日本の高温ガス炉の開発現状(Ⅲ)

原子力

 現在、高温ガス炉(HTGR)の発電所としての実績は、中国が2023年12月に実証炉を商業運転に移行しているのみである。米国は2028年を目指して小型モジュール炉として実証炉の建設を進めている。日本の実験炉(HTTR)は、2010年に950 ℃で50日間の連続運転による熱供給以降に目立った成果は見られない。

 実証炉の開発には数兆円規模の投資が必要である。日本は実験炉(HTTR)の研究成果を基に、英国・ポーランドに協力して実証炉建設のノウハウを吸収し、2029年から実証炉の製作・建設を開始する計画で、2030年代後半の実証炉の運転開始を目指している。

海外との共同開発

ポーランドとの共同開発

 2017年5月、日本とポーランドの両国政府が包括的な経済協力「戦略的パートナーシップ行動計画」を結び、高温ガス炉の共同開発が盛り込まれた。同年9月には、政府が従来の原子炉より安全性と環境性の面で優れた高温ガス炉の輸出検討に入ったことを表明した。
 ポーランドはエネルギーの大半を石炭火力発電に依存しているが、パリ協定の影響でCO2を排出しない高温ガス炉(出力:20~30万kW )への切り替えを検討しており、10~20基の建設を計画している。

 2022年11月、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、高温ガス炉研究炉の基本設計をポーランド国立原子力研究センターと開始する。研究炉(熱出力:3万kW、原子炉出口冷却材温度:750℃)は2025年までに建設し、商用炉(出力:16.5万kW)を2030年代に完成させる計画である。
 JAEAはHTTR技術をベースに、商用炉の開発・輸出を念頭に置いて技術協力を申し入れ、2023年3月、基本設計のうち最後の安全設計に関する研究協力契約を締結した。

英国との国際協力

 2019年7月、日英両政府は「クリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」に署名した。これを受け、2020年10月には、JAEAと英国国立原子力研究所(NNL)が高温ガス炉開発に関する覚書を締結した。

 2022年9月、英国は原子力利用の最有力候補として高温ガス炉に着目し、発電設備を含む実証炉の建設に向け、炉の規模や発電コストの予備調査をJAEA、NNL、英国企業など5機関で実施すると公表。2025年頃までに設計、2030年代初頭までに建設・運転を実現する計画である。

 2023年7月、JAEAとNNLのチームが、英国の高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計を行う事業者に採択された。NNLは高温ガス炉燃料開発プログラムの製造技術開発等を行う事業者として採択されたことで、JAEAはNNLと連携して英国における燃料製造の技術開発を進める。

国内スタートアップ企業

 2022年4月操業のBlossom Energy(ブロッサムエナジー)が、ブロック型高温ガス炉の商用化に挑戦している。原子炉の減速材には黒鉛、冷却材にはヘリウム(He)ガスを用いる。
 同社は自前の生産拠点を持たないファブレス・メーカーである。8基の原子炉(熱出力:9万kW)をクラスター化した発電システム(電気出力:約33万kW)を目指し、冷却材出口温度:約750℃を想定。2035年に国内で第1号機の運転開始を計画している。 

高温ガス炉の抱える課題

 現在、高温ガス炉(HTGR)の発電所としての実績は、中国が2023年12月に実証炉を商業運転に移行しているのみである。米国は2028年を目指して小型モジュール炉として実証炉の建設を進めている。日本の実験炉(HTTR)は、2010年に950 ℃で50日間の連続運転による熱供給以降に目立った成果は見られない。

 実証炉の開発には数兆円規模の投資が必要である。日本は実験炉(HTTR)の研究成果を基に、英国・ポーランドに協力して実証炉建設のノウハウを吸収し、2029年から実証炉の製作・建設を開始する計画で、2030年代後半の実証炉の運転開始を目指している。

なぜ、高温ガス炉の開発が必要なのか?

 その理由は、現有の軽水炉と比べた場合に高温ガス炉の利点とされる2点にある。すなわち、①原子力プラントとしての安全性②高温の熱供給である。

 原子力プラントとしての安全性は、常に追求しなければならない。現在、日本原子力研究開発機構(JAEA)が、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の国際共同試験を高温工学試験研究炉(HTTR)を使って実施しており、原子炉出力100%運転中に全電源喪失に遭遇した場合の試験結果の公表が待たれる。

 事故時の安全性が確認されれば、次に長期の原子力プラントとしての信頼性評価が重要となる。一方で、革新軽水炉や小型軽水炉(SMR)との経済性(建設単価、発電単価)比較により、高温ガス炉の優位性が明らかとなれば、次世代炉の本命となる。

 また、高温の熱供給は高温ガス炉の特長であり、多用途展開が期待されている。中でも水素社会を実現するためには、安価で大量のクリーン水素が不可欠であり、様々な検討が進められている。課題は高温ガス炉を利用した原子力水素の経済性である。対抗馬となる再生可能エネルギー水素との比較が重要である。

 現在、中国や米国などで進められている高温ガス炉の炉心出口冷却材温度は750℃である。水素製造の経済性を高めるためには、950℃以上の超高温ガス炉(VHTR)の開発が有効である。まだまだ、先は長い。

 2023年7月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ニューヨークの国連本部で記者会見を開き、「地球沸騰化の時代が到来した」と発言した。地球温暖化ではなく、切羽詰まった状況にある。「将来ではなく、今できることは何であろうか?」を真剣に考える分岐点に到達している。
 再生可能エネルギー水素は技術的に成熟しており、欧米中は大型水電解装置導入による低コスト化に舵を切っている。一方、高温ガス炉による水素製造はHTTR建設当初からの目的で、既に20年超を経過しているが経済性を含めた見通しは立っていない。今、どちらを選択すべきかは明確である。

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