原発の再稼働に向けて岸田首相が「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と強調したものの、関西電力の高浜1,2号機の再稼働は1か月遅れ、東北電力の女川2号機、中国電力の島根2号機は明確な進捗なしと、政府が大きく関与した兆候は認められない。
政府の趣旨はいつの間にか、「原発再稼働」から「60年超の運転期間延長」へと切り替わった。
原発の再稼働と運転期間延長
2022年8月以降の原発再稼働の状況
政府は、昨年2022年6月の電力需要ひっ迫を起点に、原発の再稼働が必要と表明した。実際にGX脱炭素電源法の趣旨では、「ロシアのウクライナ侵略による国際エネルギー市場の混乱」や「国内の電力需給ひっ迫等」への対応を明記している。2022年8月以降の原発再稼働の状況をみてみよう。
2022年8月24日、報道によれば岸田文雄首相は第2回GX会議で「これまでに再稼働した原発10基に加え、来夏以降に追加で7基の再稼働を進める方針」を表明し、「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と強調した。この時点で、電力需要ひっ迫から原発再稼働に政府方針が切り替わったのである。
再稼働した原発10基の現状は、関西電力の高浜4号機が2022年10月21日に加圧器の不具合、2023年1月30日に PR 中性子束急減のトラブルで停止した以外、定期点検での停止を除いて順調に発電運転を継続している。
2022年8月以降の新たな動きとして、高浜3,4号機の運転期間延長認可申請が行われた。これは40年を超えて運転を継続する場合の規定であり、原子力規制委員会の認可待ちの状況にある。
また、今夏以降に追加で再稼働を進めるとした原発7基の現状は、関西電力の高浜1,2号機が一カ月程度の予定遅れで、順調に営業運転の開始に向かっている。東北電力の女川2号機、中国電力の島根2号機に関しては進捗状況には変化はない。
一方、柏崎刈羽6,7号機はテロ対策上の重大な不備が相次いで発覚し、今後、原子力規制委員会による運転禁止命令が解除されても、安全対策を実施し、許認可を得て、地元の同意を得る必要があり、再稼働時期は見通せない。
また、東海第二原発も、2024年9月に安全対策工事を終える予定であるが、周辺自治体の避難計画の策定が終わらず、地元の同意を得る必要があり、再稼働の時期が見通せない。2023年8月には周辺15市町村で組織する首長会議が開かれ、放射性物質の拡散シミュレーションなどについて説明が行われた。
以上のように、原発の再稼働に向けて岸田首相が「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と強調したものの、関西電力の高浜1,2号機の再稼働は1か月遅れ、東北電力の女川2号機、中国電力の島根2号機は明確な進捗なしと、政府が大きく関与した兆候は認められない。
この1年間の動きは、2023年4月に高浜3,4号機が運転期間延長認可申請を行っている程度である。いつの間にか、原発再稼働から運転期間延長に政府方針が切り替わっている。
関西電力の高浜1,2号機の再稼働問題
これまでに関西電力、九州電力、日本原子力発電の3社が4原発8基について、原子力規制委員会に40年超の運転延長を申請し、美浜3号機(運転年数:46年)、高浜1号機(48年)と2号機(47年)、東海第二原発(44年)の4基が認可を受け再稼働に至ってた。
現在、高浜3号機(38年)と4号機(38)年、川内1号機(39年)、川内2号機(37年)の4基が40年超の運転期間延長を申請中である。
2023年7月、関西電力の高浜原子力発電所1号機は、国内33基の原発の中で運転年数が48年と最も長く、12年後にはGX脱炭素電源法で制定された60年超運転の第1号になる。高浜1号機の停止期間は11年8カ月のため、経済産業省の判断次第で運転年数は71年8カ月に達する可能性がある。
関電は高浜1号機の再稼働で60億円/月の収支改善効果があると見込んでいる。2023年9月には同2号機も再稼働する予定で、関西電力保有の高浜、美浜、大飯原子力発電所の7基すべてが稼働することになる。2024年3月期連結決算の最終利益は、3050億円と過去最高になる見通しである。
2023年6月、10電力会社のうち7社が火力発電の燃料コスト上昇により規制料金を引き上げたが、関西電力は電気料金の値上げを見送った。政府にとっては、再稼働の旗を振っても遅々として安全対策工事を進められない東京電力に比べて、模範的な電力会社と映っていることであろう。
しかし、福井県内の関西電力の原発には大量の使用済み核燃料が保管され、貯蔵容量の8割を超えており、県外への搬出を迫られている。関電電力は、一時保管する「中間貯蔵施設」の県外候補地を年内に選定できなければ、高浜1,2号機と美浜3号機の運転を停止するとの約束を交わしている。
2023年6月、関西電力は使用済み核燃料の一部をフランスに搬出する計画を福井県に報告し、理解を求めた。当初、関西電力は2030年頃に2000トン規模の中間貯蔵施設へ移送する計画であり、フランスへの搬出は10%の200トンに留まるため、福井県側には不満の声が上がっている。
2023年8月、中国電力が山口県上関町に提案した中間貯蔵施設の建設をめぐり町議会が開かれ、建設に向けた地質などの調査を受け入れるとの表明がなされた。中国電力は関西電力と共同で、上関町にある中国電力の原発建設用敷地内で調査を行う。
政府は、原発から出る使用済み核燃料を再処理してプルトニウムなどを取り出し、再び核燃料として利用する核燃料サイクルを掲げている。しかし、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場の完成が大幅に遅れたため、原発では使用済み核燃料の中間貯蔵施設の確保が問題となっている。
現在、使用済み核燃料は全国の各原発敷地内のプールに保管されており、合計保管量は2023年3月末時点で、管理可能容量の77%にあたる1.65万トンに上る。
新たな保管方法として電力会社は中間貯蔵施設の建設を検討しているが、東京電力と日本原子力発電の両社による「リサイクル燃料備蓄センター」(貯蔵量:5000トン)が、2023年の事業開始を予定しているのみである。
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