、内部火災、溢水いっすいなど、さまざまな災害の影響を最小限に抑えるため、原子力発電所の外壁を強化し、機器の分離配置などが行われる。
 また、万一事故が発生した場合、外部電源や運転員の操作がなくても、自然の力で作動し、事故の被害を抑制するメカニズムを取り入れた静的安全システムにより、事故の進展と外部環境への影響を抑制する。

 加えて、高燃焼度燃料による使用済燃料の削と、負荷追従運転による電力系統の安定保全合理化による稼働率向上による運転コスト削減により電力系統安定化に貢献し、再生可能エネルギーとの共存、カーボンニュートラル社会の実現を目指している。

HI-ABWRの安全対策
①自然災害・テロ・内部ハザードへの耐性強化で安全機能を防護:
 国際標準ABWR設計をベースとして、自然災害やテロ・内部ハザードへの耐性を強化した福島第一原発事故対策設備を合理的に実装し、建屋内区画分離などを進める。
②静的安全設備により自然力で事故進展を抑制:
 事故時に電源や運転員操作に依存せずに、自然力により核燃料の崩壊熱を除去し、炉心を冠水維持できる静的原子炉冷却システムを採用する。
③重大事故時の外部環境への影響を大幅に抑制:
 炉心溶融が起きた場合、燃料デブリを冷却できるコアキャッチャーを炉底部に設置する。また、燃料被覆管の耐熱性を高め、事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料(ATF)の開発(2030年代に酸化物分散型FeCrAl合金被覆管、2040年代にSiC被覆管)を進めて適用する。
④コンパクトな放射線物質除去フィルター:
 万一の過酷事故に対して、フィルターベントシステムに加えて希ガスフィルターヨウ素除去フィルターを設置することで、放射性物質の閉じ込め機能を強化し、作業員や住民の被曝を緩和する。

図10 日立GEニュークリア・エナジーの革新軽水炉
出典:日立GEニュークリア・エナジー

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