GX脱炭素電源法に関して(Ⅲ)

原子力

 GX脱炭素電源法(原子力)の大きな問題は、先に事実上60年超の運転を可能とした法律を策定し、これを実現するための規制が設定された点にある。原発の60年超の運転ありきで、法整備が行われたのである。科学的・技術的に安全性が担保されて、60年超の運転を可能としたのではないのである。

原発の高経年化対策とは?

 原子力規制委員会のHPには、原発の高経年化対策について記載がある。現時点で、原発の経年劣化について十分な対策が取られているのであろうか?その結果として、原発の60年超運転の安全性を担保しているのであろうか?疑問点は多い。

原子力規制委員会による高経年化対策

 原発では法定検査・点検が行われ、機能や性能低下を的確に確認し、補修や取替えが行われている。高経年化対策では、長期間運用中の原発に対して起こりうる劣化を最新知見に基づき把握し、通常保全」に新たに「追加保全」を行うなど、機能や性能を維持・回復する保守管理を実施する。

主な経年劣化事象の例

(1)配管内の減肉(エロージョン/コロージョン)
配管の内面で、水流等による浸食(エロージョン)と腐食によるさび(コロージョン)が発生して、相互作用で減肉する現象
(2)応力腐食割れ(SCC)
構造材料が、水などの腐食環境下で設計応力より低い応力で多数の割れを生じる現象
(3)電気絶縁低下原発停止中も進む劣化
発電機や変圧器、ケーブルなどで絶縁体として使用されているゴム、プラスチックなどが熱や放射線などの影響を受け、時間経過とともに変質して絶縁性能が低下する現象
(4)中性子照射脆化
構造材料が中性子線の照射を受けて粘り強さが低下する現象
(5)疲労割れ
構造材料に繰返し外力や熱応力が作用するすることで、割れを生じる現象
(6)コンクリートの中性化原発停止中も進む劣化
コンクリート中の水酸化カルシウムが空気中CO2と反応し、強度が低下する現象

原子力規制委員会HP:https://www.nra.go.jp/activity/regulation/reactor/unten/unten3_1.html(一部加筆)
図6 通常保全と追加保全の主な内容(図はPWRの例) 出典:原子力規制委員会

これで高経年化対策で十分か? 

 経年劣化による原発トラブルの代表的なものとして、2004年に福井県にある関西電力の美浜3号機で起きた配管の破断事故がある。
 当時、運転年数が30年に満たない原発で、吹き出した熱水と蒸気で作業員5人が死亡、6人が重症を負った。破断した配管は点検リスト漏れで、運転開始以来点検が行われていなかった。

 原発の部品数は約1000万点に上るとされ、点検漏れは深刻な問題である。その後、この配管減肉問題は保全活動に組み入れられ、二度と同じ事故が起きないよう監視されている。

 また、運転年数が38年の関西電力の高浜3、4号機では2018年以降、原子炉につながる蒸気発生器内に長年の運転で鉄さびの薄片がたまり、配管に当たって傷つけるトラブルが定期点検で6回も確認され、蒸気発生器を洗浄しても再発した。定期点検で見つかっても抜本的な対策が施せなかった。
 東京電力の柏崎刈羽7号機では、福島第一原発事故後に停止したタービン建屋の配管が11年間点検されず、腐食で穴が開いたことが2022年10月に判明した。長期運転停止による腐食劣化の進行か

 原発の代表的なトラブルは、失敗学会の失敗知識データベースに詳細が示されている。今後も、原発トラブルがなくなることはない。特に、運転や検査など人が関わる作業では、尽きることはない。重要なことは、原発の経年劣化に関するデータがまだまだ不足している点である。

 運転延長の審査で先行する米国とは、劣化具合のとらえ方が異なるという。原子力規制委員会の山中伸介委員長は記者会見で「(60年超は)未知の領域。日本独自のルールをつくる必要がある」と検討の難しさを認めた。しかし、原発の運転延長の可否は、規制委が科学的・技術的に判断する必要がある。

 現在は運転開始から60年超の原発の安全規制はなく、規制委がつくる必要があるが、山中委員長は運転期間に関する安全規制について「一義的な上限を決めるのは技術的に不可能だ」と指摘した。

 その結果、炉規法には30年を超えて運転する原発に対し、原子力規制委員会による10年以内ごとの設備の劣化状況の審査と認可を受けること、また、運転開始から60年超の原発の審査には、容器やコンクリートの劣化状況を詳しく調べる40年時点の点検と同レベルの追加点検を義務付けられた。

 すなわち、炉規法で定められた「原則40年、最長60年」という運転期間を削除し、事実上60年超の運転を可能としたものの上限を決められず、10年以内ごとの設備の劣化状況の審査と認可を繰り返し、60年超の原発の審査には追加点検を行うことで不足している経年劣化のデータを収集するとした。 

原発の運転期間延長の問題

 ところで、福島第一原発事故後に炉規法で定められた「原則40年、最長60年」という運転期間はどのようにして決められたのであろうか?参議院事務局企画調整室編集・発行の「立法と調査」2016. 10 No. 381に興味深い記述がある。

 運転期間を原則 40 年間とした背景としては、原子炉設置許可の審査に当たり、40 年の運転年数を仮定した設計上の評価が行われることが多いことが考えられる。例えば、原子炉圧力容器の中性子照射による脆化の評価や、プラントの起動・停止の繰り返しによる疲労評価は 40 年間の運転期間を仮定していることが多い。一方で、設計評価の期間は、プラントの一部の機器に発生する劣化事象の発生量等を評価するための想定期間であり、プラントの技術上の供用可能期間とは異なる点に留意する必要がある。

運転期間を1回に限り、20 年を上限として延長することができることとした背景としては、①前述のようにプラントの供用期間を 60 年と仮定して、高経年化技術評価を行ってきていること、②米国原子力規制委員会(NRC)が原子力発電所に与える運転認可の期間は最長 40 年であるが、更新が可能であり、20 年の延長が認められていること等が考えられる。

参議院事務局企画調整室編集・発行の「立法と調査」2016. 10 No. 381より抜き書き

 すなわち、「原則40年、最長60年」という運転期間も、原発の経年劣化データに基づいて科学的・技術的に行われたものではなく、従来の慣習に基づいて設定されたものであった。
 ならば、炉規法で新たに設定された10年以内ごとの設備の劣化状況の審査と認可を繰り返し、60年超の原発の審査には追加点検を行うことで不足している経年劣化のデータを収集することは、妥当な設定といわざるを得ない。

 大きな問題は、先に事実上60年超の運転を可能とした法律を策定し、これを実現するための規制が設定された点にある。原発の60年超の運転ありきで、法整備が行われたのである。科学的・技術的に安全性が担保されて、60年超の運転を可能としたのではないのである。
 このような先送り問題は原発関連で良く見受けられる使用済み核燃料の中間貯蔵先が決まらない状態で原発の運転を継続している問題、放射線廃棄物の最終処分場も決まっていない。特に重要なのが、福島第一原発のデブリ取り出しは事故後12年を経過しても見通せない。

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