電力貯蔵システムの開発現状(Ⅲ)

再エネ
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 変動型再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電が増加した地域では、電力平準化のために送配電網の増強電力貯蔵システムの設置が不可欠である。しかし、系統網の増強は設備投資が巨額であり、監督省庁による許認可の取得手続きに時間を要する
 そのため、短期的にはコストや手続きの面で有利な電力貯蔵システム、中でも定置型蓄電池の導入が急速に進んでいるのが現状である。

世界の電力貯蔵システム導入状況

低コスト化が進む定置型蓄電池

 IRENAの発表によれば、世界における定置型蓄電池の導入量は、2010年~2023年間に0.1GWh➡95.9GWhと急増している。2023年のシェア1位は中国の46.5GWhで世界全体の新規導入量の約1/2、シェア2位は米国で22GWhと世界全体の新規導入量の1/4を占めた。
 この急速な定置型蓄電池の容量増加は、主に国および地域のエネルギー貯蔵義務と目標によって推進されており、今後も継続すると考えられる。

 それに合わせて、定置型蓄電池の導入コストも、2010年~2023年間に2511ドル/kWh➡273ドル/kWhと急減しており、送電網の増強よりも定置型蓄電池の設置が加速される要因となっている。
 この定置型蓄電池の低コスト化は、電気自動車(EV)とハイブリッド自動車(HEV)などによる製造規模の拡大が大きな影響を及ぼしており、材料効率の向上、製造プロセスの改善により実現された。

図5 系統用蓄電池の導入量とコストの推移(2010~2023年) 出典:IRENA

 定置型蓄電池は、2021年以降、高価なニッケルやコバルトを使わないリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)が主流となり、2030年までこの傾向が続くと予測される。一般のリチウムイオン電池に比べてエネルギー密度は低目であるが、LFPの市場シェア(GWhベース)は、2020年の33%から2023年に84%まで増加した。

 2023年1月、EV車載電池最大手の中国CATLは、弱点であった容量を改善したLFPを発売し、上汽通用五菱汽車が生産する超低価格の「宏光MINI EV」に採用された。また、米国テスラはCATLからLFPの供給を受け、上海で製造する「model 3」にも搭載されるなど適用が拡大している。

 ブルームバーグNEFは、定置型蓄電池の設置容量は、2030年までに急増し、2023年の総出力:約89GW (総容量:189GWh) から2030年には782GW (2205GWh) に急増すると予測している。特に中国では、短期間で納品できる強力なサプライチェーンを確立しており、生産が急拡大している。

長期エネルギー貯蔵

 リチウムイオン電池の劇的な低コスト化が進んだ結果、電力貯蔵システムとしては定置用蓄電池の設置が急増したが、2020年頃から定置用蓄電池の導入コストには大きな変化は認められない。そこで再び注目されているのが、長期エネルギー貯蔵 (LDES:Long Duration Energy Storage)である。

 リチウムイオン電池など秒単位での電力調整能力に比べて、LDESは長期間の電力調整能力に優れており、両者を組み合わせることでより経済性に優れた電力貯蔵システムを構築することができる。

 IRENAは電力貯蔵期間が6時間を超える129件のLDESプロジェクトから得たデータを基に、LDESの平均設置コストを比較している。その結果、「揚水発電」の世界平均設置コストは149米ドル/kWhで、「リチウムイオン電池」の設置コスト235米ドル/kWhと比べて約60%と安価なことが示されている。

 その他、太陽熱発電(CSP)で実用化されている「蓄熱システム」は241米ドル/kWh「フロー電池」は323米ドル/kWh「CAES」は384米ドル/kWhであり、「リチウムイオン電池」の設置コスト235米ドル/kWhと比べて割高であることが示されている。

図6  各種のLDES技術の世界平均導入コストの比較 出典:IRENA

 実際に、世界の電力貯蔵システムの主流は揚水発電 (PSH:Pumped-storage hydroelectricity) であり、設置容量は総出力:約140GW、総容量:9000GWhである。既に中国では、揚水発電の総設置容量は、2025年までに62GW、2030年までに120GWと高い目標を設定している。

各国・地域の定置型蓄電池の導入

 2023年4月、再生可能エネルギーの拡大に不可欠な定置型蓄電池が普及期に入ったと報じられた。2023年に世界で新設された設置容量は前年比87%増の30GWで、この5年で約10倍になった。リチウムイオン電池の価格が直近の5年間で60%も安くなり、各国政府による多額の補助金が下支えした結果である。

  また、米国調査会社ブルームバーグNEFの集計によれば、国として再生可能エネルギー導入を進める中国が首位で、2022年には2021年比2.3倍となる5.6GWの定置型蓄電池を新規導入してシェア34%となり、米国の28%を超えた。欧州でも大規模蓄電所の建設が相次ぎシェア27%を占めた。日本のシェアは2%にとどまる。

 ブルームバーグNEFは、世界の定置型蓄電池の追設容量は2030年に世界で87GWに達すると予測している。2030年まで平均23%/年で拡大する見通しで、日本も再エネ導入に合わせて蓄電池の導入を加速する必要がある。実証試験で先行した日本であるが、またしても商用化段階で遅れをとった

図7 定置型蓄電池市場は米中欧が牽引し、日本は2%と出遅れている 

 また、2024年5月、経済産業省は、国際的にも定置用蓄電池の導入量は過去10年間で増加し、特に過去5年間の導入は中国、米国、欧州が導入をリードし、今後も増加が見込まれると公表している。
 国際エネルギー機関(IEA)は、2050年カーボンニュートラルシナリオで、定置用蓄電池の導入は2030年には2023年の6倍に増加すると試算している。

図8 世界の蓄電池の導入容量の推移 出典:径座産業省

 米国に注目すると、エネルギー省エネルギー情報局(EIA)のデータでは、2023年の系統用蓄電設備新規導入量は6.7GWであり、内訳はカリフォルニア州が米国トップの3GW(累積導入量は約8GW)、テキサス州が1.5GW(同3.5GW)であった。
 また、2024年10月末までの系統用蓄電設備の導入量は7.7GW、2024年11月と12月の導入予定量が6.5GWであり、2024年の新規導入量は14.2GWとなる予測を示している。

 特徴的な動きとして、太陽光発電が急増しているテキサス州の年間導入量が、カリフォルニア州の水準に近づいている点が上げられ、2025年の系統用蓄電設備の導入予定量では、カリフォルニア州は3.415GW、テキサス州は5.239GWで、テキサス州がカリフォルニア州を上回る。 

図9 米国における州別の系統用エネルギー貯蔵導入容量の推移  出典:EIA)

 さらに米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によれば、2020年後半から電力貯蔵期間が6時間を超える定置型蓄電池の導入が本格化し、2050年には全体の50%を占めるとの予想である。

 2023年7月、米国ミネソタ州はForm Energyが開発した実証規模の次世代空気鉄電池(Iron–air battery)を用いた電力貯蔵システム(出力:10MW、容量:1000MWh)の構築を承認した。DOEの長時間容量実証プロジェクトに採択された電力貯蔵システムであり、電力貯蔵期間が100時間と長い。

図10 米国における定置型蓄電池の導入予測 出典:NREL

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