何故、急速に高まる核融合熱!(Ⅴ)

原子力

 遅ればせながら、2023年4月、日本初の核融合戦略である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が策定された。先行する欧米の動きに触発されての核融合戦略の策定であり、民間企業の参入を促進する狙いは理解できるが、後追い感は免れない。
 具体的な戦略は記述されず、今後に設立される「核融合産業協議会」に任せるとした中身の薄い内容であり、核融合に関する政府方針とすべきであろう。

フュージョンエネルギー・イノベーション戦略

 2023年4月、日本初の核融合戦略である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が策定された。10年先を見据え「次世代エネルギーであるフュージョンエネルギーの実用化に向け、技術的優位性を活かして市場の勝ち筋を掴む フュージョンエネルギーの産業化 」 をビジョンとして掲げた。

何故、今なのか?

 国際協力で進めている国際熱核融合実験炉(ITER)計画の大幅な遅れにより、核融合炉開発は1990年代半ばから大きく減速している。そのため、EU、日本、韓国、中国では個別に原型炉(DEMO:DEMOnstration Power Station)の開発に向けて動いている。 

 一方、2010年代に入り地球温暖化問題への対応から各国でカーボンニュートラル宣言が相次ぎ、欧米では核融合炉開発を目指すベンチャー企業が続々と誕生し、投資活動が活性化している。加えて、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機が、この動きを加速している。

 特に、核融合ベンチャー企業の資金調達が順調に進み、Helion Energyは、2024年にも発電運転を始めて商用発電開始は2028年と設定し、Commonwealth Fusion Systems(CFS)は、2025年にも核融合炉を稼働させて2030年代初頭に商用発電を開始する計画を公表している。

 日本でも、核融合スタートアップ企業が誕生してはいるが、成長著しい欧米企業と比べると産業化の観点からは全く出遅れた状態にあり、慌てた政府は核融合ベンチャー・スタートアップ企業を国内で増やし、産業化を進めることを目標に戦略を策定した。

図7 2022年8月末段階での世界の核融合ベンチャーの資金調達金額  
出典:Business Insider Japan

核融合戦略とは?

 フュージョンエネルギー・イノベーション戦略は①フュージョンインダストリーの育成戦略(産業育成)②フュージョンテクノロジーの開発戦略(技術開発)、③フュージョンエネルギー・イノベーション戦略の推進体制(プロモーション)の3視点で構成されている。

 ①核融合の産業育成原型炉の早期実現を念頭に置き、一般社団法人核融合産業協議会を設立して核融合の技術マップ及び産業マップを作成し、2023年度から民間企業が保有する技術シーズと産業ニーズのギャップを埋めるための支援を強化し、民間参入を促進する。
 ②核融合技術開発:ゲームチェンジャーとなりうる小型化・高度化等の独創的な新興技術の支援策強化、将来の原型炉開発を見据えた研究開発の加速、現在進められているITER計画を通じてコア技術を獲得する。
 ③核融合のプロモーション内閣府(科学技術・イノベーション推進事務局)が政府の司令塔となり、原型炉開発に向けて量子科学技術研究開発機構(QST)を中心に、大学・研究機関や民間企業を結集して技術開発を実施する体制、民間企業を育成する体制を構築する。

 2022年4月、INPEX(旧国際石油開発帝石ホールディングス)は、国内の京都フュージョニアリング、EX-Fusion、Helical Fusionへ出資を検討すると公表した。海外企業とも資本提携の協議を進め、国内外の新興数社と資本提携し、技術者や研究拠点を提供して開発を支援する。
 INPEXの最大株主の経済産業省は、INPEXの出資を通じて国内での核融合発電に関する資金の流れを太くする。早ければ2040年代にも核融合発電ができる国産原型炉の運転開始を目指し、原子力と同じ法律で規制している現行の法体系を核融合用へ見直す検討を行う。

 2023年6月、夢のエネルギー「核融合発電」の産業化に向け、43企業・機関からなる任意団体「核融合市場研究会」が始動。本田技術研究所、日立製作所、IHI、日揮、住友化学、三井物産などが参加し、新産業創出に向けた議論を加速し、2023年度内設立の核融合産業協議会に意見を反映させる。
 研究会では核融合研究の最新情報や産業界のニーズを集約し、参加企業からフィードバックを受け、技術的に深掘りする。2024年2月末まで開催する見通しである。

 残念ながら「日本の核融合戦略」といって胸を張れるものではない。今後設定を予定している核融合産業協議会に任せるとした中身の薄いものである。先行する欧米の動きに慌てて策定したためか、従来の延長線での取り組みである。今後の核融合産業協議会の動きに注目したい。

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